「またウィッチが戦争に使われたのか……」
それが暗殺計画の成否を聞いたバルクホルンが最初に発した言葉だった。当初の予定ではウィッチは使わずに陸軍戦力のみで対象であるエイラを暗殺する予定だった。しかしスオムスの陸上戦力はカールスラントの予想以上に強かった。ネウロイとの戦いは防衛戦が主体であり、攻勢に出た時も最新の対ネウロイ兵器を用いたもので歩兵達に活躍の場がなかった。
それに対してスオムス兵はバルトランド、オラーシャで攻守に実践経験があり兵力においてやや上回るカールスラント軍を撃退した。
「分かっていた事ではあったが、陸軍のみの第一次攻撃はまさに赤子の手を捻るように撃退されてしまった。死傷者は三千人近いそうだ」
「三千だと!? 参加兵力の一割近いじゃ無いか!」
カールスラントが当初送り込んだのは三個師団、兵員およそ三万三千人。対するスオムス側は二個師団と独立大隊が三つ、兵員はおよそ二万八千人だった。これに加えてスオムスはウィッチ含む航空戦力が百ばかりついてくる。
「甘いぞバルクホルン。これには送り込んだ援軍一個師団と航空機百三機、ウィッチ八十三人の被害が含まれていない。こちらはまだ集計中だが航空機は約半数が、ウィッチは少なくとも二十人が失われている。その殆どがユーティライネンとサーシャによるものだ」
現状は行方不明で戦死とまでは判定されていないが、捕虜になったにせよ戦死したにせよ、行方不明のウィッチ達が帰ってくるのは当分先になる事は間違いない。
「……皮肉なモノだな。最新の装備を持ってしても、旧時代の怪物に敵わないとは」
バルクホルンもラルもかつては旧時代の
「残念だが上はそう考えていない。ウィッチ達がこれほどまでの大敗を喫したのは、レシプロストライカーがジェットストライカーに対してなんらかの優位性を持っているからだと考えている」
「優位性? 強いて言うなら旋回性能の高さだが、それは低速故のものでジェットストライカーの性能はそれを補ってあまりあるだけのものがあるだろう」
ジェットストライカーはレシプロストライカーでは追従できないほどの高速で飛来し離脱する事ができる。本来ならレシプロストライカーはジェットストライカーに対してなんの抵抗をする事もできずに撃墜されるはずだった。しかしエイラとサーシャはその定説を覆した。それが政府や開発者達にジェットストライカーの性能に疑問を生じさせる結果となった。
「速度が早い事が必ずしも有利であるとは限らない。それは認めよう。だが大抵の場合はその公式が成立するだろう。数少ない例外に負けたからといって、開発方針自体を変える必要はない」
「バルクホルンの言う事は正しい。だが我々が、いや人類が持つ戦訓の中で人相手にもっとも戦果を上げたのはその数少ない例外だ。スオムスが我々の知らない何か特別な技術を持っていると考えたくなるのも無理からぬ話だ」
ハルトマンを筆頭にバルクホルン達が上げた戦果はネウロイ相手のものだ。ネウロイ相手にはジェットストライカーは効果的なストライカーユニットと認識されていたが、それが人類相手でも同じだとは限らないという疑念を抱かせるには十分な戦果がスオムスによって上げられていた。
「スオムスが、エイラがレシプロストライカーで戦果を上げた理由は明白だ。アイツの固有魔法、未来予知があればどれだけ速かろうと未来位置を狙撃すれば勝手に突っ込んでくるんだからな」
「そんな事は開発陣も分かっている。だからユーティライネン一人が戦果を上げていた時は疑惑止まりだった。だがサーシャが戦果を上げた事で認識を変えた。ユーティライネンだけなら固有魔法で説明がつくが、サーシャまで戦果を上げたとなるとそれだけだは説明できないと言うのが上の考えだ」
嘲笑を浮かべてそう言うラルに、バルクホルンもため息を吐いた。
「それも理由は明白だろう。エイラの未来予知は自分の戦闘能力だけでなく、味方の指揮においても力を発揮する。出会った頃はロッテくらいしか上手く指揮できなかったように思うが、戦争終盤には十人以上の味方を指揮してもその力を十分に発揮していた。たとえ相手がジェットストライカーでも、エースウィッチ一人を指揮して大戦果を上げる事はできるだろう」
「おそらくそれを認識している奴はウィッチでもそう多くはない。単純にユーティライネンの指揮能力が高いだけで、未来予知が戦闘指揮に使えるとは考えないからな」
エイラ個人の戦果が莫大である事と、エイラが指揮した部隊が精鋭揃いだった事もありエイラの指揮能力が未来予知ありきである事に気づいている者は少ない。その事が今回レシプロストライカーの開発が活発化する一因となった。
「指揮されてやっと分かる。まるで未来でも見えているかのような、実際見えているがそんな巧みな指揮で味方の被害をほぼ出さず、敵を撃破する。被害が出てもそれは被害を受けたウィッチ個人にミスがあったからだ。だからこそ指揮下のウィッチが精鋭でなければエイラの指揮を受けても戦果を上げる事ができないわけだが……」
「ユーティライネン含め二人とはいえ、付き合いが長い二人だ。ユーティライネンの命令を完璧にこなす事ができるのなら一度の戦闘でエースになる事もできるだろう」
エイラの指揮で戦った事のある二人はそれをよく理解していた。だが多くの人間はその事を理解していない。仮にバルクホルン達がそれを主張しても受け入れられるかどうかは分からない。結局のところ、バルクホルン達の持つ経験はネウロイ相手のものであり人間相手のものではない。最新ではない戦訓を元にジェットストライカーの開発を主張しても、最新の戦訓を元にレシプロストライカーの開発を主張されては覆すのは難しい。
「バルクホルンは今回出撃したウィッチ達が、ユーティライネンの強さの秘訣に気付いていると思うか?」
「まず気がつかないだろうな。どれほど優秀なウィッチでも、戦闘も戦闘指揮も優秀な者は少ない。エイラの固有魔法による指揮は、ただ戦闘能力が優秀なだけでは気が付かないし、指揮能力が優秀なだけでも気がつくのは難しい」
戦闘能力が高ければエイラの戦闘能力が固有魔法なしには説明がつかない事に気がつくだろう。指揮能力が高ければその戦闘指揮の違和感から、固有魔法に疑いを向けるだろう。だがそれら二つが両立するウィッチは非常に稀有な存在だ。統合戦闘航空団の指揮官を務めたラルやミーナでさえ、両立できているとは言い難いと言えばその難しさが分かるだろう。
スオムスでかつて第24戦隊を率いたルーッカネンなどは固有魔法を使っているのかと見紛うほどの指揮能力を誇るが、個人の実力は普通のエースの域を出ない。エイラにしても、固有魔法抜きの指揮能力はミーナやラルとそれほど変わらない。
「おそらく、いや確実にバルクホルンの言う条件を満たすものは存在しないだろう」
「そうだな。つまるところ、レシプロストライカー開発の流れを止める手段はないと言う事だな」
そう言うとラルは大きくため息を吐いた。カールスラントウィッチの質の低下に繋がる事態は好ましいものではない。それが近々訪れると言うのに食い止められない事に忸怩たる思いがあった。
「これでカールスラントのジェットストライカー研究が数年、停滞する事になるな」
「甘いぞバルクホルン。カールスラントだけじゃない、これは世界中で加速する流れだ。既にカールスラントは扶桑とレシプロストライカーの共同研究の協定を結ぶ方向で動いているし、情報部によるとリベリオンとブリタニアもレシプロストライカー共同開発の協定を結ぶ方向で動いているらしい」
「……現状を正しく理解しているのはスオムスだけか」
少なくともジェットストライカー分野においてはこの後の数年はスオムスが先をいくだろう。それは予感ではなく、もはや確定事項だった。
意外とレシプロストライカーの方がよかったりするんですかね?
航空機は間違いなくジェットの方がいいですけど、ストライカーユニットはどうなんでしょうか。魔法力でいい感じに風とか防げるとしても、生身で音速に晒されるのって、意外とリスキーな気がします。と言うより、ただでさえ適正の必要な航空ウィッチにさらに高い適性が求められる事になる気がします。そうなると航空ウィッチそのものの数が減る事になります。まぁ、いずれウィッチは淘汰されていく気がしますし、減っても問題ないかもしれませんが。