エイラ達の争いが軍の高官にまで賭けの対象にされている事が判明してから1週間、スモレンスクのネウロイの巣が破壊され西方方面軍は前進した。同時に503、505がそれぞれネウロイの巣を破壊し東方方面軍もまた戦線を押し上げることに成功した。
「もうすぐモスクワね」
現在501が駐屯するスモレンスクの基地の一室でサーニャは感慨深気に呟いた。
「いよいよサーニャの故郷が解放される時が近づいてきたな」
「故郷といっても幼い頃に住んでただけよ」
サーニャはモスクワで生まれたが幼少期からオストマルクのウィーンに留学していたためそれほどモスクワに思い入れがあるわけではない。むしろウィーンの方が思い入れは深かった。
「だけど故郷には変わりない。サーニャ、すごく嬉しそうだぞ」
しかし生まれ故郷というのは不思議なものでそれほど思い入れがなくともその地がネウロイから解放されると言われると嬉しくないわけがなかった。エイラはそれを敏感に感じ取り指摘した。
「そんなに嬉しそうに見える?」
「うん」
モスクワ奪還。それは人類がネウロイに勝利する一歩手前まで来た事を意味する。モスクワを奪還すればオラーシャはほぼ取り戻したも同然になり残るのはバルカン半島とアフリカ北部のみ。東方方面軍がほぼ独立して行動していたのが戦線が繋がる事で主要国の連携が緊密になりそれまでよりもネウロイに対して優位に作戦を進める事ができる。これまででさえネウロイ相手に互角以上に戦っていたというのにここに来て連携が密なれば勝利したも同然だった。
「オラーシャを奪還できれば連合軍は今ほどの規模は要らなくなる。そうなれば統合戦闘航空団も暇になるだろうしサーニャの両親を探す事もできるようになるな」
統合戦闘航空団が解体される事はないだろうがこれまでのように最前線に立つ事はなくなる。統合戦闘航空団は人類の矛であり盾であったがそれだけに強く有名なウィッチが集まっている。もしそこから戦死者など出ようものなら人類の士気に関わる。これまでと違い統合戦闘航空団が必ずしも必要という状態で無くなるため出撃機会は減る事になる。
「お父様とお母様を探しに行ってもいいの?」
軍に入った以上、軍務は個人の事情よりも優先される。元々サーニャは両親と共に疎開することを望んでいたが軍に入っていたためそれは叶わなかった。そのためサーニャは軍隊というものがどれほど強固に個人を縛るものであるかよく知っていた。
「勿論だ。もし止める奴がいたらわたしがなんとかするから安心しろよな」
本来であればオラーシャ陸軍所属のサーニャも現在はエイラの直属の部下となっている。統合戦闘航空団から引き抜かれでもしない限りエイラはサーニャを守る事ができる。オラーシャにはサーニャ以上のウィッチはいくらでもいるがサーニャ以上のナイトウィッチはいない。
「仮にサーニャが今回の作戦で大きな功績を上げたら話は別だけどな」
「わたしが活躍したらダメなの?」
「もしかしたらオラーシャ陸軍に戻される可能性があるからな。ほどほどな活躍だったら敢えてそうする理由もないけどそれこそわたしやハルトマン、マルセイユを超える様な活躍をするとオラーシャ陸軍に戻してナイトウィッチの育成なりナイトウィッチの司令官職なりに抜擢されるかもしれないからな」
モスクワ奪還がサーニャによってなされたくらい言われない限りはサーニャが501から引き抜かれる事はないとエイラは考えていた。501というウィッチ全体でも有数の部隊からサーニャを引き抜いて相応の地位を与える事と501にサーニャを置いたままにして世界に対して自国の功績をアピールする事。先を見据えるならば前者だが、対ネウロイにはウィッチよりも効率の良い兵器も出ていることから敢えてサーニャが戻される事はない。
「本当はわたしも手伝えたらいいんだけど今のわたしにはそれができないからな」
今のエイラには立場がある。おいそれと個人の事情を優先するわけにはいかなかった。しかし一緒に探す事はできずともできる事はある。
「ブリタニアにいた時、サーニャの誕生日にピアノが流れた事があっただろ?」
エイラの問いかけにサーニャは頷いた。
「あれの発信源に心当たりがあるから今度調べておくよ」
電離層を利用すればたとえ地球の裏側だろうと電波を飛ばす事ができる。そのためあの日、本当に電離層を利用して世界の何処かから伝わったのであればサーニャの両親のいどころを推定するのは難しい。
だがエイラはあの日のピアノが何処かの心優しいお人好しのウィッチが気を利かせて通信にサーニャの父親のピアノの音声をどうにか録音して流したのであれば話は変わってくる。その人物はサーニャの両親とあっている事になりその場合サーニャの両親の居所はより簡単に掴める事になるからだ。もっとも、そんな優しいウィッチが今までサーニャに居場所を伝えないなどあるはずがなくそれほど期待はできなかった。
「どうして今まで言ってくれなかったの?」
サーニャが驚き強い口調で尋ねた。
「心当たりって言ってもそんなに可能性が高いわけじゃないんだよ。もしかしたら知ってるかもしれないくらいの心当たりだから伝えてガッカリさせたくなかったんだ」
エイラの言い訳にサーニャは口を尖らせた。
「別にそれくらいでガッカリしないわ。言ってくれたらよかったのに」
「ご、ごめんよサーニャ」
エイラは肩を落とした。
「別に怒ってるわけじゃないわ。だけどわたしがお父様とお母様を探しているのを知っていたのだからそういう事はもう少し早く言って欲しかったわ」
「わかった。次からは気をつけるよ」
エイラの言葉にサーニャは頷いた。
「それで、心当たりってなんなの?」
「サーシャだよ」
エイラの言葉にサーニャは首を傾げた。
「ブリタニアにいた時、サーシャさんとはオラーシャに情報を流すために協力していたけどそれ以上は何もなかったわ」
サーニャとサーシャはブリタニアに501がいた時、遠く離れたオラーシャにブリタニアやリベリオンなど西方の国々の情報を流すために協力関係にあった。もっとも、501、502を含めてもおそらくエイラ以外に知るものはいない。
「それでもアイツはサーニャの誕生日くらい知ってるだろ。なんだかんだで優しいサーシャならサーニャの誕生日に合わせて電波に乗せてサーニャのお父さんが作った曲を流すくらいしてもおかしくないだろ」
「けどそれならサーシャさん言ってくれると思うわ」
「そうだな、わたしもそう思う。だけどもしかしたらそうかもしれないし聞く価値はあるだろ?」
エイラもサーシャがそんな事をしていたならサーニャに直接言わなくともエイラにくらいは明かしてくれるのではないかと思っていた。でなければ今回のように疑いを持たれた時、知ってい手伝えなかったとなれば気不味い思いをする事になる。
「それともう一つ。あの時日付を超えてから曲が流れただろ?」
「そうね。少しだけ時間を過ぎていたと思うわ」
「多分だけどそれって時差の関係だからそこからも大体の時間を割り出せるじゃないかな。ああいう曲を流す以上はそんなに遅い時間じゃないと思うしあの日流されたラジオを片っ端から調べれば見つかるんじゃないかな」
エイラの言葉にサーニャは一瞬顔を輝かせたがすぐにガッカリした様な表情になった。
「ダメよエイラ、オラーシャは広いのよ。時差とラジオで場所を絞れても範囲が広すぎるわ。それにあれから時間が経っているしモスクワ解放後だと尚更そこにいるとは限らないわ」
「そうだな。だけど探し始めのキッカケくらいにはなるだろ?」
探すと言ってもがむしゃらに探していては見つかるものも見つからない。エイラもオラーシャの広さはよく知っているため見つけ出すためのキッカケとしてエイラは提案していた。
「……そうね。エイラの言う通りかもしれないわ」
サーニャは頷いて同意した。
「だろ? 焦ってがむしゃらになってもどうしようもないし確実な手掛かりからゆっくり探していこう」
今回の話は随分と前にチラリと書いた話を回収した形なんで正直自分で読み直さないとダメでした。本当にこの事につながるエピソードを書いていたかどうかとか確認してました
電離層がかなり優秀な存在で当初はサーシャを噛ませようと思っていたのが全て破壊されました。いい思い出です。