エイラが暇だ暇だと言いながらもその裏ではワルシャワ奪還のための作戦が順調に立てられていく。そんなある日のことだった。
「そういえばエイラはいつのまにスコアを伸ばしたの?」
「スコアそんなに伸びてたか?」
多くのウィッチがネウロイの撃墜スコアを気にする中エイラ、というよりは一部を除いた俗にウルトラエースやスーパーエースと呼ばれるウィッチは撃墜スコアをあまり気にしない。気にしたところで自分より上のスコアのウィッチと出会うことの方が珍しくそのクラスのウィッチならそのスコアを誇るまでもなく相手側が知っているという事がザラにある。
「283にまで増えてたわよ」
「ベルリン奪還とこの間の作戦かなぁ」
「このままいけばハルトマンさんとバルクホルンさんの記録も抜けるんじゃないかしら」
「無理無理、わたし前線に殆ど出ないもん。どんなに頑張っても300が限界じゃないかな」
エイラの言葉にサーニャは驚いた様子を見せた。
「出撃する気あるの?」
少し前に一緒に夜間哨戒する事を断られたのを若干根に持っているサーニャは胡乱げな目を向けた。
「もちろん。時間があればいつだって出撃したいよ。ストライカーで飛ぶのは好きだかな」
「……わたしとの夜間哨戒は嫌がったのに」
サーニャの言葉にエイラは目を剥いた。
「一緒に出撃したかったのか?」
「そんな事ないわ」
サーニャは表情一つ変える事なく言った。
その様子にエイラは内心胸を撫で下ろした。サーニャにマンネルヘイム元帥達タヌキ親父みたいな腹外はできない。表情こそ変えていないがこれはサーニャの冗談だと判断した。
「わざわざリバウから呼び戻しておいて何もしないんだなって思っただけよ」
この言葉にエイラは自らが失敗した可能性にようやく思い至った。表情こそ変わっていないが雰囲気はさっきと明らかに変わり怒っている事が見て取れる。
「あ〜、夜間哨戒に行くか?」
エイラが恐る恐る提案するとサーニャが纏う怒りの雰囲気がますます酷くなった。
「エイラは忙しいんでしょ?」
「が、頑張れば時間を作れなくもないぞ」
エイラはサーニャの機嫌を直そうとそう言ったがこれも間違いだったようでさらに雰囲気は悪くなった。
「頑張らないといけないんだ……」
サーニャは冷たい目でエイラを見てそう言った。
「いやいや! そんな事ないぞ!!」
エイラは忙しいから忙しくないかで言えば間違いなく忙しい。
だが徹夜前提であれば一日からなら夜間哨戒の時間が取れないわけではない。
エイラ自身の体調は多少崩れるかもしれないが今回エイラは自分の体よりもサーニャの機嫌を直す事をとった。
「エイラはウィッチ隊の総司令官なんだもの。時間を取れないのは仕方がないわ」
エイラはどんな言葉を返してもサーニャからは棘がある言葉しか返ってこないのではないかと思いなかなか次の言葉が出てこなかった。
「わたしを呼び戻したのだって仕事の手伝いをさせるためだったみたいだけどこれならもっと上手くできる人がいるんじゃないかしら」
初めの頃と比べれば手伝える事は格段に多くなったがそれをサーニャよりも上手く処理できるウィッチはいくらでもいる。
「わ、わたしはサーニャだから呼び戻したんだよ! 他のどんなウィッチもサーニャの代わりにはならない!!」
エイラがそう力説するが今更そんな事を言われてもサーニャの心には響かない。
「わたし久しぶりに芳佳ちゃんと夜間哨戒したいんだけど501に戻っていいかしら」
「待て待て待て待て!!!」
予想外のサーニャの一言にエイラはおおいに慌てた。
想像の数十倍怒っているサーニャをどうにか宥めようと言葉を紡ぐ。
「わたしにはサーニャが必要なんだよ!」
「別にわたしじゃなくてもできるような事で必要だ言われても困るわ。
ミーナ大佐は夜間哨戒要員が必要たがら戻ってきて欲しいって言ってるし引き受けようと思うのよ」
「わたしは許さないぞ!!」
「ラル隊長も戻ってきて欲しいって言ってたけどあそこは下原さんもいるしナイト・ウィッチがすぐに必要なのは501の方よね?」
エイラの発言がまるで耳に入っていないかのように言葉を続けるサーニャにエイラは開いた口が塞がらなかった。
「エイラも抜けて随分と人数が減っちゃったし501でいいわよね?」
もはや言葉でサーニャを引き止める事はできないのではないか。その結論に至ったエイラは必死でサーニャを引き止めるために何をすればいいか考えた。
「移籍に関する書類はわたしが作るからエイラはサインだけお願いね」
まるで今日の夕飯を伝えるかのような軽い口調で話すサーニャにエイラはその本気具合を知った。
なりふり構っているいられないと考えたエイラは502にいた時に菅野から聞いた扶桑で最上級の謝罪を示す態勢を取る事にした。
「ごめんなさい。わたしと一緒にいてください」
土下座である。
サーニャもエイラと一緒に菅野から土下座の事は聞いているためこれが何を意味するのかは知っている。だか唐突に行われたこの行為にどう反応すればいいのかサーニャは分からなかった。
「……エイラの気持ちは分かったから顔を上げて。こんなところ誰かに見られたらどうするのよ」
「嫌だ。サーニャが赦してくれるまで上げない」
予想外の態度にサーニャは困惑した。エイラの態度に頭にきていたのは事実だがミーナ大佐達からの依頼に応えたいという気持ちも、久しぶりに宮藤と夜間哨戒をしたいという気持ちもたしかにあった。
論理的に説得すれば理性的なエイラなら501に戻る事を許可してくれると思っていた。
「501には今ナイト・ウィッチがいないのにわたしが行かなくてどうするのよ」
「カールスラントの夜間戦闘航空団に夜間哨戒させるかシュナウファーあたりを引き抜く」
「ハイデマリーさんはカールスラントのナイト・ウィッチの中でもかなりの重要人物じゃない。そう簡単に派遣してもらえないでしょ」
全ナイト・ウィッチの中で一番の撃墜スコアを誇るハイデマリーはカールスラントの夜間哨戒に於いて重要な役割を持っている。そのハイデマリーを簡単に手放す事は考えにくかった。
「こういう時は書類がいい動きをしてくれる事が多いから大丈夫だよ」
「ラル隊長じゃないんだからそんな悪いことしちゃダメよ」
少し前のサーニャならこの言葉の意味がわからなかっただろうが散々ラルとエイラの引き抜き合戦に巻き込まれたおかげで今はこの言葉の意味が理解できた。
「分かった。ラルと同じ扱いされるのは嫌だからやめとく」
ラルの事を知るウィッチの多くにとってグンドュラ・ラルと同じ、或いは似ているという言葉は最大級の侮辱にあたる。特に被害者達の間ではその意識が強い。しかし侮辱扱いする人達全員が指揮官としても一人のウィッチとしても共に戦う分には頼もしいと言うのだからいかに普段のラルの行動が酷い物と認知されているのかよく分かる話である。
「501ちゃんとナイト・ウィッチを手配するからサーニャはわたしと一緒にいてくれないか?」
恐る恐る顔を上げて上目遣いに見上げるエイラにサーニャはため息を吐いた。
「一人で飛ぶ夜の空は静かで好きだけどいつも同じだと飽きてくるの」
その言葉にエイラは目を瞬かせ困惑した様子を見せた。
その様子にサーニャはもう一度ため息を吐くと言葉を続けた。
「久しぶりにエイラと一緒に夜空を飛びたいって言ってるのよ」
その言葉にエイラはぱっと花が開いたかのような笑顔を見せた。
「もちろん! いついく? 今日にするか!?」
サーニャは嬉しそうなエイラに苦笑いを浮かべると言った。
「エイラの予定が空いた時でいいわ」
「分かった! 予定を調整するから数日待ってくれよな!!」
最近では滅多に見なかったやる気あふれるエイラにサーニャは微笑みを浮かべた。
「……一緒に夜間哨戒に行ったらその後は501に戻るとかないよな?」
不安そうなエイラにサーニャは再び苦笑いを浮かべて言った。
「そんな酷い事しないわ」
その言葉にほっと無駄をなでおろすエイラにサーニャは一つ釘を刺した。
「だけどあんまり待たせるようなら501に戻る事にするからね」
最近図書館に行ったんですけどブレイブのプリクエル置いててびっくりしました。
図書館って真面目な本多い印象でしたけど最近はラノベとかも多いんですね。今後の資料集めは図書館も使いつつお財布に優しく行こうと思いました。