ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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よくよく考えたら、本来200話なんて超えるむもりなかったんですよね。まあ、話数と言うか物語の構成を見誤ったのは自分が未熟だったからなんですけど。多分今なら一話一話のボリュームをアップして、もう少し濃い内容で書ける気がすると思ったり思わなかったり……


監禁

意外なことに、フルシチョフにより拘束されたサーシャの生活は出歩けない事を除けば快適なものだった。

 

「食事の時間です」

 

ノックと共に、顔馴染みとなった世話役の十代ほどの軍服を纏った少女がサーシャのいる部屋に入ってくると、毎回恒例となっている質問を投げかけた。

 

「いつになったら私を解放してくれるのかしら」

 

「それは党の重役達が決めることですので……」

 

「その人達の姿は随分と長い間見ていないですけど、何か起きましたか?」

 

三日に一度は姿を見せていた党の重役たちは、二週間ほどの間一度もサーシャの前に姿を現していなかった。

 

「いつまでもポクルイーシキン中佐に時間をかけられるほど、重役の方々は暇ではありませんから」

 

数ヶ月の間、少なくとも一週間に一回ほどのペースでサーシャの自宅を訪れていたのが、共産党の党首フルシチョフという男だった。今更忙しいと言われても簡単に信じられるものではなかった。

 

「……オラーシャ政府に対して反旗を翻したんですか?」

 

さして忙しくないとサーシャが認識している人間が、突然忙しいことを理由にし始めた。何かが起きたと考えるのが自然だった。

 

「ポクルイーシキン中佐が我々に協力するのであれば、教えるようにと命令されています」

 

甘いな、とサーシャは思った。それではもう答えを言っているようなものだった。少なくとも、サーシャの協力があれば嬉しい事態に共産党が陥っているのは間違いない。オラーシャ政府に対する反乱なのかどうかまではわからないが、それに近い事が起きたのは間違いない。

 

「私だってペテルブルクが火の海に包まれる事は本意ではありません。解放していただけるのでしたら、ペテルブルクを守るために尽力させてもらいます」

 

サーシャの言葉に、彼女は嬉しそうな表情を見せると少し待っているように告げ、部屋から出ていった。

暫くして、彼女はフルシチョフを連れて戻ってきた。

 

「やっと我々と共に戦ってくれる決意をしましたが、ポクルイーシキン中佐」

 

「先ほど彼女にも言いましたが、私だってペテルブルクが戦火に包まれるのは避けたいのです。私にできることであればなんでもします」

 

サーシャの答えに、フルシチョフは世話係の少女を横目で見るとため息を吐いた。

 

「上手く手玉に取られたな、同士ペペリャエフ」

 

フルシチョフの言葉に少女、ペペリャエフは狼狽えた。

 

「わ、私が手玉に取られたってどういう意味ですか、書記長」

 

「ポクルイーシキン中佐も、あまり若い者をからかわないでやってください」

 

ペペリャエフの言葉を無視して、フルシチョフはサーシャに強い視線を向けた。

 

「あら、嘘は言ってませんよ。ペテルブルクを守るためであれば、私はなんでもします。その言葉に嘘はありません」

 

「我々の味方として、と付け加えていただければなお良いのですが、そうはいかないんでしょな」

 

「共産党の敵はオラーシャ政府でしょう。そこの彼女と違い、私はオラーシャをネウロイの手から解放し平和を取り戻すために戦った。私は元オラーシャ軍人ですよ。今更政府と敵対して、オラーシャに戦乱を巻き起こすなどできるはずがないでしょう」

 

サーシャの言葉に、フルシチョフは考えるような顎に手を当てた。

 

「どうかしましたか?」

 

「相手がオラーシャ政府でなければ、協力してくれるのですね」

 

「ペテルブルクを、オラーシャを守るためであれば全力を尽くしましょう」

 

サーシャの言葉に、フルシチョフはいくつかの資料を取り出しサーシャに手渡した。

 

「なんですかこれは」

 

「我がペテルブルク臨時政府の主敵に関する情報です。装備、兵力、経済規模等できる限り詳細に纏められています」

 

ペテルブルク臨時政府というものを、サーシャは知らなかったがおそらく共産党を中心としたペテルブルクの反乱軍の事だろうと予想し、黙って資料を受け取り、中身を読むと驚いた表情を浮かべた。

 

「相手はスオムスですか……」

 

スオムスがペテルブルク臨時政府だけでなく、ムルマンスク方面にまで侵攻していると書かれていた。流石にこれはサーシャも予想外だったが、それをおくびにも出さずに呟いた。

 

「オラーシャとして対応できるのならともかく、ペテルブルク臨時政府単体では限界があります。あいにく、オラーシャ政府は今回のスオムスの蛮行を見逃し、他の地域で放棄した部隊の鎮圧に全力を注ぐようですので」

 

ペテルブルク市とスオムスの人口比は、スオムスとバルトランドのそれとそれほど違いはない。装備が整ってさえいれば、一ヶ月程度なら持ち堪えることは不可能ではない。だがペテルブルク臨時政府は歩兵装備でさえ二人で一つを使い回すような有様で、とてもではないがスオムス軍に対処する事はできそうになかった。

 

「幸い、スオムスが差し向けてきた兵力は全軍の半数以下、およそ二十万人から二十五万人、我々の兵力はどれだけかき集めても三十万人が限界です。数の上では互角以上でも、兵の質と装備の性能差で勝てない事は明白です」

 

「私が加わっても、それが変わることはありませんよ」

 

「スオムスの英雄、エイラ・イルマタル・ユーティライネン元帥はたった一人で数十人のウィッチを相手に戦い、全滅させたと言う。撃墜スコアでこそ劣るかもしれないが、ポクルイーシキン中佐も世界屈指のエースウィッチである事は疑いようがない」

 

「たしかに、私の実力は世界でも上から数えた方が早かったでしょう。ですが、世界でも三指に入るエースウィッチと比べてしまっては、私など赤子も同然です」

 

バルトランドとの戦争でエイラが戦った誰よりもいい勝負が出来るだろうとは思うが、それでも勝てる事はまずない。それほどの実力差が二人の間にはあった。

 

「何もユーティライネンと戦えと言っているわけではない。上がりを迎えた貴女では、勝てるはずもないしそもそも飛べないでしょう」

 

サーシャの引退は当時大々的に報じられ、その理由は坂本少佐同様、シールドの強度が減少し、飛ぶことすらできなくなったからと言うのは広く知られたことだった。厳密には坂本少佐と違い、魔法力自体の発現は可能ではあったが、飛行もできずシールドも張れない、見た目だけしかウィッチとしての体裁を保っていないという報道だった。

もっとも、それを差し引いても事務処理能力などは高く、そう言った仕事が苦手なものが多いウィッチ達からは引き留める声は大きかった。

 

「中佐は最前線にはでず、形式的な指揮官として兵士達を鼓舞してもらいたいのです」

 

もしもサーシャが戦死するような事があれば、士気が落ちて戦線が一気に崩壊しかねない。フルシチョフはそう考えていた。

 

「一つ聞きたいのですが、スオムスはどうしてペテルブルクに攻めてきたのでしょうか」

 

「……おおかた、我々の決起に乗じて領土を獲得しようとでも思ったのでしょう」

 

「では、貴方達からスオムスに対して手を出していないと?」

 

サーシャは反政府的な組織が度々スオムスとの国境地帯で諍いを起こしていた事を知っていた。それが共産党かどうかまでは確証が持てないが、反乱を起こした共産党と無関係とは考えにくかった。

 

「我々の敵はあくまでもオラーシャ政府です。スオムスと問題を起こす余裕なんてありませんよ」

 

その言葉にサーシャは目を瞑ると、重々しく口を開いた。

 

「エイラさん、ユーティライネン元帥はオラーシャ解放の立役者であり、同時に私の友人でもあります。彼女の考え方はほぼ正確に理解しているつもりです」

 

スオムスがバルトランドと戦争を開始する前、サーシャはエイラから散々警告を受けていた。オラーシャが危険であり、もし戦火から逃れることを望むのであれば、スオムスに住居を用意するだけでなく、場合によっては国籍まで用意するとまでエイラは告げていた。

 

「彼女は理由もなく、オラーシャと戦端を開くようなことはしません」

 

「同じオラーシャ国民である私ではなく、敵国の人間を信じると?」

 

「私と貴方の関係よりも、エイラさんとの関係の方が深く信用できますから」

 

十代という多感な時期の多くをネウロイとの戦争に費やし、その時期に得た絆はダイヤモンドよりも硬い。最近知り合ったばかりの、同郷のフルシチョフよりも他国のエイラの方が信用に値するのはサーシャにとって当然だった。

 

「であるならば仕方ありません。不本意ですが、貴女をここから出すわけには行かなくなりました」

 

「そうはいきません。私にはここから出なければならない理由が出来てしまったので」

 

フルシチョフ達の戦争相手がエイラであると知れた今、いつまでもここでじっとしているつもりはなかった。

 

「ここにいるペペリャエフ少尉は現役のウィッチです。上がりを迎えた貴女くらいであれば容易に鎮圧できるでしょう」

 

いくらサーシャがウィッチとして高い実力を持っていても、それは過去の話。現役のウィッチに敵うはずはなかった。

 

「実は私、オラーシャ政府と取引をしたんです」

 

今までの話の流れで告げられるにしては不可解な告白に、フルシチョフは眉を顰めた。

 

「それが今の状況と関係がありますかな?」

 

「ご存じ無いかもしれませんけど、私の固有魔法である映像記憶能力はその利便性から様々な機密情報を記録しているんです。紙媒体と違って私が口を割らない限りは外に漏れる心配がありませんからね」

 

「ですが貴女はもう魔法を使えないのでしょう」

 

「ですが、一度記憶した以上は別に魔法に頼らずとも思い出す事くらいはできるんですよ」

 

固有魔法で記憶したと言う事は、サーシャ自身が一度それを見ていると言うことだ。半永久的に記憶するにあたっては固有魔法が必須になるが、単純に自分自身が覚えておく分にはそれは必須ではない。

 

「色々と知ってしまっている私を、簡単に引退させたのは何故だと思いますか?」

 

サーシャの質問に、フルシチョフは一瞬の間の後答えた。

 

「脅したのか!?」

 

「もし引退させてくれないのなら、うっかり誰かに機密情報を喋ってしまうかもしれませんよと言ったら、皆さん喜んで私を引退させてくれました。もっとも、いくつか条件はありましたけど、平和に暮らすつもりだった私には些細なものでした」

 

その条件とは、海外渡航の禁止や定期的に近くの軍事施設に顔を見せ、所在を明らかにすることなどが含まれていた。この条件もあって、サーシャはエイラからの誘いに簡単に頷くことができなかったのだ。

 

「ですがペテルブルクがオラーシャの手を離れ、ペテルブルク臨時政府なんて名乗るのであれば、ペテルブルク市民の私の国籍は一時的にオラーシャから離れ、宙に浮いた状態と解釈してもいいですよね」

 

そう言った次の瞬間、サーシャの頭には白い熊の耳が現れた。その光景に、フルシチョフもペペリャエフも一瞬動きが止まった。それを見逃すサーシャではなく、ペペリャエフを一撃で昏倒させると腰のホルスターから拳銃を奪い取りフルシチョフに向けた。

 

「少々心苦しいですが、私はペテルブルクを去ろうと思います」

 

「……上がりを迎えたんじゃなかったんですか?」

 

「魔法力が使える事を隠すのは、私が引退する条件の一つだったものですから。ちなみに、私の魔法力は全盛期と全く変わりありませんよ。変な気は起こさないでくださいね」

 

そう言ってサーシャは不適な笑みを浮かべた。




ちなみにパパリャエフは朝鮮戦争のソ連軍のエースパイロットから取ったオリキャラです。

サーシャって簡単には引退できなさそうですよね。ストライカーユニットの設計図とか頭に入ってるみたいですし、それ以外も色々とヤバそうなの知ってそう。少なくとも、十年くらいは軍にいてもらわないと機密情報とかヤバいのでは?
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