スオムスのジェット戦闘機の開発は他国と比べて最低でも五年は遅れていた。しかしそれはとある航空戦がきっかけとなり覆された。
「大変だよイッル! バルトランド方面からスオムスに向けて大規模な航空機の編隊が確認されたってオーランドの監視所から報告があったよ!!」
「……数と編成は分かるか?」
「総数は二十から四十。ウィッチらしき機影が十から十五。他は全部爆撃機だろうって」
ほんの三日前にスオムスとバルトランドで行われた史上初のウィッチ同士の航空戦の結果、両国は国際社会からの批判にさらされた。
仕掛けた側のバルトランドはもちろん、攻撃された側のスオムスまで批判されたのは理不尽としか言いようがない。だがこれはまったく的外れなものかと言うとそうではなかった。
批判する者の言い分としては前線に近い基地にウィッチを駐屯させていた事、ウィッチの訓練先が前線に近い場所で事故が起きやすかった事が批判対象になった。
「一度も二度も同じって事か……」
「バルトランドは今後積極的にウィッチを投入してくるよ。私達はどうする?」
ハッセの質問をエイラは意図的に無視すると問いかけた。
「目的地はどこだと思う?」
「オーランド諸島の監視所は、南東方面に向かったって言ってたから目的地は多分ヘルシンキだよ」
オーランド諸島からそのまま東に向かっては陸の上を飛ぶ事になる。飛行自体はその方がしやすいが、海の上なら陸よりも監視網が緩い。精強で知られるスオムスウィッチによる迎撃の可能性を考えるのなら少しでも見つかるリスクは低い方がいい。
「今ヘルシンキ周辺に対応できる部隊はいない。市民に避難を促していいよね」
ハッセの問いかけにエイラは頷いた。
「昔わたしが使ってたストライカーってまだ使えるよな?」
「使えるけど……まさか出撃するつもり? 報告によると敵はジェットストライカーだよ? イッルのBf-109のK型じゃあとてもじゃないけど太刀打ちできないよ」
先のスオムスとバルトランドとの空戦からも分かる通り、ジェットストライカーとレシプロストライカーの差は歴然としている。たとえエイラが世界でもトップクラスのウィッチだとしても勝つのは難しい。
「対応する戦力があるなら出さないとな」
「今のイッルはスオムス軍の最高司令官なんだよ!?」
「使えるものはなんでも使う。そうやってスオムスは生き残ってきただろ。たとえ司令官だろうと飛んで、戦えるなら使わないとな」
シールドの減衰こそあるがエイラはいまだに飛ぶ事も固有魔法を使う事ができる。他のウィッチであればシールドを張れなくなった時点で引退する事になるが、エイラは固有魔法の関係でシールドが減衰しただけなら問題なく戦う事ができた。
「それならわたしが……!」
「ハッセは飛べないだろ」
「……全然飛べないわけじゃないよ」
「あんなの飛べないのとおんなじだろ。ダメだ」
ハッセはエイラと同じように飛ぶ事も固有魔法を使う事もできる。だが飛ぶ事ができる時間は極端に短くなった。ストライカーユニットの燃料が切れるよりも先に、ハッセが魔法力を使い切るのだからもはやウィッチとしての活躍は期待できない。
「それに仮にハッセが戦えたとしても、ジェットストライカーを撃退できる可能性は低い。だけどわたしの固有魔法ならジェットストライカーが相手でも対等に戦う事ができる。どのみちわたしが出る事には変わらないよ」
「……ジェットストライカーならこんな心配しなくて済んだんだけどね」
「来るかどうかもわからないバルトランドの備えに、貴重なジェットストライカーを置いとくわけにはいかないだろ。バルトランドだってジェットストライカーの数はそんなに多くないんだし、備えとしてはレシプロストライカーで十分なんだからさ」
ジェットストライカーはネウロイとの戦争の最終盤で実用化された。だがその後は軍縮傾向にあったため研究、開発はされども実用化された数はそれほど多くはなかった。高価な上に、ウィッチの軍事利用に忌避感があった事もあいまって、ジェットストライカーの輸出入はそれほど活発ではない。そのためスオムスやバルトランドのような中小国家ではいまだにレシプロストライカーが主力だった。
「勝算はあるのかい?」
ハッセの問いかけにエイラは肩をすくめた。
「よくて五分五分かな。もしわたしが死んだらミッコに預けてる遺書の通りに遺言を実行してくれよな」
「遺書だなんて……縁起でもない」
「死ぬつもりなんてないけどな。遺書を書くのはもう習慣みたいなもんなんだ」
いつだったか、ミッコに遺書を預けて以来エイラは定期的に新しい遺書を書いては送りつけていた。
最後に送りつけたのはモスクワの攻防が始まった頃の話だったが、今回の戦争でもしもに備えて新しいものを書いていた。
「今回は接近を察知できたけど次もそうとは限らない。いくらウィッチでも不意をつかれると抵抗できずにあっさりと死ぬからな」
空戦では無敵に近いエイラも地上ではその限りではない。今いる建物が突然爆撃され、瓦礫の山となればそのまま生き埋めになり、最悪死ぬかもしれない。
「自信満々ってわけじゃないないんだ」
「撃墜数ランキング一位のハルトマンだって死にかけた事はある。撃墜数で負けてるわたしが死なないなんて言えるはずがないだろ」
エイラは歴代の撃墜スコアでは四位だ。だからと言って上の三人に実力で劣っているとは微塵も思っていないが、それが自分よりも上の実力者が存在しないと言う事にならないと言う事もわかっている。
「バルトランドにもエースと呼ばれるウィッチはいる。撃墜数こそ少なけど、エースに変わりはないし案外わたしよりも強いかもしれないぞ」
バルトランドは国としてはウィッチや軍隊の派遣はしていない。しかし個人としてはその限りではなく幾人かのウィッチが義勇兵として参加して戦果を上げている。
「……また、ウィッチ同士の空戦が起きるんだね」
「ウィッチに対して通常兵器での対応は困難だからな」
仕方がない事ではあるが、エイラとしてもウィッチ同士の戦いは不本意だった。本来であればネウロイのような怪異を相手取る為の存在が、何が悲しくて人同士の戦争で戦わねばならないのか。
ネウロイとの戦争では統合戦闘航空団という形で互いに手を取り合い、肩を並べて戦ったと言うのに、今後はそれができなくなるかもしれない。
「……できれば殺したくはないな」
「ジェットストライカーを履いたウィッチ相手にそれができない事はイッルもよくわかっているでしょ?」
「わかっているさ。だけど……」
エイラの苦悩を、統合戦闘航空団を率いていたハッセも理解している。
「もしも戦場が海の上なら漁船に、陸の上なら市民に言ってウィッチの捜索をさせよう。イッルが直接手を下したウィッチは無理かもしれないけど、ストライカーとかに当たって不時着したウィッチはそれで救えるよ」
「だけどウィッチ側が抵抗したら市民に犠牲者が出るかもしれない」
「危ないようなら近づかないように通達しよう。それとウィッチを助け、手当てをした市民には報酬をだそう。全部は無理かもしれないけど、それで一部のウィッチは助かるはずだよ」
それが最大限の妥協点だろうとエイラは思い、頷いた。
「それで救える命があるならそうすべきだよな。ハッセ、市民に通達しておいてくれないか。わたしはそろそろ出撃準備をしてくる」
「わかった。通達はイッルの名前でしていいよね?」
ハッセも知名度はあるが、やはりエイラの名前で出された告知の方が影響力は大きい。
「もちろんだ。頼んだぞ」
インドとかマレーシアとか東南アジアのウィッチ情勢が知りたいけど……あの辺公式資料がなさすぎてどうしようもないですね。
もしあれば教えていただけると幸いです。