ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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もうすぐ六月。暑くなってきましたね。


怒り

その日、バルクホルンは珍しくラルに呼び出されていた。教官として軍に残ったバルクホルンと違い、ラルは帝都防空部隊のウィッチ隊司令官として軍に残っていた。

 

「同じ軍にいて、任地も近いのにこうして顔を合わせるのは随分と久しぶりだな、バルクホルン」

 

「会う機会がなかったのは、グンドュラが忙しくしていたからだろう。私は所詮ただの教官だ。時間を作ることはいくらでもできる」

 

「……そうだな。たしかに、私が忙しいせいだったな」

 

ラルにしては珍しく言葉を選んでいる、あるいは何かを告げるのを躊躇うようなそんな空気をバルクホルンは感じとった。

 

「今日は珍しく言葉を選ぶじゃないか。らしくないぞ」

 

いつものラルであれば会いに来るのであれば歓迎する、同じベルリンにいるのに久しぶりなのは会いに来ないバルクホルンが悪いくらいは言う。

実際ラルは身内に対してはかなり甘く、突然の来訪でも歓迎するだろう。意外と懐が広いのが、バルクホルンの知るグンドュラ・ラルと言うウィッチだった。

 

「……そうだな、たしかにそうだ」

 

ラルはふっと息を吐くと何かを決心したように頷いた。

 

「先日、スオムスからこれが届いた」

 

ラルが引き出しを開け、中のものを取り出し机に置いた。

 

「これは……」

 

「技術交流でバルトランドに行っていた奴らのドッグタグだ」

 

差し出されたドッグタグから、バルクホルンはその言葉の意味を正確に理解していた。

 

「スオムスと……交戦したのか……?」

 

「事が起きたのは一週間前の話だ」

 

一週間も前でありながら、バルクホルンはその情報を誰からも聞いていなかった。前回、スオムスがバルトランドのウィッチを大量に撃墜した時、スオムスは翌日にはその戦果を発表していたというのに、今回はスオムスはそれをしなかった。

 

「派遣された連中はバルトランドの現状を憂いて自ら望んで協力を申し出た、事になっている」

 

ドッグタグの名前を一つ一つ見たわけではない。しかし、バルトランドに派遣されていたウィッチの多くはバルクホルンの教え子たちだった。

 

「それはつまり……つまり上層部は派遣したウィッチにスオムスと戦えと命令したと、そういう事か?」

 

ラルは深く息を吐くと、力を抜いて椅子の背にもたれかかった。

 

「私は何も聞いていない」

 

現在大佐のラルは、ウィッチ総監のガランド中将の次に高い階級にある。帝都防空部隊の隊長と言う役職ではあるが、その階級の高さから他にもウィッチに関する業務を多数任されていた。そのため、ウィッチの作戦行動の殆どに、ラルは関係している。

 

「だが派遣された奴らが、自ら望んで交戦したとも考えにくい。上層部がそう言った意図を持って送り込んだんだろう」

 

バルクホルンはどこかショックを受けたような表情をしていた。それがラルには意外な事に感じられた。

 

「だが、それは分かりきっていた事だ。それはバルクホルン、お前も分かっていた事じゃないのか?」

 

「そんな事は……!」

 

「無いとは言わせないぞ。長い付き合いだ、それくらいわかる」

 

ネウロイとの戦争が始まった頃、同じ部隊だった時からの付き合いだ。もう十年にもなる。バルクホルンが聡明な事はよく知っていた。

 

「現実から目を背けるな。仮に直視したとしても上からの命令だ、お前に止める術はなかっただろうが、知らなかったフリをするのはよせ。お前らしくない」

 

「らしくない何も、本当に知らなかったんだ」

 

「予想はしていた事だろう。……いや、今はそんな事を議論している時ではないな。本題に入ろう」

 

「本題だと? カールスラントのウィッチが戦死した事以上に重要な事があるのか?」

 

「その発言は正しくないな。カールスラントは現在どこの国とも戦争状態にはない」

 

その言葉に、バルクホルンは狐に摘まれたような表情を浮かべた。

 

「このドッグタグの持ち主達は公式には戦死ではなく、職務中の事故死という扱いになる」

 

「事故死だと!?」

 

「そうだ。カールスラントが戦争をしていない以上、彼女達を戦死として扱うわけにはいかない」

 

そこでバルクホルンはようやくなぜスオムスがカールスラントのウィッチを撃退した事を発表しなかったのか理解した。そしてそれを理解すれば、自然とカールスラント本国の意図も理解することはできた。

理屈は理解できる。だがそれを受け入れるかどうかは別問題だった。

 

「死人に勲章を与えたところで、なんの名誉もないことは分かっている」

 

ネウロイとの戦いで死んだウィッチは少なくない。バルクホルン自身、自分が生きて終戦を迎えられない可能性を考えなかったわけではない。

その時思った事は、当時は意識不明だった妹のクリスに対して何を残してやれるか、と言う事だった。

 

「だが残された人には、死んだ人間の死が無駄ではなかったと思えるものを渡さなければならない」

 

戦死すれば勲章とそれに付随する一時金と、遺族に対しては遺族年金や給付金が与えられる。後者は戦死とそれ以外では金額が、前者は勲章のランクが大きく変わってくる。

 

「それが金だろうが勲章だろうが、国の命令で死んだのならそれに相応しいものを渡す必要がある。事故死なんかで片付けていいものではないだろう」

 

「それについては私も同意する。だが今更その辺りの事を変更することはできん」

 

国がウィッチ達の死亡を事故死と認定した以上、ラル達がそれを覆す事は不可能だった。

 

「そこでだ、せめてコイツらの遺族にはできる限りの状況説明と、出来うる限り豪華な葬式をしてやりたいと思う」

 

「……そうだな。それくらいしか私達にはできないな。ところで、これだけの被害が出ているんだ。スオムス側も相応の被害がでたんだろう?」

 

ドッグタグは軽く数えただけで十を超える。それはカールスラントが送り込んだウィッチの約三割近い数であり、それだけの被害があったのならばスオムスも甚大な被害を被った事は想像に難くない。

かつては肩を並べて戦ったエイラもまた、今回の戦いでスオムスウィッチを失った事に心を痛めているだろう。そんな考えから尋ねた事だった。

 

「……今回、カールスラントのウィッチは前回同様の結果になったと聞いている」

 

「前回同様……だと?」

 

「エイラ・イルマタル・ユーティライネンの手により、カールスラントウィッチ四十八名は全滅した」

 

ラルが聞いたのは結果だけだったが、戦闘の内容はなんとなく予想がついていた。おそらくエイラの未来予知を攻略する事ができなかったのだろうと。

 

「上がりを迎えたとはいえ、凄まじい実力だ。今のカールスラントに、いや今の現役ウィッチにアイツと対等に……」

 

ラルの言葉を最後まで聞く事なく、バルクホルンはラルに背を向け歩き出した。

 

「どこに行くつもりだ」

 

「認めよう。私は上層部がアイツらをスオムスと戦わせるために派遣している事に気がついていながら、何のアドバイスもしなかった。アイツらが死んだのは私のせいだ」

 

バルクホルンの言葉を否定するのは簡単だった。だがバルクホルンがそれを望んでいない事は百も承知だった。

 

「だからこそ、私は責任は取らなければならない」

 

「ユーティライネンと戦うつもりか? やめておけ。今のお前では勝負にならない。いや、仮に上がりを迎えていなくとも、一対一でユーティライネンに勝つ事は不可能だ」

 

エイラは固有魔法は未来予知だ。エイラが勝つことを目指さず、負けない戦い方に徹すると勝つ事ができるウィッチはいない。

 

「そんなの、やってみないと分からないだろ!」

 

「いいや、分かる。バルクホルン、お前ではユーティライネンには勝てない」

 

ラルはスコアでバルクホルンに劣るが、そのスコアはバルクホルンの半分ほどの出撃回数で達成したものだ。単純な実力でラルがバルクホルンに劣るわけではない。

 

「それでも今回死んでいった私の教え子達よりは勝てる可能性がある」

 

「……そうかもしれないな」

 

「私はアイツらの仇を取らなければならない。なんの助言もせずにバルトランドへ送り出してしまったアイツらの仇を」

 

ラルは何も言わなかった。バルクホルンを説得できるだけの言葉を持ち合わせていなかったからだ。

 

「じゃあな。もう会う事もないだろう」

 

そう言って部屋を出ようとすると、ドアノブに手をかけるよりも先に扉が開いた。




ふと思ったんですが、ウィッチが固有魔法を持つ可能性ってどれくらいなんでしょうか。

ストライク・ウィッチーズが全員固有魔法持ちだったから勘違いしてましたけど、案外持ってない方が多数派ですよね。
501は静夏、502はロスマン先生、503は不明、504はフェル隊長以外全員。よくよく考えたら502も固有魔法持ちが集まりすぎですね。
登場ウィッチ全員を集計して、大体の確率を割り出そうかとも思ったんですが、501と502がちょっと例外すぎますし、この言ってこの二つをいれないとウィッチの総数が結構減りそう……
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