その日、バルクホルンはベルリンに住むミーナのもとを訪れていた。
「スオムスとバルトランドの戦争は激化の一途をたどっているらしいな」
「そうみたいね。この間はとうとうウィッチにも死者が出たみたいだし、このままだと益々多くの若いウィッチが亡くなる事になるわ」
「……エイラも不本意だろうな」
エイラとバルトランド軍ウィッチの空戦では、バルトランドのウィッチ三名が死亡、二名が行方不明となっている。
ネウロイとの戦いが終わってから直接会う事は今までなかったが、手紙でのやり取りは続けていた。お互いにウィッチを戦争に使う事に反対の立場である事は手紙で確認済みで、今回の戦果がエイラにとって不本意なものだろうとバルクホルンは考えていた。
「ネウロイとの戦いでは肩を並べて戦ったのに、今はお互いに銃を突きつけ会う関係になるだなんて世も末ね」
「まったくだ。私は望んで軍に残ったが、今回ばかりはミーナ達のように市井に戻るべきだったと後悔しているよ」
ネウロイとの戦争後、バルクホルンは軍に残り教官としてウィッチの育成に携わっている。ネウロイの脅威がなくなり、バルクホルンのように軍に残ったものは少数派だった。
ハルトマンはベルリンにある医大に通い、ミーナはベルリンの芸術大学で音楽を学んでいる。
「らしくないわね。何かあったの?」
「いつもの技術交流で、ウィッチをストックホルムに派遣する話がでている」
カールスラントとバルトランドは長年蜜月関係にあった。ストライカーユニットや戦車の開発、設計などの技術面での協力やは長年続いてきたもので今回のもそれに当たる。
「このタイミングで?」
「どうやら、本国はスオムスに勝ってほしくないらしい。バルトランドでは、早くもストライカーユニットが不足し始めているというし、これにかこつけて物資を援助するつもりなんだろう」
技術交流では、毎回大掛かりな機材を持ち込んでいた。その物資に支援物資を混ぜるつもりなのだろうとバルクホルンは考えていた。
「その言葉を本当に信じられるのかしら。バルトランドはスオムスよりは多いけど、カールスラントと比べたらウィッチの数は少ないわ。スオムスが優勢の今、ウィッチは喉から手が出るほど欲しいはずよ。義勇兵として扱われないかしら」
ミーナの指摘に、バルクホルンは深刻な表情で頷いた。
「私もそれが気になって問い合わせたんだが、政府はあくまでも技術交流の一環で義勇兵ではないと回答している。今回の派遣はカールスラントとバルトランドの友好関係を世界にアピールする為にも必要だとも言っていたな」
「無条件に信じていいものかしら」
ネウロイとの戦いを通して国の悪辣さというものはいやというほど知っている。その言葉を信じ込むのは危険な行為だった。
「持ち込むのはストライカーユニットだけだと言うし、戦争状態にない国同士での戦闘行動を起こそうなどとは考えていないだろう」
「……そうかもしれないわね。ネウロイと戦っていた頃と比べて関係は悪化したけど、それでも戦争をするほどじゃないわ」
それはネウロイとの戦いが終結したことに伴い、カールスラントとオラーシャ間で様々な領土問題が現れた事に端を発する争いだった。
カールスラントは北欧を丸ごと自らの勢力圏に取り込む事で、オラーシャに対して圧力を加えようとした。元々バルトランドとの関係は良好だったため、スオムスを味方につける事ができればそれは達成できたはずだった。だがスオムスはカールスラントとの協調政策を選択しなかった。長年友好関係にあったオラーシャとの連携を重視し、最新鋭のストライカーユニットや戦車を輸入し続けた。
「今スオムスと戦争するような事になれば、オラーシャに対して隙を見せる事になる。いくら国内に不安があるとはいえ、そこまでの隙をみせて仕掛けてこないなんて楽観的には考えられない」
カールスラントとオラーシャの関係は、戦争前のスオムスとバルトランドよりも悪い。国境地帯では小規模な武力衝突が多発し、いつ大規模な戦闘に発展してもおかしくない。
「だけどオラーシャが動けば、オラーシャ内部の反政府的な勢力も同時に動き始めるんじゃないかしら」
「それはこちらも同じ話だろう。戦争になればノイエ・カールスラントの民主独立勢力の動きが活発化することは間違いない」
両方の勢力は、ネウロイとの戦いが終結した後に同時期に現れ、その動きは急速に発展していった。
証拠はないが、オラーシャの反政府的な勢力も、カールスラントの民主独立化勢力も他国の手が加わっていることは明らかだった。
「現状、民主独立化勢力に違法行為は確認されていない。だが本国から離れているから実情を正確に把握するのは困難だ。その報告が一体どれほど正しいのやら……」
「もしも銃火器の類を隠し持っていて、兵器工廠を力で制圧されたら面倒な事になるわね」
ノイエ・カールスラントにはネウロイとの戦争時に作られた兵器工廠の一部が今なお稼働状態で残っている。それらはノイエ・カールスラントにいる部隊に武器や弾薬を供給するために残しているが、もしこれが民主独立派に占拠されるような事があればカールスラントにとって面白くない事態になる。
「ネウロイとの戦いが終わってから不要になった武器の多くは廃棄されるか、中小国家に安く払い下げられた。だがその一部が不正に横領され、裏社会に流れた事は誰もが知る事実だ。民主独立派勢力にその武器が流れていないと考えるのは楽観視しすぎだろう」
「誰が見ても明らかなのに、調査しているノイエ・カールスラントの当局からは問題なしの報告しか来ない。と言うことは現地に派遣されている人間が買収されているのか、寝返ったのか」
「いずれにせよ、今他国と戦争状態になるわけにはいかない。こう言ったら悪いが、スオムスとバルトランドの戦争はカールスラントにとってはある意味好機でもある」
バルクホルンの言葉に、ミーナは重々しく頷いた。
カールスラント最大の仮想敵国はオラーシャだ。そしてそのオラーシャと同盟関係でこそないが関係の深いスオムスは、カールスラントにとって警戒を解く事のできない相手だ。そのスオムスがカールスラントの友好国、バルトランドと戦争状態にあり、かつ仮想敵国のオラーシャ国内が不安定な現状はカールスラントが国内の不安を取り除く好機になり得た。
「だけど今すぐ動いてはオラーシャが動きかねないわよ」
「そうだな。オラーシャでなんらかの……」
そこでバルクホルンは言葉を止めかぶりを振った。
「やめよう。オラーシャだってかつては共にネウロイと戦った同盟国だ。そんな国の不幸を願うなんて人として最悪だ」
カールスラントにとって、オラーシャの混乱は望むところだ。だがかつての同盟国の不幸を願う事が人として正しい事だと、バルクホルンは思えなかった。
「国を守る軍人としては甘い考えね」
バルクホルン自身も自覚があったのだろう。眉間に皺をよせ、顔を背けた。
「だけど一個人としては、他国の不幸を喜ぶトゥルーデよりは、そっちの方が私は好きよ」
初対面の人物からはいかにも軍人らしい、厳格なウィッチだと思われがちだが、その実誰よりも優しいのがバルクホルンだ。たとえ関係が悪くなったとしても、他国の不幸を喜べるような性格をしていなかった。
「やっぱり軍に残ったのは失敗だったんじゃないかしら」
「軍をやめろと? 生憎私はミーナやエーリカと違ってこれ以外の生き方を知らないんだ」
「ウィッチで中佐ともなればもらえる年金はそんなに悪いものじゃないでしょう」
カールスラントでは軍を退役したウィッチに対して、特別年金が付与される。これは軍属になった事で勉強面など様々なハンデを追う事になるウィッチに対する救済措置の一つだった。階級や勤続年数などによって差はあるが、最低でも退役後十年は支払われる。この年金があればバルクホルンは愚か、妹のクリスを大学まで通わせてもお釣りが来るだけの額をもらう事ができた。
「……そうかもしれないな。だけど私だってそれを考えなかったわけじゃない」
ネウロイの戦いが終わった後、バルクホルンには教官として軍に残る道が提示された。それはミーナ達も同様だったが、比較的すぐに退役を決めたのに対してバルクホルンは回答期限ギリギリまだ悩んだ。悩んだ末に出した結論が軍に残ることだった。
「この生き方以外を知らない私ができることと言えばその生き方を、経験を誰かに教える事だ。その点、この教官と言うのは私の性格にも合っていたと思うんだ。他にやりたい事があるわけでもないし、無為に時を過ごすくらいなら、こうして私の経験を教えて行きたい」
「トゥルーデがそうしたいのならそれでいいのだけど、もし辞めたくなったらいつでも言ってちょうだい。できる限り力になるわ」
「ありがとう。その時は頼む」
最近後書きのネタが無くなってきました。
て事で現代に寄せて考えます。F35とか、現代の戦闘機って高性能な電子機器を搭載しているわけですけどストライカーユニットはどうなるんでしょうか。あの小さい機体に現代の戦闘機と同様の電子機器を詰め込めるのかどうか、あるいは魔法力の利用で擬似的な再現をするのか、もしくは足を収納している魔法空間に電子機器を納めるのか。どうなんでしょうね。