「わたしを通信一つで呼びだそうだなんて随分と偉くなったな」
リバウにきて早々にエイラはラルに向かって嫌味を述べだ。
ほんの数時間前までワルシャワの501で穏やかな時間を過ごしていたエイラは、どこからかそれを聞きつけたラルがミーナ大佐の執務室に直接電話をかけた事で脆くも崩れ去った。
「せっかくスオムスに行っていたというのに502を無視して501にいくなんて不誠実な話だ」
「お前に誠実さについて説かれる日が来るなんて夢にも思わなかったな」
「誠実が服を着て歩いているのが私だ。当然不誠実なものには誠実さについて説く義務がある」
「……精神科医を紹介しようか?」
エイラは割と本気で心配した。
「隊長流の冗談ですよ。本気にしないでください」
サーシャが呆れたような口調でエイラを諌めた。
「だけどコイツいっつもこんな感じじゃないか。実は本気で言ってるんじゃないか?」
「たしかにいつも自分の都合の悪いことは煙に巻いてますけど実は本気で言っていたんだとしたら……」
真剣な表情でエイラの提案を思案し始めたサーシャにラルは焦った。
「待てサーシャ。心配しなくても全部冗談だ」
「いえ、やはり隊長は一度医者に見てもらうべきかもしれません」
「お前のところの戦闘隊長であるサーシャがこう言ってるんだ。一度軍病院行こう」
「そうですね、そうしましょう」
本気で心配する様子の二人にラルは焦った。本人は一応いつもの冗談のつもりで言っていたのに、何故か本気にされいくら弁明しても二人は意にも介さないように感じられたからだ。
「サーシャも賛成みたいだし502の隊長はサーシャにしてラルは病院送りにするか」
「そうですね、それがいいかもしれません。いい加減他の隊からの苦情に対応するのも疲れましたし」
サーシャはため息を吐いた。
「二人とも冗談にしてはタチが悪すぎる」
「冗談だと思うか? お前が502の隊長を解任されて喜ぶ奴はたくさんいるんだぞ」
「心当たりがないな」
「503のサフォーノフ中佐とかブチギレてるらしいじゃないか。ラルが入院したとなれば喜びのあまり花束の一つでも送ってくるんじゃないか?」
どんなに重要な会議の場でもラルがいるとなれば、代理としてボニン少佐を送ってくるくらいにはブチギレているのが、503部隊の隊長サフォーノフ中佐だ。他にもミーナ大佐は、ラルがいる時は必ず拳銃を持ち込むなど統合戦闘航空団だけで見ても二人も喜びそうな人物がいた。
「いや、それはないんじゃないでしょうか。サフォーノフ中佐なら誰か人を寄越して事の真偽を確かめると思います」
「なるほど、確かにラルが入院したと聞いても俄には信じ難いしまずは確認が先か」
なるほどとエイラが感心したように頷いた。
「百歩譲って私のことをよく思っていないウィッチがいたとしよう」
「サフォーノフ中佐とかよく思わないどころか嫌ってそうだけどな」
「よしんばそうだとしても私は正常だ。入院など必要ない」
ラルは語気を強めた。
「わたしとしては是非とも入院して静かにしてもらいたいところだけどな」
「いくら人類が優勢とはいえ病気でもないウィッチを入院させる余裕はないだろう」
「そんな事はないさ。だけどこれ以上この問答をするのも時間の無駄だな。本題に入ろう」
「隊長は入院させないんですか!?」
サーシャが驚いて声を上げるとエイラとラルは呆れたような視線を向けた。
「冗談に決まってるじゃないか。まさか本当にコイツを病院にぶち込むとでも思ってたのか?」
「そうだぞサーシャ。いつものお遊びだ」
「だっていつも悪びれる様子もなく人様に迷惑をかけまくっているんですよ? きっと頭の何処がおかしいに決まっています」
あまりの言葉にエイラは苦笑いを浮かべラルは驚き目を見開いた。
「ラルの頭がおかしいのは認めるけど入院するほどじゃないって事だ」
「まてユーティライネン。私は正常だ」
「お前が話すと話がややこしくなるから黙ってろよ」
抗議するラルをエイラは睨みつけた。
「せっかく隊長の頭が良くなると思ったのに残念です」
「残念だけどコイツの頭は病気由来のものじゃないしいくら医者でも治るわけないだろ」
エイラの言葉にラルは憮然とした表情を浮かべた。
そうして話が一段落してようやく本題に入った。
「マルセイユがオラーシャ奪還に際してこっちにくる事になっているだろう」
「よく知っているな」
ラルの手癖の悪さはウィッチ全体に広がっていてウィッチがラルにウィッチの配属先について伝える事はない。しかしどういうわけがラルはウィッチの配置についてよく知っていた。
「本人から聞いた」
「そうか。先に言っておくとお前の要請は却下だ」
ラルが何をいうか察したエイラは何か言われる前に言った。
「まだ何も言っていないぞ」
「何を言われようとお前の要請は却下だ」
「マルセイユさんをウチの部隊に配属して欲しいんですよ」
「サーシャ、そんな事はわかっている。だけどここに配属したら返してくれないじゃないか」
「私が責任を持って返します」
毅然とした表情で述べるサーシャをエイラは胡乱気な表情で眺めた。
「お前がラルを説得できるのか?」
「……できます」
そう言いながらサーシャは視線を逸らした。
「嘘はよくないぞ」
譲る気のないエイラの様子にラルはため息を吐いた。
「なら仕方がない。確か今回もリトヴャクはユーティライネンと一緒に行動していたはずだな」
「残念だったな。またサーニャを奪うつもりかもしれないけど今回は501を出る時に別れた。いつもみたいにはいかないぞ」
エイラの副官となっているサーニャもエイラと共にスオムスに行きワルシャワの501へと移動する時もついてきていたがラルの呼び出しでリバウにくる際、エイラはサーニャをワルシャワにおいてきていた。いつものようにラルにサーニャを奪われるのを避けるためだ。
「無駄に知恵をつけたな」
舌打ちをするとラルは悔し気にそう言った。
「無駄とはなんだ。そもそもオマエが奪わなければこんな事する必要ないんだぞ」
「リトヴャクは諦めよう。それで、ウチにマルセイユを配属しないというのなら一体何処に配属するというんだ」
「501だ」
「それはないだろう。あまりにも501に戦力が偏りすぎる」
ラルの批難にエイラは肩をすくめた。
「そんなの元々だろ。ハルトマン、バルクホルンを筆頭にミーナ大佐、わたしの4人は撃墜数が三桁だ。他の隊だと多くても2人なのにその倍だ。501が優遇されていたのは最初から分かりきっていたのに何を今更文句を言う必要があるんだよ」
「その不均衡を是正するためにもウチに寄越せと言っている」
「どうせオラーシャ奪還までの短い期間だから根本的な解決にはならないぞ。というかそれを口実に自分のところにマルセイユを持ってきたいだけだろ」
「バレたか」
「バレバレだ。それに次の作戦、多分わたしは501と行動する事になるだろうからマルセイユが501にいるのは都合がいいんだ」
「もう作戦内容まで決まっているのか?」
驚いた様子のラルにエイラは頷いた。
「概要自体は随分と前から用意されている。後は細かい部隊の配置とかだな。501は他の統合戦闘航空団と比べても精強だからわたしの直属部隊にして便利使いするつもりだ」
エイラの言葉にラルはため息を吐いた。
「なら仕方がないか。仮にも司令官の直属部隊に手を出すような愚を犯すのも馬鹿馬鹿しい話だしな」
「随分聞き分けがいいな」
エイラは何か裏があるのではないかと勘ぐった。
「オラーシャ奪還作戦までに部隊を増強することは諦める。だがその後は全力で盗りに行く。ただそれだけの話だ」
「やらせると思うか?」
「私が盗れなかった事が今までにあったか?」
「……次はやらせないさ」
帰ったらラルの部隊に関する書類の動きをよく見張るようにしよう。エイラは心の中でそう決意するのだった。
そういえばサフォーノフ中佐って声優とか決まってましたっけ?
割と声が当てられてるキャラ多いから誰が当てられてないかこんがらがってきた。