「まさかサーシャの見え透いた誘いに乗る奴がいるとは思わなかったな」
「私もあれほど強硬手段に出るとは思いませんでした」
サーシャはカールスラントが工作部隊を送り込み、エイラの暗殺を試みると考えていた。いくら国力に差があるとはいえ、飛ぶ鳥を落とす勢いのスオムスに、内憂を抱えているカールスラントが戦争を仕掛けるのはあまりにもリスクが高すぎた。
「暗殺どころかあれじゃあ戦争を吹っかけられたようなもんだな」
「私の想定よりもカールスラントという国は、直情的で短絡的な国だったようです」
正規軍による戦闘となれば、それは暗殺ではなくもはや戦争だ。カールスラントがいくつかの国と協力して情報操作した事で、世論としては暗殺未遂とされているがその実態はただの戦争にすぎなかった。
「図らずしも、わたしのスオムス大統領の最有力候補として外交の手腕が問われる事になった訳だ」
スオムスの認識としてはエイラ暗殺未遂にとどまらず、この新たな戦争をどう終結させるかが今後、スオムス国内でエイラが主導権を握れるかどうかに繋がる。スオムス側に不満が残る終わらせ方であれば政治は現体制の人間が主導権を握る事になるが、スオムスが納得する終わらせ方ができれば、現政権の人間としてもエイラの意思を慮らざるを得なくなる。
「エイラさんはこの件をどう納めるつもりですか?」
「現実的なものとしては非難声明を出して賠償を要求する事だけど……」
「それではスオムス国民も政府も納得しないでしょうね。なんせスオムスはこれまでエイラさんの指揮の下で常勝を誇っています。カールスラントにも武力でによる懲罰を与えるべきという声が多く見られます」
オラーシャの内乱に便乗して大きく領土を拡張しているスオムス軍に国民は期待していた。オラーシャに勝てたのだから、カールスラント相手でも同じ事ができるだろうと。だがそれが容易ではない事を当事者であるエイラ達ほど知る者はいない。
あくまでもオラーシャでの勝利はオラーシャ本土での内乱ありきのものだった。カールスラントでの反乱は遠く離れたノイエカールスラントでの事であり、オラーシャとは状況が違った。また、オラーシャに勝利したと言っても領土を確定させる条約やそれに類するものはなく、現状はスオムスが実効支配しているという状況だった。
「サーシャはわたしにカールスラントと戦争をしろと言いたいのか?」
「それも一つの手でしょう。確かにカールスラントは強大ですが、バルトランドの助力を得られるのなら勝てない相手ではありません」
「コペンハーゲン方面とリバウの両面から攻撃をすれば、いくらカールスラントと言っても持ち堪えられないってか? バルトランドの軍事力はスオムスが条約で減らしたから再軍備の完了まではまだ時間がかかるぞ」
条約により解体された軍を再度編成する事は、意外と時間のかかる業務だ。当初は予備役として軍籍を残す事すら許さなかった為、その多くは現在の居留地がわからず、新聞やラジオなどのメディアで再軍備の知らせと元軍人に政府関係施設への出頭を要請したが、その召集状況はよくない。精々、現在のスオムス軍の半分と言ったところだった。
「そもそも二正面作戦を強要したとしても、こちらの方が兵力が少ないですから、むしろ我々の負担の方が大きくなりますね」
二正面作戦は結局のところ、攻める側が防衛側以上の戦力を持っている時にこそ有効なものだ。奇襲であれば同数でも有効打になり得るが、スオムスの戦力ではカールスラントの国力を持ってすれば対応可能だった。
「カールスラントは戦時よりも戦力は減少したし、二正面作戦にできれば勝機はありそうだけどな」
今のカールスラントの兵員数は、スオムスの二倍ほどの戦力しかない。最盛期には現在のスオムスの十倍以上の兵員を保持していた事を考えると、その戦力は随分と減少した。
「それだけじゃありません。バルトランドが突然反旗を翻さないとも限りませんから、その点を考慮すれば尚更やりにくい作戦です」
補給を全面的にバルトランドの手に委ねる事になる。元々カールスラントとバルトランドは蜜月の関係にあった。敗戦国でありながら戦勝国に対する友好度合いが高いのは、当時の政府とその選択を煽ったカールスラントへの不信感からだ。いまだにバルトランド政府内部には親カールスラント派の人間は多数存在する上に、虎視眈々と現政権とスオムスに対する反撃の機会を伺っている。
「じゃあどうしろっていうんだよ。わたしも軍事力を使う事には反対だけど、そうしないとスオムス国民は納得しないぞ」
結局のところ、エイラが最初に言ったカールスラントに対する非難声明と賠償の要求をする事が最善という事になる。もっともそれではスオムス国民は納得しないし、場合によってはバルトランドの国内情勢に影響を与える事にもなりかねない。
「他国の、それも大国の力を借りるしかないでしょうね」
「大国の力か。扶桑とリベリオンは太平洋を挟んで関係が悪化しつつあるから、こちらに構ってる暇はない。オラーシャも内乱で手一杯。残るのはブリタニアだけど、正直味方してくれるかどうかわからないぞ。スオムスがこれ以上の力を持つ事を、指を咥えて見ているとは思えないからな」
欧州のパワーバランスを重視しているブリタニアが、これ以上スオムスが強大になる事を許すのかどうか、エイラには確信がなかった。
「おそらくブリタニアは許さないでしょうね。これ以上スオムスが強力になればブリタニアの言うことを聞く必要は無くなるでしょう。それを許すようなブリタニアだとは思えません。まず間違いなく妨害するでしょうね」
「ならどうするんだよ。これじゃあまたスオムスとバルトランドの現政権の連中に主導権を握られるぞ」
「オラーシャを頼ります」
「オラーシャ? だけど今内乱中でこっちの手助けなんてできないだろ」
ワルシャワやコーカサス、ウララの旧疎開地などで内乱が起きている現状、カールスラントとスオムスの戦闘に手を出す余裕などあるはずがなかった。
「手は出さないでしょうね。ですが口は出せます」
「口を出す?」
「リバウはオラーシャの領土です。そこに攻め込んだカールスラントには、オラーシャに対してよからぬ感情を抱いていると思われてもおかしくありません」
スオムスが実効支配しているだけで、リバウの支配者はオラーシャだ。元々カールスラントとオラーシャにリバウ含む国境地帯の諍いはあったため、今回のエイラ暗殺未遂が実際は領土欲からきたものだとしてもおかしくはない。
「オラーシャにカールスラントを非難させ、今回の一件をスオムスとカールスラントの争いから、オラーシャとスオムス対カールスラントの構図に変えましょう」
「スオムスがオラーシャ領土を奪ってる事はどう説明すんだよ。オラーシャにカールスラントを非難してもらったとしても、対立構造はオラーシャ対スオムス対カールスラントになるだけじゃないか?」
「スオムスがペテルブルクを奪っても何も言ってこなかった事を考慮してください。オラーシャはまだスオムスと友好的な関係でいたいのではないでしょうか」
「領土を奪われているのにか?」
エイラの問いかけにサーシャは頷いて同意した。流石のオラーシャでも内乱を鎮圧しながら他国の相手をするのは流石に厳しい。ましてやカールスラントとスオムス両方を同時となれば国家の存亡にさえ関わる。スオムスが歩み寄りの姿勢を見せればオラーシャはそれに応えるのではないかとサーシャは考えていた。
「カールスラントとオラーシャが手を組めばどうするんだよ」
「それはないと思いますよ。それならカールスラントが越境する前にオラーシャがスオムスに対して非難声明を出しているでしょうから」
「なるほど、道理だな。スオムス政府にオラーシャ大使にその旨を伝えるように連絡しよう。今回に限っては早いに越した事はないしな」
「いえ、ここは私達だけで行動しましょう。わざわざスオムス政府の手柄にする必要もありません。私が直接オラーシャ政府と交渉して出し抜きましょう」
予想外の言葉にエイラは目を見開き、サーシャの提案に対する答えを探すのだった。
どんどんウィッチが淘汰されるのはいいとして、その後どんな役割で残るんでしょうね。特殊作戦とかでもそのうち技術発展でウィッチの代わりが出てくるとして、ウィッチはどんな役割として残るのか。
軍隊からウィッチがいなくなれば民間で何か役割が残るの。まぁ、やっぱり曲芸飛行とか固有魔法を使って大道芸人的な感じで残るのか。はたまたマジックの種に固有魔法を使って誤魔化すとか。意外と民間なら仕事が残るのかもしれませんね。