ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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最近指先をよく怪我する


捕虜

「捕虜にしたウィッチの処遇について、ニパから問い合わせが来てるんだけどどうする?」

 

捕虜の処遇。これはアウロラがバルトランド軍第六師団を撃退してからずっとエイラの頭を悩ませていた事だった。

 

「ニパの言う捕虜ってウィッチだよな」

 

「ウィッチだね」

 

ウィッチの捕虜に関してスオムスには明確な規定がない。これはスオムス独立以来、人同士の戦争でウィッチが明確な戦力として使われてこなかった事に起因する。

 

「普通の捕虜ならとりあえず適当な建物に入れればいいんだけど……」

 

「ウィッチを兵士と扱っていいのかどうかが問題だよね」

 

「ウィッチはわたしが説得してどこかに軟禁するよ」

 

「ここに移送するまでに逃げられないかな」

 

ハッセもエイラもウィッチだ。その強さはよく知っている。並の人間ではウィッチを護送するなど不可能だ。

 

「バラバラに移送する事で対処しよう。集団ならともかく個々に輸送すれば自分から脱走しようなんて気概のあるやつは少ないだろうからな」

 

邪な考えを抱く者が一人いれば、捕虜集団全員がそれに加担する可能性がある。だが一人ずつならいざという時、被害は最小で済む。

 

「わかったよ」

 

捕虜の扱いについて結論が出ると次は損害をどう補填するかに議論が移った、

 

「それにしてもニパは相変わらず運が悪いね。ジェットストライカーどうする?」

 

戦闘から帰還したニパは貴重なジェットストライカーをバードストライクにより失っている。本人は固有魔法で怪我を回復しているが、ジェットストライカーの損失はかなりの痛手だった。

 

「わたしのをニパにあげるよ。どうせ使わないしな」

 

ジェットストライカーは第24戦隊以外だと飛行学校に二機、司令部に一機配備されている。司令部の一機はエイラが使用していたものだが、戦争が始まった為、後方で死蔵するくらいなら前線で使った方がいいとエイラは考えた。

 

「また壊すかもよ」

 

「それならそれでいい。壊さずに仕舞い込むくらいならニパの不幸で壊れた方がまだマシだ」

 

「それもそうだね。問題はニパの履いていたジェットストライカーとイッルのジェットストライカーの機種だけど……」

 

「わたしのはヴァンパイアだな」

 

「なら一緒だね。ニパもヴァンパイアだったよ」

 

スオムスが運用するジェットストライカーは三種類。一つはブリタニア製のDH.100 ヴァンパイア。残りの二つはオラーシャ製のMiG-9とMiG-15だ。内訳はヴァンパイアが7機、MiG-9が22機、MiG-15が11機。飛行学校の二機、司令部の一機がヴァンパイアでそれ以外は全て第24戦隊が保有していた。

 

「最新のMiG-15じゃなかっただけよかったと思うしかないな」

 

「確かに、ヴァンパイアは少し旧式だけどMiG-15と違って予備部品調達が難しいから必ずしもよかったとは言い切れないんじゃない?」

 

バルトランドとの戦争でブリタニアと直接物資をやり取りするルートは無くなった。ムルマンから鉄道を使えば輸送はできるが、鉄道輸送では量が限られストライカー以外の物資が優先される。

 

「オラーシャにはMiG-15の輸出を打診してるからその結果によってはスオムスのウィッチは全員ジェットストライカー装備になる。そうなれば今回の喪失はどうとでもなるさ」

 

MiG-15は最新のジェットストライカーだ。スオムスとバルトランドの軍拡競争をさせたがっていたオラーシャにとっては今回の戦争は嬉しい出来事だった。ネウロイとの戦争で工業力は上がったとはいえ、技術力はまだまだ発展途上のスオムスは最新の武器は他国からの輸入に頼らざるを得ない。海上輸送ルートがバルトランドにより潰されている上に、ムルマンスクの経由もオラーシャを通じて行う必要がある為、スオムスの武器輸入は完全にオラーシャの支配下に置かれていた。

 

「オラーシャが値段を釣り上げる事なく、むしろ安い値段で武器を輸出してくれた事は不幸中の幸いだったね」

 

「そうだな。多分、スオムスの戦力だとこうでもしないと戦争が長引かないと思ったんだろ」

 

「……安くしても戦争が長引けば長引くだけ儲かるってこと?」

 

ネウロイとの戦争でスオムスは成長した国だ。戦争初期から中期にかけて、スオムスは最前線だったが、それ以降はオラーシャの戦車やカールスラントの戦闘機の生産拠点としての役割の方が大きかった。それによって得た富は莫大なものであり、戦争が与える経済効果というものがどれほど大きいのかよく理解していた。

 

「技術者にはMiG-15から技術を抜き取ってスオムス製のジェットストライカーを開発するように言ってるけど……」

 

「少なくとも戦争中に完成する事はないよね」

 

「少なくとも五年は待ってくれだってさ」

 

「五年か。それを迎えるためにも今回の戦いは絶対に負けるわけにはいかないね」

 

「そうだな」

 

「ところで陸軍からアウロラさんが捕まえた捕虜の扱いについても聞かれてたと思うけど……」

 

「せっかく忘れてたのに思い出させるなよな」

 

「忘れちゃダメでしょ。なんならウィッチの捕虜よりこっちの方が問題だよ」

 

一番の悩みの種はアウロラが得た捕虜だった。人間との戦争など長い事した事のないスオムスにはウィッチの捕虜に関する規定だけでなく人間の捕虜に関する規定もない。少数であれば営巣を使うなど手段はいくらでもあるが、数百人単位の敵国の人間を収容する場所はない。捕虜への対応にエイラは頭を悩ましていた。

 

「ネウロイならともかく人間相手に酷い扱いをするわけにはいかないよな。仕方ないから刑務所にでも収監しとくように伝えといてくれないか?」

 

「全員を収監できる刑務所ってあるのかな? そもそも収監できるとして、今収監している犯罪者はどうするんだろ……」

 

「一緒に収監するか、早めに釈放して場所を開けるかのどっちかになるんじゃないのか?」

 

エイラもハッセもスオムスの刑務所事情に詳しいわけではないが、人口五百万人程度のスオムスに、数百人を収容できる刑務所がそう多くない事は容易に想像できた。

 

「だけど釈放して犯罪を起こされたらイッルにも批判がくるかもしれないよ」

 

「それはもう仕方ないな。戦争に勝つには市民にも我慢してもらうしか……」

 

エイラは動きを止め、何か考え始めた。

 

「イッル?」

 

「もし犯罪者を戦力として組み込めるなら予備役の動員が終わるまでの繋ぎとして使えるとは思わないか?」

 

エイラの言葉にハッセは目を見開き驚いた。

 

「犯罪者でもスオムスの守るべき国民なんだよ!?」

 

「考えてもみろ。スオムスはネウロイとの戦いで国民全員が一丸となって戦った。およそ戦力になると思われる成人男性は全員が武器を持って戦えるだけの訓練が施された。それが今の予備役の多さにつながっている。犯罪者と言っても予備役になってるならそれは守るべき国民ではなく肩を並べて戦う戦友だ」

 

「つまりイッルは犯罪者の中から予備役を選んで動員するって言いたいんだね」

 

「簡単に言うとそうだな。ただ他の予備役みたいに訓練をさせる時間は与えない。すぐに前線に向かってもらう」

 

「それが役にたつと思うの? いや、そもそも死ぬ可能性が高いのは動員された犯罪者もよくわかってるんじゃないかな」

 

「予備役に訓練をして前線に出す義務も法律もスオムスにはないだろ」

 

バルトランドの攻勢に対して、スオムスは予備役を動員する事で対処した。その予備役は再訓練をした上で投入するため前線に届くのは数ヶ月先になる。だが再訓練をせず、居場所のわかっている犯罪者を前線に送るだけならそんなに長い時間はかからない。

 

「前線への移送中に逃げるかもよ」

 

「その場合は銃殺だろ。脱柵だけならともかくこの場合脱獄もされてる事になるからな。銃殺やむなしだな」

 

「……後で批判されるかもしれないよ」

 

「うまくいけば大隊規模の戦力をすぐに捻出できるんだ。それに比べたら後の批判なんて些細なものだとは思わないか?」

 

「……司令官がそう言うのなら、そうなんだろうね」




この世界、人との戦争がほぼないからハーグ陸戦条約とか無さそうな気がしてきました。
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