ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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暑くて死にそう。


ストックホルム

バルトランドの首都、ストックホルムは僅か一日で陥落した。ストックホルム近辺には、一個師団相当の戦力が存在していたが早々に政府施設と軍首脳部が落とされた事で完全に機能を停止した。本来であれば、首都の防衛を担当するような部隊は士気も戦意も高いが、元々厭戦気分が高まっていた事もあって、首都が襲撃されたと伝えられた時点で大半の兵士は負けを覚悟した。一部の兵士と、指揮官はスオムス軍を撃退すべく行動を開始しようとした。しかしそれは、首都に家族や友人のいる兵士達が報復を恐れ、制止を受けた事で中止された。

 

「思いの外、抵抗は少なかったみたいだね」

 

後から合流したハッセは、司令部に寄せられた被害報告を覗き見てホッとした様子でそう言った。

 

「それは喜ばしい事なんだけどな……」

 

喜ばしい事と言いながら、エイラはどこか不満そうだった。

 

「なにかあったの?」

 

「バルトランドの王族を一人取り逃したんだ。いや、取り逃がしたって言うのは正しくないか。偶然、ストックホルムから離れていたから捕え損ねたんだ」

 

今回の作戦で最大の目標はストックホルムを奪取する事だった。そしてその次に重要なのがバルトランド王族の確保だった。

 

「王族が一人でも逃げたのなら、それはバルトランドが戦争を継続する精神的な柱になりかねない。しかも逃げたのがバルトランド国王の孫娘、ディオーナなんだよ」

 

ディアーナは、バルトランド王族の中でも特に優先度の高い人物の一人だった。バルトランド王族は元来、男子のみに王位継承権が存在していた。しかし、ネウロイとの戦争を経てウィッチの能力を持つ女性王族にも継承権を持たせても良いのではないか、と言う議論が巻き起こった。結果として約五年の議論の後、現国王即位と同時にバルトランド王族唯一のウィッチだったディオーナには王位継承権が与えられる事となった。その順位は国王直系男子の次となった。

 

「現国王の息子が航空機事故で事故死しているから、継承順位が第二位なんだっけ?」

 

国王の息子はネウロイとの戦争が終わった直後、航空機事故で死亡している。そのため、継承順位一位は事故死した国王の息子の子、つまり現国王の孫になる。

 

「こっちの手には国王と王太孫がいるけど、ウィッチで継承順位二位ってなれば旗頭としては十分だからな」

 

ディオーナ自身、バルトランド空軍に少尉として籍を置いている。実戦経験こそないが、彼女が軍にいると言う事実がバルトランド軍を勇気づける事は間違いないだろう。

 

「スオムスじゃあ今回の作戦を実行する為の防諜活動をするのに諜報員をほぼ総動員させたからな。余裕があればディオーナをストックホルムに呼び寄せる事もできたんだろうと思うと、ブリタニアの諜報能力が羨ましいよ」

 

ディオーナはバルトランドの海防戦艦などが停泊しているナルヴィクに彼女が率いる部隊と共に派遣されていた。ナルヴィクはストックホルムからは遠く、主戦線の方に近い。その地理的な事情からナルヴィクは主戦線に対する後方補給基地として機能していた。

 

「どうしてナルヴィクなんかにいたんだろうね」

 

「国王達が言うには、本人が前線に出せって騒いだらしいぞ」

 

「それでナルヴィクに派遣したんだ。まぁ、あそこは前線に近いし王女様の気を晴らすにはちょうど良かったのかもね」

 

言い出したのはディオーナ自信だったが内情はもう少し複雑だった。国王達はディオーナを前線に出す事を嫌がっていたが、軍は違った。ディオーナが率いる部隊は、練度はともかく数は十二人と中隊クラスの数が揃っていた。それをそのまま遊兵として置いておく事はしたくなく、なんとか戦力として使う事ができないかと考えていた。そこにきて王女自ら前線に出て戦うと言い出したのだ。前線には無理でも、後方補給方基地の警備ならば、王女と国王の要求両方を満たす事ができる。そんな理由で、ディオーナはナルヴィクに赴任していた。

 

「おかげで戦争の終結は遠のいたけどな」

 

首都陥落と国王の捕縛でかなりの数のバルトランド軍が降伏するだろう。しかし、ディオーナを捕まえない限りはバルトランドを完全に屈服させる事はできない。

 

「王族でウィッチとなれば、並大抵の部隊じゃ捕まえるのは難しそうだね。もしストックホルムにいても取り逃していた可能性は高いんじゃないかな」

 

「ストックホルムにいれば、わたしが相手する事もできた。だけど、ナルヴィクにいるとなれば、わたし自身が相手する事は難しい」

 

「ニパに任せればいいんじゃないかな?」

 

「それが一番現実的な方法だとは思うけど、万が一があれば困る。ニパの奴は固有魔法こそ使えるけど、シールドはもう使えないからな」

 

シールドが使えずとも、ニパの実力ならエースのいないバルトランド相手に遅れをとる事はないだろう。しかし、相手が王族という事がエイラに小さな不安をもたらしていた。

 

「王族や貴族は、強力なウィッチを祖先に持っている可能性が高い。例に漏れず、バルトランド王族もそうだ。隔世遺伝で強力な固有魔法に目覚めていたら目も当てられないぞ」

 

怪異との戦いでウィッチが功績を上げることはよくある事だった。その功績から、貴族に列せられたり、王族と結婚したりという事はよくある事だった。当然、歴史の長いバルトランド王家にも何度か有力なウィッチが輿入れしている。

 

「確かにそうだね。ならニパに頼むとしても、もっと情報が必要だね」

 

いくらニパの技量、固有魔法が優れていようとも未知の固有魔法を持っているかもしれないウィッチになんの対策もせずにぶつけるのは愚策だ。

 

「バルトランド空軍の資料を調べさせたけど、流石は軍部だな。ウィッチ関連の資料は軒並み破棄されてたよ」

 

ストックホルムにいた軍の要人は全員、捕まえる事ができていたがそれは軍部が重要な資料を破棄する為に逃げ遅れていたことに起因する。軍部とは対照的に、政府首脳部、特に議員に関しては野党議員を中心に幾人かが首都脱出に成功している。しかし首相や大臣と言った要人は確保しているため、大きな影響はないだろうと考えられている。

 

「作戦通りこのまま一気に部隊を前進させるの?」

 

「そうしたいのは山々だけどな。首都近辺にいたバルトランド軍が想像よりも多く降伏してきたから、それに対応する人員を割かなきゃいけない。当初の予定通りとはいかないよ」

 

スオムス軍がストックホルムに投入した部隊は約一万三千人だ。そしてストックホルムの近くにいるバルトランド軍は約三万人。ストックホルム市内の警備なども考えると到底、人数は足りない。

 

「二個師団相当の部隊をストックホルムに輸送中だからそれまでは待機だね」

 

首都の近くにいる約三万人のバルトランド軍を鎮圧するためには、先見部隊と、後続の約二万人を使う必要があると考えられていた。しかし、殆どが降伏の意思を示した事でスオムスの先遣隊は後続を待たずにバルトランド軍の制圧に成功していた。

 

「二万人の輸送が完了するまでは約三日。それまでにバルトランド軍が混乱から立ち直らなければスオムスの勝ち。そうでなければ泥沼の戦争に突入だな」

 

おそらく、バルトランドは立ち直るだろう。王位継承権二位のウィッチにはそれだけの求心力がある。それでもバルトランド軍が首都陥落前ほどの力を発揮する事は困難だろう。

しかしそれはスオムスにとって有利な条件とはなり得なかった。この一撃で決着をつけるつもりで全力を出したスオムスも、あまり長い間戦う事はできない。人手はともかく、武器弾薬の面で、特に弾薬の不足が予想されるからだ。

 

「取り敢えず一ヶ月は戦えるだろうね。だけど、それを超えるとスオムスの生産力だと大規模な攻勢計画はしばらく実行できなくなるね」

 

「それどころか、バルトランドが反転攻勢を仕掛けてきたら後退せざるを得なくなるかもしれない。その時はストックホルムを放棄して戦争を継続するか、解放を条件に講和するか選ぶ必要が出てくるな」

 

前者はともかく、後者は国民感情から難しい。しかし今の状態では一ヶ月をすぎるとそうせざるを得なかった。

 

「ストックホルムへの奇襲による動揺を利用し、一気呵成に敵前線を突き崩す。それが今回の作戦だったけど、いっそのこと前線の攻勢はゆっくりとしたものに変えるのはどうかな。それなら一ヶ月で息が上がる事はなくなるよ」

 

提案したハッセ自身、それはできないだろうなと思っていた。仮にその手段を選んだとして、バルトランドが対抗するために各地から予備役を動員すれば戦争は長期化する。戦争の長期化はスオムスに不利な事だった。

 

「戦争の長期化はスオムスの敗北につながる。それはできないよ」

 

やっぱりそうかとハッセが頷いた時だった。扉が激しくノックされ一人の通信兵が慌てた様子で駆け込んできた。




ストライクウィッチーズの王族の姻戚関係ってどうなってるんでしょうね。

王族同士が結びつくのは当然として、一昔前だと有力なウォッチを取り込んで結婚したりしてそう。ただ、そうする事で王族にメリットがあるかと言うと、正直あまりなさそうに見える。
権威の象徴としてウィッチがどれくらいの価値があるかによるのかな。
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