サーニャがエイラの下に帰還して約1ヶ月。とうとうオラーシャ西部の奪還に向けて作戦が始動した。
ワルシャワにあるネウロイの巣とカールスラント国境付近にあるネウロイの巣との連携を断つために空挺降下したウィッチ隊は早速危機に直面していた。
『ユーティライネン、リトヴャクを戻してくれ。いくらなんでも夜間哨戒が手薄すぎる』
『戻すならウチに戻してちょうだい。グンドュラのとこには夜間視持ちがいるでしょう』
「統合戦闘航空団はエースの集まりだ。ナイト・ウィッチがいなくても夜間哨戒くらいなんとかなるだろ」
呆れたようにため息を吐くとエイラは言った。
『バカを言うな。いくらなんでも下原だけではいずれ限界が訪れる』
『こっちもそうよ。今は夜間哨戒の経験があるトゥルーデとエーリカに頑張ってもらってるけど長くは持たないわ』
「長くは持たない、それは裏を返せば短期間であればどうにかなるって事だろ?
幸いな事に元々攻勢部隊の上空を警戒する予定だった504部隊もこっちに投入できてるから昼間の戦力に不安はない。現有戦力でも作戦の間はなんとかなるだろ」
並のウィッチなら夜間哨戒と言うなれない仕事を普段とは違うネウロイの勢力圏ど真ん中でやらされる事になれば失敗することは想像に難くない。しかしここにいるのは並のウィッチではない。短い期間であれば完璧にやり遂げられるとエイラは確信していた。
「そもそもヴィトゲンシュタインとサーニャの内片方は私の手元に残すからどのみちそっちには援軍を送れないぞ」
エイラの言葉に通信機からは舌打ちをする音が聞こえた。
「それで、本題はなんなんだ。まさかわかりきってたナイト・ウィッチの事が本題な訳ないよな?」
ナイト・ウィッチの不足は作戦当初から分かりきっていた事でそれは各部隊のエース達を持って対応する事で話がついていた。今更言われたところでどうしようもない。
『リトヴャク辺りを送ってくれれば儲け物だと思っていたが……やはりそう上手くはいかないか』
ラルが残念そうに呟いた。
『私達が知りたいのは本隊がどうなっているかよ。当初の予定では1週間ほどで国境近辺の小規模なネウロイの巣を破壊すると言う話だったけどそれが現時点で達成可能なのかどうかを知りたいのよ』
「ナイト・ウィッチなしで1週間を超えるようじゃ厳しいか?」
『ウチは下原がいるからそこから2、3日延びる分には問題ないがそれ以上は難しいな』
『こっちは1週間でさえ限界ギリギリね。トゥルーデとエーリカのどちらかしか昼に使えないのが響いてきそうね』
「となると504はもっとヤバそうだな。竹井にもこの通信に加わってもらうか」
この空挺作戦に投入された四つの統合戦闘航空団の内唯一この通信に参加していない504部隊の戦闘隊長竹井を呼び出した。
『ウチの部隊はベテランもヒスパニア戦役時代からの古参も在籍していますから一応なんとかなっていますけど正直1週間待たずに崩れる可能性すらあります』
「正直なところ私は504が一番脆いと思ってる。2人には悪いけどウチから夜間哨戒に関してはある程度経験のあるブランクを援軍に出そうと思う」
504部隊は初期に設立された501、502ほどのエースウィッチはいない。それは506にも言える事だったが今回はエイラとサーニャが行動を共にしている。故にこの四つの部隊の中で弱点と言えるのは504部隊だった。
『まぁ、ネウロイに部隊が突破されては元も子もないからな』
『もう少し戦力に余裕があればねぇ』
『すみません。私の力不足で……』
「いいや、戦力不足は把握していたのに対策できなかったのならわたしが悪い」
『そうよ竹井さん。一番悪いのは理解しながらなんの手も打たなかったエイラさんよ』
『手持ちの戦力を把握できていなかったのならそれは指揮する上官が悪い。だからそこ多少無理矢理でも戦力は補充しなければならない』
ここぞとばかりに口撃を仕掛けてくるミーナ大佐とラルに思わず拳を握りしめたがそれを振り下ろすべき2人はこの場にはいない。
『グンドュラは補充しなければならないからじゃなくて自慢したいからでしょう』
『それもある。だが部下に無理を強いないためにやっているのも事実だ』
「どうだか。お前は基本自分のことしか考えてないだろ」
『そうねぇ。グンドュラだもの、部下のことを考えるなんてありえないわ』
あまりにも白々しい言動にエイラが噛み付きミーナ大佐が同意した。
『2人ともかれこれ5年以上の付き合いになると言うのに随分と酷い誤解を受けているようだ。そうは思わないから竹井少佐』
かけらもそう思っていなさそうな様子でラルは竹井に援護を求めた。
『私はお二人ほど中佐の事を知らないのでコメントは控えさせていただきます。
しかし敢えて言わせていただくなら一度ご自分の胸に手を当ててこれまでの行動を振り返った方がよろしいかと』
『……ユーティライネン、本題に戻ろう』
分が悪い事を察したラルはため息をついて話を逸らした。
「そうだな。時間は有限、こんなくだらない話をしてる場合じゃないな」
いつもの会議室のじゃれ合いをできるほど今のエイラ達に余裕はない。ネウロイの勢力圏ど真ん中に居座ると言うのはいくら統合戦闘航空団が歴戦のエースウィッチ揃いでも容易なことではない。
「本隊の様子だけど予想以上に順調だ。まだ1日目だって言うのにネウロイの巣を二つ、破壊している」
ワルシャワにあるネウロイの巣からカールスラントまでの間には小規模の巣が10〜20ほど点在していると言われている。
エイラ達が降り立ったところからもその存在は確認でき本来ならばこんなところに1週間も居座るのは不可能だった。
しかしそれら一つ一つは極めて規模が小さく全て合わしてようやくワルシャワのネウロイの巣と同等の戦力となると考えられていた。
『作戦だと確か今日は最初のネウロイの巣まで辿りつく事が目的、明日から本格的な攻勢に出ると言う予定だったわよね?』
「そうだな。1日三つのペースで6日かけて私達と合流する予定だったな」
『なのにどうしてネウロイの巣が破壊されてるんですかね?』
シュトゥルムティーガーを使う関係上、進軍速度が遅くなることはあっても早くなる事はあまりない。なのに何故か計画が早まっている事に竹井が疑問を述べた。
「どーもリベリオン空軍が先走って対ネウロイ用気化爆弾で巣を破壊したらしいんだよなぁ」
先走ったのか、あるいはカールスラントに手柄を立てさせないようにしたのか。本当のところはわからないがエイラの下には先走ったと言う情報が送られてきていた。
『進軍速度が速くなる分には我々にはありがたい話だ』
『そうね。こんなところに1週間もいたくはないもの』
作戦とはいえ危険なネウロイ勢力圏のど真ん中に長期間滞在したくないと言うのはこの作戦に参加しているウィッチ全員の共通認識だった。
「まぁ、1日目調子良くても明日以降どうなるかはわからないけどな」
『不安になるようなこと言わないでちょうだい』
『そうだ、せっかく気持ちよく通信を終わろうとしていたのに台無しじゃないか』
エイラの雰囲気をぶち壊す言葉に非難が飛び交う。
「勝手に話を終わらせるなよ」
『なんだまだ何か話す事があるのか?』
「506は予備戦力だ。疲弊が激しい隊員がいたら506の隊員と入れ替えるけどどうだ?」
501、502、504が防衛線を築き上げ506は基本的に受け持つエリアはない。もしいずれかの部隊が戦力の減少やネウロイの大規模な攻撃を受けたら予備戦力としてウィッチを派遣するからだ。
報告がないと言う事は必要がないと言う事でもあるが念のためエイラはこの機会に部隊の損耗状況を聞いておきたかった。
『問題ない、誰も撃墜されちゃいないさ』
『こっちも作戦通り1週間持たせるならなんとかなるわ』
『504はナイト・ウィッチを派遣してくださるとの事なので今のところはそれで問題ないです』
3人の言葉に満足気に頷くとエイラは通信を終えた。
ストライクウィッチーズ新作出たりしないかな