それが発表されたのは、リバウが陥落した二日後の事だった。総司令官であるエイラ自らがリバウの視察に出向く事がスオムス政府から大々的に発表された。選挙期間中であり、投票日まで一ヶ月をきった中での視察には反対の声も少なくはなかったが、エイラの強い要望で実行される事になった。
「政府はついに気が狂ったらしい」
苛立たしげに機密らしき書類をバルクホルンに投げ渡しラルは言った。
「読んでも構わないのか?」
「お前ならいい。いや本当は不味いが、こんな馬鹿げた作戦、私一人で抱え込みたくはない」
「ガランド中将と話せばいいじゃないか」
ガランドはカールスラントウィッチのトップに立つ人物であり、ラル以上に機密に触れる事ができる立場にある。わざわざ規則を破ってまでバルクホルンに機密情報を共有せずとも愚痴の共有くらいはできるはずだった。
「良くも悪くも、あの人は戦場の人だ。政治闘争に向かないし、平和な時代にガランド中将は必ずしも必要な人材ではない」
ガランドが戦時中にウィッチ総監という重職にありながらも前線でネウロイと戦っていたのは公然の秘密だ。彼女が今大人しくウィッチ総監の地位にとどまっているのは奇跡と言ってよかった。
「ウィッチでこれを知っているのは私くらいのものだ。幸か不幸か、私の性格の悪さは上層部の目にも止まったらしい」
ラルが自嘲気味に言うあたり、相当悪辣なモノがこの書類には書かれているのだろう。息を飲み覚悟を決めるとバルクホルンは書類に手を伸ばした。
「……正気なのか?」
機密書類を読んだバルクホルンは絶句し、辛うじてそう尋ねる事しかできなかった。
「正気ではないだろうな」
「正気ではない奴が軍の作戦を立案していると? カールスラントの参謀本部は優秀な人間の集まりだと思っていたのだがな」
カールスラントの参謀本部は優秀だ。それは万人が認めるものであり、世界各国がこぞってカールスラントの参謀本部を真似した組織を軍内部に作った事からも明らかだ。
「残念だが参謀本部の問題ではないな。いや、参謀本部だけの問題ではないというべきか」
参謀本部は優秀だとしても、それを運用する者が優秀でなければその性能を十全に発揮する事はできない。今回の狂気的な作戦は運用者に問題があったからこそ立案された物だった。
「軍人というものは上からの命令には逆らえないものだ。参謀本部だけが作戦に関わるのならともかく、軍の行動は政府の方針と密接に関係している。政府がやりたい事がたとえどんなに軍事的合理性や倫理感とかけ離れたものであったとしても、それが命令ならば従わなければならない」
「だとしてもこんな作戦狂っているとしか思えない。ただでさえノイエ・カールスラントでは反乱が起き、余裕がないのにこれではいたずらに犠牲を出して更に大きな戦争を呼び込む事になる」
「おかしな事をいうな。上の連中が狂っている事など今更論じるまでもない事だろう」
ラルの言葉はバルクホルンにとって予想外なものだった。それは自分達が狂人の指示に従い祖国の解放を成し遂げたという事になる。
いつからラルがそう思っていたのかは分からないが、もしそれが戦時中からであるならば一体どの様な思いで上からの命令に従っていたのだろうか。
「人同士で争おうとする奴らが正気なわけないだろう。ネウロイとは違いその戦争には人類の生存などではなく、純粋に他者を踏み躙る事で得られる利益のみを追求しているんだ。正気でやるなど無理だ」
「正気でないというのなら、一体何だというんだ。まさか狂人の集団に付き従って戦っているとでも言うつもりか?」
吐き捨てる様に問いかけるバルクホルンに、ラルは疲れた様子でため息を吐いた。
「謀略や戦争なんてものは、狂っていなければできないものだ。ましてやそれが人に対するものなら尚更な」
ラル自身、戦時中に物資を得るために障害となる人物を謀略により排除した事はある。命まで奪う事はなかったし、やったことと言えば閑職に左遷させたくらいのものだが、今になって考えると問答無用で敵対し排除するのはやり過ぎだったと思わなくはない。彼らはラルの邪魔をしたかったわけではないだろうし、ラルがした事によりその皺寄せを受けた部隊もあっただろう。まさしくあの時代のラルは狂気に包まれていたと、平和になった今に自覚していた。
もっとも、また同じ状況に陥れば問答無用で排除しただろうという確信もあった。それは根本的な話でいうのなら時代がそうさせたという、ただそれだけの話だった。
「上層部が狂っているというのなら、それを告発し正常化させるべきだろう」
「道理だな。だが一体誰に対して告発するというんだ。上層部の人間というものは恐れ多くも皇帝陛下が認め、その地位に任用された人物達だ。まさか皇帝陛下に対して、陛下の見る目は腐ってましたよと言うわけにもいくまい」
「……何も陛下に直接言葉を伝えるだけが手段ではないだろう」
バルクホルンは苦虫を噛み潰した様な顔で小さな声で絞り出すように言った。だがラルにはそれだけで十分だった。
「お前の言わんとしている事は分かる。私もそれを考えなかった訳ではないからな」
「この計画を実行するのなら、上層部は一度全員で会合の場を持つだろう。そこで一網打尽にすれば、私とグンドュラで始末可能だろう。確実を期すなら議会を包囲するのに飛行隊が欲しいところだがな」
欠席者の事も考えれば、撃ち漏らしは出るだろうが議員の殆どと宰相さえどうにかできればこの計画が実行される事はないとバルクホルンは考えた。
「慌てるなバルクホルン。私は考えなかった訳ではないと言ったんだ」
「どういう事だ?」
「それをすればノイエ・カールスラントの反乱と合わせて確実にカールスラントは崩壊寸前までいく。いや、もしかしたら崩壊するかもしれない」
「それがどうした。腐った木なんていくら大木だろうと後の事を考えるなら切り倒したほうがいい」
バルクホルンの言葉にラルは苦笑いを浮かべると揶揄うような口調で言った。
「不敬だぞ、バルクホルン」
バルクホルンは最初、何を言われているのか分からなかったようだった。しかしその意味を理解すると、怒気を露わにした。
「不敬だと!? 無能な上層部のせいで、幾人ものウィッチが無意味な戦争に投入されて死んだんだぞ! 愚かな行いを繰り返そうとする奴らを排除するのは、たとえそれが陛下が任命したとしても結果として陛下にとっても国にとっても良い事に繋がるじゃないか!!」
「詭弁だな。その理屈が通じない事くらい、お前なら分かるだろう」
そんな事はバルクホルンもよく分かっていた。だからこそそれをラルに指摘された時、黙り込む事でしか返すことができなかった。
「私もお前と同じ事を考えなかった訳ではない。だがふと思ったんだ。これがミーナやハルトマンならどうするのだろうと」
「そんなの少なくとも一度は私と同じ事を考えるに決まってる。ミーナも上官を排除するために一度は武力を使っているんだからな」
ブリタニアにいた際、マロニー大将を排除するのに武力を用いた事を思い出し言った。あの時は法的にもある程度の正当性があったという相違点はあるが、武力を用いた事に変わりはない。
「私も初めはそう思った。私達と同様、武力を使うのではないかとな」
「違うのか?」
「今のミーナ達ならまず対話から入るべきだというだろうな。いや、元々アイツらは私やバルクホルンと比べ、穏健派といってよかった」
ミーナはたとえどれほど上官が悪かろうと、簡単に排除するという選択肢を取るような人物ではなかった。マロニー大将相手にも堂々と対立意見を言い、言葉で改善させようと行動していた。
ハルトマンはというと、たとえばマルセイユやバルクホルンは戦果を上げれば当然のように喜び、それにより勲章がもらえれば栄誉だと誇った。反面ハルトマンはスコアにこだわりを持たず、さらにはその証である勲章さえもぞんざいに扱い、時折バルクホルンにそれを咎められていた。それは戦果以前に、戦いというものがそれほど好きではなかったからだったのかもしれない。戦後になって簡単に軍を辞めたのは、そういった性格的な物も大きかったのではないだろうか。そうラルは考えていた。
「私は軍の中でしか生きられない人間だ。自分が市井で平和に暮らすなど、到底想像できないからな。お前もそうだろう?」
ラルに言われるまでもなく、自分が軍でしか生きられない事などバルクホルン自身よく分かっていた。いずれは結婚して軍を引退する未来もあるかもしれないが、それまでは軍で生活し続けるのだろうという確信があった。
「平和な、少なくとも本国が平和な今の時代に武力を用いた政変は似合わない。この計画が馬鹿馬鹿しい事間違いないが、だからと言って我々が国内を乱すような事をしては本末転倒だからな」
「ならどうする。まさか形式に則り抗議文を用意して作戦の撤回を目指すとでも?」
馬鹿にするようにバルクホルンが問いかけると、ラルは大きく頷いた。
「そんな事をしていては手遅れになるぞ!」
「分かっている。だが焦って国を乱すような事をしてはダメだろう。この計画が実行されるにせよされないにせよ、計画の対象が害される事は万に一つもありえんのだからな。ならば焦らず確実に計画の撤回を目指すべきだろう」
それはある種、計画の対象に対する信頼からくる言葉だった。
「確かにアイツがこの程度の計画で死ぬような人間とは思えない。だがだからと言って……」
「だからこそだ。言って悪いがユーティライネンの命と、カールスラントの安定なら私は後者を取らざるを得ない。例え友人同士だとしてもない」
そう言った後は嘲笑うかのような声音で続けた。
「もっとも、こんなちゃちな暗殺計画なんぞで心配されるなど、ユーティライネンは考えてすらいないかもしれないがな」
魔法力って発電に使えたりしないかなぁと思ったりする今日この頃。
ペリーヌの固有魔法って魔法力を電気に変えてる訳ですが、もしそれが外部ユニットで魔法力を電気に変換できるならちょっと面白そうだと思いました。まぁ、発電量がしれてるから役立つとしたら被災地とか戦地での発電機代わりと言ったところでしょうか。発電量によっては発電機より安上がりで場所も取らなさそうですし。