「うー緊張する〜」
ベルリンに設置された連合軍の仮設司令部の廊下をサーニャに先導され歩く3人の女性、そのうちの1人のリベリオン陸軍の制服を着た連盟空軍航空魔法音楽隊ルミナスウィッチーズの隊長グレイス・メイトランド・スチュワード中佐言った。
「緊張するなとは言わないがもう少しリラックスしたらどうだ」
緊張を口にした彼女を宥めたのは同じくルミナス・ウィッチーズに所属しリーダーを務めるスオムス空軍のアイラ・ペイヴィッキ・リンナマー少尉だ。
「だってあのユーティライネン少将よ。貴女と違って同郷ってわけでもないし緊張するなって言う方が無理よ」
今日は自分たちの直属の上司となったエイラに挨拶とベルリンでの公演をさせてもらえるよう頼みに来ていた。
「同郷と言うが私も接点なんてないぞ。私が配属されたのは飛行第28戦隊、ユーティライネン少将がいたのは飛行第24戦隊。会う事はもちろん見る機会さえなかった」
「けどそのユーティライネン少将が今は私達のトップなんだしこれからはいくらでも会う機会があるんじゃない?」
紙袋いっぱいに入ったレープクーヘンを抱えた同じくルミナス・ウィッチーズでサブリーダーを務めるガリア空軍のエレオノール・ジョヴァンナ・ガション軍曹がレープクーヘンを口に放り込みながらそう言った。
「エリー、相手はウィッチ隊の総指揮官だ。そんな頻繁に会えるほど暇ではないだろう」
「そうかなぁ。私達は連合軍ウィッチ隊唯一の音楽隊だし意外と会う機会は多いんじゃないかな」
連盟空軍航空魔法音楽隊ルミナスウィッチーズが結成されて以降その後に続く部隊は作られなかった。理由はいくつかあるがその理由はやはりウィッチを遊ばせる余裕はないと言う事に帰結する。しかし魔法音楽隊が必要とされ事は思いの外多く、各地に引っ張りだこのルミナス・ウィッチーズが軍や政府のお偉方と会う機会は多かった。
「そんな事よりエリー、いい加減食べるのをやめないか」
「少将と会うまでに食べ切るから」
「そう言う問題ではない!」
的外れな返答にアイラが声を荒げた。
「と言うかどうしてここにレープクーヘンを持ち込んでるんだ!!!」
「え、だってそこで売ってたから」
「だからってなんで今買うんだ!」
3人のやり取りを見ていたサーニャがクスクスと笑い声を上げた。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。1週間前にガランド中将の部隊が到着したおかげで連日の出撃も無くなって話し相手を欲しがってましたから堅苦しくすると逆に嫌がると思います」
「いくら出撃が無くなってもそんな気軽には……第一他にも仕事があるんじゃないですか?」
「今は各国から優秀な参謀を派遣してもらってますからエイラの仕事はほとんどありません」
リベリオン、扶桑、ブリタニア、カールスラント、オラーシャと言った主要な国々がパリに司令部を置いていた時と違いエイラの元に参謀将校を送り込んだ事には理由があった。
今のエイラは世界でもっともウィッチの運用に習熟した軍人だ。ベルリン奪還前においてもそうではあったがベルリンの奪還、その方法がウィッチの力によるところが大きかった事が各国のに行動を起こさせた。これが当初の予定通りラーテ、及び対ネウロイ用気化爆弾を主力としそれによりさを撃破できていれば話は違った。エイラは勿論のことながらウィッチ自体の評価もまた下がっていただろう。しかしベルリン奪還においてストライク・ウィッチーズが果たした役割は大きく各国は科学の力だけでは今後の戦争において遅れをとると考えそれが今回の参謀派遣につながっていた。
「着きました。ここがエイラの執務室です」
勝手知ったる部屋とばかりにサーニャはノックもなしに扉を開け放った。
「エイラ、お客さんを連れてきたわ」
心の準備をする間もなく扉が開け放たれたことで慌てる3人をよそにサーニャは部屋の中へと入った。
「ごめん今ちょっと手が離せないからコーヒーとお菓子を用意してくれないか」
忙しそうに書類に何か書き込んでいるエイラにサーニャは疑わしげな視線を向けた。
「エイラ、見栄を張って仕事してるふりしても意味ないわよ」
ついさっき、サーニャがルミナス・ウィッチーズの3人を迎えに行くまでエイラはソファーで寝転んでサルミアッキを食べていたのを知っている。ほんの少し前では考えられなかった堕落ぶりだ。エイラ自身は仕事のない事に不満はないがサーニャは違った。
サーニャと一緒活動するようになってから、エイラは比較的真面目に行動していたが元来エイラはそれほど真面目な性格ではない。仕事がないのならそれに越した事はないとばかりに最近のエイラはだらけ切っていた。
「さっき参謀連中が持ってきたんだ。カールスラントの防衛体制、ウィッチ隊の配置について見直したからそれを見てほしいんだってさ」
「お忙しいようでしたら出直した方がいいでしょうか?」
「いや、大丈夫だ。中佐達が来るまでの間少し目を通そうと思ってただけだから」
参謀達が提出した防衛計画はエイラからすればあまりにもウィッチに頼りすぎていた。ウィッチは万能だが数が少ない。その少ないウィッチ参謀達は哨戒にまで組み込みネウロイがベルリンまで迫る事を哨戒段階でウィッチが戦闘し遅滞、ないしはその場で撃破する事を計画していた。しかしそれはあまりにもオーバーワークがすぎる。全部読むまでもなくエイラは差し戻しを心に決めた。
「さて、連盟空軍航空魔法音楽隊ルミナスウィッチーズ。噂は聞いているけど噂程度のものでわたしはその活躍について詳しくない。だからまずは中佐達が一体何を目的として、何をするのか、それを具体的に教えてほしいんだ」
挨拶もそこそこに、スチュワード中佐によるルミナス・ウィッチーズのプレゼンテーションはが行われそれは1時間近くにも及んだ。これまでのルミナス・ウィッチーズの経歴からそのファンの多さ等事細かに話され途中エイラが質問を挟むこともあった。
「ガリア解放後のように我々ルミナス・ウィッチーズの歌が、ベルリンの人々に力を与える事ができるはずです」
予想外の長さに半ば辟易としながらもエイラは口を開いた。
「つまり今の話をまとめるとベルリンでもルミナス・ウィッチーズに解放記念式典で歌を歌わせてくれ、そう言う事だな」
「……ええ、そうです」
あまりにも簡潔にまとめられたエイラの言葉にキツネに摘まれたような表情でスチュワードは答えた。
返事を聞いたエイラは少し考えるようなそぶりを見せた後口を開いた。
「ベルリンの空を飛び、歌を歌うのは構わない。けど時期はこちらで指定させてもらう」
「当然です。しかし私達にも準備があります。どの程度先になるのかその目処をつけていただけるとありがたいのですが……」
「目処か……。難しいな」
「ベルリンが解放されてもう1ヶ月も経ちますよね。それなのにどうして式典の予定が立てられないんですか?」
「エリー、よさないか!」
ただのウィッチが聞くには混み合った事情があるであろう事が予想できるだけにアイラはエリーを咎めた。
「そう気を使う必要はないぞ。理由は前線が安定してないからだな」
「前線の安定と式典が関係あるんですか?」
「式典に関して連合軍司令部には大きく分けて二つの考えがある。一つが式典を早く開くべきと言う考え、もう一つがいくつかの条件が整ってから開くという考え」
前者は主にカールスラントとリベリオンの一部将校。後者は残りのリベリオンの将校とエイラ達他国の将校が属する。なお、アイゼンハワー元帥はこれに関しては立場を明確なものとせず静観の構えを見せているが未だな式典が開かれる様子がないあたりその心中は察して余りある。
「わたしは前線の安定とカールスラント皇帝の帰還。この二つが果たされた時に式典は開かれるべきだと考えているんだ。特に前線の安定は重要だ。ガリアの時と違って平地が多くてネウロイの障害物となるものが少ないから塹壕を掘ったりウィッチ隊を高密度に配置したりして対応しないといけない。時間を要する事は確実だな」
「前線の安定には具体的にどれくらいの時間がかかるとお考えですか?」
「どんなに早くても半年はかかるな」
それさえもかなり甘く見積もったものでエイラは一年程かかるのではないかと考えていた。ただそれは前線が安定したと言うよりは次の作戦で前線が大幅前進した結果、ベルリンが安全になっただけだろうとも思っていた。
「それ以上はどうにもなりませんか?」
早くて半年という事は準備等を含めると下手をすれは式典は一年後になるのではないか、という考えに思い至ったスチュワード中佐は尋ねた。
「式典の前倒しは無理でもルミナス・ウィッチーズが歌うだけならなんとかなる。ただそれは一つ、条件を飲んだ上になるぞ」
「教えていただけますか?」
「もしベルリンにネウロイが現れた際はその場にて踏みとどまり観客及びその他一般人の避難の援護を行う事。これだけだ」
「お言葉ですが少将、彼女達は音楽隊のウィッチです。それでは死ににいかせるようなものです」
予想外の条件にスチュワード中佐は語気を強めて反論した。
「だからもし実行するのであれば武器を携帯してもらう事になる」
「そういう問題ではありません!!」
「いいや、そういう問題だ。世間のウィッチに対する考えは自分たちを守ってくれる、あるいは守るために戦ってくれる人だ。そしてそれは今まで戦ってきたウィッチ達が作り上げてきたものでもある。不本意な事だけどな」
「それが一体彼女達が戦う事とどう関係があるんですか?」
「わからないか?この世の殆どの人間にとってウィッチがストライカーユニットを履いて空を飛んでる時点で戦える戦えないは関係ないんだよ。
自分たちを守ってくれるウィッチ、それが戦いもせずに尻尾を巻いて逃げていったらどう思う。これまで築き上げてきたウィッチの信頼はどうなる。死んでいった奴ら、負傷して今まで通りの生活を送れず苦しんでいる奴らの思いはどうなる。
わたしはそいつらの思いを踏み躙るような事は絶対に許さない」
エイラの言葉にスチュワード中佐は思わず身をすくめた。それ程までの威圧感がエイラからは発せられていたからだ。
「ベルリンで歌うのは構わない。けどそこにネウロイが現れた時、そこにウィッチがいるのであればわたしはそれを戦力とみなす。
戦えなくてもシールドくらいは張れるみたいだしな」
もしこれがシールドを張れないようなウィッチであればエイラはこんな条件を出すまでもなく断っていた。しかし彼女達の戦えない理由が本人の気質や実力的なものによるものである以上は条件を提示した上でその選択を彼女達の手に委ねなければ公平性に欠けると考えこの条件を提示していた。
「……持ち帰ってみんなで相談してから決めてもいいでしょうか?」
「勿論だ。ただ、わたし個人としては大人しく前線の安定を待つ事をオススメするよ」
ふと思ったんですけどアイラの戦えない理由ってなんでしょうか?普通に歩いて飛んでるように見えるので精神的なものとかですかね?