ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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ほんと、暑すぎて冷房つけないと全然作業が進まない……


オラーシャ

オラーシャでの反体制派の蜂起は、まさしく内乱と言って良いものになった。コーカサス、ウラル、ワルシャワで次々に反体制派が蜂起した。その知らせを受け、エイラは早急に各軍の司令官達を召集した。

 

「みんなも知っての通り、ようやくペテルブルクの連中が蜂起した」

 

最も不安定であると考えられていたペテルブルクは、意外な事に一番最後に動きがあった。しかし遅かった代わりに規模は他と比べても桁違いに大きく瞬く間にペテログラードとその周辺地域を占拠した。

 

「ペテルブルク臨時政府と言うのから、スオムスに対して支援の要請がきたんだけど、政府がこれについて軍に意見を求めてきた」

 

「オラーシャは友好国だよ。協力しないって選択以外あるの?」

 

「オラーシャが内戦状態になった時、スオムスは積極的にオラーシャを支援するって事になってたんだ。だけど今回は当初予定してたのと色々と事情が違うから改めて検討し直す必要があるんだよ」

 

ハッセは知らなかったがスオムスは元来、オラーシャで内戦が起きればオラーシャの味方として積極的に介入する方針だった。オラーシャとの関係性の悪化はスオムスが自主独立を保つためにはなくてはならないものだからだ。

しかし、バルトランドとの戦争で状況は大きく変わった。通常、スオムスはオラーシャから見てそれほど大きな脅威ではないが予備役を動員したお陰でオラーシャから見ても脅威と呼べるくらいにはその戦力は拡充している。ここで、ペテルブルク臨時政府を支持してオラーシャの国力を削ぐか、それともオラーシャを支持して信用を得るか。それはスオムスの行く末を決めるものになる事は間違いなかった。

 

「スオムスの戦力は、内戦状態のオラーシャからすれば脅威だ。下手に介入すれば誤解を招くことになる」

 

「なら干渉しなかったらいいんじゃないの?」

 

「政府はこの機会に、オラーシャからの圧力をできる限り取り除きたい考えてる。それと同時にスオムスの力を大きくしたい考えだ」

 

「バルトランドとの戦争で思わしい戦果を得られなかったから、と言う理由ではないんですね」

 

手を挙げて尋ねたのは陸軍の最高司令官だった。陸軍はバルトランドとの戦争で一番多くの犠牲を出していたため、バルトランドとの戦争が中途半端に終わった事に対して不満を覚えていた。

ここに来てオラーシャに対して強く出る事が、政府が支持を集めるための小細工に感じてオラーシャに対する積極的な介入に消極的だった。

 

「政府の意図にはもしかしたらそれも含まれているかもしれないな。だけど、政府としてはこの機会になんとかしてムルマンスクを確保したいみたいだな」

 

「お言葉ですが、ムルマンスクではまだ何も起きていません。それはオラーシャに宣戦布告すると言う事ですか?」

 

「ペテルブルクの反乱をスオムスが鎮圧して、その功績を持ってムルマンスクの割譲、または租借を要求する。あるいは臨時政府を支援してムルマンスクを確保させ、その見返りにムルマンスクを譲り受ける」

 

ペテルブルクは首都モスクワに次いで二番目に人口が多く、オラーシャにとって最も重要な都市の一つだ。もしスオムスがペテルブルクを奪還すれば、内乱状態のオラーシャには力づくで取り返すことはできなくなる。

 

「ムルマンスクを割譲となれば、そこを守る為の艦隊が必要になります。しかし海軍にはそんなものは存在しません」

 

「動員を解除してしまえば、そんな場所まで守る為の戦力は陸軍にもありませんね」

 

「それは解除すればの話だろ。今のスオムスが貿易しようとすれば、必ず他国の影響を受ける事になるけど、ムルマンスクを手に入れる事ができたら、他国から影響を受けずに物資を得ることができるんだ。そうなれば常備軍の数は以前よりも増える」

 

スオムスが貿易を行う時、船は必ずバルトランドとカールスラントにより捕捉される。バルトランドとの戦争のように、両国が手を組めばスオムスが物資を手に入れる手段はオラーシャを経由したものしか、事実上無くなってしまう。

 

「政府もバルトランドとの戦争で一つくらい港を確保できると思ってたみたいなんだよな」

 

周りの国からの干渉を受けない港。それは今のスオムスが最も欲しいものだった。

 

「なら政府も簡単に賠償だけで済ませると言わなければ、妙なリスクを取る必要もなかったのでは?」

 

「ブリタニアの機嫌を損ねると厄介な事になるからな」

 

現在のスオムスはブリタニアとオラーシャにより、国際社会での立ち位置を確立させていると言っても過言ではない。オラーシャは自国防衛のためにスオムスは必須の存在であり、多少のスオムスが不都合な動きをしたとしても許してくれる。しかしブリタニアはスオムスが自分達に不都合な存在となれば即座に切り捨ててくる。なぜならオラーシャにとってスオムスは唯一無二だが、ブリタニアにとってスオムスの代わりなど探せばいくらでも存在するからだ。

 

「空軍としては、ムルマンスクを確保できるのであればしてしまいたいです。戦力が足りる足りないは置いといて、現状だと航空機の選択肢がほぼオラーシャ一択ですからね」

 

旧式のレシプロ機であれば他の国の機体も存在するが、最新のジェット機は殆どがオラーシャ製だ。今回のように、輸送ルートが制限された際には必ずオラーシャ領を通らなくてはならないため、他国からは最新機をスオムスに売ることに難色を示されることが多い。

 

「ハッセはどう思う?」

 

陸海の司令官が反対で空軍が賛成。ハッセの意見次第では今後のスオムスについて、軍の方針が決する可能性があった。それを理解していたハッセは少し考えた後、緊張した面持ちで答えた。

 

「多くのウィッチはこれ以上の戦争を望んでいないと思う。本来、ウィッチの役目は怪異に対する防衛手段であって、人と人の戦争の道具じゃなかったはずだよ」

 

「なら介入はしないと、そう言う事か?」

 

強い口調でエイラが問いかけると、ハッセは首を横に振った。

 

「バルトランドと戦う前から、ペテルブルクは不安定だったでしょ。お陰で国境地帯を去ったスオムス国民が何人もいる。多分、傍観って立場をとると前よりも酷い事になると思うんだ」

 

「そうだろうな。統制の取れた軍隊ならともかく、蜂起したのは民間人。ほぼ間違いなく、国境地帯は荒らされることになるな」

 

それを想定して、スオムスはオラーシャ国境地帯に軍を多数配置しなおしていた。もしも国境を越えようものなら、即座に反撃できる体制は整っている。

 

「もしもペテルブルクのあたりだけで騒動が起きるのなら、国境を超えてきた人達に対応するだけでいいと思うんだ。だけど、今回の反乱は本当にそれだけで終わるのかな」

 

「スオムスに影響のある場所でまだ反乱が起きると思うのか?」

 

「反乱が起きた地域は全部ネウロイに奪われなかった、あるいは早期に奪還した地域でしょ?」

 

「基本的にはな。多分今回の反乱の原因の一つは、ネウロイとの戦争中に中央政府の力が行き届いていなかった事だからな」

 

ワルシャワとウラル以外の都市は早期に解放されるか、そもそも占領されていない都市だ。中央政府の力が及ばなかった期間が長く、その間に半ば独立したような状態であった事が今回の反乱の原因の一つと考えられていた。

 

「ならムルマンスクも同じなんじゃないかな。あそこも長い間中央政府の力が届いていない場所だよ」

 

「……否定はできないな」

 

「もしもムルマンスクで反乱が起きれば、スオムスは積極的に介入するべきだと思う。ムルマンスクが使えなくなると、下手をすればバルトランドとの戦争以上にまずい事になるし、なんならバルトランド側が約束を反故にしかねない」

 

もしムルマンスクが完全に使えなくなれば、バルトハンドがカールスラントと協力してスカゲラク海峡を閉じれば、再びスオムスが戦争をする事は不可能になる。

 

「一応、バルトランド軍の解体を見届けるために最低限の部隊は展開してある」

 

数としては三個師団相当のスオムス軍が、バルトランドのいくつか要衝に駐屯している。もし約束を反故にしようとすれば、対応は可能だった。

 

「だけどこうなると、ラップランドに展開する部隊を増やした方がいいかもしれないな。ムルマンスクと似た状態だった都市がこんなにも反乱を起こしているのに、ムルマンスクだけが例外って考えるのはあまりにも浅はかだ」

 

そう言うとエイラは陸海空の司令官達に視線を送った。

 

「ひとまずペテルブルク臨時政府に対する支援も、オラーシャに対する支援もせずに様子を見る。その上でムルマンスクで動きがあれば即座にペテルブルク、ムルマンスクの占領に動く。それが軍の方針と言う事で問題ないか?」

 

その言葉に、ハッセが頷き会議は閉会となった。




ネウロイとの戦争中、多分中央政府の力が届かなかった都市は多いと思います。ペテルブルクとか、コーカサスとかあの辺は特に。

下手をすればガリアなんかも、一年くらいは連合軍が拠点にしていたわけですし案外反乱の火種は燻っているのかなと思います。連合軍が駐屯して、色々な思想が流入したでしょうからね。

多分本編で触れることがないと思うので書いておくと、今回の話のワルシャワの反乱なんかは多分カールスラント系の住民いそうだなぁってところから、奪取した時にいたカールスラント軍の影響ありそうだなって考えから、反乱に至らせています
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