エイラやサーシャは、前線の兵士達は更なるオラーシャ領土への侵攻に対して反対の者が多いだろうと考えていた。しかしそんなエイラ達の考えとは裏腹に、兵士達の士気は高かった。
エイラは自分の名声がマンネルヘイムに劣っていると考えているが、実際はそんな事はなかった。マンネルヘイムの功績の多くはネウロイとの戦いに由来するものだった。
それに対してエイラは個人の実力はネウロイ由来だったが、最高司令官としての評価は人対人の戦争から来るものだった。今現在、エイラは人との戦争にもっとも造詣が深い、常勝の元帥と言うのが兵士達からの評価だった。
百戦錬磨の元帥、エイラ・イルマタル・ユーティライネンがリバウを攻めるよう命令したとなれば、兵士達に否やはない。士気が下がるどころか、兵士達は喜び勇んで進軍を開始した。
「イッルは一度自分の影響力っていうものを自覚するべきだと思うよ」
呆れた様子でそう言ったのは、ニパだった。ニパはリバウへの進軍には同行せず、24戦隊と共にペテルブルクの包囲に参加している。リバウを奪取するにあたり、司令部はペテルブルクの近くに置かれることになりその都合上ニパは司令部に滞在していた。
そのためリバウへの進軍を命じられた時、誰よりも早くエイラに対して抗議する事ができた前線指揮官がニパだった。そしてエイラから事情を告げられて出た言葉が先ほどのものだった。
「まさか兵士達が少しの疑いも持たずに、わたしみたいな小娘の指示に従って喜んでリバウに向かうなんて予想できるわけないだろ」
全員がそうだったわけではないが、少なくともリバウ侵攻に反対する者達の声がかき消されるくらいにはエイラの指示に疑いを持たない者が多数派だった。
「エイラさんのいう通りですよ。元帥だの現役最強のエースウィッチだの言われても、マンネルヘイム元帥や各国の歴戦の元帥達に比べたらまだまだ足元にも及ばないでしょう」
「サーシャさんくらいはイッルの世間での評価が今どれくらい高いものになってるかわかってて欲しかったよ」
ニパが二人に対して呆れた様子を見せる珍しい様子に、エイラ達は少しムッとしたようだった。
「サーシャさんはイッルのお陰でスオムス国籍を取得できたでしょ。それってつまり、普通の軍人としては異例なくらい高い評価をイッルがされているって事だよ」
「自分で言うのもなんですけど、それは私が持ち込んだ情報に相応の評価をしてもらっただけではないでしょうか」
エイラが上層部に疎まれているのではないかと言う疑念は、ニパには伝えていない。前線勤務のニパに、後方のゴタゴタを伝えていらぬ心配をかけたくないという思いからだった。
「だとしてもだよ。いくら政府から命令されたとしても、イッルなら拒否する事だってできたはずだよ。スオムス軍元帥の称号は伊達じゃないでしょ」
スオムス軍元帥と軍の最高司令官が必ずしも同じになるわけではない。たが元帥固有の役割として、スオムス大統領に対する軍事面での助言をする権限があり、この権利を上手く使えば大統領の命令だろうと覆す事ができたはずだった。
「できないとは言わないけど、その権利は簡単に行使していいものじゃない」
権力には相応の責任が伴う。今回の場合、政府の責任がエイラに被せられた事になる。もしも事前にその事を知らされていれば、エイラは権利を行使する事を躊躇わなかっただろう。しかし不意打ち同然に行われた今回の所業に対しては対応が遅れた。本来であればエイラに話を通さなければならないが、それをしなかったのはやはり政府もこの作戦は反対されると考えていたからなのだろう。
「今が行使するタイミングだったと思うよ」
「否定はしない。だけどわたしはそれをし損ねたんだ。今更言っても遅い」
いつの間にやら整えられていた作戦計画を元に、スオムス軍は動き出してしまった。
「このままだとスオムスが滅びかねないよ。リバウ、ペテルブルク、ムルマンスク。この三つを確保し続ける兵力はスオムスには存在しないんだから」
総動員をして、限界まで勢力を絞り出してようやく五十万人ほどの兵士を動員するのがスオムスという国だ。五十万人と聞けば多く思えるが、その数はオラーシャ陸軍の常備軍の四分の一以下であり、他の列強国と比べても極めて少ないものだった。
「特にムルマンスクを確保し続けるにはある程度の海軍も必要になりますからね。海軍が貧弱なスオムスにとって、ムルマンスクを確保し続ける事はかなり難しいでしょう」
ニパのいう事はもっともだとサーシャは同意した。サーシャの後押しを受けた見て、ニパは更にエイラを非難しようとしたがサーシャがそれを止めた。
「ですが、だからこそエイラさんは決意してくれました」
その物言いにきな臭いものを感じ取ったエイラは彼女の名前を呼んだ。
「まだ決めたわけじゃない」
「バルトランドからエイラさんに忠誠を誓った部隊が、応援として派遣される事が決定している今がその時でしょう?」
サーシャの問いかけに答えたのはニパだった。
「バルトランドから応援ってどういう事?」
「そのままの意味だな。スオムスはバルトランドの部分的な再軍備を認め、その中にはバルトランド空軍ウィッチ隊もあった。そいつらが自主的に義勇軍としてスオムスに駆けつける事になってる」
それは、エイラがバルトランドとの戦争で勝ち取った部隊だった。エイラはバルトランドとの戦争が終わった時点でその約束は終わりを迎えたと考えたいたが、もう一方の当事者であるバルトランドのウィッチ達はそう考えてはいなかった。
王族を追放したとはいえ、バルトランド政府にはまだ思うところがあり、積極的に政府に力を貸したいとは思えない彼女達は、忠誠の誓い先としてエイラを選んだ。所属こそバルトランド空軍だが、その実態は殆どエイラの私兵と言ってよかった。
「バルトランドのウィッチを使って、オラーシャとの戦争状態を終わらせるって事?」
「一方的に攻められた上に、スオムス優位での講和を認められるほどオラーシャは弱い国ではありません。まず間違いなく断られるでしょう」
「ならどうするの?」
「戦争というものは相手がいなくては成立しません」
そんな事はサーシャに言われるまでもなくニパモ理解している。だからこそ、ニパはその部隊をオラーシャを倒すために使うのだと思っていた。
「だからオラーシャ相手に使うんだよね」
「ニパさん、戦争を終わらせるのにわざわざ強い相手を倒しに行く必要はありません。より弱い方から倒すべきです」
そう言われてもニパはまだ意味が分からない様子だった。かつてはブレイクウィッチーズなどと言われ問題児扱いされていたが、ニパは悪意を持って破壊していたわけではない。問題児ではあったが、悪人ではないニパにサーシャの言っている事の意味を理解するにはまだ暫くの時間を要しそうだった。
「具体的な話をすると、ここに来たウィッチ達を反転させます」
「バルトランドに向かわすの?」
ここに来てもまだ理解できていないニパに、サーシャは頭を抱えた。そのサーシャに変わって、エイラが端的に告げた。
「サーシャはスオムスに、ヘルシンキに向かわせろって言ってるんだよ」
叫び声を上げそうになったニパの口を、サーシャが手で無理やり塞ぐとエイラを非難した。
「どこで誰が聞いているかも分からないのに、軽々しく口にしないでください」
エイラが肩をすくめると、サーシャの拘束から解放されたニパがエイラに詰め寄った。
「本気なの!?」
「少なくともサーシャは本気だ」
「あら、エイラさんも乗り気だったじゃないですか」
「わたしは時間をくれって言っただけではまだ結論は出してない」
サーシャが暗に反乱を匂わしてから数日が経つが、エイラはいまだに結論を出していなかった。そもそも、スオムス政府を打倒したからと言って戦争を終わらせる事ができるとは限らない事、スオムス政府を武力で打倒してスオムス国民がついてくる確証がなかった事が原因だった。
「流石にもうタイムリミットでしょう。いい加減に決めてもらわないと困ります」
「バルトランドのウィッチが到着するまでくらいは待てるだろ」
「数日の話ですけどね」
まるで世間話をするかのようにいつも通りの様子で不穏な会話を楽しむ二人に、ニパはようやく理解が追いついた。
「イッルも考えてはいるんだね」
「最終的な問題の解決手段としては、有効な手段だろうな。だけどそれが今すべきなのかどうか、判断ができない」
「ハッセはなんて言ってるの?」
今ここにはいないハッセも、ニパと同じくらいエイラとの付き合いは長い。彼女がどう考えているのか、ニパは知りたかった。
「ハッセには伝えていない。と言うか、ニパにも伝えるつもりはなかった。サーシャが話したのは想定外だったよ」
「仲間は多いに越した事はないですからね。私はウィンド少将の事をあまりよく知りませんから、エイラさんとニパさんがいいと判断したのなら伝えてくれても構いませんよ」
「まだするって決めたわけじゃないけどな」
エイラの言葉はもうニパの耳には届いていなかった。この話を聞いてしまった以上は協力するか、敵対するかしかニパに道は残されていない。協力してくれると信じてサーシャは話したのだろうが、そう簡単に決断できるものではなかった。
えーと、何かネタはあったかな。
この世界線のウィッチって宇宙開発でも使えそうですよね。記憶が少し曖昧なんですけど、ストライカー・ユニットって体温の調節だとかの魔法を使える機能があったような記憶があるんですよね。多分いっしょだよとかそのへんで書かれてたと思うけど……
まぁ、それはともかくストライカー・ユニットが意外と多機能だったはずなので、宇宙活動用のストライカー・ユニットとか、宇宙服にストライカー・ユニットの機能を搭載すれば宇宙開発が促進されるのでは? なんて思ったんですけど、なんか科学力で補われそうな気がしなくもない……
どうなんでしょうね?