ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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そういえば章題をネウロイのいない時代とどっちにしようか迷ったたんですよね。

前話にてルーデルとペリーヌが友人関係になったタイミングに誤りがあったので修正しました。
モスクワ奪還の頃に友人関係です。

あと幕間としてそれぞれの戦後を描こうと思ってます。取り敢えず今はペリーヌさんを書いてます。


1950年

スオムス共和国 首都ヘルシンキ

 

「久しぶりだなサーニャ!」

 

「エイラ、久しぶり」

 

ネウロイとの戦いが終わり両親と再開できたサーニャは軍を辞め両親と共に暮らしていた。対するエイラは帰国後スオムス空軍中将に昇進すると直後にスオムスで、そして世界で初となるウィッチの指揮統括を専門とする魔道軍総司令官に就任。同時に所属を空軍から魔導軍に変更し魔導大将の階級が与えられた。

軍で最高位の地位についたエイラにプライベートな時間は殆どなく、こうしてエイラとサーニャが出会うのは戦争終結以来初めての事だった。

 

「ユーティライネン大将。娘だけでなく私達も招待していただきありがとうございます」

 

そう言って頭を下げたのはサーニャの両親だった。

 

「サーニャの両親なんだから当然です」

 

サーニャをスオムスに招待するにあたりエイラはサーニャの両親もスオムスに招待していた。

戦争終結後、マンネルヘイム元帥を筆頭にスオムス軍上層部の多くは勇退した。一部は戦後処理のために残っていたがそれも戦争終結から三年も経つと全員が引退しエイラは名実共にスオムス軍で最高の権力者となっていた。

ヘルシンキで最高級のレストランでサーニャとその両親を歓迎した後、エイラ達はサーニャの両親と別れエイラの家で久しぶりに二人で会話の時間を楽しむことになった。

 

「ねぇ、エイラ」

 

「なんだ?」

 

サーニャが恐る恐ると言った様子で尋ねてきたのは離れ離れになっていた約三年の間の出来事をひとしきり話し終えた後のことだった。

 

「エイラが上がりを迎えたって噂を聞いたわ。シールドを張るどころか空を飛ぶことさえできないって」

 

その噂を聞いたのは偶然だった。引退したとはいえまだ魔法力のあるサーニャは魔導針を用いて時折ナイト・ウィッチと交信している。その時に聞いたのがエイラが上がりを迎えたと言うものだった。

エイラは20歳を迎えてもなかなか魔法力の減少が起きなかった。それはウィッチの間では有名な話でいつまでも空を飛び続けるエイラを羨む声も少なくなかった。

しかし最近、21歳になってからエイラにもとうとう魔法力の減少が起きたと言う噂が流れ飛ぶ事が何より好きなエイラが飛べなくなったと言う話にサーニャは心を痛めていた。

 

「あ〜、その話か」

 

気まずそうに頬をかくエイラにサーニャは

 

「たしかに上がりは迎えたよ。だけどシールドを張れなくなったくらいで飛ぶことも固有魔法を使うこともできるんだ」

 

エイラの言葉にサーニャは驚いた。

 

「どう言う事?」

 

「話せば長くなるけど簡単に言うとバルトランドの警戒を解かせるためだな」

 

スオムスに極めて友好的だったバルトランドは戦後になり政策を転換した。軍事、経済共にバルトランドを脅かすほどにまで成長したスオムスはネウロイ討伐後のバルトランドにとって最大の仮想敵となった。

再びネウロイのような怪異が出た際に対処するために作られた国際機構、国際連盟。国際連盟おいて最高の意思決定機関である国際連盟安全保障理事会の常任理事国の一国にスオムスがなっている。

安全保障理事会そのものは主に次の怪異に備えるために結成されたがそのためには世界の団結が不可欠であるとされる。世界の意思を統一するために七つの常任理事国は絶大な権力を有しこの立場にいるだけでスオムスは他の大国に引けを取らない強国となっていた。

この事がバルトランドの警戒心を最大にまで高めた。もしスオムスが攻めてきたらその絶大な権力を利用していたも容易く併合してしまうのではないか。そんな猜疑心からバルトランドは軍事力を強化し続けた。

 

「バルトランドはスオムス魔導軍が保有する引退したウィッチを除く航空ウィッチ128名全員とわたしが同等の戦力だって考えてるらしいんだよ。馬鹿な話だよ。ウィッチを戦場に出すわけがないのにな」

 

世界の軍事専門家にとってウィッチが強力な兵器であるというのは共通認識だ。しかし道義的にウィッチと言う若い少女達を兵器として運用する事が正しくないと言うのもまた共通認識であり警戒はすれど実際に使う事はないだろうとも考えられていた。

 

「バルトランドがそう思いたくなる気持ちはわかるわ」

 

エイラの未来予知は強力だ。敵の攻撃や未来位置までわかるこの固有魔法はストライカーユニットの性能差と言うものを無いに等しくする。こちらがどれだけ高性能なストライカーユニットを用意しようとも未来予知を使えるエイラの前では殆ど無意味となる。その理不尽さを同じ部隊にいたサーニャはよく知っていた。

 

「わたしが戦闘不能状態になったら、あの国も過剰に警戒する事をやめるはずだよ」

 

エイラ達スオムスの上層部は、隣国バルトランドとの間に大きな戦力差があると思われている事が、バルトランドがスオムスを警戒する理由の一つだと考えていた。

 

「だけどエイラはそれでいいの? 空を飛ぶの好きだったでしょう?」

 

「わたしが飛べなくなった思えばこの無意味な緊張状態も解けるかもしれない。それと比べたらわたしが飛べるかどうかは些細な問題でしかないさ」

 

どこか寂しそうに語るエイラにサーニャは気遣わしげな視線を向けた。

 

 

「まぁ全部うまくいけばいいけど、これ言い出しだのがブリタニアの情報部だからなぁ。正直あの国連中をあんまり信用したくないんだよな」

 

「ブリタニアと協力しているの?」

 

長年蜜月関係にあったオラーシャではなくブリタニアの名前が出たことにサーニャは驚いた。

 

「最近はオラーシャともそれほど仲良くなくなってきたからな」

 

元々スオムスはオラーシャと友好的な関係を築いていたがそれが大きく変わったのは戦後になってからだった。

世界的に軍縮傾向にある中でスオムスを警戒したバルトランドはカールスラントから大量の武器を購入し軍拡を進めた。それに対してスオムスはブリタニア、オラーシャと協力し経済的にバルトランドを締め上げる事を画策した。だがこれはオラーシャがスオムスに対して武器を売りスオムス、バルトランド間で軍拡競争をさせようとした事で頓挫した。

オラーシャとカールスラントの代理戦争を起こさせようとしている事を察したスオムス政府は早々にオラーシャと手を切りブリタニアと友好関係を結び武力以外の手段で衝突を避ける事を志してきた。

 

「けどエイラがいなくなったから今がチャンスだって考えるかもしれないわ。その時はどうするの?」

 

「その時は仕方ない。力で対抗するしかないだろうな」

 

その為のプランもスオムスは用意している。バルトランドにとってスオムスが仮想敵であるようにスオムスにとってもバルトランドは仮想敵だ。

もし攻めかかるようなら対応するがそうはならないだろうとエイラは思っていた。

 

「だけどスオムスは常任理事国だ。手を出したら国際社会から爪弾きにされる可能性があるし仕掛けてはこないと思うけどな」

 

ネウロイとの戦争は国同士が団結することの大切さを人類に教えた。もし戦争中に新たな怪異が現れれば次こそ人類は滅んでしまうかもしれない。そうならないように常任理事国は戦争を起こした国に対して制裁決議を提起する権利を持っている。それは経済、軍事力両面からのものとなりバルトランドが攻めてくるとは到底思えなかった。

 

「にしてもサーニャみたいな一般人までわたしの噂が回ってるなんてブリタニアの情報部はすごいな」

 

ただ情報を広げるだけなら簡単だ。新聞やラジオを通じて無茶苦茶に広げればいい。だがそれがあたかも真実のように装う事は甚だ難しい。ましてやエイラと親しかったサーニャが信じてしまいそうになるともなればブリタニアの情報部に感心せざるを得なかった。

 

「わたしが聞いたのはナイト・ウィッチ経由だったけど軍所属のウィッチの間だと結構噂されているみたいよ。300越えのスコアを持つウィッチで唯一の現役がついに引退かって」

 

ハルトマンは医者になる為に大学へ、バルクホルンはウィッチ養成学校の教官に、マルセイユは上がりを迎えたため市井に降りたが以降の足取りは不明だった。他にも数人、300越えのウィッチはいたがどれも皆エイラよりも年上で引退済みだった。

 

「本当はまだまだ現役でいけるんだけどな。そう思われているならその方がいい。それでスオムスが戦火から遠ざかるならな」

 

寂しそうな表情を浮かべているがそれでも国の平和を最優先に行動するエイラは戦争末期に我儘で前線で飛び回っていたのは大違いだとサーニャは思った。

 

「いつかまた自由に飛べる日が来るわ」

 

「そうだといいんだけどな……」

 

その時だった。強く玄関の扉を叩く音が聞こえ、誰かがエイラを読んでいる声が聞こえた。

何やら叫んだ後、玄関の鍵と扉の開く音が聞こえ誰かが大急ぎでこの部屋に向かってきているようだった。

 

「この声はミッコだな」

 

サーニャは記憶を探りそれが昔エイラと同じ部隊に所属していたと言うウィッチの名前だと思い出した。

 

「アイツはわたしの副官をしているんだ。鍵も渡してあるから勝手に入ってきても不思議じゃないさ」

 

冷静だが、どこか緊張した様子のエイラにサーニャはいいしれぬ不安を感じた。

 

「イッル大変だよ!」

 

息を切らせて入ってきたミッコは開口一番そう言った。

 

「何が起きたんだ?」

 

「やられた! アイツら、バルトランドの奴ら宣戦布告してきた!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、エイラは勢いよく椅子から立ち上がった。

 

「そんな馬鹿な話があるか! ブリタニアからは何の報告もなかったしウチの情報部もあの国の軍隊が大規模に移動したなんて話はしてなかったぞ!!」

 

軍隊が動くとなればよほど上手くやらなければ他国に察知される。それが隣国バルトランドとなればいくら強力ではないとはいえスオムスの情報部が気が付かないはずがない。

 

「でも事実なんだよ! ラップランドに向けてバルトランド軍20万が進軍してきてる!!」

 

現在バルトランドが保有する兵力は陸海空合わせておよそ32万。20万という数字はバルトランドが動員できる最大の数字と言って良かった。

 

「……スオムス政府の対応は?」

 

「予定通り政府はイッルをスオムス国防軍総司令官に任命した。もうすぐイッルには司令部で指揮を取るようにって命令書が届くよ」

 

それを聞いたエイラは天を仰いだ。

有事が起きればエイラに最高指揮官の地位が渡される事は予定通りだった。しがしそれはエイラにとっては喜ばしいことではない。様々な犠牲のもとスオムスに平和をもたらそうとしているエイラの努力は今回の一件で全て無に帰した。

 

「エイラ……」

 

「心配するなサーニャ。サーニャとサーニャの両親には指一本触れさせないから」

 

そう言い残すとエイラはミッコを連れ立って家から出て行った。




ブリカスがブリカスしました。

人の時代の始まりです。この他にも色々と動きがあるんですけどまずはスオムスから始めます。
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