エイラが陸戦ウィッチを含む連合軍指揮下の全ウィッチ隊を指揮するにあたり統合戦闘航空団は一つの部隊にまとめられエイラの直属部隊へと姿を変えた。
名を第一統合戦闘飛行師団、通称ワールド・ウィッチーズ。運用自体は今までとそう大きくは変わらないが、統合戦闘航空団に明確な上級指揮官ができた事により、統合戦闘航空団を一つの戦場に集中投入するなど統合運用がしやすくなったことが大きな違いとして挙げられる。
これまで統合戦闘航空団が肩を並べて戦うことのなかった原因の一つに、指揮官が階級は違えど同じ統合戦闘航空団の指揮官であり同格であったことが挙げられた。仮に国が同じであれば階級の高い方が指揮すればいいが、指揮官の国が違うためそうもいかずこれまで共闘というものがされることがなかった。しかしここに統合戦闘航空団が統合され統合戦闘飛行師団ができた事で、事態は一変する。最強の矛であり盾であった統合戦闘航空団が、真の意味で統合運用されさらに強力な破壊力を持って対ネウロイ戦線を押し返していく、はずだった。
「ウィッチ隊総司令官なんていう明らかにデスクワーク中心な役職についてるのにどうしてわたしは今空を飛んでるんだろうな」
その地位について今日で1ヶ月。最初の1週間を除いてエイラは毎日のように出撃していた。
「ネウロイが来てるからよ」
ため息混じりにエイラが放った言葉をサーニャが嗜めるようにそう言った。
「それはそうなんだけどさぁ」
ベルリンを奪還後、第501はポズナニア、506はドレスデンへと派遣された他、502はそのままリバウ、504もまたヴェネツィアでそれぞれオラーシャ、オストマルクのネウロイと戦いを繰り広げていた。その彼女達の戦闘の間隙を縫ってネウロイはベルリンへとやってきた。
本来であれば1ヶ月もあればある程度の哨戒網を築くことができるはずだったがレーダーサイトが次々に破壊された事でそれは阻まれた。穴だらけの哨戒網を突破した小型ネウロイや中型ネウロイがベルリン近郊にまで現れるようになりエイラはその対応のためサーニャを呼び戻す事になった。
本来であればベルリンはカールスラントのウィッチにより防衛されるはずだったが最初の一週間で指揮官クラスのウィッチが悉くヴァルハラと病院のベッドで休む事になりカールスラントの守りはエイラとサーニャの2人が一手に担う事になった。
何もカールスラントのウィッチ隊の指揮官が無能だったわけではない。むしろ有能だった。しかし部下は戦闘経験のない新米ばかりでありそれらのミスや無謀な突撃を庇った結果、有能な戦闘指揮官は悉くいなくなり残っているのは新米と上がりを迎えたオールドウィッチのみとなっていた。
「ベルギガからベルリンへの補給路の防衛に回しているウィッチを使えれば……」
「あれは連合軍じゃなくてカールスラント軍指揮下の部隊だからなぁ」
実のところエイラが指揮できるウィッチ隊の数は国ごとに大きく異なりその中でもカールスラント所属のウィッチ隊はそう多くない。カールスラントは保有するウィッチの殆どを自軍の指揮下に置いていてエイラが指揮できるのは北方と東方、それと各統合戦闘航空団所属のカールスラントウィッチのみ。逆にガリア、ブリタニアは保有するウィッチの殆ど全ての指揮権を連合軍に渡していたが両国共に和弘はそう多くはない。もっとも、ガリアについては半ば脅しによって、ブリタニアはリベリオンからの信頼を取り戻すために頭を下げた結果というなんとも情けない理由からではあったが。
「ガリア空軍のウィッチを使いたいところだけど下手すりゃカールスラントの新人よりも低い練度だからむざむざ死なせる事になりかねないから使えない」
「ブリタニアは海上航路の防衛のために使っているからベルリンの防衛にまで回す余裕がないのよね?」
「そうだな。結論から言えばわたし達が戦うのがベストって事になるけど
……」
この約1ヶ月の間でエイラは34、サーニャは13、スコアを伸ばしていた。エイラに至ってはこれにより501がサン・トロン基地にいた時に得たスコアと合して250機に到達し第503統合戦闘航空団の戦闘隊長ヴァルトラウト・ノヴォトニー大尉に続く人類第6位のスコアになっている。
がしかしエイラはそれが全く嬉しくなかった。
「無駄にスコアを伸ばす事になったけどその分を新人達に回して少しでも戦闘経験を積ました方が絶対いいと思うんだよな。わたしが指揮すれば未来予知もあるから簡単にスコアを伸ばされるのに……」
「それでもしエイラが撃墜されたりしたら大問題よ」
「そんな事あり得ないけどな」
当人からすればそうでも共に飛ぶ側はそうではない。もし仮にスオムスの、連合軍の重鎮を自分のせいで死なせるような事があってはカールスラントが世界中からその責任を追及される事になる。好んでそんなリスクを背負おうとする酔狂な国はそういないだろ。なによりベルリンにはまだ復興のための人員とその家族くらいしか戻っていないのだから最悪ベルリンを放棄してよカールスラント臣民の心情と政治的な影響はともかく軍事的にはそう大きな影響はないのだから
「それも明日到着予定のガランド中将の直属部隊が来ればこんな悩みともお別れだけどな」
「世界初のジェットストライカー部隊……。大丈夫なのかしら」
「ノイエカールスラントでの試運転の結果は良かったらしいぞ。なんでも高速を発揮できるから少し訓練しただけでレシプロユニットを使ったベテランウィッチが太刀打ちできなかなったらしい。
おまけに魔法力の伝導効率がいいから少ない魔法力で強力なシールドを張れるから生存率も高いって話だ
バルクホルンが使用して酷い目にあったストライカーユニットとは違い無駄に魔法力を消費することもなく安全性はレシプロストライカーユニットとそう変わらないと言う話ではあるがバルクホルンの惨状を目にした者からすれば簡単に信じられないのも無理はなかった。
「エイラは履きたいと思う?」
「絶対に嫌」
「散々褒めてたのに自分が履くのは嫌なの?」
「それもあくまでも噂だしな、好んで履こうとは思わないよ。何よりわたしの戦い方からして特別速度が必要なわけじゃないからな」
エイラの戦い方は未来予知による先読みによる回避と先読みを利用した高い精度で行える見込み射撃だ。いくらストライカーユニットの速度が早くとも弾速は変わらない。余程接近するか近距離武器を用いた戦闘をされない限りは攻撃は当たらない。射撃に関しては多少命中精度が落ちるだろうが結局のところ相手の攻撃が当たらない以上、試行回数を稼げればエイラの腕ならいずれ当たることができる。故にエイラはストライカー・ユニットの性能にはあまり拘らない。
「そんなウィッチエイラくらいよ。殆どのウィッチは性能がいいストライカーユニットの方がいいに決まってるわ」
「サーニャはジェットを履きたいのか?それなら頑張って手配するけど」
今はカールスラントしか実用化していないから入手先は当然カールスラントからになる。最新技術を詰め込んだ軍事機密の塊のようなユニットをそう簡単に他国のウィッチに使わせるとは思えないがエイラの立場上要請すれば一機くらいなら入手可能だった。
「今はいらないわ。怖いもの」
「今はって事は将来的に履きたいのか?」
「それが命令なら仕方ないとは思うけど……」
「まぁそうだよな。いずれレシプロストライカーからジェットストライカーに変わるとしてもその命令があるまでは自分から履こうとは思わないよな」
いずれジェットストライカーがストライカーユニットの主流になるとしてもそれは今ではない。その時が来るまで履かずに入れるのならそれがいいとエイラも思っていた。
「エイラ、10時の方向にネウロイを探知したわ」
「話しすぎたな。もうそんな近くまで来てたのか」
この日の出撃でエイラの撃墜スコアは252となったが翌日より赴任したガランド中将の部隊がベルリンの防衛にあたったため、それから暫くの間エイラがストライカーユニットを履いて出撃する機会はなくなることとなった。
サウスウィンドで奪還したカールスラント了解ってどれくらいだったんでしょうね。個人的にはほぼ全土だと思っているんですが……