エイラが200機撃墜を達成した数日後、1人のスオムス空軍ウィッチがリバウを訪れた。
「やぁイッル、久しぶり」
「ミッコ!久しぶりだな〜。どうしてここに?」
彼女、ミッコ・ニエミネン中尉は開戦時のエイラのバディでありネウロイの攻撃で受けた怪我の影響で戦うことができなくなってからはカウハバで教官をしていた。
「マンネルヘイム元帥からイッルに200機撃墜のご褒美を渡しに行ってくれって言われたんだ」
ご褒美という言葉にエイラは警戒感をあらわにした。
「ご褒美って……あの人がそんな可愛らしいもの渡すわけないだろ。どうせ勲章とここでの休暇が終わった後の辞令だろ」
マンネルヘイム元帥から渡されるものでご褒美と言えるものなど勲章くらいしか思いつかなかったエイラは確信を持って言った。
「流石イッル大正解!
勲一等マンネルヘイム十字勲章とベルリン奪還作戦でのエイラ・イルマタリ・ユーティライネン大佐の配置についてだね」
そう言ってミッコは勲章の入った箱と辞令の書かれた紙を取り出しエイラに手渡した。
「大佐?昇進ってことか?」
渡された辞令書を見ながらエイラは尋ねた。
「そうみたいだね。それに伴って第501統合戦闘航空団の副司令官から同戦闘団の顧問へ配置転換されるってさ」
「ミーナ中佐は昇進しなかったのか?」
もしミーナ中佐が昇進していれは顧問などと言う中途半端な役職ではなく副司令官のままでよかったのにと思いながら尋ねた。
「みたいだね。それともう一つ、イッルは連合軍西ヨーロッパ戦域統合作戦司令部ウィッチ参謀に就任するようにだってさ」
そう言ってミッコはさっきのとは別の辞令書を手渡した。
「…それって501の司令官との指揮権に問題が出てこないか?」
連合軍西ヨーロッパ戦域合同作戦司令部はガリアの西方方面軍、ロマーニャの南方方面軍の二方面軍を指揮する立場にあり501統合戦闘航空団もベルリン攻略作戦の際には指揮下に入る事になっていた。
「さあ?特に何も言ってたなかったけど」
何も言われていないと言うことは特に問題がないと判断しているのか、それとも現場の努力でどうにかしろと言うことなのか。
「西ヨーロッパ戦域合同作戦司令部の司令官は確かアイゼンハワー元帥だったよな」
「うん。501がベルリン攻略のために再集結するときにでもパリにある司令部に挨拶に行くようにって元帥が言ってたよ」
「そっか……。
来た理由はわかったけどなんでミッコがこの役目に?他にも適任者はいたと思うけど」
いくらスオムスが人手不足とはいえ怪我の影響で足に障害のあるミッコよ以外にも最前線のリバウに来れる人材はいる。敢えてミッコを選ぶ必要性は皆無と言えた。
「ボク今年で空軍を辞める事になってるんだ。多分、暫く会う機会が無くなるだろうから最後に会っておこうと思ってさ」
「辞めるのか?まだ上がりは迎えてないだろ?」
「そうなんだけどボクと同年代のウィッチが上がりを迎えて教官職の枠が無くなってきてるんだよね」
大戦初期ならいざ知らず、現在はスオムスは最前線ではなくなりそれに伴ってウィッチの戦死者も随分と減っていた。そしてそれは無事引退するものも増えていると言う事であり、軍に残る事を希望する者のためのポストも多く用意する必要があった。
「そっか、寂しくなるな。辞めた後どうするか決めてるのか?」
「元帥が軍関係の就職先を紹介してくれたからそこに行くつもり」
「ロッタ・スヴァルドとか?」
ロッタ・スヴァルドは女性で構成された準軍事組織で主に負傷兵の看護など後方支援を担当していた。
「ロッタ・スヴァルドとは違うけどそんな感じのやつだね」
規模は大小様々だが同じような組織はスオムスのみならず、世界中に多数存在する。おそらく名前を言われても分からないだろうな思ったエイラは、それ以上聞くのを辞めた。
「そっか、生活が落ち着いたら手紙でも送ってくれよ。戦争が終わった後に遊びに行くからさ」
「勿論。けどもしかしたら意外と直ぐに顔を合わせる事になるかもよ」
「さっきと言ってる事逆じゃないか。会えないかもしれないから会いに来たんじゃないのか?」
前言を翻すような言動にエイラは呆れた様子で言った。
「あくまで会えなくなる可能性があるってだけだからね。軍関係なんだから結構頻繁に会う可能性もあるよ」
それもそうかとエイラは頷くと尋ねた。
「いつまでこっちにいるんだ?」
「実はイッルにそれを渡したらヘルシンキにとんぼ返りしないといけないんだよ」
「慌ただしいな。ちょっとくらい時間はないのか?」
「引き継ぎとかで忙しくて…」
申し訳なさそうにミッコは言った。
「それにここだといつネウロイに襲われるかわからないしね。戦闘能力の無い僕には辛い環境だよ」
ニヤリ、と揶揄うように笑みを浮かべてそう言った。
「よく言うよ。エースウィッチのくせに」
「エースと言っても大したスコアじゃないし、後遺症のせいでまともに戦えないから意味ないけどね」
ミッコのスコアは11機と、トップエースからすれば見劣りするが普通のウィッチからすれば十分なスコアといえた。
「飛行学校で教えられるんだから小型の一機くらい落とせるだろ」
「飛行学校は何も飛行方法を教えるだけの学校じゃなくてストライカーユニットで飛ぶ時の規則とかも教えるんだよ」
「飛行学校では一回も飛んでないってか?」
その問いかけに首を横に振ると答えた。
「まさか!羽が生えたばかりのひよっこを他の教官と一緒に毎日のように模擬戦で撃ち落としてたよ!」
それを聞いたエイラは声を上げて笑った。
「あはは!流石ミッコだ!
まさか撃ち落とされたひよこ達もやられっぱなしってわけじゃないんだろ?」
「それこそまさかだよ。卒業試験で自分を撃ち落とした教官を撃ち落とすまでがワンセットさ!」
それを聞いたエイラは目元に涙を浮かべながら笑うと言った。
「それは良いな!わたしも引退したら教官になれるようマンネルヘイム元帥にお願いしとこうかな!」
「それはダメだよイッル」
ミッコは真剣な表情で手を前にかざしすと左右に振る事で拒絶の意思を示した。
「はぁ?なんでだよ」
エイラが不満げに口を尖らした。
「イッルが来たら一生卒業できない奴ばっかりになる上に、他の教官が一方的に落とされ続けるだけになるじゃないか」
「……それもそうか」
ミッコの言葉はもっともだった。世界的に見ても未だにトップレベルのエースであるエイラに勝てる新人などいる訳がなく、もしいたとしても数年に1人と言った割合になる事は必定だった。
「ちょっとは否定しなよ」
冗談のつもりだったミッコはあっさりと肯定されて肩透かしを食らったようだった。
「だって事実だからな。今の状態でも並のエースなら撃墜できる自信はあるし」
それを聞いたミッコ何かに気がついたような顔をするの悲しそうな表情で言った。
「…そういえば義足なんだったね」
「カールスラントの技術力には感謝だな。多少魔法力の操作に難はあるけどまだ戦えるんだから」
「イッルじゃなかったら無理だったと思うけどね」
意外と精密な操作を要求するストライカーユニットはその性質故に向き不向きがある。ストライカーユニットの操作に高い適正なあったエイラだからこそ出来たことであるのは明らかだった。
「そんな事はないさ。だけど全力を出せないわたしくらい、倒せるウィッチが増えてくれれば、わたしが無理して前線に立つ必要もないんだけどな」
「それは流石に無理じゃないかな」
エイラ並のウィッチがポンポン現れるのなら人類はこれほどネウロイ相手に苦戦しなかっただろう。
「飛行学校にはいなかったのか?」
「イッル以上の子はいなかったかなぁ」
「そりゃ残念。わたしが教官になるのは無理そうだな」
そう言ったエイラは心底残念そうな表情を浮かべていた。
「本気でなるつもりだったの?」
「勿論冗談だよ。……半分は」
意外とショックを受けているエイラの様子になんとも言えない表情を浮かべながらも出発の時間が迫っている事に気付きミッコは手短に別れの挨拶を交わすとストライカーユニットを履いて飛び去って行った。
原作のアイゼンハワーとパットンの役職の違いが分からなかったんでオリジナル設定で行きます。
陸戦ストライカーユニットと航空ストライカーユニットの違いってなんなんですかね?
そもそも空を飛ぶ事自体が一種の固有魔法なのか、それとも単にウィッチの技術の問題なのか。どっちなんでしょうか