モスクワのネウロイの巣破壊から半年後。バルカン半島及び黒海沿岸、そしてアフリカは解放された。
「モスクワで温存された対ネウロイ用兵器の数々を全部投入したおかげでわたし達の出番はなし。これからは順次軍を解散して祖国に帰る事になるんだろうな」
モスクワでの戦いは当初の予定通りこの戦いでウィッチが大規模運用された最後の戦いとなった。
「マルセイユさんは不満そうにしていたわね」
「結局ハルトマンの一人勝ちだったからな」
ネウロイとの戦いが終わった時点での最終スコアはハルトマン396、マルセイユ348、エイラが312だった。なおバルクホルンは349でこれを超えられなかった事をマルセイユは悔しがっている。
モスクワを巡る一連の戦いではハルトマンが24、マルセイユ22、エイラが23であった。最近のネウロイ側の事情として子機を大量に用いる戦術だったためエイラ達のスコアは劇的には伸びずこの程度のスコアで収まった。なお、バルクホルンは16でこの時はマルセイユから散々煽られている。
「今にしてみればマルセイユがモスクワに投入されたのもアフリカ方面である程度ネウロイ殲滅の目処が立っていたからだったんだろうな」
アフリカは精密機械が砂で故障しやすいと言う点から戦車や戦闘機の大規模運用には向かなかった。しかしそれはあくまでも戦争初期の話だった。エイラは知らなかったが1945年には砂が入りにくい信用性の高い兵器も配備されモスクワ奪還後には対ネウロイ用気化爆弾や魔導徹甲弾の大規模運用でネウロイはアフリカから姿を消した。
「エイラはいつ頃スオムスに帰るの?」
モスクワ解放後各統合戦闘航空団は501を除き前線から離れた。
「しばらくはワルシャワに滞在する事になると思う。各部隊の帰還を見届けてからだから早くて一ヶ月後とかじゃないかな」
オラーシャ奪還後、バルカン半島に軍を向ける際にワルシャワには連合軍司令部が置かれる事になった。その主な業務は補給と部隊の帰還計画の策定と実行だった。
戦線が縮小した事に伴い不要な部隊は祖国に返す事が決まったのはモスクワ奪還後すぐのことだった。特にウィッチ隊は有力な部隊を残して殆ど部隊は祖国への帰還を許可されその数は最盛期の四割ほどにまで数を減らしていた。
「じゃあわたしもそれまではワルシャワにいる事になるのね」
「ごめんよ」
サーニャの両親を探すと言う目的をなかなか達成する事ができないことがエイラは
「501のみんなもいるし、少し遅れるくらい気にしてないわ」
司令部の防衛部隊として501、ベルリン防衛に502、モスクワ近辺の残敵掃討のために503、504はロマーニャ防衛、バルカンの残敵掃討に505が任命されている。
他に506Aはブリタニア、同じくBはリベリオンで戦勝パレードに参加し507はスオムスで、508は扶桑で戦勝記念式典に参加する予定となっている。
他にもいくつかの国で戦勝記念の式典に参加予定でそれらが終わり次第統合戦闘航空団は解散される事となる。
「多分統合戦闘航空団が解散されるより先にわたしがここを離れる事になると思う」
「そうなの?」
「うん。他のウィッチと違ってわたしはスオムスでそれなりの地位にいるからな。だけどネウロイを倒しきった直後の今ならすぐに仕事に取り掛かる必要もないしわたしの後任が決まればサーニャの両親を探しに行こう」
それほど有名でも無いサーニャの両親を見つけるためには、ただがむしゃらに探していても意味がない。
そこでエイラはモスクワを奪還してから半年間、事あるごとにサーニャをメディアの前に出すようにしていた。それはサーニャの両親にその姿と居所を見てもらう機会を少しでも多く作るためだった。
「エイラは責任ある地位についているんでしょ? 迷惑かけちゃダメよ。わたし一人でいいわ」
「馬鹿なこと言うなよ。わたしがサーニャとの約束破るわけないだろ」
「けどエイラ……」
「たしかにわたしはそれなりの地位にいるけど、変わりはいくらでもいる。最悪やめたっていいんだ」
エイラが辞めると言えばマンネルヘイム元帥を筆頭に全力で止めようとする人物は多い。だがそれはエイラが本気で辞めようと思えば辞められる。それくらいの障害でしかない。
「それはダメよ。エイラを必要としている人は沢山いるんだからそれには応えないと」
「わたしの仕事はネウロイを全部倒した事で終わったんだよ。後の事はやりたい奴に任せておけばいいさ」
「そんなわけにはいかないでしょ」
「いいや、そんなもんだ。地位ってのは相応しいやつに与えられるものだけど、それが国家に一人だけしかいないなんて事はそうそうない。わたしの代わりなら実績はともかく実力面なら劣らない奴が何人もいる」
例えば24戦隊の司令官ルーッカネンなどはウィッチとしての実力はエイラに劣るが指揮能力、事務処理能力は匹敵するものがある。エイラがいなくともスオムスはこの先うまくやっていけるとエイラは確信していた。
「どうせしばらくしたらマンネルヘイム元帥達今の軍首脳部は退任するだろうし、それに乗じて辞めるのも手かもな」
このまま軍にいてもエイラが空を飛ぶ機会は減る一方だろう。ならば今の内に在野に下り、おそらく大量に廃棄されるであろうストライカーユニットを安く買って空を自由に飛び回るのも楽しそうだとエイラは思った。
「わたしが空を飛べる期間もあんまり長く残ってないし、今の内に自由に飛び回りたいな」
その時部屋がノックされエイラ達宛の手紙と書類が届けられた。軍や政府の関係者以外からもエイラ達には多くの手紙が届く。それらのエイラ宛の手紙は専門の部署で検閲された上でエイラの元に届けられる。そしてそれはサーニャも同様だった。貴重なナイトウィッチであり501に所属していたサーニャ宛の手紙もエイラ宛のものと一緒に検閲され届けられる。本来なら二人の手紙は別々に検閲されるがそれだとサーニャ宛のものは手元に届くのが少し遅くなる。そこでエイラはサーニャ宛のものもエイラ宛のものと一緒に検閲させるようにしていた。
「今日も沢山届いたわね」
エイラやサーニャに届けられる手紙はファンかからのものが多い。ウィッチ同士であれば通信か、手紙を書くにしても別ルートで送られてくるため今回の手紙には含まれない。今回届いた手紙は基本的には軍や政府に関係ない人達からのものでそれらはほぼ例外なく分厚い封筒か、見た目からして拘っているものが多かった。今エイラに届いたものであれば大きなハートマークを封筒に書いているものなどがあった。おそらく少しでも爪痕を残そうと必死なのだろう。
「そうだな。こういうのも戦争が終わったからちょっとずつ減っていくんだろうな」
寂しいような、嬉しいような。複雑な気持ちだった。
「今日もエイラは手紙の確認からするのよね」
「日課だからな」
戦争終結直後とあって事後処理のための書類は多い。本来ならそちらを優先したほうがいいがエイラは手紙が届くたびにそちらの処理から始めていた。
「……これはサーニャ宛だな」
それは珍しく簡素な封筒だった。オラーシャ語でシンプルに宛名と差出人の名前だけが書かれた手紙は普段のエイラなら特に気にも留めなかった。
しかし差出人の氏名に見覚えのある文字が使われていた事でエイラは思わず小さく笑みを浮かべサーニャに手渡した。
「後で一度に見るわ。それより今はこの書類の山を仕分けしないと」
優先度の高いもの低いもの。それらを仕分けるのはサーニャの役目だった。その最中にわざわざ手紙を一つ一つ渡されて読んでいては効率が悪くサーニャは後にするように言った。
「いいから。これだけ読んでみろよ」
エイラに勧められて渋々手紙を手に取り差出人の名前を見るとサーニャは目を大きく見開いた。
そして震える手でペーパーナイフを手に取るとゆっくりと開封した。
中の手紙を読んだ瞬間、サーニャは泣き崩れた。それはエイラが待ち望んだ瞬間でもあり同時にサーニャとオラーシャに行く必要がなくなった証でもあった。
というわけでここからは少し時間軸が飛びます。戦後のみんなの進路をチラッと書くか一気に飛ばすかは迷ってますけどまぁいずれにせよここからは人類の時間です。地球の主役はあくまでも人間でネウロイのクソ野郎ではありませんから。
って事でこの後の展開にも関わるちょっとした世界事情の考察を。
まぁ個人的に一番荒れそうなのはカールスラントだと思っています。うまく撤退してほぼそのままノイエに持ってたと言いますけど間違いなく向こうで成功した人もいるわけでそういう人達はまぁ間違いなく帰るの嫌がりますよね。逆にノイエで失業した人とかもいそうですけど。
成功した人たちはおそらく失業した人たちを吸収しているわけでこの失業者は元の職に復帰するのか、それとも現職に留まるのか。
仮に失業者が戻ったとしてもその前の職に本当に復帰できるのか。
成功者はノイエに残りたがるし失業者は……どうなんでしょうね。まぁ間違いなく帰還組と現地組に分かれそうですよね。
そう考えるとガッツリ失敗したガリアの方が案外その点では幸せだったのかも知れませんね。なんせ戦後に経済に関するゴタゴタは少なそうですから。あったとしても南北の係争くらいでしょう。たぶん。