ミンスクのネウロイの巣を破壊して数日後、連合軍の北方および西方の主要な指揮官が集まりブリーフィングが行われた。エイラはウィッチ隊の総指揮官としてそれに参加することとなった。
「順調、と言っていいのだろうな」
リベリオン陸軍元帥アイゼンハワーの呟きにより口火は開かれた。
ノヴゴロド、ミンスクと立て続けにネウロイの巣を破壊し北方方面軍はオスタシュコフからトヴェリをモスクワ奪還のための拠点にすべく攻勢を仕掛けている。西方方面軍はスモレンスクにあるネウロイの巣へと迫りオ作戦は順調に進んでいた。同じように東方方面軍では505がハリコフに、503がカザンにあるネウロイの巣を破壊すべく作戦を実行し近々破壊される事が予想される。人類は今までにないくらい順調に勢力圏を奪還していた。
「ここまで順調だと逆に怖くなってきますな」
そう言ったのはマンネルヘイム元帥だった。人類とネウロイの戦いが始まって以来これほどまでに大量の領土を取り返したことは今まで一度もない。それだけに連合軍高官の中では順調に領土を取り返せている事に湧く前線とは違い言いようのない不安感に包まれていた。
「順調なのは良いことではないか、と言えればいいのですが……」
カールスラント陸軍のマンシュタイン元帥が呟いた。
「これまでも奪還した領土を再度奴らに奪われたと言う例は多い。用心して然るべきでしょう。少しばかり攻勢の手を緩めて慎重に領土を奪還するのはどうですか?」
カールスラント陸軍大将ブラッドレーが言った。
「既に北方方面軍はモスクワに手が届く位置まで来ている。今更西方だけ攻勢を緩めて我らを敵中に孤立させるつもりですかな?」
「失礼、確かにそうでした」
マンネルヘイム元帥の言葉にブラッドレー大将は素直に頭を下げた。
「前線の様子を聞く限りでは終始優勢、ネウロイの逆襲など気にする必要もないと言った様子らしいが我々は指揮官だ。前線と司令部で意識の乖離があることは往々にして良くある話だ。果たして我々はこのまま攻め続けても良いものだろうか」
「アイゼンハワー元帥のおっしゃる通り、我々は後方から部隊を指揮する立場にあり前線の様子などは伝え聞く事でしか知る事ができない。その点最近ではいつになくやる気を出して連日出撃を止められていると言う噂のユーティライネン少将はどう思う?」
マンネルヘイム元帥が上座で我関せずよ言った様子でコーヒーを飲みながらサルミアッキを摘んでいたエイラに話を振った。
「わたしが連日出撃を止められている事実はありません」
エイラの返答はこの場にいる他の将軍達の期待していたものではなかった。しかしこの重苦しい空気を和ませる効果はあり小さな笑いに会議上は包まれた。
「いや、その話も気にはなるがそうではない。私が聞きたいのは前線のネウロイの様子に異常がないかと言う事と兵士達が私達と同じ不安を抱いていないかと言う事だ」
「わたしがマルセイユ、ハルトマンとスコアを競っているのを知って一部では賭け事が行われるくらいには緩み切ってますよ」
どこか投げやりにエイラは言った。自分が賭け事をする分には楽しいがその対象にされると言うのは複雑な気分であり、同時にそのせいで知り合いのウィッチからは絶対に勝てと沢山の手紙や通信をもらっていたからだ。
「それは知っている。だがそんなものいつの時代もやっている事だろう。現に私もスオムス人としてユーティライネン少将に賭けている。スオムスの威信のためにもよろしく頼むぞ」
唐突なマンネルヘイム元帥の告白にエイラは目を剥いた。
「元帥も賭けていたんですか!?」
「マンネルヘイム元帥はユーティライネン少将派か。私はマルセイユ大尉だ」
マンシュタイン元帥がそう言うとブラッドレー大将が続いた。
「私は俄然ハルトマン大尉ですね。やはり世界トップの撃墜スコアはだてではないでしょう」
「3人とも賭けてたんですか!?」
エイラが驚くとアイゼンハワー元帥がため息を吐いた。
「仮にも軍の重鎮がそのような考えでは困るな」
アイゼンハワー元帥が呆れたと言わんばかりの口調にエイラは期待を抱いた視線を向けた。
「ここはやはり軍歴の長いバルクホルン少佐だろう」
そもそもこの戦いにエントリーしていないバルクホルンの名前を上げるあたり他3人よりもなお酷い。最高指揮官である以上ある程度堅実な選択が求められるはずなのにいつ上がりを迎えてもおかしくないバルクホルンを選択するあたり他3人よりも非難されて然るべきだろう。
「軍のトップが賭け事にうつつを抜かしていると知られたら下の者達に示しがつきませんよ」
「安心しろ。軍の高官がスコアを競い合っているなどと知られるよりはマシだ」
アイゼンハワー元帥の辛辣な言葉にエイラは言葉を詰まらせた。
自身がしている事が立場に合わない振る舞いだと言う自覚があったからだ。
「君たちの戦いは既に軍関係者全てが知るところにある。今更我々が参戦したところでそう驚きはないだろう」
「順調な事に不安感を持っていた人とは思えない行動ですね」
嫌味混じりにエイラがそう言うとアイゼンハワー元帥は苦笑いで答えた。
「公私は分けて考えるべきだ。確かに軍務においては不安の種は尽きないがだからと言って私事についてまでそれを持ち込むのは間違いだ」
もっともらしい事を言っているがエイラにはただの言い訳にしか聞こえなかった。本当に不安に思っていればプライベートにおいてもその事ばかりを考え賭け事など頭にもよぎらないはずだ。逆説的にここにいる司令官達は現場が順調な事についてそれほど不安には思っておらずこのブリーフィングもモスクワ奪還が現実味を帯びてきた今、作戦の最終確認くらいのつもりで集まったのだろうと思った。
「そうですか。話を戻しますけど元帥方が懸念するようなことは前線では起こっていません。作戦が順調に進んだいる事を喜びこそすれそれを不安に思うような者はいません」
半ば呆れながらもエイラはそう言った。このブリーフィングがそれほど真面目な場ではなあと判断したからだ。
「かく言うわたしも現状を不安に思っていません。十分な数のウィッチ隊を確保できているおかげで取りこぼしたネウロイも迅速に処理されていますしネウロイの巣も対ネウロイ用兵器及び統合戦闘航空団で着実に処理されています。一体どこに不安に思う要素があると言うのでしょうか」
「その奢りをネウロイ達に突かれないためにも我々が気を引き締めなくてはならない。もう随分と目撃例はないがいまだに我々は人型ネウロイに対する対抗策を持たずにいるのだ。もしこのタイミングでウィッチが大量にネウロイに操られるような事があってみろ。戦線は崩壊して再び大陸をネウロイに再占領されないとも限らん」
もしもそんな事態になれば再び奪還するのは困難を極める。初めはカールスラント、オラーシャ、ガリアと言った大陸の国の陸軍を中心に被害を受けたが今はリベリオン、ブリタニアの言った海を隔てた国もかなりの数の軍を大陸に派遣している。これらに被害が出れば次の奪還作戦を起こすまで下手をすると数年から十数年を見込まなければならない可能性がある。
「アイゼンハワー元帥の懸念は理解しました。しかしこの作戦にウィッチを大量投入すると決めた以上そのリスクは許容すべきでしょう。今更それを心配したところでウィッチが操られる事を防ぐ事ができるわけではありませんし」
ようは心配するだけ無駄だと言う事だ。最後に人型ネウロイが確認されたのは1945年のトラヤヌス作戦が最後。一年近く人型ネウロイは目撃されず関係者のほとんどはその存在を忘れかけている。また、その最後に目撃された人型ネウロイもネウロイに倒されると言う不可思議な出来事で消滅していて人類側ではその正体がなんであったのか掴む術はなくなっていた。
「だが我々が数十万、数百万の兵士を指揮する立場である以上はそれを考慮にいらないわけにはいかない」
「考慮に入れて何か変わりますか?」
自分が賭けの対象にされたこととこの場がそれほど真面目な場でない事でエイラは苛立ちを隠す事なくアイゼンハワー元帥に問いかけた。
「変わるとも。考慮していればその事態に対していくばくか冷静に対応できる」
対策はできずとも考慮している事で撤退なり防衛なりの判断を多少早くする事ができる。それはほんの数分の差かもしれないが規模の大きな軍他においてそれは致命的なまでの時間になりえた。
「そうですね。ですがわたしもウィッチである以上は対応される側の立場。詳しい話はわたしのいない場所で4人でしてください」
自分が知る事により対応策をネウロイ側に知られるリスクを避けると言う名目でエイラはこの場を退場する意思を示した。
「確かにそうだ。ユーティライネン少将にはスオムスのためにもスコアを伸ばしてもらわないとダメだからな」
マンネルヘイム元帥がそう言うとマンシュタイン元帥が続いた。
「マルセイユ大尉にかけている身からすれば引き留めるべきかもしれないが正々堂々と決着を付けるためにも引き留めるのは無粋というもですな」
「501はいまだに出撃機会がないと言いますし勝敗をつけるためにも戻ってもらうべきですね」
「ではユーティライネン少将は速やかに501の元に戻ってもらうと言う事で意義はないですな」
アイゼンハワー元帥の一言でエイラはブリーフィングから退席した。
エイラの未来予知について考察があったりするんですけともしかしてこれ書いたかな?
エイラの未来予知、個人的なは魔法力を用いた高精度の演算だと思っています。魔法力を用いて周囲の状況を把握し魔法力を用いて数秒先の未来を正確に予測する事で未来予知のような事をできる固有魔法っていう考察です。
ただエイラの未来予知、意外と燃費が良さそうなんでこの考察だと莫大な魔法力を消費する気がするんでどうやって燃費を抑えているのかについて考察が不十分なんでそこをどうしているか再検討する必要があります。