ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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夜勤

「じゃあサーシャ、私がいない間502の事は頼んだぞ」

 

そう言ってラルが次の作戦の打ち合わせのためにベルリンに出発したのはつい先日のことだった。

上官が基地からいなくなれば残された部下としては馬鹿騒ぎして然るべきだがこの502は寧ろ厳粛さを増していた。

 

「ニパさん!またユニットを壊したんですか!?」

 

そんなラルのいない基地に怒鳴り声が響いた。

 

「昨日に続いて2回目ですよ!隊長がいないからって気が抜けているんじゃないですか!?」

 

「昨日はバードストライクだし今日のは洗濯物が飛んできたせいで前が見えなくなったからだし不可抗力だよ!」

 

「言い訳しない!」

 

ラルがいない事でこの502部隊における指揮と責任を一身に背負うことになったサーシャはいつも以上に厳しくニパを責めた。

今回、ラルはいつもと違い1週間という長期にわたってこの基地を留守にする。それがサーシャにプレッシャーとしてのしかかりこの対応となっていた。

 

「サーシャさん、すごいピリピリしてますね」

 

ハンガーの隅でその様子を見ていたひかりが言った。

 

「そりゃお前、ニパみたいな問題児を1週間も面倒見るんだぜ、発狂しないだけまだマシだろ」

 

「菅野さん、階級で言えば貴女も私の次に高いんですからもう少し部隊の運営に関わってくれてもいいんですよ?」

 

ひかりの言葉に菅野が冗談混じりに返すとサーシャが鋭い視線を向けた。

 

「中尉とか俺よりも軍歴が長くて適任だろ」

 

しまったと思いながらも菅野は必死で言い訳を捻り出した。

 

「それ本気で言ってますか?」

 

もちろん菅野自身クルピンスキーが指揮官に向いているかと言われれば疑問符を浮かべざるを得ない。

やる時はやる人間ではあるがやらない時の方が多くとてもではないが向いているとは思えない。

 

「ひかりさんはどう思いますか?」

 

「菅野さんがサーシャさんみたいな事するんですよね?全然想像できないですよ」

 

ひかりの言葉に菅野はムッとした様な表情を浮かべたが反論する前にサーシャが口を開いた。

 

「やっぱりそうですよね」

 

「お前が言い始めた事だろ!」

 

「下原さんは毎日食事の用意をしてくれているからこれ以上負担をかけるわけにはいかないし……」

 

「おい!」

 

菅野の言葉を無視して独り言を呟くサーシャに怒りの籠った声をあげたが聞こえていないかの様に呟く。

 

「ロスマンさんは階級的に触れない書類とかも多いしジョゼさんはこういうのはあまり得意ではないし……」

 

完全に1人の世界に入ってサーシャに菅野は溜息を吐いた。

 

「こりゃダメだ」

 

「サーシャちゃん、随分とピリピリしてるね〜」

 

どこからともなく現れたクルピンスキーが苦笑いを浮かべながら言った。

 

「そう思うなら少しくらい手伝ってやれよ。そうすりゃこの悪い空気も多少は良くなるだろ」

 

「僕が手伝ってサーシャちゃんが喜ぶと本当に思ってる?」

 

「そうですよ菅野さん、クルピンスキーさんが手伝ったらサーシャさんの機嫌が悪くなっちゃいますよ」

 

「ひかりちゃんちょっとくらい擁護してくれてもいいんじゃないかな〜?」

 

笑顔を引き攣らせながらクルピンスキーが苦言を呈するがひかりには効果がなかった。

 

「けど隊長が帰ってくるまでこうもピリピリしてたんじゃ気が休まらねえよ」

 

どうにかサーシャを落ち着かせる方法はないかと考えていると突然サーシャが大きな声を上げた。

 

「そうよ、あの人からの贈り物を使えばいいんだわ!」

 

「サーシャさん、できれば私がいつまで正座してればいいか時間の指定だけしてくれるとありがたいんだけど……」

 

サーシャがハンガーからでていくそぶりを見せた事でニパが遠慮がちに言った。

 

「え?あぁ、じゃあ夕飯までそうしていてください」

 

そう言い残すとサーシャはその場を後にした。

ひかりと菅野サーシャがどこに向かうつもりなのか気になりコソコソと後をつけた。たどり着いたのはこの部隊唯一のナイト・ウィッチ、サーニャの部屋だった。

 

「サーニャさん、起きていますか?」

 

ドアを叩き返事が返ってくると入室したサーシャの様子を探るために2人は扉に耳を当てた。

 

「おはようございますサーニャさん、今日も夜間哨戒お願いしますね」

 

妙にテンションの高い声音に菅野とひかりは無言で目を合わせた。

 

「はい」

 

しばらく部屋に無言の時間が流れ菅野とひかりが訝しげな表情をした頃、やっとサーニャが口を開いた。

 

「あの、それだけですか?」

 

「いいえ。ところでサーニャさん、貴女は事務仕事はできますか?」

 

「事務仕事ですか?エイラのとこにいた時はやってましたけど……」

 

「それはよかった!隊長がいなくて人手が足りていなかったんです!!」

 

「……どういう事ですか?」

 

「サーニャさんが手伝ってくれるなら安心です」

 

サーニャの疑問を無視してサーシャはさらに言葉を続けた。

 

「あぁ、夜間哨戒の事は心配しなくてもいいですよ!隊長が帰ってくるまではレーダー主体でもしネウロイが来れば菅野さん達に出撃してもらいますから」

 

その言葉に菅野とひかりは顔を見合わせノックもせずに部屋に押し入った。

 

「ちょっと待て、なんでわざわざそいつを夜間哨戒から外すんだよ!

ナイト・ウィッチは変えが効かねぇんだぞ!」

 

「菅野さんひかりさん、立ち聞きはマナーが悪いですよ」

 

「んなことはどうでといいんだよ!さっき下原の奴は料理当番だから外したくせによりによってなんでサーニャは候補から外さねぇんだよ!!」

 

サーシャの注意もなんのその、菅野は詰め寄った。

 

「確かにナイト・ウィッチは変えが効きませんけど夜間哨戒をナイト・ウィッチに頼らずレーダーによる警戒を主体としている部隊もあります。隊長が帰ってくるまでの間、私達がそうしたとしても特に問題はありません」

 

「餅は餅屋っていうだろ。専門家に任せられる部分は任せるべきだ」

 

「なら菅野さんが書類仕事を手伝ってくれますか?」

 

「それとこれとは話が別だろ」

 

デスクワークよりも前線で戦う事が好き、というよりデスクワーク自体したことがない菅野は何がなんでも書類仕事を断りたかった。

 

「菅野さんの言う通りですよ。サーニャさんを夜間哨戒きら外したら大変なことになります」

 

「大丈夫ですよ。何も夜誰もいないわけじゃないんですから」

 

そう言ってサーシャは菅野に視線を向けた。

 

「菅野さんだけで大丈夫ですか?」

 

「ひかりさんはつい最近夜間飛行訓練を受けましたよね?」

 

「受けましたけど……それがどうしたんですか?」

 

「なら大丈夫です。ひかりさんも菅野さんと一緒に夜勤です」

 

「菅野さんだけじゃないんですか!?」

 

まさか自分が巻き込まれるとは思っていなかったひかりは驚いた。

 

「当たり前じゃないですか。なんならニパさんをつけてもいいですよ」

 

「ひかりはともかくニパまで夜勤に回したら昼間の戦力が少なくなんだろ」

 

呆れた様な口調で菅野が言った。

 

「大丈夫ですよ。代わりにサーニャさんが日勤に回りますしなんとかなりますよ」

 

「そんなわけあるか、夜勤はどんなに多くても2人だろ。ニパとひかりはともかくせめて俺は日勤に戻せ」

 

「ちょっと菅野さん自分だけずるいですよ!」

 

さらりと自分を夜勤から外そうとする菅野にひかりが抗議した。

 

「菅野さんが夜勤から離れる事はあり得ませんよ」

 

「はぁ!?なんでだよ!」

 

「菅野さんがいなくなったら指揮する人間がいなくなるじゃないですか」

 

階級的にはニパがひかりを指揮下に入れて戦う事は可能だが夜勤は何も戦うことだけだ仕事ではない。夜の間異常が起きれば対応しなければならないしウィッチ以外に対しても影響力を行使するために相応の階級が求められた。またそれらの出来事を報告書という形で書類に起こさねばならない上に夜間に使われた物資等の状況も書類に起こす必要がある。

つまるところ菅野が夜勤になった時点で少なからず書類仕事もついてくるわけだが菅野はそれに気がついていなかった。

 

「けど菅野さんが言うことも一理あります。ニパさんは昼に戻してひかりさんと一緒に夜勤を頑張ってくださいね」

 

これはニパの不運による余計な仕事を増やさない様にと言うサーシャの心配りだったが当然それに菅野が気がつくはずもなく悪態をつくのだった。




オラーシャ方面のネウロイの巣ってどうなっているんですかね?
あの辺ってあまり描写がないからいまいちよくわからないんですよね……
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