その日、パリの連合軍司令部で急遽会議が開かれた。
「さて、あの厄介なネウロイを倒すことでベルリン奪還に一歩近づいたわけだが……」
「いよいよオペレーションサウスウィンドの実行ですか?」
カールスラント陸軍の参謀将校がアイゼンハワー元帥に問いかけた。
その問いかけにアイゼンハワー元帥は大きな大きなため息で答えた。
「いいや。どうやら我々の預かり知らぬところでオペレーションサウスウィンドはすでに発令されていたようだ」
アイゼンハワー元帥の言葉に会議室はざわめいた。
「預かり知らぬところというのはどういう事ですか?」
ブリタニア空軍の参謀将校が尋ねるとアイゼンハワー元帥は言った。
「先ほど、西方方面軍司令官パットン将軍の命令でブリタニアよりリベリオン空軍のB17爆撃機の飛行大隊が飛び立ったと報告があった」
その言葉に一部の参謀将校は息を呑んだ。
「それがどうしたというんだ。ブリタニアにいるリベリオンの爆撃機隊の指揮権はパットン将軍にある。何も問題ないだろう」
我関せずと言わんばかりの態度でガリア陸軍の参謀将校は言った。
「その向かった先が問題なのだ!」
その態度にアイゼンハワー元帥は声を荒げた。
「奴はあろう事か勝手にベルリンに向かって爆撃機を飛ばしたのだぞ!!」
その言葉にようやくガリア陸軍の参謀将校は事態の深刻さを理解した。
「ば、馬鹿な!ベルリン奪還は北方、南方の三つの方面軍による合同作戦だぞ!各国が調整に調整を重ねてようやくたどり着いた作戦を台無しにするつもりか!?
いや、台無しになるだけならまだいい、それでガリアの防衛に支障をきたすような損害を負ったらリベリオンは一体どうするつもりなのだ!」
あまりにも自分勝手な言動にガリア以外の参謀将校の視線が冷たくなる。大した兵力も物資も提供していない、いやむしろ提供されている側のガリアが一体どうしてそんな口を叩けるのかと皆が思っていた。
「それはその時改めて考える。今はそんな事を気にしている場合ではない。問題はオペレーションサウスウィンドに投入できる爆撃機隊が払底した事で航空機による攻撃ができない事だ」
そう言われてガリア陸軍の参謀将校はようやく自分に向けられる視線に気付いた。
「た、たしかにそうだな。元帥のお考えは?」
「はからずしも今回の独断専行でベルリンの戦力配置が分かった。元々使う予定だったラーテも幸運な事に健在だ。現有戦力でもベルリンの奪還そのものはできると考える」
「それよりも制空権を取る要の501から1人戦線離脱を余儀なくされたことの方が問題ではないでしょうか」
これを言ったのはエイラだ。
「1人離脱したくらいでなんの問題がある。501は精鋭揃いだ、なんの問題もないだろう」
ガリア陸軍の参謀将校が再び口を開いた。
「その精鋭部隊から1人戦線離脱した事の戦力喪失の大きさを理解できないうちはその口を少し閉じていてくれませんか?」
思わずエイラの口から本音が出た。
「貴様!無礼であろう!!」
ガリア陸軍の参謀将校が声を荒げるがそれに賛同するものは一人もいない。いや寧ろ彼にはより鋭い視線が向けられていた。
「無礼というのであればまずはご自分の立場を理解してから発言なされた方がよろしいのではないでしょうか」
実のところエイラはかなり苛ついていた。パットン将軍の独断専行はエイラが受け持つウィッチに関しても大きな影響を与えていたからだ。一時的とは言え501がサン・トロン基地からいなくなった事により付近のウィッチ隊に対してはその分の防空網をカバーできるように指示する必要がありそれが終わった直後に飛び込んできたのが宮藤の戦線離脱だった。
宮藤が抜けた穴を埋めるための戦力を捻出することも叶わず対応に苦慮しているところにこの言動、ムカつかないはずがなかった。
「スオムスの小娘風情が大国ガリアの少将に対してそのような事を言う意味を理解しているのだろうな!?」
その言葉を思わずエイラは鼻で笑った。大国と呼ばれたのはもはや過去の話、この少将でさえもこの司令部ではいわゆる窓際部署へと追いやられており、ウィッチ隊に関わる業務全般を任されているエイラとでは階級は上でも司令部での評価はエイラの方が間違いなく高かった。
「2人ともその辺にしておけ」
2人の言い争いを止めたのはアイゼンハワー元帥だった。
「2人の意見には聞くべきものがある。だがユーティライネン大佐、相手の階級は一応上なのだからもう少し敬いなさい」
「申し訳ありません」
エイラはアイゼンハワー元帥に頭を下げた。
「そして少将、君はどうやらこの会議に出るには少々役不足のようだ」
アイゼンハワー元帥の言葉にガリア陸軍の参謀将校はその意味を理解できず目を瞬かせた。
その間にアイゼンハワー元帥は扉の外に控えていた従卒を呼び出すと連れ出すように命令した。
「げ、元帥は私よりもこの小娘を、ひいてはスオムスの方を取ると言うのですか!?」
「君か大佐かで言うと当然大佐の方を取るだろう。ただ無為に歳と階級を上げてきた君よりもよほど優秀だ。ただ後者については意味がわからんな。君の能力の低さとガリアとの関係性は全くの別問題、後程ガリア軍には優秀な人間を寄越すよう要請しておくとしよう」
アイゼンハワー元帥の言葉に対して彼は口汚く罵りながら従卒に連れて行かれた。
「さて、これで円滑な会議を続けられる。ご苦労だったなユーティライネン大佐」
自国の主張を叫ぶばかりで何も出さないガリアのやり方には皆辟易していて、それはアイゼンハワー元帥も同様だった。
「さて、改めて諸君らに問うが何か案はあるか」
その問いかけに答えるものは誰もいなかった。どうせ数日後にはオペレーションサウスウィンドが発令されることは決定しており今更出来ることなど限られていたからだ。
「……大佐、501から抜けたウィッチの影響は如何程のものだ」
「実力は501内では平均的なものですけど彼女はウィッチ全体から見ても最上位に入る強力なシールドを張れました。それがなくなったと考えるとラーテの護衛にやや不安が残ります。そしてそれはより多くのウィッチを護衛に割く必要が出るという事です」
「具体的にはどれほどのウィッチが必要になる」
「最低でも2人、できればその倍は欲しいです」
「多すぎるな。それでは制空権の確保に支障をきたすのではないか?」
「短期間なら制空権の確保は十分可能です。しかし敵が我々の予想を超える数のネウロイを出したり強力なネウロイを用意していた場合は対応しきれないでしょう」
宮藤1人のシールドは501全員分に匹敵するほどのシールドを張る事ができる。エイラの要求通り501の隊員が4人いたとしてもそれを補えるほどのシールドを張ることは叶わなかった。
「ラーテの装甲は対ネウロイ用傾斜装甲、最悪ウィッチのシールドによる護衛はなくて構わない。それよりもラーテが壁ネウロイを倒す間、他の木端なネウロイ共にラーテの邪魔をさせない事の方が肝要だろう」
「わたしは構いませんけど……いいんですか?」
「背に腹は変えられん。ラーテの防御力に賭けよう」
アイゼンハワー元帥はため息を吐いた。
「しかしこう言ってはなんだが奴の作戦が失敗してよかった」
アイゼンハワー元帥から発せられた予想外の言葉に思わずエイラは言葉を失った。
「いや、成功していれば戦力の温存など様々なメリットがあったが同時に奴が増長すると言うデメリットもあった」
「増長……ですか?」
「今でも独断専行で動きがちなのに成功していれば奴の武勲は他の追随を許さないものになる。司令部がなんと言おうが奴の行動こそが正しい、そうなりかねない」
総司令部の命令に従う方面軍司令官ではなく、一方面軍司令官に従う総司令部という歪な形を生み出すこととなりかねないとアイゼンハワー元帥は危惧していた。
「……どちらにしても死んでいった爆撃機隊の乗組員達があまりにも哀れです。元帥もあまりそう言った言葉は口にしない方がいいと思います」
「そうだな、その通りだ。以後こう言った言動は控える事にしよう」
パットン将軍が爆撃機使わなければオペレーションサウスウィンドにも爆撃機が使えたから普通に戦犯なのでないかと思うんですけどどうですかね。
そもそもあの人の立場は一体どんなものなのか……