ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

あとベルリン編を分割して後半をオラーシャ編に変えました。


モスクワ郊外

「なかなか上手くいかないもんだな」

 

モスクワ近郊でネウロイが駆逐される様子を見てエイラが発した言葉だった。

 

「ネウロイは順調に駆逐されている。なにが不満なんだ」

 

「逆に聞くけどガランド中将は今の状況に不満がないのかよ」

 

エイラの問いかけにガランド中将は少し考えると言った。

 

「強いて言うなら私自身がネウロイと戦う事ができない事くらいだろうか」

 

「そう、それだよ。本来ならネウロイと戦ってモスクワのネウロイの強さを肌感覚で知るつもりだったのに……」

 

「ほう。ならそれをリトヴャク大尉に直接伝えたらどうだ?」

 

どこか面白そうに笑みを浮かべてガランド中将は言った。

 

「まぁ、強さを知る事は絶対にしないといけない事じゃないしサーニャに悩みの種を植え付ける事はわたしの本意じゃない」

 

「そう言いながら本心はスコアを伸ばしたいだけだから後ろめたい気持ちがあるからじゃないのか?」

 

「スコアを伸ばしたい気持ちはあるけどわたし個人としてはそこまでスコアにこだわりはないだよな」

 

「おや、そうなのか? 意外だな。マルセイユ達とスコアアタックをするくらいだから自分のスコアにこだわりを持っているものだと思っていたが違うのか?」

 

ウィッチは大別するとスコアを気にするタイプと気にしないタイプのにタイプに分けられる。

 

「ここまでスコアが伸びたらスオムス国内にわたしを超えるスコアを持つウィッチはいない。世界に目を向けてもそれこそハルトマンとかマルセイユ、バルクホルンみたいな世界でもトップのエースウィッチくらいしか存在しないし今更スコアを伸ばしたところでわたし個人にはなんのメリットもないからな」

 

「達観しているな。だがそれなら何故ハルトマン、マルセイユとスコアアタックなんかしている」

 

「スコアに興味はないけど挑発されたのに逃げるのはウィッチらしくないだろ」

 

歳の割に大人びているがエイラはまだ17歳。同年代のウィッチからの挑発を受け流せるほど大人ではなかった。

 

「リトヴャク大尉の言う事など無視して勝ちに行けばいいのにそれはしないんだな」

 

多少の障害なら無視、あるいは粉砕して前進するのがウィッチというものだ。いくら親しかろうともそれくらいの事情で自重すると言うのはガランド中将が知るウィッチとはかけ離れた行動だった。

 

「そんな事して嫌われたらどうすんだよ」

 

エイラの言葉にガランド中将は目を瞬かせると笑った。

 

「ハッハッハッ! そうか、スオムスの英雄も親しい友人に嫌われるのは怖いか」

 

心底面白いとばかりに笑うガランド中将をエイラは睨みつけた。

 

「悪いかよ」

 

ガランド中将は笑いながら手を振り否定した。

 

「いや、大切に思う友人を持つ事はいい事だ。大事にしたほうがいい。それが他の国の友人であれば尚更だ」

 

「国は関係ないだろ」

 

「このご時世だ。同じ国同士でさえ少し離れている間に親しい友人が死んでいたなんて事もザラにある。国が違えば一度離れてしまえばそう簡単には会うことができない。必竟、合わない間にどちらかが戦死していてもなんらおかしくはない。共に入れる時間は大切にすべきだ」

 

「縁起でもない話だな」

 

「だがそれは紛れもない事実だ。世界的にも最上位の実力者であるハルトマンでさえベルリン奪還直前に撃墜されあわや戦死したかと思われた。ユーティライネン少将もそれがないとは言い切れないし実力的に2人に大きく劣るリトヴャク大尉なら尚更だ」

 

言うまでもない事だがサーニャの実力はエイラと比べると大きく劣る。ナイトウィッチとしては世界有数の実力者であるがナイトウィッチ以外の他のエースウィッチと比べるとその実力は特筆して高いわけではない。

実力的には普段の出撃で撃墜されることが十分あり得る実力であり滅多なことでは撃墜されないハルトマン、エイラと言った世界有数のエースと比べると幾分か見劣りする。

 

「わたしが何のためにサーニャを副官にしたと思ってるんだ。よっぽどの事がない限りこの戦争中にサーニャがわたしの元を去ることはあり得ないよ」

 

「職権の濫用か」

 

「文句あるのかよ」

 

「まさか。地位には相応の権力がついて回るものだ。多少の我儘は許されて然るべきだろう」

 

エイラの周りでは高い地位にいる人物ほど好き勝手に生きている人物が多い。それでいて自分の所属する組織に悪影響は与えずさらに地位の高い人から処分されるような事もない。下でこき使われる側としたら迷惑な事この上なかった。

 

「それに振り回される下の奴らは可哀想だけどな」

 

「君の場合はリトヴャク大尉だな」

 

「そんなわけあるか。サーニャに止められたら我儘なんか言わないから振り回してない」

 

大抵の場合エイラはサーニャが否と言えば無理に実行する事はない。

 

「逆に言えばリトヴャク大尉に止められなければ我儘を言って振り回すのだろう?」

 

「振り回してない。人聞きの悪い事を言うな」

 

仮に振り回したとしてもそれは上からの無茶振りに応えるためであって断じてエイラの意思ではないとエイラは言った。

 

「上に振り回されるのはどこも一緒か」

 

「ガランド中将も経験があるのか?」

 

「当たり前だ。このジェットストライカーだってある皇族が地上のネウロイを攻撃するための高速爆撃機運用をしようと言い出した時にはダイヤモンド剣付柏葉騎士鉄十字章を叩き返して抗議したりもしたさ。お陰でその計画は頓挫してコレは無事戦闘機運用がされるようになった」

 

「皇族相手によく抗議できたな」

 

エイラが感心した様子で言った。

 

「皇族と言っても先先代皇帝の孫で皇位継承権も無いに等しい人物だからな」

 

「だとしてもリスクは相当あったんじゃ無いか?」

 

「せいぜいウィッチ隊総監を罷免されるくらいのものだ。大したリスクじゃ無い」

 

カールスラントのウィッチのトップであるウィッチ隊総監の解任となれば相当なリスクだとエイラは思った。

 

「上がりを迎えたとしても私はウィッチだ。ウィッチの死傷率に関わるストライカーユニットが間違った運用をされそうになっているのならば先達としてそれを止め正す義務がある。もしそれで私が罷免されたとしても本望さ」

 

「罷免された上に目的も達成できなかったら何の意味もだけどな」

 

「その時は私の後任に期待するとしよう。私は地位に見合った行動をしなければならないがそれはあくまでも地位あってのものだ。その地位を終われたのであれば私は一兵卒として前線でネウロイと戦うだろうさ」

 

「……もしかしてそれを望んでたのか?」

 

今現在はウィッチ隊総監と兼任してJV44の司令官職に就いている。上がりを迎えても出撃しようとするウィッチは多くガランド中将が現在こっそり出撃している事を鑑みるに心のどこかで罷免される事を望んでいたのではないかとエイラは思った。

 

「私はこれまで散々若いウィッチを戦場に送り出してきた。私自身も再び戦場に立ち彼女達と同じ立場に立ちたいと言う思いがないわけではないがここに来てこれまでやってきた事に対する責任を放棄するような事をしようとは思わない」

 

「今ここにいるのにか?」

 

「それとこれとは話が別だ」

 

事もな気にそう言うガランド中将にエイラは胡乱な視線を向けた。

 

「……もしここで2人して戦死でもしようものなら2人してデカい責任を放棄してあの世に逃げ出す事になるな」

 

「上がりを迎えた私はともかくユーティライネン少将がそうなる事はないだろう」

 

「さっき自分でハルトマンでさえ戦死しかけて私がそうならないとは限らないって言ったのは中将だろ?」

 

手のひらを返すような発言をエイラは咎めた。

 

「ハルトマンとは違ってここには私のJV44とリトヴャク大尉がいる。もし強大なネウロイが現れても足止めくらいは容易だし未来予知を使えるユーティライネン少将だけなら我々が稼いだ時間で離脱する事くらい容易だろう」

 

最悪の場合は自らと部下の命を犠牲にしてでもエイラを逃すと発言するガランド中将にエイラは眉を顰めた。

 

「勘違いしているようだがこの場で最も価値のあるウィッチは私ではなくユーティライネン少将だ」

 

「過大評価だな。スオムス程度の国の少将と大国カールスラントの中将とじゃあ間違いなく後者の方が価値があるだろ」

 

「連合軍の重鎮とカールスラントの中将とでは間違いなく前者の方が価値がある」

 

反論するエイラをガランド中将は冷静に諭した。

 

「……確かにそうかもしれないな」

 

ため息混じりにエイラは認めた。

 

「けど中将も一つ勘違いしてるぞ」

 

次の瞬間、エイラは身に纏う空気を剣呑なものに変えた。それは歴戦のガランド中将をして思わず距離を取りそうになるほどのものだったがエースウィッチとしての矜持が辛うじてそれを押し留めた。

 

「私がここにいる全員よりも劣るわけないだろ。お前達全員が犠牲になって足止めするよりも私1人が残ってネウロイを撃破する方がはるかに犠牲も少ないし確実な戦果を上げられる。あんまりわたしを舐めるなよ」

 

「流石に現役でもトップクラスなだけはある。引退した私ではジェットストライカーがあっても到底敵いそうにないな」

 

そう言いながらもガランド中将は内心で現役時代にジェットストライカーがあってもエイラには敵わなかっただろうと思った。

 

「護衛対象が護衛よりも強いなど本末転倒もいいところだがウィッチである以上そう言う事も起こり得るか。少将はもう少し護衛の不必要性と言うものをリトヴャク大尉に主張してもいいんじゃないか?」

 

その問いかけにエイラは元の雰囲気に戻ると答えた。

 

「せっかく心配してくれてるんだ。無碍にする必要もないだろ。それに高官に護衛がいないってのが問題なのも事実だしな」

 

「それもそうだな」

 

護衛の人員を他の任務で使えるメリットなど言うまでもない事だが連合軍の重鎮が完全に無防備なのは側から見れば心臓に悪い。無理に護衛を外す必要もないかとガランド中将は思った。




本作は2020年の8月から初めて今年で4年目を迎えます。今年の目標としては前半でこの戦争を終わらせたいなと思ってます。

さて、戦争が終わるで思ったのですけどクリミアとかウクライナ近辺のネウロイ事情ってどうなってるんですかね。ネウロイの巣はあると思うんですけど黒海周辺って何の情報もないからどう進めるかすごく難しいです。何か詳しい資料等ありましたら教えていただなると幸いです。まぁ、なければ想像で進めるかダイジェストで終わらすかしますけど。
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