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エイラの立ち位置は、オラーシャからの領土貸与によって思わぬ効果をもたらす事になった。ワルシャワの反乱軍はリバウやペテルブルクをオラーシャ領土と考えるのか、それともスオムス領土と考えるかで意見が分かれた。スオムスに貸与された領土を使えるのなら、正面のオラーシャ軍の側面を攻撃できるかもしれない。そんな軍事上の優勢を得るまたとない機会を得たワルシャワの反乱軍だが当初は行動に迷いがあった。
「ワルシャワの反乱軍の監視って言っても、勝ちまくってるウチに攻めてくるとは思えないっすけど」
アリサは不満そうな顔で、隣を飛ぶニパに言った。
「わたしもそう思うし、イッル達も同じ考えみたいだよ」
「じゃあなんであたし達は国境地帯の偵察なんて雑用をさせられてんすか。こんな事、空軍の偵察部隊に任せればいい仕事じゃないすか」
「偵察任務も重要な仕事だよ。雑用なんて言ったらダメ」
ニパにもアリサと同じように偵察任務を雑用と思っていた時期があったが、階級が上がりウィッチの中でも最古参と呼ばれるようになった今はその重要性を理解できていた。
「イッルが攻めてくるはずがないと思っているのに、わたし達に国境の偵察を命令したのは、ワルシャワの反乱軍が軍の一部をリバウ方面に動かしたからだよ」
「その規模が小さすぎと思うっす。ワルシャワの反乱軍の一割前後と聞けばたしかに眉を顰めたくもなるっすけど、数としては二万程度。スオムス軍は十万はいますし、このくらいの数じゃウチへの備えで軍を動かしたと見るべきじゃないすか?」
ワルシャワの反乱軍はカールスラントなどからの義勇軍部隊などを含めて二十万から二十五万の間だと言われている。規模としてはウラルでの反乱についで二番目に大きいが、スオムスとオラーシャ両方を相手に戦争をできるほどの規模ではない。
「その可能性は高いと思うよ。だけどそれだと正面の戦力が低下しすぎるんだよね」
ワルシャワの反乱軍部隊に相対するオラーシャ軍は約五十万であり、ワルシャワの反乱軍の倍近い戦力を保持している。各国の妨害でその五十万が十全に力を発揮する事は困難だが、それでもワルシャワの反乱軍を撃破するには十分な戦力があった。
「それもこれもオラーシャが不甲斐ないせいっすよ。いくら妨害があると言っても、あんだけの数があれば簡単に勝てるはずじゃないすか」
「イッルが言うには、補給線がズタズタにされているからオラーシャは思うように動けないんだってさ」
主にブリタニアの諜報員の活躍でオラーシャ国内はズタボロになっていた。鉄道は爆破され、経済規模が大きな街は爆弾によるテロが頻発していた。反面モスクワは平和なものであり、地方と中央でこの反乱に対する意識の差は大きかった。
「だけどそれを反乱軍の連中が知る訳ないじゃないすか。ならこっちに来る部隊はやっぱりスオムスを攻めるためじゃなく、スオムスから攻められるのを防ぐ部隊すよ」
「どうして反乱軍がオラーシャ国内の事情を知らないと思うの?」
「そんなのアイツらに自前の諜報部隊があるわけがないからに決まってるじゃないすか」
ニパの質問に、アリサは何を言っているんだとばかりに鼻で笑いながら言った。
「自前の諜報部隊がない事と情報を得られない事はイコールにならないよ。スオムスだって諜報能力は低いけど、十分な情報を手に入れる事ができるでしょ」
「それはスオムスのこれまでの外交の成果じゃないっすか。反乱軍と同じにしないでくださいよ」
「スオムスは国ではあるけど小国。大国オラーシャの一部だった反乱軍とは国力的にはそんなに違わないんじゃないかな」
残念な事にスオムスの国力は、ワルシャワの反乱軍相手でも全力を出さねば勝てないほどに小さい。限られたリソースの中で諜報部隊を持とうとしても、それは外交官が諜報員の真似事をする程度のもので、大国と比べたら児戯に等しいものだった。
「だけどウチらは今の所全戦全勝。国力なんてもんがあてにならないのは明らかじゃないすか」
「百戦して百勝できるのならそれでいいんだけどね。たしかにスオムスは最終的に勝つ事はできてるけど、戦域ごとに見てみると必ずしもそうとは限らないでしょ。例えばバルトランドとの戦争ではラップランド方面は押され気味だったし、首都直撃なんていう奇策がなければ負けていたのはスオムスだったよ」
その首都直撃でさえ、エイラという稀代の大エースがいなければ成しえなかった事は疑いようがない。ニパは自分が第24戦隊を率いて同じ事をしたとしても、ここまで上手く行えるという確信は持てなかった。
ニパが直接知っている人物でそれができるとしたら、それはかつての隊長だったグンドュラ・ラル。それも怪我をする以前の万全な状態でのラルほどの個人戦闘能力と指揮能力が必要だろうと思っていた。
「もしあれが成功してなくても、我らが元帥閣下がなんとかしてくれてたっすよ。なんせ今じゃあ撃墜スコアは世界同率一位で、現役だとぶっちぎりの一位。向かう所敵なしのスーパーエースにして、常勝の大先輩ユーティライネン元帥っすよ」
もはや今のウィッチから見ればエイラは雲上人同然だ。ニパもまた世界的な大エースであるが、それ以上にエイラの指揮下で戦ったという事の方が新人達には驚かれるほどだった。
「イッルだって人間だからね。絶対に勝てるなんて思わない方がいいよ」
実際、エイラは何度も予想外の事態というものに襲われている。今の所は辛うじて修正して受け止める事ができているが、いつまでもそれが続くと楽観視する事はできない。
もっとも、そんな内情を暴露するわけにもいかずニパは軽く諌めることしかしなかったが、スオムスにとって戦争がいち早く終わることが大切だという思いは新人達とも共有したかった。
「結局のところ、イッルも一人の人間でしかないんだから過信は禁物だよ。わたし達一人一人ができる事をして、スオムスの平和に貢献しないと」
「だけどここまで来たら、後はワルシャワの反乱軍の行動次第じゃないっすか? 正面のオラーシャと決戦するか、正面突破を許すリスクを背負ってリバウからオラーシャの側面を崩しに行くか」
「アリサはどう思う?」
「各国から義勇軍が到着してるみたいですし、反乱軍の思惑だけでスオムスに戦争をふっかける事はできなんじゃないっすか?」
「そうだね。ワルシャワは主にカールスラントが中心だけど、スオムスと戦争する事をカールスラントが許すとは思えないね。ただでさえ内部に反乱があるのに、ここで攻めさせたらスオムスを完全に敵に回す事になる。いくらカールスラントでも内乱を抱えながらスオムスと戦う事はできないよ」
カールスラントが義勇軍を送っている事は公然の事実だ。リバウ方面に展開するかはともかく、ワルシャワの反乱軍が攻めてきた事でスオムスの反カールスラント感情がこれ以上高くなるのは避けたいだろうというのがニパの考えだった。
「たしかにそうっすね。けどそれだと尚更この偵察任務って意味があるもんなんすかね」
「それはまた別の話だよ。起こるかもしれないなら備える必要があるし、そのことに一番柔軟な対応ができるのがウィッチっていう兵科だからね」
航空ウィッチは一人で対地任務や偵察任務など複数の任務を同時にこなす事ができる万能兵科だ。もしも偵察中に敵が越境しているのを発見すれば、即座に攻撃に移ることもできる。
「今は機関銃だけしかないけど、それでも魔法力で強化すればただの人相手には十分すぎる威力がある。空中で一箇所にとどまれる関係上、戦闘機が機銃で対地攻撃をするよりも精度が高いし、たった二人でも足止めができるのは大きな利点だね」
「万能だからってこき使われるのは勘弁してほしいっすよ。越境者だって反乱軍の連中だけならともかく、避難民も混ざってるからただ追い払えばいいわけじゃないし。あれみたいに」
そう言ってアリサが指さす先には、街道をゆっくりと進む数量のトラックの姿があった。幌で荷台は隠れているが、避難民は雨風を避けるためにこのような方法を使う事があった。
「……あれ変だよ」
「変って何がっすか?」
「トラックの規格が揃いすぎているし、何より運転が上手すぎる。避難民って基本的にはいろんな人の集まりだから車に統一性はないし、運転の上手い下手も差があるからあんなに街道を綺麗に一列に動く事はできないはずだよ」
こちらに向かうトラックは綺麗に一列になって走っているが、アリサにはそれがそれほどおかしな事とは思えなかった。
「たしかに綺麗に運転してますけど五、六台だし軍にしては数が少なすぎるっすよ」
「念の為臨検、いや攻撃する意図を見せようか。対地攻撃できるよう機関銃を向けながら全力であの車両に近づくよ。着いてきて」
もしも民間人なら、これに対して特に変な行動を見せないだろう。しかし相手が軍人なら、攻撃態勢のウィッチに対する反応は民間人のものとは決定的に違う事になるはずだ。
色々と考えましたけど、現実世界の冷戦始めやその直前くらいの年代のウィッチは万能兵科として使われてそうだなぁ。やはりウィッチが軍からなくなるには半世紀くらいは必要そう。