サーシャの交渉の成果は三日とかからずに全世界の人々に届くこととなった。
『リバウは神聖不可侵なるオラーシャ帝国の領土であり、それを侵害する行為をオラーシャ帝国は決して許さない。しかして現在の我が国の情勢を鑑み、ムルマンスク、ペテルブルク、リバウは皇帝陛下個人の友誼によりスオムス軍元帥、エイラ・イルマタル・ユーティライネンに統治を委任するものとする』
それを聞いたエイラの反応は歓喜ではなく驚愕であった。エイラが想定していたのはオラーシャによるカールスラントの非難と、スオムスに対してリバウを任せる旨の声明を出すものだと思っていたからだ。
「あの声明はどういうことだサーシャ。わたしとオラーシャ皇帝の間に友誼なんて呼べるようなものは存在しないし、こんなことされたらスオムス政府からどう思われるか……」
「すみません。交渉そのものはカールスラントへの非難声明とスオムスに委任統治する方向でまとまっていたのですが、最後の最後で出し抜かれてしまいました」
国境を越えたサーシャは自ら近くの軍事施設に出頭すると、過去に交流のあった軍の高官やウィッチに連絡を取るよう要請した。それは簡単に受け入れられる事はなかったが、サーシャがスオムスとの外交問題に発展すると脅せば現地の部隊指揮官は責任問題になる事を恐れてサーシャの指示に従った。
「上手く国防大臣と外務大臣にコンタクトを取れたのはよかったんですが、私が非公式の使節だった事で足元を見られてしまいました」
「どう言う事だ?」
「カールスラントの対応にはオラーシャも手を焼いていたので、今占領しているリバウの治安維持の代償としてペテルブルクとムルマンスクを任せてもらう事までは上手く漕ぎ着けたんです」
サーシャの交渉手腕はオラーシャから見ても見事なものだった。リバウをカールスラントに明け渡すか、それともスオムスの手に委ねるか。カールスラントとスオムスがまともにぶつかり合えば負けるのはスオムスだ。必然的にリバウはカールスラントに実行支配され、場合によってはペテルブルクやヘルシンキにまでカールスラントの手は伸びるだろう。サーシャの脅しとも取れる言葉に、オラーシャはあっけなく陥落した。少なくともサーシャにはそう見えた。
「おそらくオラーシャにとっても声明を出す事は既定路線だったのでしょう。だから私のような小娘の意見を軽々しく取り入れたんです」
エイラもサーシャも百戦錬磨の政治家達に敵うはずのない小娘だ。肩を落として意気消沈するサーシャをことさら責める気もおこらなかった。
「まぁ、この際出し抜かれた事はもうしょうがない。目的通りオラーシャを味方につける事には成功したわけだしな」
「ですがスオムス政府からいらぬ誤解を受けることになります」
オラーシャの声明はエイラに対して領土を与えるという事と同義だ。捉え方によってはエイラがオラーシャの軍門に降ったと見られても仕方がないだろう。
「この際オラーシャの事は前向きに捉えよう。オラーシャ政府はわたしが連邦の大統領になる事の後押しをしてくれたってな」
渋い表情を浮かべながらもエイラはサーシャを慰めるように言った。今回の声明がエイラに全くメリットがないかと言えばそうではなかった。この声明はオラーシャがスオムスが現在占領しているオラーシャ領土の支配を認めたと言う事であり、同時にエイラが大統領職につく事を後押ししたと捉える事ができた。
「ですがオラーシャの支配下に入ったと見ることもできます。いえ、まず間違いなくスオムス政府はそう考えるでしょう」
「かもな。だけど国民はどうだろうな。今回の件、私の部下であるサーシャが交渉した事は公表されている。なら、これはわたしが勝ち取った成果と見るんじゃないか?」
「ペテンですね。少なくとも政府はエイラさんをオラーシャの手先と批難しますよ」
エイラの慰めにもサーシャは落ち込んだまま立ち直れない。折角ペテルブルクの陥落で手にした優位がサーシャのせいで失う事になったと自分を責めた。
「……それはいつだ?」
「いつ? そんなのいますぐにでもやってくるに決まってるじゃないですか!!」
自分の失態で平静でいられず思わず大きな声で答えるが、その答えにエイラは首を傾げた。
「本当にそうかな。今それをするとスオムスは連邦の大統領を得ることが難しくなるぞ」
エイラの言葉にサーシャは大きく目を見開き、口に手を当て考え込んだ。
「確かにスオムス政府はそうかもしれません。ですがバルトランド政府はどうでしょうか?」
「連邦を組めなくなるかもしれない何か? バルトランドは元々オラーシャとは不仲だ。そんな中わたしがオラーシャと通じているなんて言えば、バルトランドとしても候補者を失う。もう候補者は出揃っているか今更新しい候補を立てるわけにもいかないし、かと言って今の候補者の中じゃわたし以上の適任はいないだろうな」
スオムス政府はエイラを、バルトランド政府は現職の首相を候補としているがそれ以外にも政府とは関係のない個人で大統領に立候補している人物もいる。それらの多くは政府の思惑とは無関係な人物であり、大統領職につくなど到底不可能な人物達だった。
「つまり今回の件はエイラさんには影響を与えないと?」
「少なくともわたしが候補者から外されるような事にはならないと思うぞ。後になってこの事を追及するやつはいるかもしれないけど、これだけを指して非難すればどうして当時非難しなかったのかって話になるし、当分はこれが致命的なものになる事はないんじゃないか」
「つまり追及すれば自分達も痛みを負う事になるから避けたいと言う事ですか……」
今回の声明はエイラの大統領選出を確実なものにしたと言っていい。元々バルトランドとスオムスの両政府から推されていて、更にオラーシャからも望まれているとなれば、それを妨げる者はもはや存在しないといってよかった。
「今回の声明で領土の委任統治について期限を設けなかったのはオラーシャのミスだと思う。上手くいけばかなり長期間、占領地をスオムスのものとして維持できると思う」
「現状を鑑みと言っている以上、反乱鎮圧までではないでしょうか?」
「考えてもみろよ。あの規模の反乱を鎮圧したとして、すぐに反乱前の状態に戻せると思うか?」
「ですが反乱は鎮圧しつつあると、モスクワで噂されていました。それほど長期間ではない反乱なら10年と経たずに復旧するのではないでしょうか」
ついでとばかりサーシャはモスクワで情報収集をしてきていた。モスクワは各地で反乱が起きているとは思えないほど平和で、人々は反乱はすぐに終わるだろうと噂していた。
「わたしもそう思ってたんだけどな。サーシャがいない間に手に入れた情報によるとウララでは扶桑が、コーカサスはブラタニアが、ワルシャワにはカールスラントが手を貸してるらしい」
サーシャがいない間にもたらされた報告はエイラの頭を悩ませるに十分なものだった。オラーシャの反乱が長引く事は様々な国の利益となる。人と人の戦争においてネウロイとの戦争で使われた兵器がどれほど有用なのか。またそれらを元に発展した兵器が果たして人に対して有効なのかどうか。スオムスやバルトランドからではなく直接それらの情報を得るために各国はこの内乱に様々な物資の援助をしていた。
「扶桑とブリタニアはともかく、カールスラントもですか」
「カールスラントは自分の反乱を鎮圧するまでオラーシャには今の状態を続けてもらいたいんだろうな。ガリアの方にも援助してるみたいだし自分の隣国が乱れる事を望んでるみたいだ」
カールスラントが南部ガリアでの反乱とワルシャワでの反乱に物資援助を始めたのはノイエ・カールスラントでの反乱が始まった直後だと言われている。自国の反乱に乗じて隣国に介入されないようにという意図からなのは明白だが、そんな事をする余裕がカールスラントあるとはエイラは思えなかった。
「いくらカールスラントでもそんな事をしては自国の反乱鎮圧に回す兵力が不十分になものになりませんか?」
「わたしもそう思う。だけど今回の声明と合わせてカールスラントがリバウに介入する余地はほとんど無くなったと見ていいと思う。カールスラントが失敗を繰り返すならこっちとしては大歓迎さ」
エイラの言葉にサーシャは無言で頷き同意を示した。
後書きのネタ、後書きのネタ……
二次創作だとたまに見る海上を走るウィッチって実際のところどうなんでしょうか。ネウロイが空と陸しかなかったから海は注目されていませんが、戦争が終われば軽く研究くらいはされそうですよね。
……そう言えばいつかの後書きで海上はレスキュー関連でウィッチが発展しそうと書いたような気が
それはともかく、海上を走れるウィッチがいたとしても多分そんなに役には経たない気がしますね。最終的に不必要と判断されて民間に流れたストライカーが海賊行為に利用されたりして。それで一本書けですね。名付けてパイレーツウィッチ。ソマリアあたりでタンカーを襲うウィッチの集団と、それに対抗する軍のウィッチの戦闘。案は投げますので誰か書いてくれないかなぁ。