「疲れたぁ」
エイラはオーレンス基地に用意されていた休憩用の部屋に入るとそう言ってベッド倒れ込んだ。
「安請け合いするからよ」
ひどく疲れた様子のエイラにサーニャは言った。
「あんなにいるとは思わないだろ」
エイラがオーレンス基地に着いた時、ハンガーの前にはエイラのサインを待つ行列ができていた。流石にそこまでサインを望む人がいるとは思っていなかったエイラはその数に思わず苦笑いを浮かべた。
「たしかに管制官と近くに住んでる民間人は予想外だったけどエイラはもう少し自分の人気の高さを知った方がいいわ」
バルトランドでエイラの人気は高い。戦争初期に大型陸戦ネウロイがスオムスに来た際防衛の立役者となった事が主な理由だった。
当時バルトランドではスオムスが陥落するという見方が多数を占めておりブリタニアやリベリオンに疎開する者も多かった。それをエイラ達第24戦隊が撃破し防衛に成功したことからバルトランドではエイラを筆頭にスオムスウィッチの人気は高い。なんならバルトランド唯一のエースウィッチ、ピア・ホーン大尉よりもエイラの方が人気があった。
「そんなにわたしって人気かなぁ」
「エイラもそうだけど各国のトップエースは人気が高いわ」
「そうなのか?」
エイラは他のウィッチとの交流が少ない事もありそう言った事に疎かった。
「時々夜間哨戒中にナイトウィッチの子からエイラやハルトマンさん、バルクホルン大尉のサインをねだられるのよ」
通常ナイトウィッチは普通のウィッチとの交流は少ない。数少ない例外で有り、その中でも各国のトップエースと関わる機会の多いサーニャには代わりにサインを貰って送って欲しいという
相談がよく来ていた。
「へー、じゃあマルセイユが来た時なんかもっと凄そうだな」
エイラの問いかけにサーニャは珍しく顔を顰めた。
「あの時は一ヶ月くらいずっとマルセイユ大尉の話しかされなかったわ」
ウィッチの中で一番人気のあるマルセイユだが、他のウィッチと違いサインはしない。そのため彼女と会った、あるいは話したと言うのがファンの間ではステータスとなっていた。
「マルセイユ大尉程ではなくてもエイラも十分に人気があるのよ」
「今までそんなにサインをねだられた事ないぞ」
「エイラが忙しそうにしてたから遠慮してたのよ」
事実としてサーニャが時折エイラのサインを貰うよう求められる理由の一つは仕事中のエイラは話しかけにくいというものだった。
「そんなに話しかけにくいかなぁ」
「普段のエイラを知っていればそんな事ないけどそうじゃない人からしたらちょっと話しかけにくいと思うわ」
今まで破壊された四つのネウロイの巣のうち三つの破壊に関わっているエイラはその撃墜スコアもさることながらネウロイの巣の破壊への貢献の戦功も含めると撃墜スコア一位のハルトマンに勝るとも劣らないほどの武勲を挙げている。ある程度実績のある中堅以上のウィッチであればそうでもないが新人ウィッチやあまり武勲のない中堅ウィッチからすれば雲の上の存在で有った。そんなエイラが真面目そうに仕事をしていれば話しかけられないのも無理はなかった。
「少なくとも仕事中のエイラは真面目そうに見えるから…」
「なんか実際は真面目じゃないみたいな言い方だな」
「だってエイラが真面目に仕事してるのスオムス以来見た事ないもの。ロマーニャは執務室で本読んだり占いばっかりしてたもの」
「それは…そうだけど…。ほらっ!その代わりローマではちゃんとしてたから!」
実を言うとエイラはロマーニャで定期的にローマに行って作戦会議に参加していた以外は特にする事がなく、基地では執務室で本を読んだりサーニャ相手に占いをしたりと暇を持て余していた。
何か別の仕事をしていると思っていたミーナ中佐はブリタニア程エイラに仕事を回す事がなくおかげでデスクワークが随分と増え肩こりに悩まされていた。
「リバウはもっと酷いわ。遊んでばっかりだったじゃない」
「そんな事ないだろ。たしかに書類仕事は無かったけど前線に出てネウロイを倒してるし」
マンネルヘイム元帥から通達されたノルマを達成するまでエイラはとても忙しかった。もっとも、ノルマをこなした後はニパやひかりとトランプをしたりサウナに入ってゆっくりしたりととにかくだらけきっていたが。
「三週間だけね。その後は何もしてないじゃない。わたしはずっと夜間哨戒してたのに」
「…サーニャもしかして怒ってるのか?」
どこかトゲのあるサーニャの言動にエイラは冷や汗をかいた。
「いいえ。そんな事ないわ」
「じゃあなんでそんなに不機嫌そうなんだよ」
エイラの問いかけにものいいたげな目をすると言った。
「夜間哨戒」
「夜間哨戒がどうかしたのか?」
「リバウではいつも1人だったわ。たまに下原さんと一緒だったけどエイラとは一度も一緒に行かなかったわ」
そう言われてエイラはリバウでの生活を思い返してみるとたしかに夜間哨戒に出た記憶はなかった。
「そ、それはほら!わたしも昼間出撃していて魔法力が回復してなかったから…」
「3週間くらいでノルマを達成したのに?」
「あ、あれ〜そうだったっけ?」
「そうよ。エイラは一週間くらい暇な時があったわ」
「いや、まぁ、その……ごめん」
肩を落とすとエイラは謝罪の言葉を口にした。
「別に怒ってないわ」
その言葉にエイラはパッと顔を上げサーニャの顔を見た。
「ただエイラはみんなと遊べて楽しそうだなって思っただけよ」
口元には笑みを浮かべていたがサーニャの目は笑っていなかった。
「こんな事は二度としないから許してくれよサーニャ〜」
必死で縋るエイラにサーニャはクスクスと笑い声を上げると言った。
「もぅ、そんなに怒ってないわよ」
「本当か!?」
「今度からもうちょっと気にしてほしいわ」
「勿論だサーニャ!!」
いじけたように言うサーニャにエイラは首を何度も縦に動かしそう言った。
コンコンと扉がノックされエイラが返事をするとバルトランド空軍のピア・ホーン大尉が入ってきた。
「お二人のユニットの補給と整備が終了しました」
「そっか、わかった」
「すぐに出発されますか?」
「そうだな。時間もちょっと押してるし」
「申し訳ありません。サインを書いてもらったばっかりに…」
エイラのサインを希望した中には整備兵もいてその結果三十分ほど出発が遅れていた。
「別に謝らなくてもいい。多少の遅れは想定して予定は組んでるしこのくらいのファンサービスはウィッチとしては当然のことだからな」
サーニャが何かいいたげな視線を向けるがエイラは気づかなかったふりをした。
「ありがとうございます。お礼と言ってはなんですが弁当と長旅に役立ちそうなものをいくつか用意しておきましたので是非持っていってください」
「ありがとう。お腹が減ったら食べるよ」
予定ではブリタニアに着く前ぐらいにお昼時になるがあまり慣れていない長距離の海上飛行のため多少遅れるとエイラは考えていたため弁当を貰えるのはありがたかった。
「あ、こちらから用意したものになります」
そう言ってホーンに示された先にはエイラが持っているリュックと同じくらいの大きさの鞄が置かれていた。
「ず、随分多いんだな」
「はい!みんなユーティライネン大佐に感謝を伝えたいと張り切って用意しました!」
ストライカーユニットの積載量的には運ぶ事が可能だが問題はエイラの片手が塞がる事は間違いなかった。
サーニャのどうするんだと言わんばかりの視線に仕方なく量を減らしてもらうようエイラは伝えようとした。
「その、ホーン大尉」
「はい!なんでしょうか!」
エイラの役に立つ事ができたと信じて疑わないその様子に、エイラは事実を伝える事が躊躇われた。
「いや、その…ありがとう」
「はい!」
結局エイラはそれを伝えなかった。一番の理由はバルトランドの人々の善意を無碍にする事ができなかったからだが、片手が使えなくとも北海でネウロイと遭遇する可能性は無く、戦闘になるリスクは少なかった事から受け取る事に問題はないというのも理由の一つだった。
バルトランドの人々に見送られ基地を飛び立った後、この事をサーニャに追及される事になるのだった。
ルミナスウィッチーズでシールドの色を変えてましたけどあれって何を基準に色が設定されてるんでしょうか。
案外固有魔法の系統によっては同色になったりするんでしょうか?だとしたら面白いんですけど。
考察とかあったら教えて欲しいです。