ワルシャワ奪還の為に大幅に戦線を押し上げた連合軍は次の作戦の為にポズナンに臨時司令部を作っていた。
エイラもウィッチ隊を指揮する関係でウィッチ隊司令部をポズナンに移し次の作戦に備えていた。
「暇だなぁ」
司令部はワルシャワ奪還に今度こそ出来うる限りウィッチの力を借りずに作戦を遂行したいと考えていたためエイラの役割は小さくなっていた。その為前回までと違い作戦立案にもそれほど関わる事はなくこのポズナンの地で暇を持て余していた。
「わたしはいつも通りよ」
「あれ、そうなのか?」
普段の哨戒と迎撃任務の大半をやる気を出したガールズラントが受け持っているため統合戦闘航空団の役割はほとんどなくなった。
「ナイト・ウィッチは数が少ないもの。いくらカールスラントでも夜間哨戒全てを賄うのは難しいわ」
「言われてみればそうだな」
「エイラも夜間哨戒する?」
どことなく恨みがましい雰囲気のサーニャにエイラは思わずたじろいだ。
「いやー、わたしは連合軍指揮下のウィッチ隊の指揮があるから……」
「さっき暇だって言ってたわよね」
「そうだったけ?」
「エイラはわたしと夜間哨戒するのは嫌?」
「嫌じゃないけどわたしの体が持たないよ」
サーニャとの夜間哨戒が嫌なわけではない。いくら暇とはいえ日中、全く仕事がないわけでわけではなく夜間哨戒までする余裕はなかった。
「冗談よ。わかっているわ」
サーニャがいつもの雰囲気に戻り内心エイラは胸を撫で下ろした。
「だけどわたしだけいつも通りっていうのも不公平だと思うの」
「そうは言ってもなぁ。わたしも久しぶりに夜間哨戒に出て勘を取り戻したいけど……」
サーニャと夜間哨戒をしたいというのはエイラの本心だ。しかしエイラの今の立場がそれを困難なものにしていた。
「それが出来ないくらいには忙しいものね」
「そうなんだよ。時々カールスラントの連中が防空体制について意見求めに来たりするから日中はあんまりここから離れられないし」
「エイラの部下になった参謀達に任せたらいいじゃない」
ベルリン奪還後からエイラの下には幾人もの参謀が各国から派遣されウィッチ隊の運用に関するノウハウを学んでいた。それを有効活用するようサーニャは助言した。
「残念だけど今は司令部でワルシャワ奪還作戦の最終調整に関わってるからムリだな」
「エイラは行かなくていいの?」
本来ウィッチ隊のトップであるエイラが関わらなければならない案件であるのに何故か暇しているエイラに訝しげな視線を向けた。
「最後はわたしが確認するけど経験積ませるためにもとりあえず任せてる」
「ちゃんと考えてるのね。サボりたいからかと思ってたわ」
「まさか。部下の成長を促すのも上官の務めだからな」
そう言いながらもエイラは内心冷や汗を流していた。
そもそもエイラ自身は後方でチマチマ作戦を立てるよりは前線で飛び回る方が好きな典型的なウィッチである。ワルシャワ奪還についても全て部下に任せて自由に飛び回ろうという魂胆があった。
「本当だともう少し時間がある予定だったけど予想よりもカールスラントがやる気だしてるから全然時間がないんだよな」
これまでカールスラントは随分と不遇な扱いを受けてきた。
カールスラント本国の奪還では虎の子の戦車師団と超重戦車ラーテが使用されこそしたがその指揮官はリベリオン。カールスラントはガリアと違い戦力の大部分をノイエカールスラントに逃すことに成功していたためベルリンの奪還作戦のみであればカールスラント単体でもなんとかなるはずだった。しかしそれはリベリオンを筆頭とするいくつかの国の反対によりその案は廃案になったいう裏話があった。
エイラ自身は作戦の方針が固まってからの参加だったためその話は最近まで知らなかった。
「カールスラントに鬱憤が溜まるのも仕方ないとは思うけどだからと言ってこっちに皺寄せが来るのはどうかと思うんだよな」
「味方にそんなこと言うのはよくないわ」
「味方って言うけどカールスラントと連合軍じゃ指揮系統が違う。本来ならカールスラントからの要請は断れるんだけどアイゼンハワー元帥からはカールスラントには便宜を図るようにって言われてるからそう言うわけにも行かないんだよなぁ」
あえて口にしなかったがスオムス本国からもカールスラントとの関係を良好なものにするよう努めよとの命令がされていた事からエイラにカールスラントからの要請を断ると言う選択肢はない。
「やる気を出してくれたのはいい事じゃない」
「それが味方に対する悪感情からでなければなお良かったんだけどな」
味方同士でいがみ合うなど悪夢以外の何者でもない。エイラはできる事ならネウロイとの戦いの間だけでも抑えてほしかった。
「けどそれでわたしの国の解放が早まるならオラーシャ人としては非難する事はできないわ」
エイラの懸念はサーニャも理解している。しかしそれによる良い影響を受けているのは他でもないオラーシャだ。
もしワルシャワを奪還できれば北方、東方、西方の三方面からの同時作戦を行うと言う噂が流れていて実際北方と東方では物資の集積が始まっていて大きな作戦が近いと噂されている。
ナイト・ウィッチであるサーニャは夜間哨戒中、他のナイト・ウィッチとの通信でそのことを知り尋ねたところエイラはその事を否定したかった。
そのためワルシャワ奪還はオラーシャ奪還の第一歩だと期待していた。
「本当にそうかなぁ」
「なにかあるの?」
「カールスラントって元々全ての戦線にかなりの数の部隊を派遣していただろ?」
ブリタニア、ガリア、アフリカ、スオムス、オラーシャ、オストマルク。ネウロイと戦う全ての戦域でカールスラントは目覚ましい活躍を遂げていた。
しかしカールスラント奪還では主戦場となったカールスラントではリベリオンの活躍が目立ち以後この西方方面軍ではリベリオンが主導権を握っていた。カールスラント本国から違い西方方面軍にカールスラント軍はほとんど所属していない。カールスラント軍から連合軍に派遣されていないカールスラント直属の部隊が連合軍とは別に動く事で今回のオラーシャ西部奪還作戦では活躍したが今後このような動きが許される事はない。
そのためオラーシャ奪還では北方方面軍と東方方面軍での活躍が期待されるが東方にはオラーシャと扶桑がいるため戦力的に不足はない。そのため北方がカールスラントが最も活躍できる場になるが北方は戦力が小さくノブゴロ地方のヴァシリー破壊後は西方方面軍の援護に回る事が予想された。
「一方面あたりで見ればカールスラントの戦力はそう大きくない。ガリアやロマーニャほど小さいわけじゃないけど少なくともリベリオンみたいに一方面で圧倒的な戦力を背景にその方面全体の指揮を取れるような数じゃない」
「そうかもしれないけどせれがオラーシャの奪還にどう関係するの?」
「考えてもみろよ。カールスラントはここまでの戦いで防衛戦で主役になる事はあっても花形の攻勢作戦で主役になる事はなかったんだぞ」
ガリア奪還、カールスラント奪還両方でカールスラントは主力ではなかった。カールスラント奪還では戦車師団こそいだが戦力的にいえばリベリオンも同等の部隊を出していた上に指揮官はリベリオンのパットン将軍。
どの国が主役だったかは明らかだ。
カールスラントが主役となったのはビフレスト作戦とグリゴーリの破壊という防衛戦だけ。
戦力はあるのに攻勢についてはことごとく美味しいところを持って行かれているためおそらく最後の大規模作戦となるオラーシャの奪還には大きな活躍をしたいと考えているのは間違いなかった。
「だからって味方と争うなんてあり得るの?」
「軍人も所詮人間だからな。このままじゃカールスラントは失陥した本土をリベリオンに奪還してもらった情けない国家ってレッテルを歴史家に貼られかねない。それは避けたいんじゃないかな」
多少軍事の事を知っていればカールスラントが一方的に助けられたわけでない事は明らかだ。しかしカールスラント奪還の指揮官がリベリオンだっか事はやはり大きい。
どう足掻いてもリベリオンの下にカールスラントがついたと言う印象は拭えずカールスラントとしてはそれをどうにか払拭したいと考えるのではないかとエイラは思っていた。
「まぁ全部わたしの想像でしかないし杞憂に終わる可能性も高いけどな」
心配する必要はないとばかりに手を振って話を打ち切るのだった。
歴史の主役という点で一見すると第二次世界大戦を終わらせたのはアメリカのように見えます。
もちろん太平洋においてはそうなんですけどヨーロッパに限っては最後の最後で宣戦布告してきたソ連に近い立場だったりするんですよね。
アメリカがヨーロッパで最初にまともな戦いを起こしたのがシチリア上陸からイタリアでの戦いにかけてですけどその頃ってドイツの敗北が始まりつつある時なんですよね。有名なハリコフとスターリングラードの戦いは1943年の2月頃ですし史上最大の戦車戦で有名なクルスクの戦いもシチリア上陸前に始まっています。結果が出たのはシチリアの方が先ですけどおそらくクルスクの戦いに与えた影響はそれほど大きくないでしょう。
この三つがドイツ敗北の最大の理由であってノルマンディーとイタリア上陸は傷口に塩を塗る行為でドイツの敗北を早めはすれどドイツ敗北を決定づけたものとは必ずしもいえません。
もちろんソ連がヘマして泥沼化するなんてパターンもあったでしょうけど基本的にノルマンディーは歴史の教科書で語られるほどの偉業ではないんですよね。
冒頭に述べたように火事場泥棒的な側面の方が強いと思います。まぁ、これしないとヨーロッパは赤く染まってたでしょうしその点では偉業ですけど。多分ソ連が赤くなければ世間一般でのこの三つの戦いの評価はもっと高かったんじゃないかなと思います。