ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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最近蚊取り線香買って部屋で炊いたんですけど、凄いですね。匂いが全然取れない。


ウコンバサラ作戦 後編

その作戦は、ともすればバルトランドの二番煎じとも取れるような作戦だった。構想としては誰もが考えうるものであり、そしてバルトランドはそれを三度、実行した。

バルトランドとスオムスの決定的な違いは事前計画の周到さにあった。総動員をかけて一時的な兵力の優位でバルトランドを押しつぶすのが、スオムスの対バルトランド戦の基本戦略だった。しかしそれは、バルトランドが総動員をかけた時点で戦力差が互角からやや不利にまで縮まる事になる。つまるところ、スオムスは自らが総動員をかけた後はできる限り迅速にバルトランドを制圧する必要があった。

 

「またスオムス首都への直接攻撃が失敗したらしいぞ」

 

その噂は、第三次ポルカッラ半島沖航空戦があった翌日には、ストックホルムの海軍基地で出回っていた。

 

「お偉方は本気でヘルシンキを落とせると思っていたのかね。あそこにはあのユーティライネンがいるってのに」

 

「そのせいでバルトランドの英雄、ピア・ホーンが戦死したって話だ」

 

「俺は捕虜になったって聞いたぞ?」

 

「どつちにしろ、英雄を一人失った事には変わんねえんだろ? 上の連中は一体何やってんたろうな」

 

上層部に対する不信感は何もウィッチの中にだけあるものではなかった。早ければ一ヶ月、遅くとも三ヶ月以内にスオムスは降伏するだろう。それが、開戦時に上層部から伝えられた言葉だった。ところが、蓋を開けてみるとバルトランドは苦戦、スオムス北部の国境地帯の戦線は少しずつ前進しているが、そこにあるのは不毛な大地だけだ。比較的人口の多い、スオムス西の戦線は堅持されていて少しも前進していない。

 

「このまま放っておいたら、スオムス側から俺たちバルトランドがした作戦を実行されるんじゃないか?」

 

「いくらスオムスが善戦してるっていっても、反撃するほどの国力はあの国にゃねえだろ」

 

首都攻撃される可能性はゼロに近い。たとえスオムスが総動員をかけて、兵力を増やしたところで空軍、ウィッチ共に大幅な強化は望めない。空軍のパイロットには専門性が、ウィッチには才能が求められるからだ。たとえ、数を増やしたとしても航空機もストライカーユニットも高価なものだ。スオムスが大量に用意できるとも考えにくい。

それでももし、スオムスがバルト海を超えてストックホルムに攻撃を仕掛けてきたら、必ずどこかの戦力が欠乏する。そこをつけばバルトランドは容易に戦争に勝利できるだろう。

 

「けど総動員が終わったスオムスの反撃をいつまでも支えられる戦力も、ウチの国にはねえぞ。動員をかけなきゃ押し潰されるのは目に見えてるんだよな」

 

「そうなりゃ今の政権は終わりだな。スオムスと言う脅威を、出来る限り楽に勝てるうちに叩く。そう言って戦争仕掛けたのに、負けかけ動員までかけるとなれば下手すりゃ暴動が起きるぞ」

 

「まったくだ。もしかしたら、今回の件を機にウィッチは完全に政府を見限るんじゃないか?ピア・ホーンはウィッチから慕われていたし」

 

「見限るって言ったって何するんだよ。まさか政府に爆撃でもするってか?」

 

「それはそれで清々するけどよ、やってもストライキくらいじゃねえの?」

 

「違いない」そう言ってゲラゲラと笑う兵士達の頭上に、ウィッチを含む飛行隊が現れたのはその時のことだった。

 

「今日首都を飛行予定のウィッチと航空機の編隊なんであったか?」

 

「さぁ? そもそも首都のウィッチ隊は昨日の作戦に投入されて全滅してるからいるはずがねぇよ」

 

じゃああれは何なんだよ、そんな質問に対する答えは、航空機から黒い小さな物体が落とされた事でなされた。

 

「ば、爆弾だ!!」

 

「退避! 退避!!」

 

陸、海、空による合同作戦。その第一段階にあたる、空軍によるストックホルム海軍基地及び首都周辺の軍事施設への空襲。それはバルトランドの虚をついた。スオムスにストックホルムを強襲するような戦力はない。そんな前提のもと前線のウィッチを切り詰め、さらには首都の防衛戦力だったウィッチさえも駆り出していたバルトランドにスオムス軍を首都から撃退する戦力は存在していなかった。

 

「お、オスカル一世が!!」

 

戦艦を撃破するには同規模の戦艦、ないしは魚雷を多数用いる必要があり、航空機の爆弾くらいで沈むものではない。それがこの時代の常識だった。バルトランド海軍の切り札である戦艦オスカル一世は三発の爆弾を受け、うち一発が弾薬庫に誘爆、大破着底する事となった。しかしバルトランド海軍の悪夢はそれだけにとどまらなかった。この攻撃でストックホルム軍港にいた艦艇のうち、海防戦艦二隻、駆逐艦三隻、その他小型の戦闘用艦艇も四隻が大破着底ないしは沈没したのだ。

 

「ウィッチは、首都防衛部隊の戦闘機隊はなんで出撃しないんだよ!?」

 

言うまでもなく、バルトランドの首都を守るウィッチ隊は現在存在しない。戦闘機部隊に関しては同時刻に行われた首都近辺の空軍基地に対する爆撃で、戦闘機は殆どの出撃不可の状態にある。辛うじて出撃できた戦闘機も、スオムスの護衛ウィッチにより悉くが撃墜されることになった。

 

「誰だよ、スオムスに首都を攻撃する力はないとか言った馬鹿は!?」

 

「文句を言ってる暇があれば対空砲を撃て!!」

 

この第一次攻撃に用いられたのは、一人のウィッチと、爆装した戦闘機が7機、急降下爆撃機が20機、中型の爆撃機が9機だった。そしてその攻撃時間は10分にも満たなかった。ウィッチと爆弾を落とした戦闘機が残り制空権を維持していることにより、バルトランド側はスオムスに撤退する爆撃機を追撃する事ができずに無念のほぞを噛んだ。なんとか残っている戦闘機とウィッチを撃墜しようにも、対空砲では効果がなく地上ではバルトランド軍がスオムスを罵る声が虚しく響いていた。

爆撃機隊が去ってからほんの数分で、再びスオムスの大型輸送機がバルトランドの上空に姿を表すことになるとは、この時のバルトランドは予想だにしていなかった。この作戦最大の特徴は、この第一次攻撃と第二次攻撃の間の時間が短さにあった。あまりにも短い時間で航空機が現れた事で、バルトランド側はスオムスの大型輸送機を、爆撃機と勘違いした。バルトランドで用いられていた対空砲は、当時リベリオンなどで主流となりつつあった近接信管ではなく、時限信管を用いたものだった。航空機から投下される黒い物体を、それまでと同じ爆弾だと考え輸送機を撃ち落とさんと躍起になっていたが、真に狙わなければならないのはその黒い物体の方だった。機関銃などの妨害も受けず、難なく着地したのは精強なスオムス軍の中でも、特に精鋭の集まったスオムス第一空挺団約千名だった。その精鋭部隊がストックホルムの主要な施設に降下し、一気に制圧を開始した。

 

「王族と政治家連中はできる限り生かして捕まえろ!」

 

バルトランドの議会、リスクダーゲンに降り立ったスオムス兵の中にはエイラの姿もあった。

 

「それと、兵士以外の者に対する暴力行為は絶対に認めない! 降伏の意思を示した兵士に対してもだ!!」

 

インカムに向かってエイラは怒鳴りつけた。スオムスは騙し討ち同然で襲いかかってきたバルトランドに対しては相応の恨みがある。兵士達が暴走する可能性は否定できなかった。

 

『イッル、第三師団は後三十分もすればストックホルムに着くよ。そっちの様子はどう?』

 

インカムから聞こえたハッセの声に、エイラは少し考えたあと答えた。

 

「作戦は順調だ。降り立った空挺部隊に大きな被害はない。後はできる限り早く重要施設を確保するだけだ」

 

本来、ヘルシンキとストックホルムの距離はいくら軍艦でも三十分程度で着くような距離ではない。なによりバルトランド以外にも様々な国からスパイが入り込んでいたスオムスが秘密裏に艦隊を動かす事は不可能に近く、それがたとえ輸送艦だけだとしても困難だった。

スオムスは今回の作戦のために案じた計略は極めて単純なものだった。夜のうちに、軍艦のモックアップを組み上げあたかも軍港にスオムス海軍がいるかのように見せつける。海軍の兵士は減る事になるから、そう長くは持たないが、今回の作戦だけと言う限定的な場面においてはそれは有効な作戦だった。

作戦はうまくいき、他国のスパイはスオムス海軍が軍港にいると錯覚した。他国のスパイを出し抜いたスオムスはストックホルムまで三十分の地点に海軍と輸送艦を進出させる事に成功していた。この時、脅威となるはずだったバルトランド海軍は先の攻撃で壊滅状態にあり、スオムス海軍を食い止めることができるのは少数の沿岸砲台だけだった。

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