ブリタニアは、スオムスとバルトランドの戦争を長引かせる為にオラーシャとカールスラントで騒動を起こそうとした。戦争からくる経済効果をできる限り享受しようと言う悪辣な考えからだったが、一つだけ誤算があった。
「ノイエ・カールスラントで民主独立派が蜂起したよ」
その報告がもたらされたのは、バルトランドの王族がブリタニアに渡った一週間後の事だった。
「やっとか。ブリタニアはなかなか粘ったみたいだな。正直もっと早くに蜂起すると思ってた」
ブリタニアが目指していたのは、戦争の長期化だ。そのためにカールスラント、オラーシャで騒動を起こそうとしていた訳だが、スオムスが圧勝した事でその思惑は破綻した。事前の策としてこの戦争をブリタニアにとって最も都合の良い形で終結させようと工作を開始したが、溢れ出した水というものはそう簡単には止まらない。
カールスラント、オラーシャ共にブリタニアからは必要なモノはほぼ全て与えられた後だった。
「だけどこれでバルトランドとの交渉に、カールスラントが関与してくる可能性は低くなったな」
カールスラントはバルトランドの友好国だ。バルトランドとの講和交渉に口を出してくる事が予想された。
「後はオラーシャの介入を防げれば、ブリタニアを相手の交渉になるから多少はマシな条件を引き出せるかもな」
「オラーシャはスオムスに好意的な行動が多かったし、このまま何も起きない方がいいんじゃないかな」
「それは少し違うぞハッセ。オラーシャはスオムスが必要以上に力を持つ事は望んじゃいない。多分、このままだといい条件での講和は難しい」
オラーシャはスオムスの友好国だが、それはスオムスがオラーシャよりも圧倒的に劣っている国だからこそのものだった。オラーシャはカールスラント、扶桑の二大国に国境を接しており、常々外交には気を配っている。もしバルトランドとの戦争がスオムスに圧倒的に有利な条件で講和すればオラーシャは三つの大国と国境を接する事になる。スオムスが必要以上に力を付けないよう、講和交渉に介入するだろうとスオムス政府は見ていた。
「スオムスがオラーシャにとって都合の良い国であり続ける限りはスオムスの味方。そうでなければ敵って事か。わかってはいた事だけど、スオムスは厳しい状況にあるんだね」
「バルトランドとの戦争は、オラーシャが側面を敵対国家に犯されるかどうかがかかっていたからな」
バルトランドはカールスラントと友好関係にある。そんな国がスオムスに宣戦布告をしてきた時点で、オラーシャはカールスラントが攻め込む意思があると見做していた。そのため、オラーシャはその思惑を崩すべく多くの物資をスオムスに提供していた。
「にしてもカールスラントで先に蜂起したのは予想外だったな。オラーシャ国境地帯の様子からしてすぐにでも騒動が起きそうな様子だったのに」
「戦争前から国境を越えてくる人もいて、破裂寸前のシュールストレミングみたいな状態だったのにね」
毎日のように不法入国していたオラーシャ人のせいで、現地の猟師が狩場を変えたり、引っ越しを余儀なくされたりとその影響は小さくはない。
「危機がすぐそこにあると思ったから、ペテルブルクに住んでるサーシャに計画の手紙を送ったのにこれじゃわたしが先走ったみたいじゃないか」
この時のエイラは、自分の早とちりでサーシャの故郷を悪く言ってしまったと少しばかり後悔していたが実際そんな事はなかった。
エイラからの警告と、スオムスで自分を手伝って欲しいという勧誘の手紙に対して断りの返事を出した事をサーシャは後悔していた。
元ウィッチとはいえ自分は引退した身。一般人と変わらないのだから今後表舞台と関わる事はないし、そのつもりもないと決めていたと言うのに、世間はそれを許してくれないのだなと内心ため息を吐いた。
「何度も言っていますよね。私はあなた方に協力するつもりはありません」
「このペテルブルクは、ネウロイとの戦争で国から見捨てられました。それを解放してくれたのはポクルイーシキン中佐じゃないですか。再びペテルブルクを救うと思って協力してはくれませんか」
サーシャにそう言ったのは、六十手前ほどのふくよかな老紳士だった。彼はスオムスとバルトランドの戦争が始まってから度々こうしてサーシャを訪ねてきていた。
「国がペテルブルクを守れなかった事は事実ですが、あの当時誰が指導者であってもそれは変わらなかったでしょう」
「確かに、それは認めます。ですがオラーシャの中心都市を、モスクワ復興の為にペテルブルク市民に多大な税金をかけられた事はどう説明しますか。ペテルブルクだってネウロイに占拠されていたと言うのに、これではあまりにも不公平だ」
「ペテルブルクだけが一方的に増税されてわけではありません。疎開先だったウラルの工業地帯や、コーカサスなども増税の対象になっていましたし」
戦後オラーシャは、モスクワやドニエプル工業地帯の復興のために比較的被害が少なかった州に対して増税を行った。その中には、早期に解放されていたペテルブルクも含まれていた。
「もし仮に、復興を目指すのであればまず手をつけるべきは皇族の財産でしょう。奴らは未だに莫大な財産持っています。それを解放すべきでしょう」
「それは噂に過ぎないでしょう」
ヘルウェティアの銀行には、オラーシャ皇室の財産があると言う噂がある。しかし口の固いヘルウェティアの銀行が真実を語るはずがなく、あくまでも噂に過ぎないものだった。
「そうですね。ですが皇室が自分たちの住居の復興を優先している時点で、ある程度の財産がある事は確実でしょう」
その言葉をサーシャは否定せず、ずっと気になっていた事を聞いた。
「そもそも、どうして私を誘うんですか?」
「言っていませんでしか?」
「ええ、聞いていません。私が聞いたのは、政府が各地から税を取り立てるのを辞めさせると言う事だけです」
サーシャが最初に声をかけられたのはスオムスとバルトランドの戦争が始まって一ヶ月ほど経過した時だった。現在の政府の方針に反感を抱いている、一緒にオラーシャを改革しよう。そんな謳い文句だった。
「我々の目的は、いまだに莫大な財産をもつ皇族や貴族連中を解体して、庶民に財産を分配する。財産を共有する事で貧富の差を無くして楽園のような国を作る。大まかに言えばそんなところです」
選挙はまだまだ先だ。その割には現状をすぐに変えようとしている様子に不穏なものを感じ取っていた。
「確かあなた方は政治団体ですよね。選挙に出て、議員として国を変えていくと言う事ですか?」
「現状を変えるのに、次の選挙までは待てません。幸い、我々を援助してくれる国もありました。後必要なのは、ウィッチです。そしてそれを纏めるには英雄的な活躍をしたウィッチが必要不可欠です」
「私はオラーシャの大地をネウロイから取り返し、国民をその脅威から守るために戦いました。暴力を用いた改革は、私達が守った国民までも脅威に晒すものです。そんな事に賛同するわけにはいきません」
暴力を用いた改革、革命は否が応でも犠牲者が出る。それをサーシャは許す事はできなかった。
「……どうしてもですか?」
「今の話は聞かなかった事にします。私の気が変わらないうちに帰ってください」
引退したとはいえ、革命軍を見逃すような倫理観はサーシャにはない。この後、サーシャは昔のツテを使って軍や政府の上層部にこの件を報告するつもりだった。
「協力を得られないのであれば、仕方ありません。しかし、計画の一端でも知ってしまった以上、貴女を自由の身にさせるわけにはいかない」
その可能性を考慮していない訳ではなかった。しかし、丸腰であればたとえ成人男性相手でもウィッチであるサーシャが圧倒的に有利だ。引退したとはいえ、サーシャは魔法力を完全に失ったわけではないのだ。魔法力を発動させて臨戦体勢を取るサーシャに、男は不適な笑みを浮かべた。
「私が交渉決裂を予想していなかったと思いますか?」
次の瞬間後ろの窓ガラスが割れる音が聞こえ、サーシャは床に押さえつけられた。
「動くな」
後頭部に棒状の物が押し付けられ、サーシャは動きを止めた。
「残念ですよポクルイーシキン中佐。貴女が味方になってくれれば心強かったのですが……」
「……最初からこのつもりだったんですか、フルシチョフさん」
サーシャは上目遣いに男、フルシチョフを睨みつけた。
「計画の障害を排除できるギリギリのタイミングが今だったものですから。これ以上は待てないのですよ」
「私をどうするつもりですか?」
「安心してください、殺しはしません。英雄であるポクルイーシキン中佐を殺しては、我々が批判されることは間違いありませんから」
ならどうするつもりか、そんな無言の問いかけにフルシチョフは不適な笑みを浮かべた。
「意見が変わるまで、我々の拠点でお世話させてもらいますよ」
なんかネタねぇかなぁ。
いや、まぁ全くないかといえば実際のところそうではないんですよね。
あまり気はならないけど、共産主義とかその他諸々ストライクウィッチーズの政治情勢について。
今回の話でちょびっと触れましたけど、おそらくですがネウロイとの戦争の後に共産主義とか社会主義は台頭すると思うんですよね。
どちらの主義も耳障りはいいですし、荒廃した国では規模が大きくなって革命騒ぎに発展するのかなと思ったり思わなかったり。