「現在ネウロイの巣、ウォルフは壁に形を変えてベルリンを取り囲んでいます。今回のヴィクトーリア作戦では西方方面軍との総力戦で挑み、壁の中心に居座るドーム型の本体を完全破壊することで今度こそベルリンを奪還します」
「でも反対に近づこうにも周りの壁がなぁ」
シャーリーがぼやいた。
「上空から攻めても強力なビームの餌食になるぞ」
バルクホルンもシャーリーに同意するように厳しい表情を浮かべそう言った。
「対抗策として主力になるのはパットン将軍が率いる戦車軍団よ。そしてこれが決戦兵器陸上戦艦ラーテよ」
ミーナ中佐の言葉と共にプロジェクターに映し出された写真に皆が息を呑んだ。
「でっかーい」
「カールスラント製だな」
ルッキーニの言葉にシャーリーが答えた。
「またとんでもないものを……」
ペリーヌも呆れたように言った。
「私達の501の任務は壁ネウロイからの攻撃を阻止しラーテが敵本体を射程に捉えるまでの間なんとしても守り抜くことよ」
「援護するだけぇ?」
「地上にいるネウロイを倒すために特化した戦術だ」
ハルトマンの不平をバルクホルンが宥めた。
「なお、宮藤曹長は魔法力枯渇のためカール基地での待機となります」
ミーナ中佐の言葉に服部とリーネが今はいない宮藤の席に視線を向けた。
「さて……エイラさん、何か補足説明はあるかしら」
溜息を一つ吐くとミーナ中佐はエイラに尋ねた。
「幾つか注意点がある。まず第一にこのオペレーションサウスウィンド、じゃなくてなんだっけ?」
「ヴィクトーリア作戦よ」
「そうだった。なぜか作戦名が変わったから忘れてたよ」
顔は笑っているいるのにどこか機嫌の悪そうなエイラの様子にハルトマンが隣のバルクホルンに尋ねた、
「ねぇ、エイラなんか機嫌悪くない?」
「この間パットン将軍がオペレーションサウスウィンドを勝手に発令させた事で作戦名を変えざるを得なくなった事に腹を立てているようだ」
元々この作戦はオペレーションサウスウィンドと呼ばれていたが、パットン将軍が勝手にオペレーションサウスウィンドと名乗る作戦を独断専行で行った事で、その不祥事の隠蔽のために名前を変えていた。一時はパットン将軍の更迭も視野に入れられていたが、この時期に司令官を変えることのリスクが大きいとされ、結局パットン将軍は現職にとどまり指揮を取ることとなった。その代わりに司令部の参謀達はこの件のもみ消しと各方面への調整に苦労することとなった。
「そんな事で?」
「作戦名を変えるだけならそうだが、あれでB-17が作戦に使えなくなった事で多少作戦の変更を余儀なくされたみたいだ。お陰で司令部は連日徹夜続きだったらしいぞ」
「わたしは別に徹夜はしてないぞ」
「そうなの?」
ハルトマンの言葉にエイラは頷いた。
「その代わりと言ってはなんだけど各方面の司令官と話すためにストライカーで飛び回ってたんだ。
司令部付きのウィッチはわたし以外にも何人もいるけど、各方面の司令官と直接会って話せるような人材はわたししかいないからな」
そう言って笑うエイラの顔には、暗くてわかりにくいが目の下に隈ができているようだった。
「あー、お疲れ様」
「いやいや、その言葉はまだ早すぎるぞ」
エイラの言葉にハルトマンは首を傾げた。
「ベルリンを奪還したら益々忙しくなるからな。あのジジイを殴り損ねたからそれもしないといけないし忙しくなる」
「……がんばれー」
いつになく殺気立っているエイラに、やや引き気味にハルトマンはエールを送った。
「エイラさん、そろそろ補足説明をして欲しいのだけど……」
「あ、ごめん」
コホンと咳払いをしてエイラは口を開いた。
「まず、ラーテだけどシールドによる直接援護は行わない。代わりに襲ってくる敵ネウロイを撃破する事に集中してくれ。
そしてウォルフの本体をラーテが破壊できなかった時は501が対処する事になるけど、ミーナ中佐、バルクホルン、ハルトマンの3人以外が本体を破壊する事を禁じる」
エイラがそう言った直後、会議室が沈黙を支配し次の瞬間全員が明々に声を上げた。
「ミーナ隊長達だけっていくらなんでも無茶が過ぎるだろ!」
「あまりにも危険すぎますわ!上層部は中佐達を殺すつもりですか!?」
「聞いてない聞いてない!」
「エイラ……!」
想像以上の反対の声にたじたじになりながらもエイラは言った。
「これは連合軍ではなく連合国の政府首脳陣が話し合って決めた事だ。もうどうにもならないよ」
「どういう事だよ!」
「まさか、この機に中佐達を暗殺しようとでも考えいてるのですの!?」
「そんな!?」
「違う違う違う!!!」
向けられる非難する視線にエイラは慌てて両手を振って否定した。
「ウォルフはカールスラントの首都ベルリンにあるだろ。ここでカールスラント以外のウィッチが本体を破壊するっていう大役を担う事はカールスラントの沽券に関わる。
なおかつカールスラント国民の心情に寄り添うと、やっぱりカールスラント以外のウィッチに破壊されるよりカールスラントのウィッチに破壊された方がいいだろ」
「ガリアはそんなの関係なく奪還したのにカールスラントだけそうする意味がありますの?」
「良くも悪くも状況が違う。カールスラントはガリアと違って本土全てがネウロイに奪われている。カールスラントのウィッチにより奪還される事はカールスラント国民の士気を高める事になるし、何よりもガリアの奪還はなし崩し的なものだったからな。事情が全然違う。
「ならベネチアはどうなるんだ。あれは今のカールスラントと状況は大きく変わらないだろ?」
「こういうことはあまり言いたくないけど、全ての戦線に軍を派遣しているカールスラントと、一部の海上護衛を担当しているだけのベネチアでは連合国内での重要度が違いすぎる」
もしカールスラントがビフレスト作戦で秩序だった撤退ができていなければ、このような配慮がなされる事はなかっただろう。それがエイラ達にとっていい事かどうかは別として。
「それにこの事はさっきあった会議後、中佐と少佐に伝えて了承済みだ。本人達が了承してるならそれでいいだろ」
「私は聞いてないんだけど」
「2人もそうだけど特にハルトマンは実力的にこの作戦に必須だからな。拒否権なんてないよ」
つまるところミーナ中佐達の同意というのも同意という名の命令である。しかしエイラ自身はこの作戦に心配は抱いていなかった。
「破壊するのがカールスラントの3人じゃないとダメってだけで援護は可能だからな。中佐達が本体を破壊する為に必要なことは全てできるから、そんなに心配する必要はないさ」
「援護はできるんですか?」
「当たり前だろ。まさか3人だけで特攻させるとでも思ってたのか服部」
「いえ…その……はい」
服部はエイラの問いかけにしどろもどろになった。他にもそう思っていたのかペリーヌやシャーリーが気まずそうに視線を逸らしたが、エイラは気付かないフリをして話を続けた。
「まぁ、これもラーテが本体を破壊すればいい話だしあまり気にしなくていいと思うぞ」
そうは言ったもののエイラはラーテを全面的に信用しているわけではなかった。宮藤がいればあるいはラーテだけで本体まで破壊できたかもしれないが、宮藤がいないと防御能力に不安が残り、いかにラーテといえど本体まで迫れないのではないかと考えていた。何よりベルリンの道がラーテの重さに耐えられるとも考えにくく、本体については501が対処する事になるだろうと思っていた。
「カールスラント以外のウィッチが本体を破壊するのはダメなのに、ラーテが本体を破壊するのはいいのー?」
「ラーテはカールスラント製だから別にいいんだろ」
ルッキーニの疑問にシャーリーが答えた。
「シャーリーの言う通りだ。カールスラント製ラーテをカールスラント軍人が操作しているからな。中にパットン将軍が乗っているのがネックだけど、それならいくらでも誤魔化せる。元々指揮官はパットン将軍なのは決まっていたしカールスラントも了承していたからな」
ちなみに本来の作戦は、ラーテとB-17の地上と空中の両方からの飽和攻撃で巣を破壊する作戦であった。仮にB-17が対ネウロイ用気化爆弾で巣を破壊してしまった場合は、破壊した攻撃はラーテないし501の3人のいずれかとして発表される予定だった。
「わたしからは以上だ」
エイラの言葉を聞いてミーナ中佐は頷くと口を開いた。
「では、全員出撃準備!」
ウォルフの破壊、宮藤さんがシールドで止めるだけだったあたりこんな感じの命令があってもおかしくない気がします。