「まさかあんな方法でネウロイを攻略するとはな」
「そうね、正直私も驚いたわ」
2人が言うあんな方法とはサウナで減量し、プロボクサーばりの体型になっていたバルクホルンのことだ。
彼女はハルトマンを助けるためにエイラやミーナ中佐が予想していなかった手段をとった。
「サウナで不要な脂肪を落としつつ筋肉はそのまま」
「そしてストライカーユニットはできある限り軽量化し空気抵抗を減らして果てはワックスまでかける徹底ぶり」
「普段は仲の良くないシャーリーに頼んでまでユニットの改造をするなんてすごい執念だよな」
バルクホルンが持つストライカーユニットの知識は普通のウィッチが持つものと差はない。501の中でストライカーユニットのことを最も良く知るシャーリーに改造を頼んだのだろうが普段の2人の様子を見ると俄には信じ難いことでもあった。
「貴女だってサーニャさんが同じ状況になれば普段仲の悪い人が相手でも頭を下げて助かるよう努力するでしょう。それと同じことじゃない?」
「それはそうだけど…」
「そうだけど?」
「そもそもはこんな回りくどい方法じゃなくてもよかったんじゃないか?中佐に頼み込んで人手を割くとか、なんならわたしに協力を要請してくれればよかったんだ」
「あら、それは自分で無理だって言ってたじゃない」
ミーナ中佐にバルクホルンやシャーリーの代わりにハルトマン救出の任に着くのは司令部からの命令もあり無理だとエイラは確かに口にしていた。
「司令部に知られたら問題ってだけで知られなければ何も問題はないだろう」
「もしかして助けに行きたかったの?」
「……ハルトマンはわたしが唯一勝てないと思ったウィッチだ、そう簡単に死ぬわけがないだろ」
エイラとハルトマンが一対一で戦ったのはブリタニアでの一度きりだったが一対一の模擬空戦でエイラが唯一勝てなかったのがハルトマンであり同時に勝つ事ができないとエイラが考えている唯一のウィッチでもあった。
「言ってくれればよかったのに」
「それじゃただのお節介じゃないか。なにより何か考えのあるバルクホルンに対してそんな事して邪魔するような事になったら嫌だし…」
ため息を吐くミーナ中佐にエイラは気まずそうに目を伏せてそう言った。
「らしくないわね」
「バルクホルンが1人で解決できると思ってなかったから協力を求めてくると思ってたんだよ」
正直エイラはハルトマンが負けたと聞いた時点で501部隊の誰であっても単独では救出が不可能だと考えていた。宮藤と服部がついているとは言えこの2人は戦力として数えることはできずそうなると他に1人追加する必要がある。候補としてはエイラ、ミーナ中佐などが有力となるためバルクホルンはほぼ確実にエイラに声をかけてくるだろうと考えていた。
「もしかして拗ねてるの?」
頬を膨らませるエイラを見てミーナ中佐は小さく笑うといった。
「拗ねてない!」
珍しく年相応の様子を見せるエイラにミーナ中佐はすこし揶揄いたくなった。
「あら、ならどうしてそんなに頬を膨らませてるの?」
そう言ってミーナ中佐は膨れているエイラの頬を指で突き刺した。
「何すんだよ!」
予想外の行動にエイラは思わずミーナ中佐を睨みつけた。
「そんなに頬を膨らませていて拗ねてないはないんじゃないの?」
「……言いたくない」
「素直じゃないんだから」
ニコニコと何故か嬉しそうに笑っているミーナ中佐にすこしイラついたエイラが反撃した。
「いい歳して歳下の若いウィッチ虐めて楽しいか」
「いい歳ってなによ。まだ19歳よ。まだまだ若いうちに入るわよ」
「ウィッチとしてはもう引退寸前のおばさんだけどな」
エイラの言葉にミーナ中佐は愕然としたような表情を浮かべた。
「お、おばさんですって!?」
「何驚いてんだよ。もう一年もしないうちに前線から離れることになる中佐は短いウィッチの人生からしたら下手したらお婆さんだろ」
ウィッチは早ければ12歳くらいから軍に所属し訓練を受ける。19歳ともなればそう言ったウィッチからすればおばさんと言っても差し支えはなかった。
「なら貴女はどうなのよ。16歳はウィッチとしては上の年齢よ」
「そりゃ戦線が安定して新人のウィッチが増えたからな。年齢で引退する奴が増えて同年代が減った中佐と違ってわたしの年代は丁度ネウロイの進行が一番激しかった時期だしその分戦死者も多い」
エイラからハルトマンの年代にかけてはその年代に当てはまるウィッチの数に対してエースウィッチの比率が高くエースと呼ばれていなくとも実力の高いウィッチが多い。彼女達がウィッチになった頃が丁度ネウロイの侵攻と同時期であった事が関係していると言われていて他の年代と比べてその世代に属するウィッチの数が少ない事からもその説はおそらく正しいのだろうと言われていた。もっとも宮藤やリーネ、シャーリーのように途中からウィッチになり戦争に参加したウィッチも存在するため一概にネウロイの侵攻が原因で実力が底上げされているとは言い切れないが少なからず影響を与えていることは確かだった。
「つまり中佐とはわけが違うって事だ」
エイラが自慢げにそう言うとミーナ中佐はエイラの頬に手を伸ばし両頬を思い切り引っ張った。
「にゃにふんだよ」
「私はおばさんなんかじゃないないわ」
ミーナ中佐の目からは光が消え、異様な雰囲気を漂わせていた。
「ほんなほとほうへもひいはらはなへよ」
「私は!おばさんじゃない!!」
「わはった、わはったはらはなへっへ」
ミーナ中佐の腕を叩いてギブアップを宣言するとようやくミーナ中佐は手を離した。
「エイラさん、私はおばさんじゃないわよね」
「…おばさんじゃなくて若いウィッチだな」
面倒臭そうにエイラがそう言うとミーナ中佐はそれで満足したようで一つ頷くと椅子に座り直した。
「そういえば司令部からエイラさん宛に指令が届いたみたいだけどあれはなんだったの?」
「バルクホルン達の活躍でキールまでの道が整備されたからそろそろ出番だぞって催促してきたんだよ」
「出番?」
てっきりキール軍港奪還に際して一時的に戦力が落ちるサン・トロン基地の補強のためだけに来ていると思っていたミーナ中佐は不思議そうな表情を浮かべた。
「いわゆる将校斥候って奴だな。キール軍港そのものは無傷だけどそれがイコール攻略できると言うことにはならないからな。キール近郊の様子をわたしの目で見て確かめて攻略可能かどうかを確認するんだ」
「それは…なかなか危険な任務ね」
キール軍港までの道はある程度整備されたがそれでもまだそこはネウロイの勢力圏だ。どこからネウロイが来るかわからないうえにハルトマンを撃退したようなネウロイがいないとも限らない。危険な任務になる事は間違いなかった。
「未来予知の固有魔法があるからそう簡単に撃墜される事はないけどできればサーニャがいてくれれば安心なんだけど…」
エイラの未来予知は戦闘能力に目が行きがちだが索敵でもその力を発揮する。数秒先の未来がわかり、その未来において攻撃を受けると言う事は当然敵がいるという事だ。それがわかった時点で奇襲というものが成立せず殆どの敵はウィッチの中でも最上位の実力者であるエイラに返り討ちにされる事は間違いなかった。しかし未来予知による索敵は敵が攻撃してこなければ成立せず効果範囲内であれば攻撃してこなくとも敵の存在がわかるサーニャとの相性が抜群に良かった。
「いいわよ。私も司令部を介さない情報が欲しかったしサーニャさんにはエイラさんと一緒にキールに偵察に行くよう指示しておくわね」
「司令部を介さないって…まるでわたしが信用できないみたいだな」
エイラは司令部に籍を置いているが同時に501の隊員でもあった。
「だってエイラさんは司令部が私達に知らせるべきでないと判断すればそれに従うでしょう?」
「それはそうだけど…」
事実ではあったがなんとなく納得がいかずエイラは口を尖らせた。
「そんな顔しなくてもいいじゃない」
「こっそり教えるくらいならわたしもするぞ」
「すごく分かりにくい暗号文とか使って?」
図星をつかれたエイラはスッと視線を逸らした。
「本当に暗号を使うつもりだったの?荷物に紛れ込ませるとか色々方法はあるんだからそっちにして欲しいわね」
「だってバレたら面倒だし…」
「それで私達がわからなければ意味がないじゃない…」
エイラ立場的にあまり派手に動く事ができない事は仕方がないがそれでも伝え方は考えて欲しいとミーナ中佐は思った。
「まぁ、パットン将軍の指揮下だとブリタニアの頃と違って風通しもいいし情報が隠されているとかはないでしょうから問題ないわね」
秘密主義のマロニー将軍と違ってパットン将軍は大抵の情報を公開しているためさしたる問題ではなかった。
シャーリーがユニットを改造したのは理解できるけど果たして肉体改造でそんなにスピードって変わるのかという疑問が湧きましたけど専門家の人教えてください。これに関してはマジでお手上げなので。