スオムスでの用を済ませたエイラはその足で501部隊を訪れていた。
ミーナ大佐の執務室でミーナ大佐、バルクホルン、ハルトマンの三人と近況報告と次の作戦について軽い打ち合わせをしていた。
「そうだハルトマン、マルセイユから聞いてると思うけど撃墜スコアの勝負の件なんだけどさ」
「なにそれ私聞いてないよ?」
てっきりマルセイユがハルトマンに伝えていると思い込んでいたエイラは驚いた様子を見せた。
「なんだよマルセイユの奴伝えてなかったのか。簡単に言えばオラーシャ奪還作戦で三人の中で撃墜スコアが一番多かった奴に戦後高級レストランのご飯を奢るって話だな」
「嫌だよそんなの面倒臭い。2人でやりなよ」
「ハルトマンは強制参加」
「私の意思は!?」
「上官命令だ、そんなもの必要ない。その代わり武器弾薬、それと嗜好品の類はちゃんとに関しては便宜を図るから安心しろ。必要なら501に対する補給自体増やしてやる」
「あら、それはいいわね。頑張ってねエーリカ」
ミーナ大佐の裏切りにハルトマンは絶句ししばし唖然とした後バルクホルンに縋るような視線を向けた。
「こんなの職権濫用だし軍規違反だと思うんだけど……」
「そうか、ハルトマンも大変だな。そんなことよりエイラ、少しお願いがあるんだが」
「そんなこと!? これってそんな短い言葉で切り捨てられていいものなの!?」
「うるさいぞハルトマン」
バルクホルンがハルトマンの抗議をバッサリと切り捨てた。
「妹がお前のサインを欲しがっていてだな、このブロマイドにサインをして欲しいんだ」
「なんだそんなことか。それくらいいくらでもしてやるよ」
どこか頼みにくそうに見えたためてっきりもっと難しい事を要求されるとばかり思っていたエイラは呆れながらもそう答えた。
「ありがたい。これであとは503と505と508だけになった」
503と505は東方、508は海上と501との関わりが薄い部隊だ。それらの部隊のサインをバルクホルンが入手困難なのは当然だが、バルクホルンの言動からそれ以外の部隊については全てサインを入手していると言うことにエイラは気がついた。
「まさか統合戦闘航空団全部隊のサインを集めるつもりか?」
「ああ。クリスが欲しがっているからな」
バルクホルンの妹の溺愛っぷりはエイラも知るところだったが、暫く見ないうちにその溺愛にさらに磨きがかかっていた。
「508はともかく503と505は当分先だろうな」
508は海上全てが活動範囲であり出会う機会があるかもしれないが、503と505はともに501とは真反対の場所で活動している。バルクホルンがサインを入手できるとすれば、統合戦闘航空団の全隊長達が集まるような会議の場で各隊の隊長達に頼み込みサインを送ってもらうか、戦争終結後に頼むかの二択になる。しかし後者に関してはバルクホルンが上がりを迎えて引退している可能性もあるためやや確実性に欠けた。
「エイラは503や505とも会う機会があるはずだな」
「現状向こうに行くには結構大回りする必要があるから、オラーシャ奪還後になることだけは確かだな」
「私はもう20歳だ。いつ飛べなくなってもおかしくない」
「魔法力減少の予兆でも現れたか?」
「今の所はまだない。しかしだからと言って楽観視していいわけじゃない。そこでだ、オラーシャ奪還後も飛んでいるかわからない私よりはエイラの方が確実にサインを貰える立場にある。もしも会う機会があれば代わりにサインをもらっといてくれないか」
その願いは流石のエイラも予想外だった。
「それはちょっと……。一応わたしは上官だしブロマイドにサインをねだるのはなんか違うくないか?」
「そんな事はないだろう。家族や友人から部下や同僚のサインをもらってきて欲しいと頼まれるのは割とよくある話じゃないか?」
「そうかなぁ」
エイラのスオムスのように本土が陥落していないならともかく、カールスラントのような本土が陥落した国のウィッチは、交友関係がウィッチ内で完結しがちな傾向にある。本土陥落の前の友人らの安否自体が不明になる事が多いからだ。
バルクホルンのよくある話は、エイラのような普通の国のウィッチにとってはあまり聞かない話である事も多かった。
「501が設立される前、私達がブリタニアにいた時はたまにあったぞ」
「そうね。あの頃は戦線が落ち着いていたから街で知り合った同年代の子達にサインをねだられて持っていったこともあるわ」
「そういや宮藤が来る前くらいまでは比較的戦線が落ち着いてたな」
普通とは言い難い交友関係を持つ事が多いウィッチだが、戦線が安定していた時は普通の少女のように過ごす事もできた。ハルトマンやミーナのように社交性の高い人物は街中で友人を得ることも多かった。
「だからエイラもクリスのためにサインを貰ってきてくれ」
なにがだからなんだとエイラは言いたがったがそれよりもあの真面目だったバルクホルンがここまで個人の事情を優先しようとする事に驚いていた。
「ミーナ大佐だって私ほどじゃないけど他の隊の隊員と会う機会はあるはずだぞ」
「もちろんミーナにも頼んでいる」
当然だと胸を張るバルクホルンにエイラは思わずため息を吐いた。
「わかったよ。機会があればサイン貰っといてやるよ」
エイラの言葉にバルクホルンは顔を輝かせて謝意を伝えた。
「ねぇ、そんな事より私が巻き込まれた勝負について聞きたいんだけど」
不満そうな表情でハルトマンが声をかけるとエイラは不思議そうな表情を浮かべた。
「ようするにオラーシャ攻略作戦中の撃墜数を競うってだけの話だぞ」
「それはわかってるけどハンナはどうするのさ。アフリカにいるんじゃ条件がフェアじゃないんじゃない?」
だから勝負なんてやめようと言う意味でハルトマンは言ったが、そもそもこれはマルセイユが仕掛けた勝負でありそこのところも対策済みである。
「オラーシャ奪還作戦に合わせてこっちに移動する予定だから問題ないぞ」
「ならトゥルーデも参加するのは!?」
こうなると一人でも犠牲者を増やそうとハルトマンは提案したがエイラは難色を示した。
「それにはマルセイユの許可と、後はバルクホルンがやりたいかどうかによるんじゃないか。バルクホルンは参加したいか?」
「私はやめておく。さっきも言ったがいつ上がりを迎えてもおかしくないし、なによりクリスに会う時間がなくなる」
「私は問答無用だったのにトゥルーデの意見は聞くの!?」
「ハルトマンはマルセイユの奴が参加するって言ってたからな。やる気なもんだと思ってたよ」
厳密にはハルトマンとエイラとマルセイユの3人で勝負しようと言ったのであって一言たりともハルトマンが参加するとは言っていないが、マルセイユのあの口調ではエイラが勘違いするのも無理はなかった。
「なら私もやらなくていいじゃん」
「ダメだ。ハルトマンは強制参加だ」
「どうしてさ」
「マルセイユと3人で勝負するって話になってるからな。ハルトマンの参加は絶対だ」
意見を変える気のないエイラにハルトマンはどう説得しようかと思案を巡らすとミーナ大佐が口を開いた。
「いいじゃないエーリカ。501への補給に便宜を図ってくれるのよ。負けても受ける価値は十分あるんじゃないかしら」
「トゥルーデ〜」
完全に敵に回ったミーナ大佐にハルトマンはバルクホルンに助けを求めた。
「私は参加できないがハルトマンなら勝てると信じているぞ」
欲しい言葉とはかけ離れた言葉をかけられハルトマンは絶句した。
「ほらみんなこう言ってるんだし大人しく参加しろよな」
「そういえばマルセイユさんはどこの隊に配属するつもりなの?」
「まだ決めてないけどラルのところ以外かな」
「あら、それはどうして?」
「アイツのとこ預けると返してくれないだろ」
「それもそうね。ならウチに預けてくれないかしら」
ミーナ大佐の言葉にエイラは難色を示した。
「バルクホルンとの相性が悪すぎないか?」
「確かに私はマルセイユとの仲が良いとは言い難い。だが私が我慢する事で戦力が増強されるならいくらでも我慢しよう」
「ハンナがいれば自分の出撃機会が減ってクリス会う時間が確保できるからじゃないの?」
ハルトマンが胡乱な視線を向けた。
「そ、そんなわけないだろう!」
「バルクホルンの考えはともかく501にマルセイユを預けられるならそれに越した事はないな。506は指揮系統に問題があるし、504は正直マルセイユを御し切れるとは思えない。507はマルセイユの手綱は握れるかもしれないけどハッセの負担が大きすぎる。ミーナ大佐が手綱を握る役に立候補してくれたし501にするよ」
エイラの言葉にミーナ大佐は自分がとんでもないミスをしたのではないかと思ったがそれよりもエイラとサーニャが抜けた穴をようやく埋められる事に安堵してその事について深く考えなかった。
ストライクウィッチーズってネウロイとの戦いが終わった後どんな展開を迎えるんでしょうね。
個人的には現実のように冷戦が起きるとは思えないんですよね。あの世界共産主義がなさそうですし。なんとなくカールスラントオラーシャあたりは国内がゴタゴタしそうな予感がしてますけどどうなんでしょうか。