「さて、キールの霧が晴れたおかげで当初の予定よりも遥かに良好な状態の港を手に入れる事ができベルリン奪還への道も開けたわけだが……」
目を閉じ、一つ息を吐くとアイゼンハワー元帥は目の前のウィッチに問いかけた。
「何か弁明はあるかな?」
「弁明も何もその時わたしは命令通りサン・トロン基地に居ました。無事奪還できたことを祝う以外言葉はありません」
「あの日の明け方、飛行記録にないウィッチがカールスラント方面に飛び去るのを見たという報告が複数寄せられている」
「居眠りをして帰還が遅れたナイトウィッチでも居たんじゃないですか」
嘯くエイラにアイゼンハワー元帥は拳を机に叩きつけた。
「大佐は仮にも司令部に籍を置く人間だ。全軍の兵士の模範として相応しい行動をしなければない。それが率先して命令を破ったとなると兵士たちに示しがつかない」
エイラが出撃していたと確信を持っているかのような言動だがエイラにはアイゼンハワー元帥が決定的な証拠は握っていないだろうと確信に近い考えがあった。
「501が戦力の半分をキール奪還に回した事であの空域は一時的に504とカールスラント第一夜間戦闘航空団第四飛行隊に哨戒任務を任せていたはずです。もしも仮に所属不明のウィッチがいれば彼女達に捕捉されていたはずでしょう」
急いでいた行きと違い帰りはレーダー網に引っ掛からないようエイラは低空飛行で帰還したためそれらの航空団に捕捉される事はなかった。
「仮にネウロイの勢力圏にウィッチが飛んでいったとしても帰ってきたことが確認されていないなら大した問題はないでしょう。ただの自殺志願者が意思を貫き通したに過ぎないんじゃないでしょうか」
はたして、エイラの予想は正しかった。アイゼンハワー元帥は諦めたようにため息を吐くと言った。
「たしかに、大佐の言う通りだ。人同士で戦争をしているならともかくそうでない以上ネウロイの支配権にストライカーユニットがあってもそれを有効活用できるモノはいないのだからな」
そう言うとアイゼンハワー元帥はもう一度大きくため息を吐いた。
「さて、今回大佐を呼んだのは他でもないベルリン奪還作戦についてだ」
「ベルリン奪還作戦は半年以上前に策定済みのはずです。今更話すことがあるとも思えませんが」
「それがそうでもない。カールスラントのネウロイはその大多数が駆逐され巣の護衛を務めるネウロイ程度しか残っていないが我々がベルリン奪還で投入するラーテはあくまで地上兵器であり空からの攻撃に弱い。そのラーテの護衛に投入できる戦力が足りていないのだよ」
「……ベルギガは当てにならずガリアも自国の事で手一杯。カールスラントは東西南北全ての方面軍に戦力を派遣しているためこれ以上の増派は不可能。となるとリベリオンに頼るしかありませんが……」
ここで名前が上がらなかったブリタニアと扶桑のうち前者は海上護衛、後者は東部戦線に戦力の大半を割いているためこれ以上ウィッチを捻出するのは困難だった。
「我が国にその戦力がないとは言わんが政治家連中がうるさくてかなわん。それに補給の大部分をリベリオンが担っているんだ、リベリオン軍を増やすのは困難だ」
いくらリベリオンが大国でも限界はある。特に最近では奪還されたガリアやベルギガと言った国の復興のためにも物資を提供しているためそれ以前と比べて供される軍事物資の量は減っていた。
「つまり現有戦力でどうラーテを護衛するか、それを考えろと?」
「そうだ。ウィッチとしても参謀としても確かな実力を持つ大佐なら何かいい考えが思い浮かぶのではないか?」
「無茶言わないでくださいよ。思いつくのなんて精々501の精鋭を少数派遣して敵が来ればその都度基地から派遣…」
「どうしたんだ大佐?」
突然黙り込んだエイラにアイゼンハワー元帥が訝しげに尋ねた。
「一つ、思いつく事はあります。というより数年前に実際使っていた作戦ではありますけど……」
「是非教えてほしいな」
「1941年のペテルブルク奪還作戦、ペテルブルクに辿り着くまでの間地上部隊を守るために使ったのが簡易発進装置です。滑走路を使わずにほぼ垂直に上昇し飛行することができます。これを使って当時は先鋒部隊の制空権を確保しました」
「今の話だとどうして一般的な手法になっていないのか不思議なくらいだが何か理由があるのかな?」
「航空ウィッチは基本的には飛行型のネウロイと空で戦うことを前提に訓練をしています。そのため地上型ネウロイによる突然の奇襲に弱いんです。この手法が廃れた一番の要因はただでさえ少ない航空ウィッチを地上で失うなどという愚を犯さないためというのが理由です」
当時の北方方面軍は全方面軍のなかで最も保有するウィッチが少なかった。それを空戦以外で失うなどと悪夢以外の何者でもないだろう。
「実際に陸上で命を落としたウィッチはいるのか?」
「わたしの部隊ではありませんでしたけどオラーシャ陸軍所属のウィッチが戦死したそうです」
「そうか……。だが逆に言えばそれ以外は大きな問題は無いと言うことだな」
「もう一つ、この発進装置を使っての発進は通常発進よりも燃料を消費します。通常より多く燃料を用意する必要がありその分部隊の補給を圧迫します」
当時はネウロイの奇襲で燃料の約半分を喪失してかなり苦労した苦い記憶があった。
「奪還したばかりのキール軍港で通常とは違う補給を確保する事はあまり賢い選択とは思えませんが……」
「私もそう思う。となると選択肢はラーテを最大速度でベルリンまで進軍させるという博打極まる作戦、501にベルリンのネウロイを誘引してもらう、501の負担を承知の上で部隊上空の制空権を確保するの3つになるな」
「元帥は誰をお望みですか?」
どの作戦も一長一短でどれを選んでも作戦失敗のリスクがつきまとった。
「成功するのなら1番目の作戦を取りたい」
アイゼンハワー元帥の本気とも冗談とも取れる発言にエイラは思わず口元に笑みを浮かべた。
「それはわたしも同じです」
「だがそう上手く行かとも思えん。世知辛いな。現実を見るのなら2番目か3番目になるだろうな」
アイゼンハワー元帥のため息にエイラは肩をすくめた。
「あるいは途中まで1番の作戦で進み途中から3番目、つまり護衛をつけるなんてことも考えられますが…」
「それで護衛が間に合わなかったら目も当てられないな」
そう言うとアイゼンハワー元帥は再びため息を吐いた。
「失礼します!!!」
ノックもなしにアイゼンハワー元帥の副官が入室してきた事にエイラは思わず眉を顰めた。厄介型の香りを感じ取ったからだ。
「何事だ」
「ぱ、パットン将軍がキールより戦車部隊を率いて進発、直後にネウロイの攻撃を受け負傷されました!!」
「ば、馬鹿な!」
今ここで話をしていた事の意義が根底から崩れ去りエイラは思わずアイゼンハワー元帥に視線を向けた。
「私はそんな事許可していないぞ!一体何の権限があって奴は軍を動かしたんだ!」
「キールの部隊はパットン将軍の指揮下にあります。権限自体はあるのではないでしょうか」
エイラの冷静なツッコミにアイゼンハワー元帥は一瞬ポカンと口を開けた後言った。
「いや、確かにその通りだ。正しくは何故我々に一言の報告もなく軍をベルリンに向けたのかだな」
「そうですね。いずれにせよ時間は戻せません。パットン将軍の独断専行の件は後にして一体何が起こったのか、それを究明するのが先決ではないでしょうか」
「その通りだな。大佐、戻ってきて早々で悪いがキールに飛んでくれるか」
「了解しました」
実際問題パットン将軍の件、あれってどうなんでしょうね。普通に独断専行で下手すればなんらかの罰則がありそうな気が……。