後の評価においてスオムス共和国第六代大統領にして、最後のスオムス共和国大統領、ヤリ・クスティ・パーシヴィキの評価は大きく別れる。
一つはスオムス連邦共和国を作った立役者であり、ネウロイとの戦争が終わった戦後の国難を上手く乗り切った偉大なる大統領。
もう一つは、バルトランドとの戦争に勝ったのにも関わらず、最大限の利益を得る事なく、バルトランドに延命の道を残してしまった愚か者というものだった。
後者の評価をする者については不当なまでにその点で評価を下げるせいで、前者の功績をもう少し評価しても良いと諌められる事も多い。しかし前者を出して擁護する者も、その多くはバルトランドの事を言われると言葉に詰まってしまった。それほどまでにバルトランドの一件はパーシヴィキの評価を落としていた。
しかしそんな両方の評価者が最後に決まって言う言葉があった。それは病で正常な判断が下す事ができなかったというものだ。
パーシヴィキは大統領職にあった晩年、いくつもの病と戦いながら職務を遂行した。最後は肺炎を患いそれが元で亡くなったが、多くの人々はパーシヴィキがバルトランドに対して手ぬるい対応をした理由は病によるものだと確信していた。
1951年4月。それはスオムスが初めて人との戦争を経験してからおよそ一年後の事だった。スオムス大統領パーシヴィキが病によりこの世を去った。
「大統領が死んだ?」
それは俄には信じがたい報告だった。最後に会ったのはバルトランドとの戦争が終わった直後の為、最近の容態など知りようがないが、少なくともエイラが最後に会った時はまだ元気そうだった。
「大統領の狙いはエイラさんを傀儡として、連邦の主導権をスオムスで握る事だったはず。それがまさか自分の寿命で阻まれるだなんて思いもしていなかったでしょうね」
パーシヴィキ本人が首相なり副大統領なりの役割について実権を握るつもりだったのか、それとも腹心にその役割を代行させ、自らは裏で采配を振るうつもりだったのか。当人が死んだ以上は本当のところはわからない。
「ですがこれで政府側は混乱するでしょう。昨日の要求をペテルブルク臨時政府が飲めば、この機を逃さず一気に主導権を握りましょう」
「そんなにうまく行くかな? ペテルブルク臨時政府の連中が、サーシャの案を飲むとも限らないし、何よりわたし自身が飲んでほしくないとも思ってる」
「苦肉の策ですからね。ですが成功すれば選挙後に主導権を握れる可能性がありました。しかし大統領が死んだ今なら選挙前から動き出せます」
パーシヴィキは偉大な大統領だった。いくら最近の彼が耄碌していたといっても油断できる様な相手ではない。スオムスの政治家達は油断ならない人物ばかりだが、その首魁たるパーシヴィキが死んだ今なら、エイラ達でも勝機があるとサーシャは考えていた。
「……もしかしてわたし達は盛大な勘違いをしていたんじゃないか?」
「勘違いと言いますと?」
「あのパーシヴィキ大統領が自分の寿命を計算に入れていなかったとは考えにくい。もし仮に大統領がそうだったとしても、ケッコネン首相あたりが諌めてると思うんだよな」
ケッコネンはパーシヴィキと共にスオムスを支えてきた人物で、次期大統領との呼び声も高かった人物だ。もしもスオムスが戦争などしなければパーシヴィキはケッコネンに大統領職を譲り渡す形で引退していただろう。
「ケッコネン首相の事はよくわかりませんけど、現実問題としてエイラさんを傀儡化しようとしているのは事実です。それがどの様な意図であれ、今更計画を止める事はできません」
「そうかな。一度話し合いの場を設けて向こうの言い分を聞いてからでも遅くはないと思うぞ」
パーシヴィキが傑物である事は今更語る必要はない。そんなパーシヴィキがこの様な杜撰な計画を立てるとはとても思えなかった。
「その間に選挙が終わるかもしれませんよ」
「その前に話がつく可能性もある」
「その為にはスオムスだけでなく、バルトランドも納得できる候補者を擁立する必要があります。そんな人がいますか?」
サーシャの問いかけに違和感を感じたエイラは、その問いかけに答えなかった。
「サーシャは今回の選挙が結果ありきだと考えているんだな」
「連邦国家になるというのはスオムスだけで決められる事ではありません。当然、バルトランド側も納得しての事のはずです。話し合いの場ではまず間違いなく、大統領を誰にするかも話し合われたはずです」
「そうかもな。だけど話し合いを持ったところで、必ずわたしが勝つとも限らないぞ。政府と民衆の意思が乖離している事は民主主義国家だとよくある話だしな」
エイラは成人してから選挙というものを経験して、案外政治家のしたい政策と民衆の望む政策とが違う事がよくある事に気がついた。そしてそういった政治家は大抵の場合選挙で落選している。エイラもその例に漏れず、たとえ大統領候補となってもそれを民衆が受け入れるとは限らなかった。
「スオムス側はそうかもしれませんが、バルトランドはどうでしょうか。人口的にはバルトランドの方が圧倒的に多いですから、たとえスオムスでの票が不十分でも、バルトランドの票が入れば選挙には勝てます」
「それならバルトランド側が選挙に勝てる候補を出せば、バルトランドは簡単にスオムスを手に入れる事ができる」
「それをできなくしたのは貴女ですよ、エイラさん」
「わたしが何をしたっていうんだよ」
全く心当たりのなく思わず眉を顰めたエイラに、サーシャはため息を吐いた。
「今のバルトランドはスオムスに負けて、政治はボロボロです。バルトランドの首相が暫定的に元首として君臨していますが、その支持率は低いです」
スオムスとの戦争に負けたバルトランドは、戦争により経済への影響はそれほど大きくなかったが、その後に起きた王族の追放などの政治的な問題で国内はボロボロになっていた。各地でストライキやデモが起き、むしろ戦争中の方がまだマシだったというレベルで経済は崩壊しかけていた。
「今のバルトランドを纏められる人材が、バルトランド国内にはいないのか」
「私もバルトランドの事に殊更詳しいわけではないので、断言はできませんがおそらくそのはずです」
「バルトランド政府の人間が大統領になるよりは、スオムスの人間のほうがまだマシだと?」
「というよりは、エイラさんであれば国民を納得させられると考えているんだと思います」
サーシャはそう言うが、エイラは懐疑的だった。戦争で最高司令官として指揮をとっていたのがエイラだ。それは今のバルトランドの状態を間接的に作り出した人物とも言える為、バルトランドからの支持は得られないだろうとエイラは思っていた。
「多少特殊かもしれませんが、直接戦ったバルトランドのウィッチ隊がエイラさんに友好的だったあたり、それほど的外れな推測ではないと思います」
「アイツらの隊長から任されたからな。かなり色眼鏡が入ってるぞ」
「エイラさんはバルトランドのウィッチを、捕虜を手厚く扱いましたよね。帰国した彼女、彼らがその事を伝えればバルトランド国内での評価は上がるんじゃないでしょうか。エイラさんは元々バルトランドで人気だったわけですし」
サーシャの考えは願望を含んだものだったが、だからといって簡単に否定できるほど的外れな考えとは言えなかった。エイラがバルトランドで人気だったのは事実だ。バルトランドの人気ウィッチランキングではピア・ホーン少佐を抜いてトップであり、戦争で多少その人気に陰りは見えるが今だに高い人気を保っていた。
「その人気が選挙でも通じればいいけどな」
「そうでなければ困ります。もしバルトランド側の候補者が大統領になれば、この先どうなるか全く先が読めなくなりますからね」
ほんの数ヶ月前まで戦争をしていたバルトランドの人間が大統領になれば、最悪の場合、エイラが追放される事だってありえる。そうなればサーシャやサーニャの身の安全も保つ事ができなくなる。
「そして仮にエイラさん大統領になっても、まだその先には戦いが待っています。その為にはまずペテルブルク臨時政府が降伏してくれなければなりません」
ペテルブルク臨時政府に突きつけた要求は、この先エイラ達が戦って行く為には必要不可欠なものが混ぜられている。だがそれはペテルブルク臨時政府にとって決して悪い提案ではなく、ほぼ間違いなく受け入れられるだろうとサーシャは考えていた。
「イッル、サーシャさん!」
強いノックと共に入室してきたのはニパだった。返事を待たずに入室した事をサーシャが咎めようとしたが、それよりも先にニパが言葉を放った。
「ペテルブルク臨時政府が要求を飲んで降伏したよ!」
待ちに待った報告に、思わふエイラ達は歓喜の声をあげた。
お気に入り登録とか、評価とかって増えてたらやっぱり嬉しいものです。
名前とか確認するんですけど、個人的に一番驚いたの人気のある作品書いてる方が自分の作品をお気に入りしてくれてた時は声が出ました。
後は面白い作品ないかなって探してて登録してくださってる方が小説書き始めてたりした時はちょっとの嬉しさと、驚きがありますね。
書き手は多ければ多いほどいいですから、やっぱり嬉しいです。
さて、必死に時間稼ぎしましたけど後書きのネタは一応あります。
魔法力の利用方法にゲームとか、その他娯楽に対して使えるんですかね。というか、エイラの未来予知とかギャンブルで無類の強さを発揮するのでは? 特にオンラインカジノとか、カジノ施設にあるゲーム機タイプのポーカーとかバカラとか。上手くやればあの辺で荒稼ぎできるのでは?
まぁ、現代だと監視カメラとかで魔法力使ってるの見つけたら出禁にするとかありそうですけどね。