ルミナス・ウィッチーズとエイラが再び会う機会が訪れたのは初めて会った日から1ヶ月半が経過した頃だった。
この頃になると式典へのルミナス・ウィッチーズの参加を決定できるギリギリの時期になっていた。
「結局まとまらなかったわね」
エイラの元に向かうために車を運転しながらでため息混じりスチュワード中佐は言った。
「まとまらないと言うのは語弊があるだろう。最後はみんな納得して隊長の決断を尊重しいていたじゃないか」
アイラの言葉にスチュワード中佐は首を横に振った。
「私達ルミナス・ウィッチーズの立場ではこの選択が正しいと思っているわ。けど将軍からすればこれは明確な敵対行為よ」
世間からのエイラの評価は大きく二つに分かれる。
一つはウィッチらしからぬ冷静な参謀将校、もう一つは参謀将校らしからぬ指揮官先頭の精神を持つ武闘派将校。
「彼女程理性的でそれでいて動きの読めない人物を私は知らないわ」
彼女のいるところには必ず戦いがある。そしてその場での彼女の動きは外部の人間からすれば不可解極まる。
後方で作戦を立てていたかと思えば最前線に出てネウロイと戦っていたと思えば、作戦とは全く関係のない地で羽を伸ばす。
「彼女にとって不都合な解答をした時、どういう行動に出るのか全く想像がつかないわ」
「私達の意見を尊重してくれるのか、それとも自らの意見を押し通して公演を中止するのかという事か?」
「それならまだ良い方でしょうね。こんな噂を知ってる?
かつて501の上官だったマロニー大将が暗殺されたという話」
「あれは不幸な事故だろう。第一どうしてスオムスのウィッチがブリタニアの将軍を殺す必要がある」
「知らないわ。けど戦略情報局筋からの噂よ、確度は高いと思うわ」
厳密には元戦略情報局所属の軍人からの噂だが真実はどうであれこのような噂が聞こえてくる以上エイラに対しては隙を見せるべきではないとスチュワード中佐は考えていた。
「隊長、将軍は我がスオムス英雄です。噂話で殺人犯に仕立て上げるのはやめてください」
いたになく強い口調のアイラにスチュワード中佐はハッと顔を上げるとすぐに謝罪の言葉を口にした。
「ごめんなさい、軽率だったわ」
自国の英雄を批判されれば誰だっていい気分はしない。長い付き合いで仲間意識が強かったが彼女達は別々の国の人間だ。軽々しく他国の、それも相手の同郷の人間の批判などするべきではなかった。
「わかってくだされば良いです」
それから目的地に到着するまで無言の時間続いた。
「本当に今回はついていかなくていいんだな?」
「2回目だもの。緊張感も消えたわよ」
心配そうに問いかけるアイラに笑って答えるとウィッチ隊総司令部のある建物へと足を踏み入れた。
中に入るとすぐに案内役のリベリオン陸軍の兵士が駆けつけ控室へ案内された。
それから数分後、先程とは違う参謀モールを付けたカールスラント陸軍の将校が現れスチュワード中佐を案内した。
参謀将校の案内のもとエイラの執務室に入ると前回同様、いや前回以上に忙しいそうなエイラの姿があった。
「来たか……」
前回と違いどこか覇気のない様子のエイラに内心拍子抜けしながらスチュワード中佐は敬礼した。
「一応聞いておくけどどういう結論になったんだ」
「我々ルミナス・ウィッチーズはこのベルリンでの公演を行うという結論に達しました」
そう言うとスチュワード中佐はエイラの様子を伺うと言葉を続けた。
「理由としましてはこのベルリンに人が戻り始めている事にあります。
我々ルミナス・ウィッチーズは歌で人々を元気付ける事を目標としてこれまで活動してきました。
今この復興しているベルリンで歌を提供する事以上に我々ルミナス・ウィッチーズにやらなければならない事はありません。
そしてルミナス・ウィッチーズは歌を提供するにあたり武器を持つ事はよしとしません。閣下の提案は断らせてもらいたく思います」
ルミナス・ウィッチーズのベルリン公演に一貫して反対の立場のエイラがこの答えにどう反応するのかドキドキしながら待っているとエイラは視線を下に向けた。
「好きにしろ。今のわたしにそれを止めるだけの力はない」
予想外の答えに拍子抜けしているとそれを察したエイラが言った。
「まだ公表されてないけど昨日、ベルリン防衛隊の司令官パットン将軍が事故にあい重症を負った」
「パットン将軍が!?無事なんですか!?!?」
パットン将軍は問題行動も多いがその実力は本物であり部下への対応もそれほど悪いわけではなくどちらかと言えば慕われる指揮官だ。
スチュワード中佐は部下として戦った事はないがルミナス・ウィッチーズの活動で出会う機会もあり知らぬ中ではなかった。
「首から下が麻痺してる」
「回復の見込みは……」
「詳しい事は聞けてないけど多分ないんじゃないかな」
パットン将軍不在の間、参謀長のゲイ将軍がベルリン防衛隊を纏めているが突然の出来事なだけにエイラにはパットン将軍の詳しい容態は伝えられていなかった。
「ルミナス・ウィッチーズのベルリン公演に反対する筆頭がパットン将軍とわたしだった。
パットン将軍の尽力でリベリオンの協力を引き出せたけど将軍がこんな状態になったことでリベリオンは掌を返した」
リベリオン政府の協力はパットン将軍ありきのものであり、いかにエイラが優秀であろうとパットン将軍がいないのであればリベリオン政府に協力する理由はほとんどない。
ブリタニア政府の鼻を明かしたいという思いが潰えたわけではないがエイラを旗印とするには不安要素が大きすぎた。スオムスがブリタニアと蜜月の関係にあった事もそれにエイラが関わっていた事も当然リベリオン政府は掴んでいたからだ。
「リベリオン政府が……」
まさか自分の国がルミナス・ウィッチーズのベルリン公演に反対の立場に立っていたとは思わずスチュワード中佐は目を見開いた。
「パットン将軍にベルリン公演の件を任せっきりにしていたせいで、わたしの方でできた根回しは少ないんだ」
その根回しでさえリベリオンありきのものであり、エイラが音頭をとってどれだけの人物が賛同してくれるか未知数であった。その状態でベルリン公演に反対するのは心許なかった。
「お前たちがベルリンで歌を歌う事にわたしは反対しないし条件もつけない。好きにすれば良い」
憔悴した様子を見せるエイラにスチュワード中佐は尋ねた。
「本当にいいんですか?
将軍のおっしゃっていたウィッチへの信頼を損なうことになるかもしれません」
「構わない。式典が行われるまでに万全の体制を整えればいいだけの話だしなによりパットン将軍の一件で式典そのものが延期される可能性もある。そうなればネウロイの脅威は更に減るからわたしの懸念点は消える」
「ありがとうございます」
スチュワード中佐はそう言って頭を下げた。
「別に中佐が例を言うようなことでもない。ウィッチの敵を排除するのがわたしの仕事だ」
先程とは打って変わって確固たる決意を持った様子でエイラは言った。
「だから中佐達は好きに動け。敵はわたしが責任を持って排除する」
エイラの言葉にスチュワード中佐は再びありがとうございますと頭を下げた。
「悪いけど予定が詰まってるんだ。今日はもうこれくらいでもいいか?」
チラリとエイラが時計に視線を向けるとそう言った。
「あ、はい。本当にありがとうございます!」
スチュワード中佐は理解していなかった。
エイラの言うウィッチの敵が何を指し示すのか、エイラが無条件にルミナス・ウィッチーズのベルリン公演中止を諦めるほど諦めが良くないと言う事を。
という事でパットン将軍は史実通り事故に遭いました。