ダイヤのエースが飛ぶ理由   作:鉄玉

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7月くらいには今年中に終わりそうだな、なんて思ってたんですけどまだまだ書く話が出てきてまだまだ続きます。多分原因はサーシャだと思う。なんでこの人こんなに頑張ってるんだろう。


対岸の火事

「聞いたか宮藤」

 

宮藤が勤める軍病院を訪れた坂本は、開口一番にそう問いかけた。

 

「聞いたって、何をですか?」

 

「今朝の新聞になっていたエイラの事だ」

 

「最近忙しくて新聞は読めてなくて。エイラさんに何かあったんですか?」

 

「そうなのか。まぁ、今をときめく宮藤芳佳軍医少佐ともなれば忙しいのも無理からぬ事か」

 

得心ができたと腕を組み深く頷くと、宮藤は頬を赤くして恥ずかしそうに手を振った。

 

「もう、揶揄わないでくださいよ!」

 

「揶揄ってなどいないさ。宮藤はよく頑張っている」

 

戦争が終わり再びヘルウェティアの大学で医学を学んだ宮藤は、ヘルウェティアの最新医学と、ウィッチの治癒魔法を織り交ぜた独特な治療法を用いて医師達の中で高い評価を得ていた。

 

「坂本さんだって、軍を辞めてからちゃんと会社勤めしてるじゃないですか。それだって立派な事ですよ」

 

戦後、扶桑では退役した軍人、特に元ウィッチによる犯罪が問題視されていた。ウィッチは普通の軍人とは違い、20歳を過ぎて魔法力が減少するとかつてのような活躍は望めず、予備役として登録される事はない。

多感な時期を戦場で過ごした少女達が普通の生活を送る事は難しく、犯罪に手を染める者も多かった。

 

「本当は軍に残って後進の育成をしたかったんだがな」

 

坂本は決して上層部からのウケが良いウィッチではなく、また魔法力が完全になくなった坂本の代わりになる人物はいくらでもいる。だからといって冷遇されていたわけではないが、坂本を軍に残すのなら同世代で坂本に匹敵する戦果を上げたエースウィッチを残した方が良いと、そう上層部は判断し坂本に退役を促した。促されただけなので残る事もできたが、残ったところで待っているのは坂本の望む仕事ではない。結果として坂本は軍を去る事を選んだ。

 

「まぁ、私の事などどうでもいい。問題はエイラの事だ」

 

「エイラさんがスオムスの大統領候補だっていうのは知ってますけど、それ以上のニュースなんてあるんですか?」

 

「暗殺されたとなれば、それ以上のニュースになるだろうな」

 

「暗殺!? エイラさんが殺されたんですか?」

 

「安心しろ宮藤、エイラは生きている。無傷のエースの名に恥じず傷一つ負っていないらしい。そもそも、いくら忙しくとも暗殺されていれば宮藤の耳にも入っているだろう」

 

最近何かと世間を騒がす事の多いスオムスだ。いくら忙しくても暗殺ともなれば流石に宮藤の耳にも入る事は間違いない。

 

「暗殺されたわけでないなら、一体何があったんですか?」

 

「暗殺はされなかったが、暗殺未遂は起きた。リバウに視察に来て、そのままの流れでリバウの統治をしていたエイラを狙ってカールスラントが国境を軍を越境してきたんだ」

 

「軍を越境させたって……それってスオムスとカールスラントの戦争になったって事ですか?」

 

スオムスが実効支配しつつある状態だが、リバウはオラーシャ領土だ。スオムスに正当性があるわけではないが、だからといってカールスラントが越境していい理由にはならない。ましてやスオムス軍と一戦交える事は戦争以外の何者でもない。

 

「それはどうだろうな。スオムスの戦争から得た戦訓からして、戦争におけるウィッチの役割は決して小さな物ではない事は明らかだ。特に市街地や小規模戦闘においては絶大な力を発揮する」

 

今の坂本は軍の関係者ではないため、詳しい戦闘状況を知っているわけではない。だがかつての戦友や新聞、ラジオなどの情報から、人同士の戦争でもウィッチが一定の戦果を上げることができるのを把握していた。

 

「そのウィッチが、今回の戦闘には当初投入されていなかった。もっとも、新聞の記事になるほどバルクホルンがウィッチの死に対して憤りを覚えていたのだから、作戦への投入をバルクホルンが強硬に反対して食い止めた可能性もあるがな」

 

当時、歴史上2番目に多い撃墜スコアを持っていたバルクホルンが激怒した事は扶桑でもニュースになっていた。かつての大エース同士の空戦が見られるのかと世間は賑わい、一部では賭け事にまで発展する始末だった。

 

「だがカールスラントの思惑通りだったのか、それとも自然とそうなったのかは知らないが、ウィッチを擁するスオムス軍が優勢になるとカールスラント側もウィッチを投入したんだ」

 

スオムス側のウィッチはエイラの護衛としてついてきたバルトランドのウィッチ隊を含む約三個中隊。対するカールスラント側は二個飛行隊、中隊数で言えば七個中隊相当のウィッチが駆け付けた。単純な戦力比においては完全にカールスラントが上回るが、そんな物は簡単に蹴散らすことができる人物達がスオムスにはいた。

 

「それもカールスラントの越境時点から戦い続けてきたスオムスウィッチに、倍近い戦力を押し返す事は難しい」

 

「じゃあリバウはカールスラントが奪取したんですか? そんな事になればスオムスどころかオラーシャまで敵に回すことになりますよ」

 

「そうなればさすがの宮藤の耳にも入るだろうな。現実はカールスラントの敗北で幕を閉じ、リバウはスオムスによる実効支配が継続される事になった」

 

「スオムスはどうやって倍の数のウィッチを撃退したんですか?」

 

「エイラと元第502統合戦闘航空団の戦闘隊長だったポクルイーシキンが蹴散らしたらしい。この戦いでエイラは13人、ポクルイーシキンは6人のウィッチをレシプロストライカーで撃墜したようだ」

 

これまではエイラ1人で大隊規模のウィッチを撃退していたから麻痺しがちだが、たった2人で一個中隊相当のウィッチを撃墜した事は驚異的だ。撃墜スコア自体は2人で19と二個中隊にも満たない数だが、戦闘ではこの2人に対して五個中隊約60人のウィッチが襲いかかったと言われている。その約三分の一近くをたった2人で、それもレシプロストライカーでジェットストライカー相手に撃墜したというのだ。

 

「なんともおかしな話だが、この影響で私にはいくつかのストライカーユニット開発会社から研究開発にアドバイザーとして協力して欲しいという依頼が来ている。なんでも、今後はレシプロストライカーこそ世界の主流となる。ジェットストライカーは時代遅れだそうだ」

 

「レシプロストライカーでジェットストライカーに勝つなんて無理ですよ。スピードが違いすぎますから、こちらが撃つ前に逃げられちゃいます」

 

「だが実際、エイラとポクルイーシキンはそれをやってのけた。研究畑の人間はそれがレシプロストライカーの性能故のものだと思っているらしい」

 

「……坂本さんはそれを受けるんですか?」

 

「断ったさ。当然だろう。いくらなんでもレシプロストライカーでジェットストライカーに勝つなど馬鹿げている。私が現役だった時、不完全なジェットストライカー相手でさえ勝つのは困難だった。エイラ達が勝つ事ができたのはひとえに2人の実力の高さと、エイラの未来予知の賜物だろうな」

 

「未来予知ですか。確かにエイラさんの固有魔法ならジェットストライカーにも対抗できますけど、ポクルイーシキンさんはどうなんでしょうか?」

 

「これは予想でしかないが、ポクルイーシキンもネウロイとの戦いで名を上げたエースだ。エイラの未来予知でサポートすれば、かつてのエースクラスならレシプロストライカーでもジェットストライカー相手に戦果を上げる事はできるんだろう」

 

「エイラさんって自分が戦っても十分強いですけど、未来予知を使ってサポートにまわってくれた時の方が味方としては心強いですよね」

 

「そうだな。素人はエイラ個人の戦闘能力に目が行きがちだが、あれはサポートにまわった時の方が強い。エイラが未来予知を使って指揮をすれば平凡なウィッチ隊がエース部隊に化ける。たとえ2人という少数だったとしても、それがエース2人ならその力はかつての統合戦闘航空団にも匹敵するだろうな」

 

一個人の力がストライカーユニットの開発構想そのものに影響を与える。ストライカーユニットを使うのはウィッチだが、開発者の多くはそれを使う事のない非ウィッチや、ネウロイとの戦争時には既に一線を退いていた元ウィッチだ。前線のウィッチ達の事情が十分に伝わる事は難しい。

それは戦時中に現役だったウィッチで、宮藤のように高学歴なウィッチは少数である事からくる問題だった。仮に開発陣に加われたとしても、根本的な開発方針などに口出しできるほど開発陣で高い地位を得られる事など不可能に近い。まず間違いなく今後のストライカーユニットの開発構想は戦時中にまで後退する事が予想された。

 

「突然バルトランドと戦争が始まったと思ったら、ついこの間まで仲の良かったオラーシャに攻め込んだり、カールスラントに攻められたり。まったく、欧州情勢は複雑すぎるな」

 

「エイラさん達は大丈夫でしょうか」

 

「扶桑は欧州には関わらない方針らしいからな。仮に大丈夫じゃなかったとしても、私達には何もでないだろうな」

 

坂本の言葉に、宮藤は悔しそうに唇を噛んだ。

 

「せめて私みたいな医師だけでも派遣して負傷者の救護にあたりたいですけど……」

 

「やめておけ。今の宮藤が簡単に国を出られるわけがないし、ましてやそれが戦場となれば尚更だ。私だってエイラ達の様子が気にならないわけではないが、そもそも欧州に行く事自体が民間人の私には難しい事だ。エイラ達を信じて、扶桑で朗報を待つしかない」

 

「……そうですね」

 

坂本の説得に宮藤は悔しそうに頷いた。




ふと思っけど、バルクホルンの怪力って固有魔法なのはどういう判定なんでしょうか。そもそもウィッチである時点で、ある程度の身体強化は行われてるっぽいですが。その身体強化が過剰なものがバルクホルンなんでしょうけど……。ただの個性と言われればそれまでな気もするんですよね。いや、まあH鋼持ち上げてるあたり相当やばいんですけど。そもそもアレってどうやって刺したんだろう。
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