パーティーの翌日の朝、リュックサックを背負ったエイラはサーニャの部屋を訪れていた。
「サーニャ準備できたか?」
「うん。エイラは?」
リュックサックを背負うとサーニャが言った。
「いつでも行けるぞ」
エイラの返答に頷くと2人はハンガーに向かって歩き出した。
「はぁ」
「ため息なんかついてどうしたのエイラ」
ため息をついたエイラを不思議そうにサーニャは見て言った。
「いや、二ヶ月くらいはここでゆっくりできるって話だったのに結局一ヶ月ちょっとしかいなかったなと思って」
「そのうち三週間は毎日出撃してたわ」
「そういやそうだな」
ノルマを達成した後ストライカーユニットを履いて空を飛んでいる時、偶然ネウロイと遭遇して戦闘になった事もあり結局エイラが軍務以外のことをできた日は一週間もなかった。
「……もしかして騙されたか?」
思い返せばマンネルヘイム元帥にいいように使われただけのリバウでの生活に思わずエイラはそう呟いた。
「そもそも本当に休暇ならリバウみたいな最前線に送り込まれないわ」
サーニャの言葉にエイラは足を止めた。
「どうしたのエイラ?」
突然足を止めたエイラに首を傾げながら尋ねるとエイラは言った。
「今までずっと前線で戦ってばっかりだったから気付かなかったけど言われてみれば休暇で前線っておかしいよな」
「余程特殊な事情がない限り休暇を取る余裕なんかないからネウロイの襲撃が少ない地域に配属してできる限り休める時間を取るのが普通って聞いたことがあるけど…」
比較的数の多い陸戦ウィッチと違って数の少ない航空ウィッチに長期休暇と言う概念はない。あったとしてもせいぜいが比較的安全な基地でゆっくり過ごす程度のものであり501部隊で言えばミーナ中佐達がそれにあたるだろう。
「やっぱりおかしいって事じゃないか。ミーナ中佐達もガリアのサン・トロン基地だからあまりネウロイは来ないしシャーリー達もアフリカで自由気儘にバイク旅。なんでわたし達だけ……」
「多分わたし1人ならもっとゆっくりできたと思うわ」
「ごめんサーニャわたしのせいで…」
エイラがリバウに来たのはスオムスの事情でありオラーシャのウィッチであるサーニャには本来関係のない事だった。
「冗談よエイラ。ナイトウィッチは人手が足りないからきっと前線で夜間哨戒をしているわ」
「そうかなぁ。いくらナイトウィッチが少ないって言っても少しくらいは休めたんじゃないか?」
「夜間哨戒中に他のナイトウィッチに聞いたけどどこも忙しいみたいよ」
サーニャ達ナイトウィッチは魔導針を使った通信でナイトウィッチ同士で交流がありそれによりサーニャは他のナイトウィッチがどれほど忙しいかよくわかっていた。
「ナイトウィッチってそんなに忙しいのか?
昔と比べるとレーダーでの監視体制も確立して大分楽になったって聞いたことがあるけど」
戦争初期は対空レーダーはまだ一般的なものではなかった。しかしこの戦争が始まった事により各国の軍隊は防空網にレーダーを組み込むことにそれまでよりも早くネウロイを発見、撃破することに成功していた。
それに伴ってナイトウィッチの任務は夜間哨戒から夜間戦闘へとその任務内容を変えていった。
「それはリベリオン本土とか扶桑、後はブリタニアの一部だけよ。魔導針よりも精度が低いからナイトウィッチの夜間哨戒のほうが見つけるのが早いの。だから前線のナイトウィッチはまだまだ忙しいわ」
「ナイトウィッチの任務は昔よりも減ってると思ってたけどそうでもないのか」
「全体で見れば減ってはいるけど前線の夜間哨戒はまだナイトウィッチが主力よ」
そう言うサーニャはどこか誇らしげだった。
「エイラさん、サーニャさん」
滑走路脇を歩いているとサーシャが2人に声をかけた。
「サーシャ。見送りに来てくれたのか?」
「はい。それとあの…ニパさんのことなんですけど……」
「またユニットでも壊したのか?」
ニパの事、と言われると基本的にはストライカーユニットの破壊かなんらかの事故が思い浮かぶ事からエイラはそう尋ねた。
「いえ、今日はまだ壊してません」
なんとも言えない表情を浮かべながらそう答えるとサーシャはエイラを見ると困ったように言った。
「実は今哨戒任務に出ていて…」
「なんだよニパの奴。昨日散々見送るって言ってたのに結局なしかよ。親友が旅立つって言うのに」
ウィッチとしての経歴は長い割にエイラのウィッチの交友関係は狭い。意外と長い付き合いがあり、かつ同い年のニパを親友と思う程度には好いていた。
「ニパさんは任務中なんだからそんなこと言っちゃダメよ」
「だってさ〜」
「一応出発に間に合うよう任務時間を組んでいるのですが……」
「甘いぞサーシャ。あのニパだぞ。今頃きっと鳥にでも襲われて必死で逃げてるに決まってるよ」
そもそも自分がついてない事を自覚している癖になんでこのタイミングでの任務に出撃するんだと思いながらエイラは言った。
「流石にそれは無いと思いますが…」
相手がニパである以上、サーシャはそれを完全に否定する事は出来なかった。
「そんな事より最後にもう一度飛行ルートの確認をしておいた方がいいんじゃ無いですか?」
「そうだな。今日は天気が悪くて視界が悪いから目視での確認が難しくなりそうだしな」
リバウを出発したエイラ達はそのままバルト海を北上しバルトランド王国を目指す。そしてバルトランド王国のオーレスン飛行場で補給をした後、ブリタニアのエディンバラ空港で補給を受けパリを目指す。
海上での航法は通常の航法とは異なるためいくらベテランウィッチといえど遭難する可能性は十分にある。その為できる限りの準備が必要だった。
「こんなもんかな」
「そうですね。オーレンスからエディンバラに行く時だけ気をつければ遭難する事はないでしょうね」
「さて、じゃあそろそろ行くよ」
最終チェックでサーシャの同意を得るとエイラは言った。
「サーシャ大尉…あの、お世話になりました」
サーニャがそう言って頭を下げた。
「2人がいなくなるとこの方も寂しくなりますね」
「そうは言っても年末か年明けにはベルリンも攻略されるだろうし会う機会は増えるだろうけどな」
「ふふふ。そうかもしれませんけど2人が来てから前よりも一層基地が賑やかでしたからね」
502部隊自体、元々賑やかではあったが同郷のエイラが来たことによりニパが普段よりも元気そうであったり、普段は下原一緒に行動する事の多いジョゼがサーニャの元で談笑していたりと普段と違う502部隊の姿が見られていた。
「おーい!ちょっと待てー!!!」
ゆっくりと着陸体勢に入ったニパが両手を大きく振りながらハンガーに近づいていた。
「エイラ、ニパさんが戻ってきたわ」
サーニャがニパに向かって手を振りかえしながらそう言った。
「よかった。今日は何事もなかったみたい」
ストライカーユニットから火を吹く事もなく元気そうに飛ぶ様子にサーシャはホッと胸を撫で下ろした。
「いや〜。また分かんないぞ〜」
着陸したと思えば飛石がエンジンに入り込んで火を吹いたり、なぜか滑走路に落ちていた石につまずいてユニットが破損したりとついてない話が尽きないニパが無事着陸するまでエイラは安心しない。もっとも、着陸した後に何か起こる可能性は十分あるがストライカーユニットが破損しなければニパ自身は固有魔法ですぐに回復する為問題はなかった。
「ギャ!」
ピカリと空が光ったと思うと雷の音と共にニパのストライカーユニットは火を吹きながら真っ逆さまに墜落していった。
「大変!」
そう言うとサーニャはニパの墜落地点に向かって駆け出した。
「あ〜あ。ったく、相変わらずついてない奴だな〜」
ニパの頑丈さをよく知るエイラは呆れてそう言うとサーニャを追って走り出した。
「はぁ」
2人の背を見ながらこの後の処理を思いサーシャはため息をついた。
「また壊しましたね。今月に入ってからもう2回目ですよ。これじゃあ予算がいくらあっても足りません」
ハンガーの脇にニパを正座させるとサーシャはため息混じりにそう言った。
「雷はわたしのせいじゃ……」
小さな声でニパ反論した。
「あ、天候が悪くなってますから気をつけて!」
ニパの墜落し滑走路の整備が終わるまでハンガーで待機していたエイラ達が出てきたのを見てサーシャが声をかけた。
「はい。なるべく雲の上を飛ぶことにします」
「じゃあなニパ。もう壊すなよ〜」
そう言うと2人は離陸体勢に入った。
「おーい!」
その2人を追って手を振りながらニパが走り出した。
「気をつけてけよ!また遊びに来いよ!風邪ひくなよ!」
2人が離陸したのを見るとニパは立ち止まり大きく手を振った。
「雷に気をつけろよ〜!」
2人は最後に一度ニパに手を振ると基地を飛び去った。
いくら前線で戦うウィッチではなかったとは言えルミナスの子達の殆どがナイトウィッチを見たことがないってどんだけナイトウィッチってレアなんだろう。
それはそうとジニーが飛行学校とかで訓練しないのってやっぱりブリタニアのウィッチが払底しているからって事なんですかね。教官でさえ前線の哨戒任務等に駆り出してそう。