「ほ、報告します! ディオーナ王女が逃亡しました!!」
「逃亡もなにも、まだ追っ手は差し向けてないぞ。報告は正確にしてくれよな。一体何があったんだ?」
スオムスは現状、ディオーナを捕らえる術を持っていない。なのに逃亡したと言うのは、なんともおかしな話だった。
「も、申し訳ありません!」
「謝罪はいいから、報告をしてくれ」
「昨日の夜、バルトランドの海防戦艦含む残存艦隊がナルヴィクを出港したと、オラーシャから情報提供がありました。そしてその中にディオーナ王女の姿もあったようです」
「それだけだと、逃亡したって言わないだろ。ナルヴィク以外のどこかに拠点を移しただけかもしれないだろ」
ナルヴィクは元の前線との距離は近いが、ストックホルムからは遠い。バルトランドの友好国、カールスラントとも距離があり連携を取りづらい位置にある。場所を移すのは不思議な事ではない。
「オラーシャによりますと、その艦隊は北海に展開していたブリタニアの艦隊と合流したとの事です」
「ブリタニアからは何も聞いてないよな?」
ブリタニアとスオムスは友好関係にある。スオムスの敵国、バルトランドの王族を捕えたのであればそう報告が来るはずだった。
「特に連絡は無かったはずだよ。もしかして裏切られた?」
「そう決めつけるのは早すぎるだろ」
ハッセの問いかけにはそう言ったものの、エイラもブリタニアが裏切ったのだろうと思っていた。ディオーナは現ブリタニア国王から数えて三代前の女王の玄孫に当たる。一応、親戚関係にあるブリタニアが救出の手を差し出したとしても不思議ではない。
「政府と話をする必要があるな」
本当にブリタニアがディオーナを受け入れたのであれば、事態はエイラの職責の範疇にはない。もし下手に手を出せば簡単にブリタニアとの外交問題に発展する。この案件をどう処理するかは政府に任せるべきだった。
そう考えたエイラが政府とコンタクトを取ろうとした時だった。別の通信兵が駆け込んできて、政府がエイラにヘルシンキに戻るように命令を下した事を伝えた。まだ安定していないストックホルムから離れる事はしたくなかったが、政府からの命令とあっては仕方ないとエイラは渋々ヘルシンキへと引き上げた。
「大変なことになった」
スオムスの大統領、パーシキヴィとの会談を終えたエイラが発した第一声がそれだった。
「ブリタニアの奴ら、このタイミングで裏切ったんだ!」
ディオーナ王女を確保したブリタニアは、スオムスに対して停戦と戦前の領土まで軍を引くよう要求した。代わりに、バルトランドには多額の賠償金を支払わせる事を約束したが、即座に軍を引かなければブリタニアはスオムスに対する援助を打ち切るとも通達してきたのだ。
「せっかくここまできたのに、撤退しないといけないの!?」
賠償金を払うと言っているが、これでは実質的にはスオムスが負けたも同然だった。仮に再びバルトランドが侵攻してくれば、今回のように勝利を得ることは難しいだろう。賠償金を払いたくないバルトランドが、再び戦争を仕掛けてきたら今度は泥沼の戦争になる事は間違いなかった。
「わたしだって撤退はしたくないさ。だけど、しなければブリタニアが直接介入してくる可能性だってある」
ブリタニアは援助を打ち切るまでしか明言はしていないが、もし要求を飲まなければ武力での介入が視野にある事は間違いなかった。
「だけどそんな事したらスオムス国民も、軍のみんなも納得しないよ」
「そうだな。わたしだって納得できない。なによりそんな事を公表したら、こっちが確保しているバルトランドの王族達が無事、終戦を迎えられないかもしれない」
「まさかイッル、バルトランドの王族を処刑するつもりなの!?」
不安な言葉に、ハッセの脳裏に嫌な予感が過った。そんな事をすれば、いくらバルトランド国民が政府に対して不信感を抱いていても、王族を処刑したとあっては黙ってないだろう。
「馬鹿なこと言うなよ。そんな事する訳ないだろ」
エイラの言葉に、ハッセは安心したように息を吐いたが、それならそれでどうしてバルトランドの王族が無事終戦を迎えられないなどと言ったのか疑問が湧いてきた。
「処刑なんてするつもりはないけど、見張りの兵士とかはそうはいかないだろ」
バルトランドの王族は現在、ストックホルムにあるホテルの一室で軟禁状態にある。これは拘束を容易にするための措置だったが、見張り役のスオムス兵が今回のブリタニアからの要望を聞いた時、暴走してバルトランドの王族に手を掛けないとは言い切れなかった。
「パーシキヴィ大統領は、バルトランド王族の安全を確保するために全王族をブリタニアに明け渡すつもりらしい」
なんて事はないかのようにエイラは言い放ったが、それは軽く聞き流せるような言葉ではなかった。
「バルトランドに勝つために、これまでどれだけのスオムス人が犠牲になったと思ってるの!? ここでブリタニアに王族を渡せばその全てが無駄になるよ!!」
「そうだよな、ハッセもそう思うよな」
二度ほど頷き、わたしもそう思うとエイラは言った。
「そう思っているなら、どうして大統領の提案を受け入れたんだよ!」
「パーシキヴィ大統領は、外交においては間違いなくわたしよりも上だ」
「そりゃ政治家なんだらウィッチのイッルよりは上に決まってるよ」
エイラは501や連合軍のウィッチ隊の指揮官として各地を飛び回った経験から、普通のウィッチよりも外交について詳しい自信はある。しかしそれは、本職には到底敵うものではなかった。
「そうだな。だけどあの人の外交能力は、わたしよりも上なんて小さなものじゃないと思うんだよな。多分、世界的に見てもトップクラスだ」
本職に敵わないとは言え、外交について多少の知識はある。そのおかげで、エイラはパーシキヴィ大統領の異常性に気がついていた。
「オラーシャとの関係が悪化しても、あの国から最新のストライカーユニットや戦闘機を買う事ができたのは間違いなくあの人の力だ」
ネウロイとの戦い後、オラーシャとスオムスの関係は悪化した。バルトランドとスオムスを舞台とした、カールスラントとオラーシャの代理戦争を起こされそうになった事が原因だった。オラーシャの方針に従う事を良しせず、軍拡をしなかったのがスオムスで、カールスラントの方針に従って軍拡をしたのがバルトランドだった。明確とまでは言わないが、オラーシャの方針には従わなかったスオムスは、オラーシャから武器の購入ができなくなってもおかしくはなかった。なのにそうならなかったのは、間違いなくパーシキヴィのおかげだった。
「だけどバルトランドとは戦争になったよ」
「それを言われると弱いな」
パーシキヴィは大国とスオムスの関係性については、上手く舵取りをする事ができていたが、その分バルトランドとの外交は疎かなものになった。
「わたしたちの仕事はスオムスを力で守る事で、言葉による対話は政府の仕事だ。たとえその実力に多少の不安があろうとも、門外漢のわたし達がでしゃばるよりは、いい結果になるんじゃないか」
「それはそうかもしれないけど、やっぱり心配だよ。私達の勝ち取ったものを、理由も話さずに勝手に手放されるって言うのは」
「政府には政府の思惑があるんだよ。それに、わたし達に対してなんの負い目もないってわけじゃないみたいだぞ」
エイラにとって、それはあまり意味のないものだったが、多くの将兵が喜ぶものを政府は用意していた。
「ストックホルムに降り立った特殊部隊と第三師団には勲章を、指揮官に対しては勲章と昇進をさせるそうだ。おめでとう、これでハッセも将軍になるな」
ハッセは現在、大佐の階級を与えられている。世界的に見ても、ウィッチで将軍というのは少なく、カールスラントのガランドとエイラくらいのものだった。
「そんなもの、渡されても嬉しくないよ」
「政府としては、少しでも不満を逸らすつもりなんだろうな。他にも、主戦線の方で功績のあった奴らは勲章と、昇進が約束されてる」
ウィッチであればニパに、それ以外はアウロラやヘイヘと言った大きな功績のあった者達が昇進する事になった。
「他にもいくつか大統領から命令を受けているけど、それはまた後で説明するよ」
こうして、スオムスとバルトランドの戦争は終結へと歩みを進める事になるのだった。
まじで後書きのネタがなくなってきました。
ストライクウィッチーズの世界、ウィッチって軍事以外にどんな利用がされてるんでしょうね、、医療関係は確定として、魔法力を動力として利用して乗り物を動かしたりできないんでしょうか。そもそも、動かせたとしてどれくらいのエネルギーを持つのかとか色々考えることはありますけど。
いや、そもそも絶対数の少ないウィッチを動力として利用するのってコスパが悪いのか?
うーん、分からん。