ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

124 / 196
今年も残すところ約1ヶ月。この調子だと来年も本作は続きそうです。


復讐の猟犬 中編

「超高速で動くネウロイ…か」

 

バルクホルンからの報告を聞いたエイラとミーナ中佐は表情を曇らせた。

 

「単純な飛行速度っていう点だとシャーリーはいい勝負をできるかもしれないな」

 

「けどシャーリーさんの場合は速度面はともかく小回りが効かないわ。今回のネウロイはただ速度が速いだけではなくその速度に見合わない旋回性能を持っているというからシャーリーさんでは厳しいかもしれないわね」

 

「けどシャーリー以外に適任がいないのも事実だろ?ペリーヌじゃあトネールを当たらないだろうしリーネもハルトマンが負けるほど早い敵をコアの位置も分からないのに倒せるとは思えない」

 

「やっぱりエイラさんが行くしか…」

 

「それならアイゼンハワー元帥達とマンネルヘイム元帥を説得してくれよ」

 

「アイゼンハワー元帥はともかくマンネルヘイム元帥も?」

 

「というよりはスオムスの軍と政府上層部だな。スオムスからすればわたしは連合軍首脳部にに影響を与えられる数少ない人材だからそう簡単には前線に出る事を許可される事はないんだ」

 

エイラが連合軍司令部に籍を置く事の意味は大きかった。スオムスとしてはこれまでマンネルヘイム元帥から連合軍司令部の人間を数人介して行っていたやりとりをマンネルヘイム元帥からエイラ、そしてアイゼンハワー元帥とかなり直接的なやりとりが可能となった事でスオムス側の要望を通しやすくなっていた。ここでエイラが連合軍司令部から離れるようなことがあれば少し前に逆戻りすることになり、それはスオムスとしては許容できない事だった。

 

「もしかしてエイラさん、ベルリン奪還にも参加できないとか言わないわよね」

 

「それは事前の計画で参加が決まってるし何よりスオムス側もベルリンの奪還には参加するメリットの方が大きい。と言うより主要国が参加してるのにスオムスが参加しない理由はないだろ」

 

元々国力の大きくないベルギガや少し前までネウロイの占領下にあったヴェネツィアと言った国とは違い開戦から今日まで一度たりとも国土を失陥した事のないスオムスには参加しないなどと言う選択肢ははなから存在していない。なぜならそんな事をすればカールスラントや他の国々からの援助を打ち切られかねず、またスオムスという国そのものの信用が落ちることに繋がるからだ。

 

「軍事面での話をしているのに結局は政治の話に繋がるのね」

 

「戦争は外交の一手段に過ぎない、こんな事をしているとそれがよくわかるよ。必ずどこかで政治に関する話が出てくるからな。ミーナ中佐もちょっとは経験があるんじゃないか?」

 

「もしそうだとしても、前線の私達にくらいはそんな話を聞かせないで欲しいものね」

 

「指揮官がそれは無理なんじゃないか?ましてや統合戦闘航空団っていう政治要素しかない部隊の隊長なんだ。尚更無理だな」

 

一見すると各国が対ネウロイ戦のために作ったと思われがちな統合戦闘航空団とて裏では各国の政治家達が暗躍をしている。スオムスを例に挙げるなら物資の援助や工廠の建設と言ったことがエイラの派遣と引き換えになっている。

 

「確かに統合戦闘航空団の設立を働きかけた時、カールスラントだけじゃなか各国の軍と政治の有力者に働きかけたわね。そう考えると私達が戦う時だけ政治の話をするなというのもおかしな話なのかもしれないわね」

 

「それはどうだろうな」

 

「なによ、さっきまで政治が絡むのは仕方ないって言ってたじゃない」

 

「政治がでしゃばってくるのは仕方ないっていうのはその通りだな。けどだからといってそれが常態化するのはよくないだろ。結局のところ現場のことは現場にしか分からない。軍上層部ならまだしもそれが政治家なんていう門外漢ってなれば尚更わかるはずがないだろ。なのに政治の都合だけを突っ込んできて現場に負担をかけるのはおかしな話だろ」

 

「戦争が政治の一部なのに?」

 

「政治の一部だからこそだ。政治は結局自国が他国と比べて優位な状況に持ち込むためのものだろ?」

 

平時と有事ではその重要度は大きく異なるが結局のところその作用自体は大きくは変わらない。

 

「つまり戦争が自国にとって戦争が優位になるとは限らない時には優先されないということ?」

 

「それは既に戦争で勝ちが殆ど確定しているか敗北が濃厚かのどちらかの時だな。現状はカールスラントの奪還の目処が立っているだけで確実にネウロイに勝利しているとは言えない」

 

「なら今は私達の事情が優先されるべきよね」

 

「ブリタニアにヨーロッパの国々が撤退していた時よりも状況は格段にいいからな。政治家連中はそれを持ってネウロイに勝ちつつあるって判断してるんだろ。最近は予算面にもうるさく口出ししてきてるし相当慢心してるんじゃないか?」

 

「慢心?カールスラントが取り返せていないのに?」

 

「特にブリタニアは酷いみたいだぞ。バトルオブブリテンで増やしていたウィッチ隊を外国人部隊を中心に解体してウィッチの数を減らす案があるらしい」

 

これはエイラが司令部で耳にした話だった。事の真偽は不明だがアイゼンハワー元帥や他の作戦参謀達が頭を抱えていたことから事実だろうと思っていた。

 

「ネウロイを駆逐したならともかくカールスラントはおろかオラーシャにもネウロイは残っているのよ?そんな事考えるかしら?」

 

「前線と後方では考え方が違うんだろ。半年くらい前にブリタニアに行った時は私達がいた頃とは街の雰囲気は全然違ったぞ。見違えるくらい良くなってた」

 

その時エイラはそれほど長い時間ブリタニアにいたわけではないがそれでも目に見えてわかるくらいには様子が違っていた。ガリア奪還前は避難民が路上生活をしていた路地からは人が消え、配給が行われていた広場では子供達が元気に遊んでいた。

 

「雰囲気が良くなっていたのなら私達がした事に意味があったということよね」

 

「意味があったけど政治家連中まで一緒になって平和を謳歌しようとするのは違うだろ。政治家連中はネウロイに勝ったと思いこんで戦後都合のいい状況に持ち込めるよう戦争を利用している。けどわたし達からすれば終息に向かいつつあるのは事実でもそれが並大抵の努力ではなし得ないだろうって認識だ」

 

往々にして前線と後方では物事の見え方は違うものでありこのネウロイとの戦争も前線は戦争と認識しているが後方はもはや害獣の駆除程度にしか考えていないあのではないかとエイラは思っていた。

 

「けどこの間ガリアが再侵攻されたので目を覚ましたんじゃないかしら」

 

「それはないだろ。結局海を挟んだブリタニアがネウロイの魔の手にかかることはなかった。そんなブリタニアがネウロイの脅威を正確に測れていると思うか?」

 

「それはそうだけど…ってこんな話をしている場合じゃないわ。問題はエイラさんがハルトマンの救出に行けるかどうかよ」

 

「だからさっき言っただろ。アイゼンハワー元帥とマンネルヘイム元帥の両方を説得してくれって。それができればわたしは行ける」

 

「それ以外の方法は…」

 

「ない。わたしが行けない以上行くべきはミーナ中佐だけど…」

 

「ハルトマンがいない穴を埋めるために担当空域の防衛に回らないといけないから無理ね」

 

この基地の主力はハルトマン、バルクホルン、ミーナ中佐の三人だ。その内ハルトマンが脱落しバルクホルンも暫く出撃はできない。2人の抜けた穴を残りのメンバーで補う必要があるがこの三人の実力があまりにも隔絶しているため担当空域の防衛で手一杯になっていた。

 

「階級が上がれば上がるほどやれる事は多くなったけど自分の手で出来ることは逆に少なくなるなんて思ってもいなかったよ」

 

エイラ自身、ハルトマンの救出に駆けつけたいと言う思いはあるが他の事情が邪魔をする。そのことにエイラはもどかしさを覚えるのだった。




ハルトマンの救出ってエイラの方が適任だと思うんですよね。未来予知で回避している間にハルトマンを捜索させるとか、うまく行けば普通に倒せるかもしれませんしエイラの方がよかったと思うけどなぁ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。