パットン将軍がベルリンから発射されたネウロイにより負傷した事で、ベルリン攻略は一時延期された。
現状ではあまりにも戦車部隊が危険であることから、第501統合戦闘航空団に件のネウロイを倒すよう命令が下された。
「わたしは反対だぞ」
カールスラントの新型ストライカーユニット、Me163コメートを用いて音速を超えるネウロイを撃ち落とす。その作戦の実行者に隊長であるミーナ中佐自らが志願した事に対してエイラはそう言った。
「ミーナ中佐とバルクホルン、いずれか片方だけならともかく両方とも基地からいなくなるなんて一体なんのために隊長と戦闘隊長を置いてると思ってんだ」
仮にミーナ中佐だけであれば、エイラの反対はもっと軽いものであっただろう。しかしその人選が戦闘隊長のバルクホルン及び、世界一の撃墜数を誇るハルトマンであった事が、エイラを強硬なまでに反対させる原因となっていた。
「中佐とハルトマン、もしくはバルクホルンとハルトマンが行く分にはわたしは何も言わない。けど3人全員がこの作戦に参加する事だけは反対だぞ。一体誰がこの基地の指揮を取って、一体誰を中心に防衛戦を展開するつもりなんだよ」
「貴女がいるわ」
「ふざけるな。今回の件で各方面に影響が出てるんだ。ここで501の指揮を取るような時間はない」
「各方面に影響が出ているのは知っているわ。それは他の参謀達でなんとかする事ができるけど、ここの防衛は貴女以外に任せる事はできない。どちらを優先すべきか論じるまでもない事よ」
「バルクホルンとハルトマンだけでも目的のネウロイは撃破できるだろ」
「それだと不測の事態に対応できないわ。できればもう1人、2人に近い実力者が必要よ」
ミーナ中佐の指摘は正しい。この作戦はネウロイが占領するカールスラント奥深く、ベルリン近郊にまで接近しなければならない事から作戦参加ウィッチには危険が伴う。仮にネウロイに見つかった時にはそれを突破し作戦を続行、あるいは帰還できるような高い実力を持ったウィッチが望ましい。今回の作戦の参加人数は1個小隊、つまり4人とされていて内1人がコメートの調整を担当するウルスラ・ハルトマン。他3人のうち1人がコメートを操縦し目標のネウロイを撃破、残りの2人がその護衛を行う。コメートの操縦にしろ護衛にしろ高い実力がなければ務まらず相応しいのはバルクホルン、ハルトマンミーナ中佐と3人しかいなかった。
それが分かっているからこそエイラはミーナ中佐の反論に対して沈黙でもって答えた。
「何よりこの基地でも最低限の仕事はできるでしょう。これが最善よ」
「……今日は珍しく頭が回ってるじゃないか」
悔しそうに言うエイラにミーナ中佐は頭を下げた。
「ありがとう」
※
「って事があったみたいなの」
「それでエイラさん機嫌悪そうなんですか」
サーニャの話を聞いた宮藤は納得したように頷いた。
「けど結局了承したんだろ?なら機嫌直せばいいのにな」
どこか呆れたようにシャーリーが言った。
「了承はしても納得はしてないみたいです。ミーナ隊長が出撃した皺寄せがエイラに来てるみたいだし少し機嫌が悪くなるくらいは仕方ないと思います」
エイラを庇うような言葉を発するサーニャにシャーリーは肩をすくめた。
「別に責めてる訳じゃないさ。いつものエイラを見ているとこれくらいの事で機嫌を悪くするのが意外ってだけで」
シャーリーの知るエイラは如何なる時も冷静で、隊長であるミーナ中佐以上に指揮官らしいウィッチであった。そんなエイラが珍しく感情を表に出していることに驚いていた。
「そうかなぁ、エイラって結構感情をよく表に出す方じゃないかな」
シャーリーの言葉にルッキーニが意を唱えた。
「そうか?どっちかと言えば自分の感情押し殺して部下に不安を持たせたりしないように振る舞う理想的な上官って感じだけど」
ルッキーニの言葉にシャーリーは訝しげに言った。
「だって中佐と話してる時とかよく怒ってるよ?」
ルッキーニの言葉にシャーリーは一瞬何か考えるようなそぶりを見せた後尋ねた。
「……それってミーナ中佐の執務室でって事だよな?」
「そだよ」
「なんで聞いてんだよ」
ミーナ中佐の執務室はシャーリー達の部屋や食堂がある生活スペースとは真反対の位置にあり、シャーリー達が近づくとすれば会議くらいでめったに近づく事がない。さらに言うとこの基地にエイラがいる事が稀な為ルッキーニがエイラが声を荒げる場面に遭遇するとは考えにくかった。
「えっとね、エイラの執務室がミーナ中佐の執務室の横にあるでしょ?」
エイラは指令部では参謀である事から機密情報も多く持っている。しかしそれと同時に501の所属でもあり一定数の機密書類をこの基地にも置いていた。それらを保管する場所という意味合いもあって専用の執務室がエイラにはあった。
「それがどうしたんだ?」
「あそこって夕飯前とかいい感じに日が入って暖かいからお昼寝にちょうどいいの。すぐ隣だからよく声が聞こえるんだよ」
ルッキーニの言葉に生活スペースなどの掃除を担当している宮藤とリーネが不思議そうに声を上げた。
「あれ?エイラさんの執務室って鍵がかかってなかったっけ?」
「うん、掛かってた筈だよ」
スオムスの重要書類等も数は少ないが置かれている事から、入室に制限を掛ける為にエイラの執務室は鍵がかかっている。そのため宮藤達が入る事はできなかった。
「んっとね、前にお昼寝に使いたいって言ったら偶に換気するなら使っていいって言われて鍵もらったよ」
「だからルッキーニちゃんのシーツがエイラの机に置いてあったのね」
サーニャが合点がいったという風にそう言った。サーニャもまたエイラに頼まれて時折掃除のために部屋に入る事がありその為に鍵を受け取っていた。
「サーニャちゃんが鍵を持っているのはわかるけどどうしてルッキーニちゃんも?」
「ユーティライネン大佐の部屋が隊長の執務室以上に機密の塊なのに、いくら鍵をもらっているとはいえそう簡単に入っていいものなんでしょうか?」
「エイラさんがいいって言ってるんだし別にいいんじゃないかな」
服部の疑問に宮藤はそう言った。あまりにも適当な考えに服部は本当にそれでいいのか悩ましげな表情を浮かべた。
「エイラがいいって言ってるならそれでいいけど、問題はよりもよってどうしてルッキーニが鍵を預かっているかだな」
シャーリー達は知る由もないが、実の所執務室の書類は重要ではあるが基本的には時が経てば公開されるものであり、見られてもさしたる影響はない。さらに各棚にも鍵が付いていてそう簡単に開けられないこと、そして何よりルッキーニが見たところで何かわかるような事もないだろう、という考えからエイラはルッキーニに鍵を渡し入室を許可していた。
「あたしが鍵持ってる事の何が不思議なの」
不機嫌そうにルッキーニが尋ねた。
「いや、別にルッキーニが鍵渡されたのが不思議なんじゃなくて、サーニャだけとかならともかく、態々サーニャとルッキーニなのかが不思議なんだ。あの部屋に入る人間は制限した方がいいのはみんな知ってる事だろ。
だからサーニャだけとか最低限の人数にして置いたほうが良くないか?」
シャーリーの疑問はもっともだが、実際の所は本当に重要なものはパリの司令部に置いている為、エイラがそこまでこの部屋に気を配っていないというだけだった。そんな事を知らないシャーリー達(ルッキーニを除く)は暫くの間この事に頭を悩ませる事になるのだった。
しかしそれも翌日、ミーナ中佐達が目標のネウロイを撃破する事に成功したことで、この問題は暫くの間皆の脳裏から消えることになるのだった。
アニメ9話、多分シャーリーが指揮をとっていたんでしょうけどどんな感じだったんでしょうね。ちょっと気になる…。