ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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昔読んでた作品がいつの間にか非公開になってて悲しい。それと同時に昔読んでて、非公開になった作品がまた公開設定になってるというちょっと嬉しい出来事の二つが最近ありました。


計画

エイラの決断が伝えられたのは、バルトランドのウィッチ達が到着する直前のことだった。

 

「もし仮に政府の狙いがリバウにとどまらない場合、スオムスは滅ぶしかなくなる」

 

オラーシャの反乱はスオムスにとって好機である事は間違いない。しかしそれを理由にいたずらに戦禍を拡大する事はスオムスの国益にそぐわない。

 

「ようやく覚悟を決めましたか」

 

「サーシャに上手く転がされた気がしなくもないけどな」

 

「私は後押しをしただけですよ。決断したのはエイラさんです」

 

「そう誘導したのはサーシャだろ」

 

素知らぬ顔で告げるサーシャに、エイラはため息混じりに返した。

 

「誘導した事は否定しません。貴女に失脚されると私は困りますからね。ですが私は私とサーニャさんに対する責任を果たしてくれればそれでよかったんですよ」

 

サーニャをスオムスに呼び寄せたのはエイラであり、サーシャの為にスオムス国籍を用意して亡命のお膳立てをしたのもエイラだ。その責任を取れと言われてはエイラも返す言葉がなかった。

 

「エイラさんが権力を奪取する決断をしてくれたおかげで、私が用意していた計画も無駄にならずにすみそうで安心しました」

 

嬉々とした様子でサーシャは計画書を差し出すサーシャに、エイラは胡乱な目を向けた。

 

「随分と準備がいいな」

 

「エイラさんならその決断をしてくれると信じていたので」

 

「お前ラルとは別の方向で性格が悪くなったな」

 

エイラの言葉にサーシャは目を大きく見開いた後、咳払いを一つすると言った。

 

「エイラさんの部下ですから」

 

エイラは最初その言葉の意味を計りかねていたが、その意味を理解すると思わず立ち上がった。

 

「わたしの性格が悪いって言うのかよ!?」

 

「性格が悪くなかったら、スオムス軍元帥にして最高司令官なんてできないじゃないですか。少なくとも、私が知っている元帥達は方向性は様々ですが何かしら性格の悪い部分がありましたよ」

 

そう言われてエイラは自分が知っている元帥達の顔を思い浮かべてみた。一番よく知っているマンネルヘイム元帥は良くも悪くもエイラを酷使して今の国際社会におけるスオムスの立場を確立させた。

他にもエイラがパットン将軍を左遷させた時、元帥達が嬉々として乗っかって来たことから上層部の人間の性格が悪いというのは否定できないということに気がついた。

 

「わたしは数少ない例外さ」

 

「ラル隊長を返り討ちにした事がある人が性格がいいわけないでしょう」

 

グンドュラ・ラルの性格が悪いのはいうまでもない事だが、その性格の悪いラルを返り討ちにしたどころか、ラルが手を出したくない筆頭にあげるほどだった。

 

「……性格の悪い二人の部下だったサーシャの性格が悪いのも納得だな」

 

悔し紛れにそう言うと、サーシャはショックを受けた様子だった。

 

「私がラル隊長の部下だったから性格が悪いというのは納得しかねます」

 

「それを言うならわたしだってそうだぞ」

 

ラルの性格がウィッチの中でも一番悪いというのは二人の共通認識だ。そのラルを引き合いに出されて気分がいいはずがなかった。

 

「この話題はお互いを傷つけるだけになりそうですね」

 

その言葉にエイラは無言で頷いた。自分の性格が悪いと思いたい者は殆どいない。例に漏れずエイラもサーシャもそんな奇特な人間ではなかった。

 

「それで、サーシャの考えた計画ってのはどんなものなんだ?」

 

「そこに書いてある通りです」

 

「そんな事はわかってるけど、サーシャの口から聞きたいんだ」

 

サーシャの口から語られた計画は、極めて単純で速度を重視したものだった。

応援にくるバルトランドウィッチ隊が到着し、補給が終わり次第スオムスの首都ヘルシンキに差し向ける。スオムス大統領達スオムス政府首脳陣の身柄を確保するというものだった。

 

「穴がありすぎるんじゃないか。そもそもバルトランドのウィッチ達が無条件でわたしに従うとは限らないし、ヘルシンキの守備隊も他国のウィッチを黙って通すようなお人好しじゃない」

 

「同意します。ですからこの計画はエイラさんが協力しなかった場合のものです」

 

「お前、わたしが協力しなくてもやるつもりだったのかよ」

 

「何度も言っていますが、エイラさんの進退は私のスオムスでの立場に影響しますからね。それにいろんな恩のあるエイラさんが失脚するのを指を咥えて見ているのは、正直気持ちのいいものではありません」

 

最後はどこか恥ずかしそうにサーシャは言った。その様子にエイラは思わずため息を吐いた。

 

「たとえ引退したとしてもサーシャとサーニャの家族達の身柄の安全を確保するくらいはできるし、もしスオムスでそれができなかったらリベリオンあたりにわたしが亡命すれば、サーシャ達も一緒に亡命できるはずだぞ」

 

小国ながらウィッチを背景とした強大な軍事力を持つスオムスの最高指揮官が亡命したいといえば、多少の同行者がいたとしても比較的容易に受け入れられる可能性は高い。ましてや現在大規模な戦争をしているスオムスとなれば、人対人の戦争のノウハウを得る為にも是非とも欲しい人材である事は間違いない。

 

「そうでしょうね。ですけど、何も悪い事をしていないエイラさんがスオムスを追い出される必要はないでしょう」

 

「わたしとしては、こんなくだらない争いから逃げられるのならリベリオンに亡命するのも悪くないと思ってるんだけどな」

 

「そんな事は私が許しません。今のスオムスに、政府は必要ないかもしれませんけどエイラさんは必要です」

 

「亡命してきたばかりなのに、よく分かるな」

 

皮肉混じりに言うと、サーシャは小さな笑みを浮かべた。

 

「少なくともこんな無茶苦茶な事をしている政府よりも、エイラさんの方がはるかにマシなのは間違いないじゃないですか」

 

「そりゃそうだ。それで、わたしが協力した場合の作戦は?」

 

「作戦自体はシンプルでそれほど複雑なものではありません」

 

そう言ってサーシャが語った作戦は、確かに単純なものだった。

ペテルブルクの部隊はそのままに、リバウに向かう部隊とムルマンスクの制圧をしている部隊から信用できる部隊を抽出し、ヘルシンキに差し向け武力で制圧する。その際ヘルシンキの守備隊はエイラの命令で移動させ減らす、ないしは内応させる事で軍の被害を極力減らす。バルトランドのウィッチ隊単独での攻略よりは余程可能性のあるものだった。

 

「シンプルで分かりやすい作戦だな。それだけに政府に気取られれば簡単に対応されるし、気取られなければ油断しているところを一気に叩けるわけだ。サーシャらしくない、力でのゴリ押しだな」

 

エイラの印象では、サーシャは多少遠回りしても安全な作戦を立てるタイプだった。しかし今回の作戦は計画を秘匿する意外は力押しするだけのサーシャらしくない作戦だった。

 

「今回の計画に必要なのは速度です。多少のリスクは許容しなければなりません」

 

「なるほどな。わたしが今からしないといけない事は実行部隊の選定と説得か」

 

「選定はこちらですましています。必要なのは説得だけです」

 

行き当たりばったりな杜撰さのあるこの計画は、速度があれば達成可能だという考えのもとで立てられている。当然候補となる部隊の目星はついていた。

 

「エイラさんの姉、アウロラさんと28戦隊を中心にいくつかの部隊の説得をお願いします」

 

「アウロラ姉ちゃんはムルマンスク方面にいるから、情報の秘匿を考えたら直接出向く必要があるな」

 

「アウロラさんとその指揮下にいるシニ・ヘイヘさんを配置転換の名目でヘルシンキの近くまで移動させればその必要はなくなります。計画実行直前に無線で協力を要請すれば傍受されても問題ありませんからね」

 

「姉ちゃん達が協力しないと言ったらどうするんだよ。あの二人が敵に回ると面倒なことになるぞ」

 

シニ・ヘイヘというウィッチにエイラは直接会った事はないが、その実力は噂で伝え聞いていた。エイラ同様にネウロイとの戦争初期に名を上げ、エイラと違い早い段階で負傷により表舞台から姿を消したウィッチだった。

そしてバルトランドとの戦争でもアウロラと共に活躍し、再び世界にその名を轟かせたウィッチでもあった。

 

「その時は輸送機に引き返してもらいましょう。いくら強くてもあの二人は陸戦ウィッチです。空では自由に動けません」

 

「アウロラ姉ちゃんなら窓を破ってパラシュートもなしに飛び降りてきそうだけど……」

 

その光景がありありと目に浮かび、サーシャは反論することができなかった。しかし普通に考えてそれが不可能であると結論づけると、サーシャはエイラの言葉を否定した。

 

「それはありえないでしょう」

 

「そうかなぁ?」

 

「くだらない事を言っていないで、早く行動を開始しますよ。私達に残されている時間はそれほど多くはないんですから」

 

サーシャの呼びかけに、近場の部隊から説得を開始したが結局この行為は無駄に終わることになる。

二人がスオムス政府を打倒すべく話をする前から、スオムス政府が秘密裏に行っていた事は二人の想像を超え、世界をも驚かせる事になる。




いつの間にか有名無実化してたネウロイの水が苦手な設定。
いや、たしかに水に浸かる描写はないんですけど氷山に隠れたり地中をあんなにもでかいネウロイが、どうやってか地下水脈を避けてライン川を超えてきただけで。

そもそもライン川がネウロイに対する防波堤になるのがいまいち納得できないんですよね。ドーバー海峡ならともかく、大きいと言ってもただの川のライン川が防衛線として機能するかというと、大きさ自在で飛行型も多いネウロイには正直微妙な気が……
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