ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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布団を片付けるか、それともまだ出しとくか。難しい気温ですね。


戦友

扉の先に立っていたのは、軍を退役したはずのミーナとハルトマンだった。

 

「なぜお前たちがここにいる」

 

「グンドュラに呼ばれたのよ」

 

本来ならば軍を退役した二人にここに来る権限はない。だが他でもないラルが呼び出したのであれば話は別だ。

 

「一体何を考えている」

 

ラルの意図が理解できず、バルクホルンは鋭い視線を向けた。

 

「言っただろう。死んだ連中には少しでも豪華な葬式をしてやりたいと」

 

「それにハルトマン達が必要だと?」

 

「そうだ。集められるだけのエース、元エースを集め盛大に送り出す。それだけが私達にできる精一杯だ」

 

ラルは今回殉職したウィッチ達を、その家族達の気持ちを少しでも楽にできないかと連絡のつくカールスラントのウィッチ達に声をかけていた。

 

「悪いが、そんな茶番に付き合う気はない。ネウロイ相手でも、人が相手でも残された者に対する精一杯と言うものは一つしかない。仇討ちだ!」

 

「それはお前のエゴだ。何より仇討ちなんてものが何の意味もないことはお前自身がよく分かっているだろう」

 

「分かっているさ。だが私達は戦友(なかま)が殺されれば相手を倒し、弔ってきた。それ以外に報いる方法を知らなかったから!! それはお前も同じはずだろう!?」

 

「……あの頃とは状況が違う」

 

「違うものか! 相手がネウロイだろうと、人だろうとやる事は変わらない」

 

「相手はユーティライネンだ。お前の言う戦友(なかま)の一人じゃなかったか?」

 

501にいた頃、バルクホルンとエイラは波長があったのか、意外と一緒にいる事が多かった。ロッテを組むことの多いハルトマンとほどではなかったが、他のメンバーと比べるとハルトマンの次くらいには一緒にいる事が多かった。

 

「関係ない。相手が誰であろうとカールスラントの、私の教え子を殺した奴は敵だ」

 

拳を震わすバルクホルンに、ミーナが声をかけた。

 

「トゥルーデ、私達も事情は聞いているわ」

 

「無理しないほうがいいよトゥルーデ。上がりを迎えたと言っても、元々エイラはシールドを使わないからその影響は殆どないんだよ」

 

今回の話をするにあたって、ラルはバルクホルンの事を一番心配していた。軍を辞めているミーナやハルトマンと違い、直接責任を取ることのできるバルクホルンをどう宥めるか。そのために仲のいいハルトマンとミーナに事前に相談していたのだ。

 

「そんな事は知っている。仮に私が上がりを迎えていなくとも、勝てる可能性は低かっただろう」

 

エイラにも明確な弱点はある。それは普通のウィッチからすれば弱点と言えるようなものではなかったが、バルクホルンのようなエースからすればそれは完璧に見えるエイラ唯一の弱点だった。

 

「だが、仮にバルトランド上空で迎撃するのであれば勝機はある。アイツは確かに全ての技量が完璧と言ってもいいが、唯一体力だけは平均的か、少し優れているくらいしかない。今の私でも、長距離を飛んできて疲れているエイラ相手ならまだ勝機はある」

 

「無茶を言わないで。確かにエイラさんは体力があまりないわ。だけどヘルシンキからバルトランドに飛んだくらいでバテるような体力じゃない」

 

「確かに、私一人ならエイラの体力を削り切る事は難しいだろう。だがバルトランドが協力してくれれば、あるいは……」

 

「だとしても、トゥルーデは現役の時とはもう違うんだよ」

 

バルクホルンが上がりを迎え、シールドを張れなくなった事は紛れもない事実だ。だが、技術まで衰えたわけではない。寧ろ現役時代よりも技術は洗練されている。

 

「確かにあの頃よりは魔法力が衰えたが、技術は磨き続けていきた。ジェットストライカーにあった戦法も考案した。おかげであの戦いが終り、教官になってから私は一度も生徒に負けた事がない。これでも勝てないというのか?」

 

「エイラさんは歴史的に見てもトップクラスのエースよ」

 

「それがどうした。スコアだけなら私やハルトマンの方が上だ」

 

「いや、それは違うな。スコアでもユーティライネンはバルクホルンを上回った」

 

バルクホルンはラルの言葉の意味を理解する事ができなかった。理解する事を脳が一瞬拒んだと言うべきだろうか。

 

「それは私の教え子の事か!? アイツらはネウロイではないんだぞ!!」

 

「撃墜スコアを考える時、ネウロイとウィッチを分けて考えるかどうかは今後の動向次第だな。だがまぁ、今の所世論は分けないで考える事が主流なようだな」

 

カールスラントにおいては、多くの撃墜スコア上位者を生み出したことからその考えには否定的な意見が多い。だが、撃墜スコアの上位がカールスラントで埋まっていることに不満を持つ人々は、今回の戦果をネウロイの撃退スコアに加算して考えるべきだと囃し立てていた。

 

「グンドュラ、それは今ここで言うべき事じゃないわ」

 

「ミーナの言う通り、不謹慎だよ」

 

二人からの批判に、ラルは目を閉じて深く椅子に腰掛け息を吐いた。

 

「私はそのスコアにバルクホルンを加えたくはない」

 

ラルの言葉に、二人は何も返せなかった。さっきまでとは違い、かなり遠回しな言い方だったが、ラルがバルクホルンを止めようとしている事が伝わったからだ。

 

「安心しろ。私のスコアを一つ増やしてやる」

 

「もう会うこともないだろうってさっき言っていたのにか?」

 

それは、バルクホルンが部屋を退出しようとした時に無意識に発した言葉だった。

 

「……差し違えても勝つという意味だ」

 

「もしかしたら、それならまだ可能性はあるかもしれないな」

 

バルクホルンが勝つことは難しい。だが、差し違えるのであればまだ可能性はあるかも知れなかった。

 

「どうせ未来予知で差し違えるのも読まれるよ。やめときなよトゥルーデ」

 

だがそれはあくまで勝つよりは、と言う話でありそれも誤差の範囲でしかない。

 

「ならお前は私に生徒の仇を討つなというのか!?」

 

「エイラは一緒にネウロイと戦った戦友(なかま)で、カールスラントを解放してくれた恩人でもあるんだよ」

 

「だからどうした!!」

 

「恩を仇で返すようなことはできないし、するべきじゃないよ」

 

ハルトマン自身、戦いが好きというわけではない。だから戦後は軍を辞めて医師の道を志した。ミーナもまた同様だった。だからこそ、バルクホルンのように敵討に拘らない方がいいと諭した。

 

「私の気持ちはどうなる! 殺されたアイツらの家族は!!」

 

「貴女の気持ちは痛いほどわかるわ。だけど無茶よ」

 

ミーナもハルトマンもラルも、バルクホルンが正面からではエイラに勝てないと言う意見は一貫している。小細工を弄すれば辛うじて勝機があるが、それは針の穴を通すような難しい事だった。

 

「私とてバルクホルンの気持ちが分からないわけではない」

 

「ちょっと、グンドュラ。貴女トゥルーデを止めたいんじゃなかったの?」

 

「もちろん止めたいさ。だがバルクホルンの気持ちがわからないほど、私は薄情ではない」

 

気持ちは痛いほど分かるとラルは言うが、これまで口八丁手八丁でいいように扱われてきた身からすればにわかには信じがたかった。

 

「お前が私達の制止を無視すると言うのならもう仕方がない。だが現実問題として、バルクホルンがバルトランドへ行くのは上が許可しないがそれはどうするんだ?」

 

もしもバルクホルンが撃墜されれば、流石のスオムスも今度は大声で喧伝するだろう。カールスラントの世論は仇を打たんといきり立つだろうが現実的な問題としてエイラに勝てる人材がいない。そしてカールスラント上層部には戦争に直接参加する気はない。となればバルクホルンを派遣するなど許されるわけがなかった。

 

「そんなもの、軍を辞めればいいだけだ!」

 

「クリスはどうする。唯一の家族であるお前がいなくなれば路頭に迷うことになるかもしれないぞ?」

 

この問いかけには威勢の良かったバルクホルンも黙り込んだ。自分がいなくなる事で、妹のクリスが悲しむ事は目に見えている。だからと言って、エイラに必ず勝つなどと言えるほど、今の自分の実力に自信があるわけでもなかった。

 

「分かったら言う事を聞いて、大人しくカールスラントにとどまれ」

 

ラルの言葉に、バルクホルンは天を仰いだ。そして無言で壁際まで歩くと、拳を振りかぶった。大きな音と共に、壁に穴が空き三人は唖然とした様子でそれを眺めた。

 

「お前たちの言う通りだ。どうやら私は少し頭に血が昇っていたみたいだ」

 

三人に背を向けたまま、バルクホルンはそう言った。

 

「壁を壊した責任をとって、上から正式な処分が降るまでは自宅謹慎をする」




よくよく考えたら、バルクホルンって魔法力なくても力がかなり強いですよね。もしかしてウィッチって通常状態でも多少は何か影響があったりするんでしょうか。
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