ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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クラウゼヴィッツは戦争は政治の延長と言いましたがストライクウィッチーズではどうなんでしょうね。この世界の戦争の一部は対人ではなく対怪異(ネウロイ)に置き換わっていますからある種の生存競争へと変わっています。個人的には相手が誰であれ国が関わるのならそれはあくまで政治の延長に過ぎないのかなと思います。


共犯者

撤退で最も大変な事は部隊の士気を維持する事である。領土の奪取や防衛といった目的のある侵攻や防衛と違い撤退は得たものを捨てる行為である。そのため撤退は指揮官がいかに士気を維持するかが鍵になる。

ネウロイの巣を避けた結果縦に長い戦線となり各部隊間の連携が取りにくいなかでの撤退により各所で部隊は包囲されていた。そんな中で士気を保てるはずもなく部隊は部隊の体をなさずに個人が好き勝手にペテルブルクを目指して逃げ帰り始める。その為には例え人を殺してでも必要な物資を奪っていた。そんな彼らを見て地上に降りるのは危険と判断したエイラは出来る限り降りる事なく最短でのペテルブルク帰還を目指した。

部下を失うことなくペテルブルクに撤退する事ができたエイラはその足で北方方面軍司令部にいる3人の元帥の元へと向かった。

 

「マンネルヘイム元帥、他の元帥はどこですか」

 

部屋にはマンネルヘイムの姿しかなく1人ずつ話す手間を省くため他2人の居場所を問いただした。

 

「北方方面軍にはもう私しか元帥はいない」

 

「どういう事ですか」

 

前線に出たわけでもないのに元帥が減ることなどありえない。ましてや今は友軍が撤退している最中だ。並大抵の理由じゃない限り指揮官がいなくなることなんかない。

 

「メレツコフ元帥は責任を取って自殺しレープ元帥は司令官の任を辞して現在船でノイエカールスラントに向かっている」

 

「そんな事で責任を取ったつもりですか」

 

「十分だろう」

 

「本当に責任を取るつもりなら今ここに残って出来るだけ多くの将兵が戻ってこれる様に努力すべきです」

 

「世間は分かりやすい責任の取り方を望んでいる。そして私は君と共に事前に補給線の補強を訴えたがまともにその提言を聞かれたなった被害者と世間からは見られている。だから私がここに残ってその役目をする事になった」

 

その言葉に思わず眉を顰めた。

 

「元帥もあまり補給を重視していた様には思えませんが」

 

「そうだな。だが補給に言及した事実は政治的には大きい。仮に補給に言及して作戦が成功すればそれはそれでいい。しかし今回の様に失敗した時、補給に言及していたから私は責任を回避した上に北方方面軍でスオムスは主導権を握る事ができた。あの時イッルが補給について提言してくれたおかげだよ」

 

ありがとうと礼を言うマンネルヘイム元帥はまるで作戦が上手くいったことを喜ぶかの様な笑みを浮かべていた。

 

「なにを笑ってるんですか、大勢の人が死んでるんですよ」

 

「確かに想定より多くの戦力を失った。だがペテルブルクが奪還できたおかげでスオムスはネウロイと直接国境を接する事は無くなったし発言力が上がり主導権を握る事ができた。我々にとっては大成功じゃないか」

 

今回の作戦で投入された戦力は約74万人。現在帰還できているのは約10万人、各国からの支援があれば防衛は出来る戦力が残っていた。そのためマンネルヘイム元帥が北方方面軍内での主導権を握る為に今回の作戦の失敗を意図的に行ったのであればそれ成功したと言える。

 

「正気ですか?」

 

「正気だとも。確かに多くの人が死んだ、だがその殆どはオラーシャ領奥深くに侵攻したカールスラントとオラーシャの人間だ。それの一体何が問題だと言うんだ」

 

「味方ですよ、問題しかないでしょう!」

 

「確かにネウロイがいる間は味方だ。だがいなくなればどちらの国も仮想敵国になる。今のうちに両国の戦力を減らす事は戦後のスオムスの安定に繋がる」

 

あまりに非人道的な考えに驚きで声が出ないでいるエイラを他所に続けた。

 

「他にも今回の敗北で得たものはある。カールスラントとオラーシャがスオムス世論からの批判を緩和する為に工廠を作る事になった。カールスラントが航空ウィッチのユニットと航空機、オラーシャが陸戦ウィッチのユニットと戦車だ。これでスオムスは軍事力経済共に大幅に強化される」

 

「一国の利益のために何十万人もの人を犠牲にするなんて人のする事じゃない」

 

それを聞いたマンネルヘイム元帥は大声を上げて笑い始めた。

 

「ハハハ、自分の部隊の為に助かったであろう数万人を見捨てた君がそれを言うか」

 

よほど可笑しかったのか目に涙を浮かべてさえいた。

 

「わたしは指揮官として部下の生命に対しては責任を持ちますがそれ以外に関してはできる範囲でしか協力できません」

 

「私も同じだ。スオムスの国防を預かる人間として出来ることをしたに過ぎない」

 

「いいえ同じではありません。わたしに出来ることと元帥に出来ることでは大きく差があります。今回死んだ人たちは貴方が殺したも同然だ!」

 

「ならスタラヤルーサとデミャンスクの人々は君が殺した様なものだな」

 

「確かにわたしは彼らを見捨てました。しかしそれはキュヒラー大将の意思でもあったしなにより彼らを守る事はわたしの任務には入っていません。しかし元帥は全軍の生命に対して責任を持つ立場にあった。それなのに元帥は訪れるかも分からないずっと先の未来に対して役に立つかも分からない布石を打った。わたしと元帥は違う」

 

エイラとて参謀教育を受けた参謀将校だ、国家を守る為には犠牲が出る事は仕方がないことだと理解できる。しかし国家の不確定な未来に対して、ネウロイを駆逐する事が出来るかも分からないのに数十万の人々を犠牲にする意図を理解できなかった。

 

「ユーティライネン中尉、今は理解できなくてもいい。だがいつかきっと君は私のした事が正しいと理解するだろう。そして気付くはずだ、所詮君と私は同じ穴の狢だとな」

 

突然ふと思い出したようにマンネルヘイム元帥が言った

 

「ああ、そうだ。君は今日付で大尉に昇進する事になる。おめでとう」

 

「負けて昇進ですか」

 

「君のおかげでスオムスは多くのものを得る事ができた。昇進するのは当然だ」

 

「その言い方ではわたしが数十万人を殺した共犯者のようですね」

 

「ようではない、君は共犯者なのだよ。私がした事が罪だと言うのなら世間にこれを告発すればいい。だが君にその気は無いのだろう?」

 

「本当にわたしが告発しないとお思いですか」

 

その問いをマンネルヘイム元帥は鼻で笑って一蹴した。

 

「当然だ。君もまた参謀将校の一人だ。過去に間違いがあったからといって今持っている主導権を手放すなどと言う行為を参謀将校がするわけがない」

 

マンネルヘイム元帥がした事を世間に告発した場合世論はこれを信じる派と信じない派に真っ二つに割れる。そんな事をになればマンネルヘイム元帥もタダでは済まないだろうしせっかく得た主導権も無くなりカールスラントとオラーシャが主導権争いをするのを指を咥えてみている作戦前の状況に逆戻りする事になる。これを容認する事を出来なかったため告発すると言う選択肢をエイラは取る事ができなかった。

 

「今は元帥に協力します。しかしこの戦争が終われば必ず今回の件を世間に告発します」

 

「好きにするといい、私は止めない。だが今告発しなければ一生その機会を失う事になると言う事は忠告しておこう」

 

「なにを根拠にそんな事を」

 

「君が参謀将校だからだ。今後も私と共にスオムスを守る為に戦うのなら間違いなく君は自分の手を自らの意思で汚す事になる。そうなってからでは君は今回のことを告発できない。だから告発するのなら今しかないのだよ」

 

「どんな事があろうとも人道に反する事に私が手を染める事はありません」

 

「今はいくらでも言える。だが国家を守るという事は国家の闇を知り、守ることにつながる。そして少しでも闇を知ればもはや引き返す事はできない」

 

「その闇とか言うのを知らずにいればいいことじゃないですか」

 

「その通り、だが闇は気付いたら知っているもので知る前に気付く事はできない。君が参謀将校である限り、闇は君のすぐそばにいるのだよ」

 

マンネルヘイム元帥はエイラが闇を知ることを確信しているようでエイラは言いようのない不安に包まれた。




いやーマンネルヘイムが腹黒いのは予定通りだけどまさかここまで黒くなるとは(・・;)
今まで何度か扶桑について触れてきましたが国力について真剣に考えた事がなかったんで考えてたら実は扶桑って最低でも現実のアメリカ並みの国力あるんじゃね?って疑惑が湧いたので書きます。

扶桑は自国で多くの資源を賄え、一部は輸出もしていると考えられます。さらには鎖国もなかった事から経済力が同時代の日本と比べて桁違いに高いはずです。これは紀伊型戦艦4隻を使っていることや天城型空母3隻など高コストな艦船を運用していてさらに数を増やそうとしている事から明らかです。さらにこれらの主力艦の護衛用の駆逐艦や軽巡洋艦も更に増えると考えられるのでこれを支える経済力はアメリカに匹敵すると思います。(扶桑海事変で経済がガタガタになった可能性も少なからずあります)
さらには資源のある島もそこそこの大きさがあるし東南アジアの島の一部も所有しているとなると人口が少なく見積もって2億、最大で5億を上回るくらいになると思います。これは大日本帝国の最大人口が4億6千万ほどだったことを考えると間違いないと思います。
軍隊に関しては陸軍はあまり変わらないと思います。もともと島国ですからあまり必要無いですしね。ただ数は少し多いかなと思います。
次に海軍はかなり強力だと思います。具体的にはロイヤルネイビーを鎧袖一触で粉砕出来るくらいには強いと思います。おそらくこの世界では最強です。ロンドン軍縮条約もなかったぽいですし。そのため案外現実での日英同盟に当たるような同盟が残っている可能性もあります。そうなると東南アジアの秩序維持をブリタニアが扶桑に全面的に任せた可能性もあります。
欠点があるとすれば油ですね。仮に取れるのであればほぼ敵なしでしょう。後は陸軍と海軍の不仲ですね、とはいえこれは海軍がかなり強そうな気がしますけど。
以上の理由によりこの世界では最低でもリベリオンと二強体制でしょうね。で、戦後は覇権争いを繰り広げると。業が深いですね。
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