「ねぇエイラ、アントウェルペン港って誰が守っているの?」
エイラにあてがわれた部屋で501への補給ルートを眺めていたサーニャが尋ねた。
「アントウェルペン港?」
連合軍指揮下の部隊にアントウェルペン港を守る部隊はあっただろうかと記憶を探るが該当する部隊は出てこない。
エイラは立ち上がると棚からアントウェルペン港に関する資料を取り出すとページをめくった。
「ベルギガ陸軍航空隊が受け持ってるみたいだな」
「…ベルギガってウィッチいるの?」
ベルギガはガリア以上に大陸からの撤退が上手くいかなかった国であり航空戦力も少なかった。その上ベルギガ陥落後は予算面などから航空戦力の殆どがブリタニアやガリアに一時的に編入され自前の航空隊を保有していない状況が続いていた。
「さあ?守備隊がベルギガだしいるんじゃないか?」
「調べなくていいの?」
「連合軍指揮下の部隊じゃないからな。聞けば答えてくれるかもしれないけどアントウェルペン港って言う重要拠点を守るんだ。相応の部隊は保有してるんだろ」
心配そうに尋ねるサーニャをエイラはそう言って宥めた。
「何よりそこまでする余裕がない。この前の攻撃でライン川の防衛ラインをより強固にするよう指示されてるからな。サン・トロンにミーナ中佐達を配置するだけで限界だよ」
「もう少しウィッチを増やしてくれればいいのにね」
「結局みんな自分の国が、と言うかは自分が今住んでいるところが大事なんだよ」
カールスラントでさえ本土奪還を前にして安全なノイエ・カールスラントに多数のウィッチを抱え込んでいる。ノイエ・カールスラントを失う可能性を考えれば仕方のないことかもしれないがもう少し奪還のためにウィッチを出してくれと思わずにはいられなかった。
「だからって訳じゃないけどベルギガもそう心配する必要はないんじゃないか。何より他国の内情に口出しするのはあんまり好きじゃないし」
「好きかどうかの問題でいいの?」
「国に関する問題に首を突っ込んで変な地雷を踏みたくないだろ。好き嫌いでいいんだよ」
散々首を突っ込んで、もとい首を突っ込まされて酷い目にあっているエイラはできれば自分から関わりたいとは思っていなかった。
「それにミーナ中佐達の担当空域がアントウェルペン港とカールスラント国境の間にはあるし問題ないだろ」
それもそうかとサーニャが頷くのを見るとエイラはウィッチ隊への補給路の見直しのため資料を取るよう頼んだ。
「エイラ、いっつも補給のことばっかりしてるわよね」
サーニャの言葉にエイラの手がはた止まった。
「そういやそうだな。なんでわたしはこんなことしてるんだ?これってそもそも後方参謀の仕事だよな」
ペテルブルク以来ウィッチ隊の補給に関して受け持っていたことで感覚が麻痺していたことにエイラは愕然とした。
「そもそもどうして上の連中はこぞってわたしに押し付けるんだよ」
マンネルヘイム元帥から始まり最近なぜかエイラは補給と縁があった。
「きっと頼りにされてるのよ」
「こんなので頼りにされても全然嬉しくないな」
エイラは心底嫌そうな表情を浮かべた。
「任された以上はちゃんとやらないとね。わたしも手伝うから頑張りましょう」
「そうだよな。任された以上はちゃんとやらないとな」
ため息を吐きながらエイラは各部隊への補給に関する書類を読んでいると机の上の電話が音をたてた。
「はい、こちらユーティライネン大佐です」
『あ、エイラか、シャーリーだけどちょっといいか?』
「いいぞ。どうしたんだ?」
珍しいシャーリーからの電話に驚きながらもそう答えた。
『今日ってヘルウェティアからガリアに向かうウィッチっているのか?』
「ヘルウェティアから…?いないはずだけど」
ヘルウェティアが他国に対してウィッチを派遣したりすることがまずあり得ないためもしそんな事があれば目につくはずだった。
『やっぱりそうだよな。けど今ヘルウェティア方面からガリアに飛んで来てるウィッチがいたんだよ。それも一人で』
「…もしかしたらロマーニャあたりから飛んでったのかもな。少し調べてみるよ」
仮にロマーニャからだとしても今日ウィッチがガリアに向けて飛ぶ予定も無かったはずだよなとエイラは思った。
『必要なら今からでも追いかけようか?』
「いや、大丈夫だ。何かわかったらまた連絡するよ」
『了解』
「サーニャ、今日飛行予定のあるウィッチのリストを持ってきてくれないか?」
受話器を置くとエイラは言った。
「分かったわ」
サーニャが資料を取りに行くため扉を開けると再び電話が音をたてた。
「はい、こちらユーティライネン大佐です」
『あ、エイラさん、ペリーヌですわ。今お時間よろしいかしら?』
「いいぞー」
立て続けに501のメンバーから連絡が来た事に少し驚きながらそう答えた。
『ちょうど今ガリア南部、ちょうどシャーリーさん達のいるディジョン基地方面からウィッチが一人、ベルギガ方面に向けて飛んでいるのですけど何かありましたの?』
「あー、そっちまで行ってるのか」
少し面倒な事態になっている事にエイラは内心頭を抱えた。
『あら、知っていましたの』
「さっきシャーリーから連絡が来たんだよ。ヘルウェティア方面から飛んでるらしいぞ」
『ヘルウェティア…珍しいですわね』
「そうだよな。ちなみにわたしは何も知らないぞ」
『……それ不味くありませんこと?』
「もし本当にヘルウェティアからならかなり不味いな」
ネウロイとの戦争で甘くはなっているとはいえ他国の領空に事前連絡なしに侵入する事は侵略行為と間違われかねない危険な行為だ。ましてやそれが連合軍として戦争に参加していないヘルウェティアともなれば尚更だ。
『すぐに追いかけますわ』
「あ、ちょっと待ってくれ」
その時ちょうどサーニャが資料を抱えて戻ってきた。
「あ、サーニャ。まずヘルウェティアからガリアに向けて飛ぶウィッチがいないか調べてくれるか?」
エイラは受話器から耳を離すとサーニャに言った。
「分かったわ」
「ペリーヌ、一度飛行計画がないか調べるから連絡するまで少し待っててくれ」
『…わかりましたわ』
不満そうな声音ではあったがペリーヌはそれを了承した。
「ロマーニャからの飛行予定はわたしが調べるよ」
サーニャから資料を受け取りページをめくろうとすると再び電話が音をたてた。
「はい、こちらユーティライネン大佐」
『あ、エイラさん、ミーナだけど少しいいかしら?』
「今度は中佐か…」
これで501メンバーがいるすべての基地から連絡があった事になる。
『今度は?他にも誰が電話があったの?』
「シャーリーとペリーヌからな」
答えながらもエイラはページを捲るが該当する飛行計画は見当たらない。
『あら、そうなの。珍しいこともあるわね。それで本題なんだけどガリア方面からアントウェルペンに向かうウィッチの飛行計画って出ていなかったわよね?』
「出てないぞ」
『そうよね…。今ガリア方面からたった一機でアントウェルペン方面に向かうウィッチがいたのだけど何か知らないかと思って』
「シャーリーとペリーヌからの連絡も同じ内容だったぞ。多分同じウィッチだ。ヘルウェティア方面からベルギガまで北上してきたみたいだな」
『移動しているにしては速度が早すぎるわね。やっぱり追いかけた方がいいかしら』
「今調べてる所だから分かり次第連絡するからちょっと待ってくれよ」
『了解したわ』
「うーん、やっぱりロマーニャからの飛行計画にはそんなウィッチいないな。そっちはどうだ?」
受話器を置くとエイラはサーニャに尋ねた。
「いないわ」
そうなってくると思いつく答えは限られる。脱走か、極秘任務か、あるいはヘルウェティアと連合国との間でなんらかの齟齬があったのか。
「流石にアイゼンハワー元帥と協議が必要だな」
そう言ってエイラは立ち上がりサーニャを引き連れてアイゼンハワー元帥の執務室へと向かうのだった。
よくよく考えたら3期1話の宮藤さん、これって方々に迷惑かけているような…と思って今回はこんな話になりました。
いくらネウロイという共通の敵がいるとはいえ他国からウィッチが侵入するのは大問題でしょう。多分。