カールスラントの義勇軍が到着してから三週間が経過した時のことだった。
「イッル、オーランドの監視所からヘルシンキに向けてウィッチと航空機の編隊が向かってきているって連絡があったよ」
「……バルトランドにそれをするだけの戦力はまだ残っているのか?」
バルトランドが未だにスオムスよりも強大な戦力を保持していることは間違いない。特に陸、海においてそれは絶対的だ。だがこと空に限ってはそうではない。数においてはスオムスを凌駕しているが、質の面ではスオムスが凌駕している。開戦前であればバルトランドやや有利だった空は、ニパ達とエイラの活躍で互角程度にまで落ち込んでいた。
「ラップランドで戦力の引き抜きがあったっていう報告はないよ」
「新兵の補充は?」
新兵の補充で額面上の兵力が変わっていないだけで、後方に下げられ兵力があれば今回飛来してきた部隊はバルトランド軍で間違いない。
「ニパからは何も。戦う顔ぶれは同じみたいだね」
最初の空戦が起きて以来、両国の間でウィッチ同士の空戦は毎日のように起こっていた。何度も戦っていれば、相手の顔も覚える。補充や入れ替えがあれば把握することは容易だった。
そしてそれはバルトランドにも言える事でありだった。流石に初戦ほどの戦果は上がっていないが、これまでスオムス軍は負けなしで被害はゼロ。増やす必要はないが、減らしてヘルシンキの防衛に回せば今回再び襲撃を受けることはなかったかもしれなかった。
「……カールスラントか?」
「まさか。いくらなんでもそんな迂闊な事をしないんじゃないかな」
カールスラントの義勇兵は、戦車部隊に関してはラップランドで度々目撃報告があった。だがウィッチ隊に関しては一度も目撃されておらず、首都にいるのではないかと考えられていた。
「ラップランドで目撃情報がある分には私達も目を瞑るけど、流石に首都にきたらそうも言ってられないよね?」
最前線のラップランドであれば、見間違いとしてスオムスは目を瞑った。これは下手に責任を追及して、カールスラントとの国際問題に発展させたくないからだった。だが首都を目指して攻撃を仕掛けたとなればそれはもはや宣戦布告に等しい。
「確かに迂闊だ。いくら義勇兵と言っても、首都に攻撃してきたとなればわたし達もカールスラントに対して相応の対応をしなければならない」
外交的に非難するのは当然として、場合によってはオラーシャを巻き込んでカールスラントと開戦する事も視野に入れなければならなくなる。
「……こうなるとブリタニアの工作が待ち遠しくなっちゃうね。カールスラントと戦争になるような事は避けたいよ」
スオムス単独でカールスラントに勝つことは不可能だ。だが同時に、カールスラントが単独でスオムスを倒す事は困難だ。陸、海、空全てにおいてスオムスに勝るが、陸続きでないスオムスに対しての攻勢は多少のリスクがある。カールスラントとしてはバルトランドの協力を得た上で攻めるのが理想だった。
「あと一ヶ月ちょっとあれば、予備役の動員も完了するんだけどな……」
「それをさせないためなんだろうね」
予備役の動員が完了すれば、バルトランドとの戦力差は互角になる。これまで戦力的には大きく劣勢だったスオムスだが、戦況は拮抗していた。もし予備役の動員が完了すれば、スオムスが盛り返すことは間違いない。
「まぁ、こうなった以上はもう仕方がないな」
「……また出撃するの?」
「当然だろ。ヘルシンキ周辺にウィッチはわたししかいないんだから」
「それはそうだけど……」
ハッセは気まずそうに視線をエイラの足に向けた。
「カールスラントからは医療品の輸出を止められたし、ずっとイッルが出撃して対応するのは無理だよ。何か手を考えないと」
「事前に輸入しといた分で一年は持つさ」
エイラの義足はカールスラント製だ。ストライカーユニットを履けるようになるこの義足は、需要の低さから使用者にあわせてオーダーメイドで作られる。部品の多くはカールスラントとの関係が悪化し始めた時に手に入れていたが、オーダーメイドである以上は限界があった。
最近はリベリオンもウィッチ用の義足制作に乗り出していて、そちらを購入する事も検討していたが、まだまだカールスラントには敵わないのが現状だった。
「一年持つのなら、バルトランドとの戦争も終わる。そうなれば輸出制限も解除されるだろ」
「そんなにうまくいくかな?」
ハッセの問いかけにエイラは答えなかった。エイラ自身、スオムス勝利での戦争終結はカールスラントにとって不都合だとわかっていたからだ。
カールスラントが輸出制限を解除するとすればそれはスオムスの敗北か、あるいは……思わず思い浮かんだ嫌な考えを振り払うように頭を振った。
「とにかく今はできる事をするべきだ。たとえ相手がカールスラントのウィッチだろうと脅威は取り除かないといけない」
バルトランドはネウロイとの戦争中、積極的に戦うことはなかった。だからと言うわけではないが、バルトランドと比べるとカールスラント相手の戦いはエイラの気持ちを落ち込ませた。
カールスラントは戦争中、肩を並べ戦った戦友だ。今回の相手がそれを経験していないとしても、スオムスを守るために協力してくれたカールスラントのウィッチを撃たねばならない事にエイラは忸怩たる想いがあった。
「幸い、と言うのも変だけどイッルの知り合いは一人もバルトランドに来ていないよ。ましてや、ネウロイとの戦争でエースと言われるようになった実力者は一人もいない」
カールスラントの発表を信じるならな。最初からこれを想定していたなら、エースウィッチの一人や二人いてもおかしくない」
バルトランドとは比べ物にならない練度を誇るカールスラントのウィッチが相手では流石のエイラも勝つのは厳しい。
「MiG-15が丁度届いてるけどどうする?」
「それは予定通り前線のニパ達に送ってやってくれ」
それはスオムスにとって待望の存在だったが、今のエイラには必要のないものだった。
「もし相手が本当にカールスラントなら、必ずジェットストライカーを履いているはずだよ」
「ジェットストライカーを履いても完熟飛行はできないし、それなら履きなれたレシプロストライカーの方がいい」
エイラにMiG-15での飛行経験はない。良い機体である事はエイラも知っているが、一度も足を通していないストライカーユニットに命を預けるつもりはさらさらなかった。
「それに圧倒的不利な戦場に、貴重なジェットストライカーを持ち込むわけにはいかないだろ」
「その不利な戦場を一度覆したのは誰だったかな」
「運が良かったんだ。次はあんなに上手くいかないと思うぞ」
運が良かっただけで出せる戦果ではなかったよね、と視線を向けたがエイラはどこ吹く風と言う様子だった。
「イッル、実はレシプロストライカーでも勝てる自信があるからとか言わないよね?」
ハッセの質問にエイラは目を泳がせた後息を吐いて言った。
「ないとは言わない。この間の戦いで、わたしならレシプロストライカーでもジェットストライカー相手に善戦できる事は実感できたからな。だけど同時に、絶対に負けないとも言い切れない事もわかってる。多分、後何年かすればわたしでもジェットストライカーに勝つ事ができなくなるんじゃないかな」
「つまり、今はまだ勝てるって事だね?」
「まぁ、そういう事だな。だからハッセは心配せずに大船に乗ったつもりでいてくれよな」
MiG-15が19かどっちかわからなくなってくる。西側戦闘機だとカッコいい呼び方ついてるのが多いけどソ連性はSuとか機体の正式名称だから時々こんがらがります。いや、それらにも愛称があるのは知ってるんですけどあまり使わないので……
それはそうと、スオムスバルトランド紛争は朝鮮戦争をモデルにしつつ書いています。まぁ、完全に一緒ってわけではないですが、年代が同じでモデルにしやすいですからね。もっと言うと、半島国家の先っぽと根元って言う地形もほぼ同じと言う……