オラーシャ奪還作戦の立案が進み作戦まであと1ヶ月と迫った頃、1人のウィッチがエイラの元を尋ねてきた。
「久しぶりだなユーティライネン」
「お前を呼んだ覚えはないんだけどどうしてここにいるんだマルセイユ」
アフリカでネウロイと戦っている彼女は今回の作戦に参加する予定はなく何故ここにいるのかエイラは本気でわかっていなかった。
「風の噂で次の作戦がウィッチが本格的に参加する最後の作戦となると聞いた。私も混ぜろ」
オラーシャ奪還。それはネウロイとの戦いで最後の大規模作戦であり同時にウィッチが本格的に運用される最後の作戦となるだろうと言うのは軍上層部では既定の事実だった。しかしそれは世間一般に対して広く知られていると言うわけではなくあくまでも軍上層部内での話に止まったいた。
「混ぜろと言うけどアフリカはどうするつもりだ。お前がいなくなったら下手すれば戦線崩壊しかねないんじゃないか?」
「ロンメル元帥が責任をとって持たせてくれると言っている」
「ロンメル元帥も許可してんのかよ」
ロンメル元帥はアフリカ方面の総指揮をとっているカールスラント陸軍軍人だ。かつてはパットン将軍、モントゴメリー元帥と共にアフリカの連合軍の指揮を取っていたがパットン将軍とモントゴメリー元帥がヨーロッパに移動してからは1人でアフリカの戦線の指揮を取っていた。
「カールスラント奪還以降カールスラント空軍のウィッチが増強されたからな」
「わたしは聞いてないぞ」
「そうなのか?」
「多分ロンメル元帥がカールスラントに直接依頼したんだろうな。わたしが指揮するのはあくまでも各国から派遣されたウィッチだけだからな。ロンメル元帥が個人的に依頼した分に関しては知らされない限りは知ることが出来ないんだ」
ロンメル元帥の様に本国から連合軍司令部を通さずに部隊を派遣し予備戦力として確保している司令官は多々存在する。司令官側はこれをすることで司令部側はが把握している戦力よりも多くなるため本来方面軍単位では実行しにくい規模の作戦をしやすくなる。つまり独断専行がしやすくなると言うメリットがあった。
「やってるのはロンメル元帥だけじゃないとはいえ司令部側が各方面側の戦力規模を正確に把握できないって言うのは問題だよなぁ」
特にウィッチは戦闘力の割に必要な物質は少なく補給に与える影響も少ない。司令部からすれば面倒なことこの上ないがその代わり不足の事態、例えばガリア奪還後におきたネウロイの大規模侵攻の様な事が起きても司令部から援軍が来るまで持ち堪えさせる事ができるなどのメリットもあった。
「私としてはお陰でオラーシャ奪還作戦に参加できるから万々歳だ」
「まだ参加させるとは言ってないぞ」
「お前は私を作戦に参加させる。なぜなら私ほどのウィッチを遊兵にするなんてできるはずがないからな」
エイラがマルセイユをオラーシャ奪還作戦で使うと疑っていない様子にエイラは訝しげな表情を浮かべた。
「遊兵になんてさせはしないぞ。今すぐアフリカに帰ってもらうんだからな」
「私は帰らないぞ。参加しろと命じられるまでは何があってもここを動かないからな」
「馬鹿なこと言ってないさっさと帰れよ」
追い払う様に手を振るとマルセイユはエイラに一歩近づき言った。
「私はカールスラント奪還にもワルシャワ奪還にも関わる事ができなかった。もし今回、オラーシャ奪還にも参加できなければ私は大きな作戦に一切関わる事なくこの戦いを終えることになる」
「アフリカからネウロイを駆逐する役目があるだろ。あれはアフリカの地理的状況から対ネウロイ用気化爆弾も魔導徹甲弾も使い勝手が悪い。お前が主力となって戦うことになるはずだ」
アフリカは砂漠という地形から進軍するのがヨーロッパよりも困難になる。一度戦車や飛行機に砂が入ればそれらは行動を停止し修理しなければならないし進軍途中で休憩しようにも昼は暑さでやられ、夜は気温が一気に下がるため厚着をしなければならないなど気候的に困難な事が多い。
ウィッチであれば暑かろうが寒かろうが魔法力である程度はどうにかなるためアフリカ戦線においては最後までウィッチが主力になるとエイラは予想していた。
「私はこのヨーロッパで戦いたいんだ。いくらアフリカのネウロイが強力とは言ってもスコアは同じだ」
「そうだな。だけどそれがどうしたんだ」
「このままじゃスコアでハルトマンに負ける」
「それが目的かよ。けどトータルスコアじゃ到底ハルトマンには敵わないだろ」
エイラはマルセイユの撃墜スコアがいくつかは知らなかったがハルトマンに追いつく事が短期間では到底達成できないものだと思っていた。
「かもしれないな。だが何もトータルスコアで勝とうとは思っていない。私とハルトマンが同じ戦場で戦った期間は短い。スコアで競い合ったのだってお互いまだ未熟な頃以来だ」
「だからこの戦いが終わるまでにもう一度ハルトマンと戦いたいと? 随分と自分勝手だな」
呆れた様な顔をするエイラにマルセイユは悪びれた様子もなく同意した。
「ウィッチなんて皆多かれ少なかれ自分勝手なものだろう」
「心外だな。わたしはいつもウィッチの自分勝手な行動に振り回されてるぞ。オラーシャ奪還作戦にウィッチを使う事だって極論言うとウィッチの我儘に付き合った結果だからな。わたしほど他人本位なウィッチはいないぞ」
その言葉をマルセイユは鼻で笑った。
「なら早々に却下してしまえばよかっただろう。それをしなかった時点でユーティライネンも自分勝手なウィッチの1人だ。自分だけいい子ちゃんのフリをしても同じウィッチにはお見通しだぞ」
「ウィッチの士気に関わるからな。仕方なかったんだよ」
「ならそのついでに自分のスコアを伸ばそうなどと少しも考えなかったと言えるか?」
「……当たり前だろ」
あくまでもマンネルヘイム元帥に言われたからであって自分の意思ではない。そうエイラは心の中で自分を納得させた。
「ならユーティライネンは作戦中一度も出撃しないという事だな?」
「わたしは全統合戦闘航空団の総指揮官だ。出撃機会はあるんじゃないか?」
マンネルヘイム元帥の依頼完遂するまでは頻繁に出撃するつもりのエイラは誤魔化した。
「指揮官である以上は撃墜数は伸びないという事でいいか? なら残念だ。私はユーティライネンとも競いたいと思っていたのだがな」
「前線に出る以上はスコアも伸びるだろ」
必死に誤魔化すエイラにマルセイユは言質を取ったとばかりに詰め寄った。
「なら私とハルトマンとユーティライネン、誰が一番スコアを稼げるか勝負といこう」
「だからそんな勝負しないって」
「そうか、それは残念だ。スオムスのエースウィッチは世界トップクラスではあったがそこ止まり。世界トップの争いからは尻尾を巻いて逃げる様な臆病者。そんな事だとスオムス人もお前の副官のリトヴャクもガッカリする事だろうな」
ラルやミーナ大佐とサーニャを巡って様々なやりとりがあるのは一部では有名な話でありサーニャの名前を出せばエイラがなってくるのではないかと打算的な思いからそう言うとものの見事にエイラは引っかかった。
「……いいぞ、やろう」
サーニャの名前を出されて引き下がれるほどエイラは大人しいウィッチではない。眉間に皺を寄せながら立ち上がるとエイラは言葉を続けた。
「だけど折角勝負するんだ。敗者には相応の罰が必要だと思わないか?」
そもそもハルトマンは同意しているのかとかマルセイユをアフリカから引き抜いて本当に大丈夫なのかだとか様々な問題があるが頭に血が上ったエイラはそんな事すっかり忘れてそう言った。
「それはいいな。何にする?」
「負けた2人は……戦後カールスラントかガリアあたりの高級レストランでご飯奢るってのはどうだ?」
「戦後でいいのか?」
どんなエースウィッチでも撃墜されることはあるしそれが元で死ぬ事もある。だからマルセイユは思わず本当に戦後でいいのか尋ねていた。
「負けが認められなくてあの世に逃げたきゃ逃げてもいいぞ。そんときゃ墓碑銘に負け犬って掘ってやるから」
煽られて仕返しとばかりに煽り返すと今度はマルセイユが眉間に皺を寄せた。
「いいだろう。だがそっちこそ逃げるなよ」
「勝つ事が分かってるのになんで逃げる必要があるんだよ」
その言葉にマルセイユは獰猛な笑みを浮かべた。
「その言葉、後悔させてやるぞ」
「やってみろ」
そう言ってしばらく睨み合った後、マルセイユは部屋を後にした。
実際問題アフリカって最新兵器が通用しにくそうですよね。
補給に難がありますから魔導徹甲弾は使いにくそうだし気化爆弾もヨーロッパほどネウロイの数が多くないアフリカだと効果が限定的だし。