モスクワ奪還は北方、西方のニ方面軍が中心となって実行された。東方方面軍がモスクワ近郊まで近づくには時間がかかりすぎるからだ。オラーシャ帝国は自国を中心とした軍での奪還を望んでいたため暫く待つという選択が事前に協議される事になった。しかしそれはオラーシャ皇帝アレクセイの鶴の一声でかき消されモスクワ奪還ぎ優先される事となった。
「まさかサーシャが前線のウィッチ隊の指揮官になるなんてな」
皇帝アレクセイは自国の軍の大半が参加できない事を認めはしたが代わりに主力となる最前線のウィッチ、その指揮官を502統合戦闘航空団の戦闘隊長であるサーシャにさせるよう要請した。501、502ともに指揮官であるラル、ミーナが年齢的にいつ上がりを迎えてもおかしくない事。501の戦闘隊長であるバルクホルンもまた同様である事からそれは許可された。
ウィッチ隊全ての指揮官であるエイラは作戦に参加するウィッチ全体の指揮統制にあたる事になるため後方でサーニャと共に見守る事になった。
「アイツの出世は嬉しいけど……」
「何か問題があるの?」
「サーシャが前線の指揮官になるってことはわたしは戦う機会がないってことだろ?」
「そうね。だけどそれはわたしもそうよ」
サーニャはモスクワに住んでいた期間がそれほど長くないとはいえ母国の首都奪還には関わりたいと思っていた。
「ごめんよサーニャ」
「わたしがしたくてやってる事だもの。謝ることはないわ」
エイラはヴァシリー破壊に際して戦場にはいたが戦闘には参加できなかった。ヴァシリーの破壊そのものは嬉しかったが同時に自分が参加できなかった悔しさも確かに存在していた。だからサーニャが今回の作戦にまともに参加できない悔しさが痛いほどわかった。
「それで、戦う機会のないことの何が問題なのよ」
「大有りだよ!」
エイラの大声にサーニャは肩を振るわせた。
「このままじゃマルセイユの奴に負けるじゃないか!!」
てっきりもっと重要なことだとばかり思っていたサーニャは拍子抜けした。
「別にいいじゃない」
「サーニャはわたしが負けてもいいって言うのか!?」
「そうじゃないけど……」
それ以上に大事な事が他にあるはずだとサーニャは思った。
「ハルトマンに負けるのはともかくマルセイユの奴には負けたくないんだよ。あんな挑発しといて負けて悔しがるアイツの顔を見る為にもな」
苦々しげな顔でそう告げるエイラにサーニャはため息を吐いた。
「別にいいじゃない。負けても戦いが終わった後にご飯を奢るだけなんでしょう?」
「それがそうでもないんだよなぁ。もし負けたら色んな人から袋叩き似合いそうな気がするんだよ」
「どう言う事?」
肩を落としてそう語るエイラにサーニャは問いかけた。
「各国のウィッチで今回の件が賭けの対象になってるのは知ってるよな?」
「知っているわ。それがどうしたの?」
この賭けはナイトウィッチを通して世界中で行われている。ナイトウィッチのサーニャが知らないはずがなかった。
「どうやらそれに軍の高官の一部も関わっているみたいなんだ」
エイラの言葉にサーニャは空いた口が塞がらなかった。
「それって軍規違反じゃないの?」
「軍規を作るのは軍のお偉方だしどうとでもなるんじゃないか?」
吐き捨てるようにエイラは言った。
「マンネルヘイム元帥がわたしに賭けてるせいで負けるとどうなるか……」
そう言ってエイラは頭を抱えた。
「だけどエイラはこれまでの作戦で少しスコアを伸ばしているしまだゼロの2人よりは少し有利なんじゃないかしら」
実のところエイラは指揮官として参加した作戦でどさくさに紛れてスコアを3伸ばしていた。この他にもあえて移動に飛行機ではなくストライカーユニットを使うなどしてネウロイとの戦闘が起きる確率を上げる事で更にスコアを2伸ばしているため合計で5スコアが増えていた。通常であればこれはエースと認められるスコアであり並のウィッチでは生涯かけても達成できない数だった。
「たったの5機じゃあの2人にすぐ抜かれらに決まってるじゃないか!」
もっとも、それは並のウィッチであればの話であり今エイラが競い合っているのは航空ウィッチとしては歴史的に見ても最上位に入る実力者だ。このくらいの差はあってないようなものだった。
「モスクワ奪還で抜かれるとは限らないわ。いくらあの2人でもネウロイが子機を従えるタイプならスコアを伸ばす事はできないしこれまでのみんなの頑張りでモスクワのネウロイが減っているはずだからそんなにスコアが伸びるとも思えないわ」
モスクワ奪還に際しては当然事前に漸減作戦が行われていてモスクワにいると思われるネウロイは大幅に数を減らしていると考えられ。その上今回の作戦に参加するウィッチはこれまでにない数になる事かウィッチ達はその少ないネウロイを奪い合う事になる。実力的にエイラ達がより多くのネウロイを屠れる事は間違い無い。それでもその数がこれまでよりも少なくなる事は間違いなかった。
「だとしてもあの2人なら最低でも同じ、最悪わたしの倍くらいにスコアを伸ばす可能性があるだろ」
しかしサーニャの計算は最大限甘く見積もった場合の話で最悪の場合は倍どころではすまないスコアを稼がれる可能性も十分あった。
「そんなのやってみないとわからないわ。それになにもモスクワだけがオラーシャじゃないわ。モスクワを奪還してもまだまだ奪還できていないオラーシャ領土は多いわ。そこでスコアを稼げばいいじゃない」
サーニャの言葉にエイラは暫くの間ポカンと口を開けると悪どい笑みを浮かべた。
「そうか、そういえばそうだったな」
エイラ、と言うより多くの人々にとってモスクワ奪還はオラーシャ奪還とイコールになっている。モスクワはオラーシャの首都でありこれまでのカールスラント奪還やヴェネツィア奪還についてもそれぞれ首都にできたネウロイの巣を破壊する事で奪還したとみなされていたからだ。ヴェネツィアはともかくカールスラントについては南東部にネウロイ勢力圏が残っていたがそれでもベルリンを奪還した事でカールスラントは奪還したとみなされた。
オラーシャ奪還作戦においてもオラーシャの奪還は即ちモスクワの奪還だと多くの人間が考えているがオラーシャはカールスラントと違いモスクワ以東、ウラル山脈以西にいくつか大きな都市が存在する。特にクリミア半島のセヴァストポリやオデッサはオラーシャ帝国の重要な港湾都市の一つでこれらの奪還も今回の作戦では行われる事になる。
「それならうまくマルセイユ達を騙してモスクワ奪還で勝ったと思い込ませてアフリカに叩き返せば……」
卑怯なことを呟くエイラにサーニャは胡乱な視線を向けた。
「卑怯な事はしないでほしいわ」
「そうだな。マルセイユをアフリカに叩き返すのは流石にダメだよな」
サーニャの言葉を受けてエイラは素直に頷いた。
「でも油断して自分から帰るようならわざわざ止める理由はないよなぁ」
悪どい笑みを浮かべながらエイラはそう呟いた。
「エイラ」
その言葉にサーニャは鋭い視線を向けた。
「な、なんだよ」
「マルセイユさんとハルトマンさんにちゃんと条件を伝えるべきよ」
「えー。こう言うのって知らない奴が悪いんであってわざわざ伝える必要なんか無いだろ」
不満そうな口を尖らすエイラをサーニャは睨みつけた。
「卑怯な事をして勝つエイラなんて見たくないわ」
「これのどこが卑怯なんだよ。ルール上はオラーシャ奪還までって話になってるからそれを勝手にモスクワ奪還までって解釈する奴が悪いんであってそれを伝えない奴はなにも悪くないだろ!?」
抗議するエイラにサーニャはため息を吐き肩を落とした。
「分かったわ」
「そうか! 分かってくれたか!!」
ならいいんだと嬉しそうに頷くエイラにサーニャは鋭い視線を向けた。
「わたしからハルトマンさんとマルセイユさんに伝えておくわ」
「……え゛?」
「エイラが2人に伝えないのはエイラの自由だけどだからってわたしが伝えちゃダメなわけじゃないでしょう?」
「それはそうだけど……」
サーニャの予想外の裏切りとも言える言動にエイラはたじろいだ。
「今度会った時伝えるから。止めても無駄だからね」
サーニャの強い言葉にエイラは肩を落として頷いた。
ふと思ったんですげどナイトウィッチ万能すぎじゃないですかね。
ナイトウィッチが1人いればそれだけで通信関連の問題が全て解決できるわけですけど元々ウィッチは特殊部隊向きな性能をしていますがナイトウィッチの存在がそれを余計に際立たせていますよね。
年齢制限がなければウィッチで構成された特殊部隊とか作ったらとんでもなく活躍しそうですね。まあその辺は未成年が混ざる関係上まともな教育をできないでしょうし条約でも縛るだろうしで結局まともな部隊ができない気がしますね。