飛行訓練とか諸々終われば新たに配属先を決め直すんでしょうか?
『こちらはバルトランド空軍所属、アンナ・エレハマー少尉です。バルト海を飛行中のウィッチ2名、現在貴官らは我が国の領空を侵犯しています。所属と目的を述べてください』
ネウロイとの戦争が始まって以来、各国が協力体勢を敷き国境の哨戒と言えばネウロイに対して行うものとなった。相手がネウロイと言うこともあって確認すれば即攻撃が普通の対応となり、逆にウィッチや飛行機に対しては見つければ声掛けはするが誰何などせずそのまま通すのが一般的となっていたため久しぶりに聞く誰何にエイラは怪訝そうな表情を浮かべた。
「こちらスオムス空軍所属エイラ・イルマタル・ユーティライネン大佐。飛行ルートの提出と目的については連合軍司令部より行われているはずだが聞いてないか?」
『ユーティライネン大佐!?も、申し訳ありません!すぐに確認します!』
慌てたような声音でそう言うと通信が切られた。
「随分慌ててるみたいよ」
魔導針を瞬かせながらサーニャが言った。
「自分の職務を遂行しただけなんだから堂々とすればいいのに何を慌てる必要があるんだろうな」
エイラの問いかけにサーニャは困ったような表情を浮かべると言った。
「……護衛として中隊を出撃させるみたいよ」
「護衛?」
バルトランドの領空内であり大きな脅威があるわけでも無いのに護衛、それも中隊規模の部隊を出すなど余程の要人相手でも無い限り聞いた事がなかった。
『失礼しましたユーティライネン大佐。現在そちらに我が軍より迎えの者が向かっています。彼女の先導に従ってオーレンス基地へ向かってください』
「了解」
通信を切るとエイラはサーニャを見ると言った。
「迎えを寄越すってさ」
「さっきの通信では護衛って言ってたわ」
司令部との通信で言っていた事と違う内容にサーニャは不思議そうだ。
「まぁどっちでもいいさ。そもそも誰に対する護衛なのかどうか分からないしな」
「わたし達以外に護衛対象がいるような通信はないわ」
「なにも護衛対象が要人とは限らないだろ?」
ネウロイに対して英雄的な活躍をしている事から忘れがちになるがウィッチと言うのは一般人にとって危険度はネウロイと変わらない。
ネウロイと戦えるウィッチと言うのは人に刃を向けた時の戦闘能力もネウロイと大差はなく、もしもエイラ達にその気が有れば今の装備でも小さな村一つくらいなら焼け野原にする事が可能だった。
それから暫くするサーニャの魔導針に反応がでた。
「エイラ、あれがそうじゃない?」
サーニャが指し示す先には12ほどの機影があった。
「あー多分そうかな?」
それを証明するように通信が入った。
『小官はバルトランド空軍所属、ピア・ホーン大尉であります。そこにおられるのはユーティライネン大佐とリトヴャク中尉で間違い無いでしょうか?』
「こちらユーティライネン大佐。出迎え感謝します」
「いえ、スオムスの英雄であるユーティライネン大佐が来られるので有れば当然のことです」
綺麗な敬礼を決めながホーン大尉は言った。
「そんな大袈裟にしなくてもよかったんだけどな」
ホーン大尉の後ろに控える11名のウィッチに目をやりながらエイラは言った。
「ユーティライネン大佐ほどの方をお迎えするのにはせめてこの位の規模でなければ我が国の品格が疑われてしまいます」
「わたしにそこまでする価値は無いさ。スコアだってわたしより多いやつはいっぱいいるしな」
「スコアの問題ではありません。我が国はスオムスがいたからこそこうして国がある事ができているのです。
そのスオムスの中でもウルトラエースと呼ばれるユーティライネン大佐が来られるとなれば手厚く歓迎しない理由がありましょうか」
バルトランドのウィッチは意外と少ない。スオムスよりも多いが海岸線の多くがカールスラントと面している事からバルトランドのウィッチだけでは海岸線を完全に守る事で精一杯でありもしもスオムスが陥落していれば瞬く間にバルトランドも陥落していた事は想像に難く無い。そのためバルトランド人の多くはスオムスに対して好感情を抱いた。
「まぁ、そう言う事ならお願いします」
「お任せください!無事オーレンス基地へ送り届けて見せましょう!」
バルトランド国内を通るんだから危険なんかあるはずないと思い苦笑いを浮かべた。
暫く飛んでいるとホーン大尉がソワソワとし始め何かを決意したような表情を浮かべるとエイラに近づいてきた。
「大佐実は私は大佐のファンでして是非サインをいただけないでしょうか」
そう言うとスッとエイラのブロマイドを差し出した。
「別に構わないけど……今ここでか?」
サインをねだられる事はなにも珍しい事では無いが流石に飛びながらと言うのは初めてだった。
「あ、いえ!オーレンス基地についてからで構いません!ありがとうございます!」
ホーン大尉は嬉しそうに小躍りしながら礼を言った。
「隊長ずるいですよ!私だってサイン欲しいのに!!!」
護衛部隊の1人が噛み付かんばかりの勢いで抗議した。
「欲しいならサインくらいいくらでも書くけど」
「本当ですか!!」
「勿論。わたしはマルセイユみたいにサインをしない主義って訳じゃ無いからな」
「ユーティライネン大佐!」
別の護衛部隊のウィッチがエイラの名前を叫んだ。
「どうした?」
「じ、自分もサインを頂いてもよろしいでしょうか!?」
「いいぞ」
その言葉を皮切りに他の護衛部隊のウィッチも我も我もと声を上げた。
「わかったわかった。全員分書いてやるから落ち着け」
その言葉に護衛部隊のウィッチ達が歓声を上げた。
『護衛部隊だけ狡い!私だってサイン欲しいのに!』
そんな声に続いて次々と狡いや羨ましいと言った声がインカムから流れ始めた。
「ええい、黙れ貴様ら!五月蝿いぞ!私達はユーティライネン大佐の護衛をしているんだぞ!あまり大佐を困らせるな!!!」
ホーン大尉がインカムに向かって怒鳴りつけた。
『そんなこと言って自分が一番初めにサインをねだってたじゃないですか!』
「ふっ!護衛部隊の特権だ」
『それなら大佐を見つけた自分にもサインを貰う権利があってもいいんじゃ無いですか?』
「ふむ、それも一理あるな。よかろう、大佐に尋ねてみよう」
『ありがとうございます大尉』
その言葉にインカムがブーイングで溢れかえったがホーン大尉はそれを無視してエイラに尋ねた。
「ユーティライネン大佐、あともう一枚ほどサインをして頂いてもよろしいでしょうか?」
「別に1人と言わずとも時間と紙が有れば全員分書いてやるぞ」
インカムでエイラも話を聞いていたのにわざわざ尋ねてくるホーン大尉の几帳面さに半ば呆れながらもエイラはそう答えた。
『本当ですか!?なら私の分もお願いできますか?』
「紙を用意できるならな」
「お前達少しは遠慮をしないか!」
次々とサインをねだるウィッチ達の声にホーン大尉が諌めたようと声を上げた。
「別にいいぞ大尉。減るもんでも無いからな」
「大佐、お気持ちは嬉しいのですがよろしいのですか?」
「さっきも言ったけどわたしはマルセイユと違ってサインを書き渋っては無いからな。欲しい奴がいるなら出来るだけ書くぞ」
「そ、そうなのですか?大佐はあまりサインを書かないと聞いた事があるのですが…」
「欲しがる奴が少ないからな。自然とサインを書く機会も少なくなるさ」
エイラは知らぬ事だが意外とエイラは人気が有る。
スオムス人らしい真っ白な肌と神秘的な容姿から官民問わず多くのファンがいてそれはマルセイユに匹敵するほどだった。またエイラの階級が高く雑務は宮藤など階級が下のウィッチが請け負っていたことから連合軍内でもエイラをよく知るの者は将官が多くその性格などが謎に包まれていた事がその人気に拍車をかけていた。
「そうなのですか?てっきりサインを書くのがお嫌いなのかと思っていました」
「そんな事ないぞ。欲しけりゃいくらでも書いてやるさ」
この後、エイラはその言葉を言った事を後悔することになるがこの時のエイラには知る由もなかった。
ピア・ホーン
バルトランド空軍大尉
バルトランド唯一のエースウィッチ。
オリジナルウィッチです。
元ネタは元ドイツ空軍パイロットのピーター・ホーンです。