ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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ヴァシリーを間違ってグリゴーリにしていたので訂正しました。申し訳ありません。


ヴァシリー撃破

ヴァシリーの攻略はある種の狂乱とも言えるような状態でおこなわれた。

 

「すごい熱気だね」

 

インカムからは参加しているウィッチや兵士たちのヴァシリーに対する恨みや怒りといった声が流れていた。

 

「ヴァシリーの破壊だからなぁ。わたしもあの場にいればあれくらいの熱量になっているかもな」

 

スオムスを中心とした北方方面軍はこのヴァシリーに多大な犠牲を与えられている。そのヴァシリーに人類の力が到達しその周囲を守るネウロイを次々に撃破していく。これに興奮しない人間はこの場には少数だ。

 

「参加したいの?」

 

「したいけどダメなんだろ?」

 

「ダメじゃないけどエイラには正々堂々と勝負に勝ってほしいわ」

 

エイラにとってサーニャの願いは絶対だ。サーニャがこう言った時点でエイラの対応は決まっていた。

 

「わかった。じゃあ攻撃されない限りは参加しないようにするよ」

 

本音を言えば散々苦渋を舐めてきたヴァシリーの攻略に積極的に関わりたいがエイラが指揮官という立場である以上はそう簡単に前線で戦うわけにはいかなかった事もあり渋々ではあったがその場に留まることにした。

 

「それともしネウロイが来てもわたしが相手するからエイラはここにいてね」

 

「え゛!?」

 

予想外のサーニャの言葉にエイラの口からは奇妙な言葉が漏れた。

 

「エイラはここにいる全ウィッチの指揮官なのよ。副官のわたしが守るのは当然じゃない」

 

ぐうの音も出ない正論にエイラは押し黙った。

 

「わかったよ。大人しくしとく」

 

そうは言ったがフラストレーションというものは溜まる。それを外に出さないほどエイラは大人ではない。

 

「ハッセ聞こえるか?」

 

『聞こえてるよ』

 

「ハッセがこの戦いでスコアが一番じゃなかったら暫くの間コーヒー豆とデザートの配給なしだからな」

 

手っ取り早く最もスコアを伸ばすであろうハッセに八つ当たり気味に通信を送るとハッセは焦った。

 

『いくらなんでも作戦最終盤の状況でそんなこと言われても無理じゃないかな?』

 

「大丈夫だ、ハッセならできる。なんせわたしに続いてスオムス2位のエースウィッチなんだからな。わたし信じてるぞ。だからやれ」

 

いつになく厳しい口調のエイラにハッセはしばらく沈黙した後口を開いた。

 

『……わかったよ。その口ぶりだと考えを変える気はなさそうだしもし本当にそうなったらウチの子達になんて言われるかわかったもんじゃないしね』

 

「わかったらいいんだ。じゃ、頑張れよ」

 

ハッセへの八つ当たりを見たサーニャは胡乱な視線を向けた。

 

「いくら友達でもそんなことするのは良くないと思うわ」

 

「友達だからこそだろ。手を抜かず全力でスオムスのみんなの為に戦えっていうわたしなりのエールだよ」

 

エイラの言い訳にサーニャはため息で答えた。

 

「なんだかエイラ、昔よりも我儘になった気がするわ」

 

出会った頃のエイラはサーニャが見ると随分大人びて見えた。隊長のミーナ中佐に次ぐ階級の少佐として、同じ階級だったが歳上の坂本少佐よりもしっかりとした大人びた印象だった。しかしここ最近のエイラは随分と自分の主張を通そうとする事が多くなったように感じていた。

 

「わたしが我儘になったのはそうかもな。周りが我儘すぎるからわたしも自分の意見を通すには同じ土俵に立たないと意見を通さないんだよ」

 

エイラの頭には自分の上官のマンネルヘイム元帥や部下のラルの顔が思い浮かんだ。

 

「エイラの周りで我儘なのってラル隊長くらいじゃないかしら」

 

「そんな事ないぞ。上官連中を中心に我の強い奴ばっかりだ。いつもそれに振り回されるのは立場の弱いわたしだからな。せめて部下の手綱くらいちゃんと握って振り回せるようにならないと」

 

ラルやミーナ大佐の手綱を握れているかというといささか疑問の余地があるがそれも踏まえてエイラは部下というものから舐められないよう最近はなるべく自分の意見は通すように心がけていた。

 

「だけどさっきのはただの我儘だと思うわ」

 

「さーて、戦況はどんな感じかな」

 

サーニャの追求を強引に誤魔化すとエイラは前線に視線を向けた。

 

「……507が攻撃を仕掛けてからネウロイの撃破速度が上がったわ」

 

「流石はハッセだな。501とか502と比べるとウィッチ個人の実力は劣る傾向にあるけどその分連携に関しては目を見張るものがある。長い間カウハバで訓練できたおかげだな。いくらスオムスに物資が少ないと言っても最近じゃ随分改善してたみたいだし戦ってこなかった分士気も高い。今この瞬間においては全統合戦闘航空団の中でもトップクラスの練度かもしれないな」

 

「そんなことあるかしら」

 

「単独の統合戦闘航空団でのネウロイの巣撃破は501、502、504、506の四つ。503や505は巣を破壊してなくても十分すぎる実績があるけど507とあと508はそれほど実績がないからな。巣を破壊すれば統合戦闘航空団としての実績は十分。ハッセはともかく他のメンバーの気の入り用は相当なもんだ。あれだけ士気が高けりゃ多少の実力差は跳ね除けられるんじゃないかな」

 

サーニャが感心したように頷くのを尻目にエイラは続けた。

 

「だけどその反面、無事巣を破壊できた後が心配だな。燃え尽き症候群に陥ってだらけなきゃいいんだけど」

 

「エイラの友達は燃え尽き症候群になるような部隊運営をする人なの? わたしにはそう見えなかったわ」

 

エイラの心配をサーニャは一蹴した。

 

「わたしだってそうは思わなかはないけどさ」

 

エイラもハッセの実力はよく知っている。スオムスの最精鋭、24戦隊で中隊を率いたほどの実力者だ。指揮能力に疑問の余地はないが元々祖国防衛という点から士気の高いスオムス軍であるから士気が低くなった部隊をいかに纏めるかという点においてはあまり経験がない事は間違いない。

 

「だけどウィッチの質ではスオムスは間違いなく恵まれているんだよ。士気も高いしな。もちろん統合戦闘航空団に所属する以上は質の面でスオムスに劣る事はないだろうけどやっぱり少しは違うだろうからな。心配なんだよ」

 

例えばスオムスだとコーヒーとそれに合うお菓子、或いはヴィーナを与えておけば大抵のことは満足する。同じようにブリタニアだと紅茶とお菓子、リベリオンだとコーラとスナックと言ったように各国で特色が出る。

 

「なんだかんだミーナ大佐とかラルとかよくやってるよ。わたしにはムリだな」

 

エイラは手でバッテンを作った。

 

「そんなことないと思うけど」

 

「少ない物資で高い士気を維持するのは難しいよ。それが多国籍軍なら尚更な」

 

ラルが良いウィッチを求めるのは究極を言えば強いウィッチを揃えて一部のウィッチの士気が下がっても最低限部隊の維持をできるようにする為だとエイラは思っている。そう思っているからこそエイラはラルがウィッチを求めるのを強く拒絶することができない。

 

「だからわたしは絶対にやりたくないな」

 

「スオムスから何か言われないの?」

 

「なにも言われないな。それ以上の実績を上げてるし今更統合戦闘航空団を率いる必要なんかないさ」

 

厳密にはこれは間違いだ。マンネルヘイム元帥はともかくその他スオムス上層部はスオムスのウィッチが統合戦闘航空団を率いることを望んでいた。しかしそれはハッセが統合戦闘航空団の司令官に内定した事でなくなった。

 

「そっか、今は全部の統合戦闘航空団を率いてるんだもんね」

 

「そういう事だな」

 

ヴァシリーと戦うハッセ達と違い終始和やかな空気の流れる中サーニャが異変に気がついた。

 

「見てエイラ。ヴァシリーが」

 

「コアを破壊したのか」

 

サーニャに言われて視線をヴァシリー中心部に向けるとぐりごーが中心から光る粒子に変わって行くのが見えた。

 

「終わったんだな……」

 

見ていることしかできなかったがヴァシリー破壊の瞬間に立ち会えたことはエイラにとって望外の喜びだった。ここから来たネウロイに多くのスオムス軍ウィッチが倒された。

 

「エイラ」

 

サーニャからハンカチを差し出されたことでエイラは自分が涙を流していることに気がついた。

 

「ごめん。ありがとう」

 

長年スオムスを苦しめ続けてきたヴァシリーは今日ここに破壊された。

それはスオムスがネウロイの脅威から脱した事を意味しこの報告は破壊に尽力した第507統合戦闘航空団及び北方方面軍の活躍と共にスオムス国民に喜びを持って伝えられた。




ここに投稿する前のタイトルはちゃんとヴァシリーになっていたのに何故か文章内とタイトルがグリゴーリになってました。

ヴァシリーが破壊されたことでエイラ達スオムスの戦いは一段落しました。ここからは物語のスピードも早くなるといいなぁ。

できれば503、505は出したいと思っていますけどどうなるか……。問題があるとすれば503なんですけど喋り方割れてる人が少ないことなんですよね。
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